みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ

文字の大きさ
上 下
15 / 74
第一章

14.カーペットつめとぎ事件

しおりを挟む
「ねえタイジさん?」
「ん? どうしたい」
「さらわれてきた女たちが、どこに連れて行かれるか知りませんか?」
「さらわれてきた女たち?」
「ええ。化け物たちの生贄のために街の外から連れてこられた女たちです。僕の……、大事な人が、その中にいるのかも知れないんです」
「うーーーん……」そう言ってタイジさんは頭をひねった。「あんまり詳しくはねーがな、そいつらは恐らく平城宮の方だと思う。ここいらをうろつく化け物が口にするのは街の住人だ。そもそも化け物ってーのは、頭が良くねえ。こちらが嘘をつけば、簡単に騙されて姿を消しちまうくらいだ。街の外から生贄を連れてこさせるような知恵はねえ。だがあそこにいるのは別もんだ。人を騙し、弱みに付け込み、人の心を操ってしまう。それどころか、同じ仲間の化け物でさえ、馬牛のような扱いでいいように使う。羅城門にいた衛士を見ただろう。あいつらだって人間だ。ここから逃げ出したいに決まってる。あいつらだけじゃなく、ここに住む住人はみんなだ。だがそうさせないのが奴らだ」

太陽が西に傾くと、タイジさんはまだ明るいうちから家の鍵をかけ、入り口と言う入り口を塞ぎ始めた。
「おいあんたら、中に入りな」タイジさんにそう言われたが、スサノオは「俺たちが中に入っちゃ戦えんよ。気にすんな、俺たちゃ外で過ごす。化け物たちの様子も見たいしな」と言って笑った。
タイジさんはしぶしぶと言った感じで僕たちを外に残したまま家の最後の入り口を塞いだ。
「で、これからどうするつもり?」僕は聞いた。
「まあ、化け物たちの出てくるのを待つさ」そう言ってスサノオは畑の隅の木陰で寝転がった。
僕は少し外の景色を見て見ようと通りに出てみたが、やはりタイジさんと同じようにみんな家に籠っているのか誰の姿も見つけることはできなかった。
 昔テレビで観た西部劇映画のワンシーンのようだった。荒くれ者に襲われる街。みんな家々に身を隠し息を潜める中、街を歩く一人のガンマン。なーんて、できすぎじゃないか。と、僕は自分を笑った。
本当にこんな静かな場所で、スサノオでもかなわないような大きな戦いが起きると言うのだろうか。
僕はそんなことを考えながら色の薄くなった空を見上げた。
と、何かが聞こえたような気がして通りに目をやった。
シャン……、シャリーン……。
僕はまだ家のすぐ外にいた。
スサノオはまだ起きる様子はない。
何の音だろう?
小路から少し歩き、大通りに顔を出した。
シャーン……、シャリーン……。
やはり鈴の音だ。
けれど正体が見えない。
それは遠く、風に乗って聞こえてきた。

シャーン……、シャリーーーン……。

   シャーン……、シャリーーーン……。

      シャーン……、シャリーーーン……。

         シャーン……、シャンッ!!!

音が止まったその先を見ると、いつの間にやら僕のすぐ五メートルほど目の前に、鈴の付いた杖を持つ一人の坊主がこちらを向いて立っていた。
僕は目を凝らし、坊主の顔を見た。
近くなのによく見えない……、いや、違う。
坊主には顔が無かった。
あるはずの目も鼻も口も、のっぺらとした皮膚だけに覆われた顔だった。
「どうしましたかい?」と坊主はあるはずのない口で言った。
僕はあっけにとられ、何も言えなかった。
「どうしましたかい?」坊主はまた聞いた。
僕は背中に背負った天叢雲剣に手をかけた。
「どうしましたかい!?」坊主はそう聞きながら僕に近づいてきた。
「どうしましたかい!?」「どうしましたかい!?」「どう! しましたーかい!!!」
坊主は近づけば近づくほど背丈が伸びて巨大になり、僕の目の前に迫る頃には首がなくなり目鼻のない顔は胴と直接つながり三メートルはあろうかと言う巨大な化け物に変わっていた。
僕は驚きのあまり後ろに倒れそうになる反動を利用して大きく飛びのくと、そこにできた間合いに天叢雲剣を構え、突き上げるように坊主の腹に突き刺した。
が、坊主は一瞬怯んだ様子を見せたものの、苦しむ様子もなくまた「どーう、しーましたーかーい!!!」と聞いてきた。
「あっはっは! なんだ和也、もう始めてるのか!」と後ろでスサノオの声がした。
僕は「まあね!」と返事を返し、今度は天叢雲剣を自分が回転する反動を乗せて横に振るった。
天叢雲剣は坊主の体を半分は引き裂いたはずなのに、坊主はやはり何事もなかったかのように「どーおうしーまーしたーかーーーい!!!」と妙に間延びした口調でそう尋ねてきた。
「和也、それじゃあ駄目だ! 何度やっても切れねーよ!」
「じゃあ……、どうすればいいんだい!」僕は何度も天叢雲剣で坊主に切り込んだ。
だが坊主は一向に切れる様子はない。
それどころかさらに大きくなり、今では家の屋根より大きな化け物になっていた。
そして身のこなしは遅かったが、大きな手を振り上げ、僕を叩き潰そうとでも言うようにその手を振り下ろしてきた。
「自分を信じろ!」
「どこかで聞いたよ!」
「そうじゃない! 和也、お前さんはいつまで自分はただの子供だと思い込んでいるんだい!」
だって、だってそうじゃないか。
僕は一体じゃあ、何者だって言うんだい。
「心の疑念は隙となる」コトネの爺様の言葉が思い出された。
坊主が振り上げた右手は思わぬ動きを見せ僕の体を叩いた。
体がふわりと宙に浮き、横の家の壁に叩きつけられた。
「いいか、見てろ!?」そう言うとスサノオは、持っていた剣を構え、左の足を踏み込むと同時に坊主の横っ腹を切り裂いた。それはどう見ても僕より遅い動きだったし、剣先がほんのかする程度の攻撃でしかなかった。
けれど坊主はのけぞるように苦しみの声をあげ、後ろに倒れるとそのまま消し飛んでしまった。
スサノオの持つ剣からは、キラキラと金色の光の粒のようなものが舞っていた。
「今のいったい、どうやったんだい?」僕は聞いた。
「何もしていないさ。ただ俺は、神の力を持っている。それだけだ」
「そんなの、僕にどうしろってんだい」
「わかんねーやつだなあ。それを信じろと言ってるんだ」
「また言うの? 僕が神の力を持っているって」
「わかってんじゃねーか」
いったいどうやって、そんなことを信じればいいと言うんだろう。
「何を信じるか、何を信じないか、これは和也自身の問題だ。俺がいくら説明しようが説得しようがどうにもできるもんじゃねえ。だがな、もう気づき始めているだろう。少なくとも、今まで信じてきた自分とは何かが違うくらいには思っているはずだ」
「まあね……」
「それと一つだけ言えることがある。和也が自分の力を信じなければ、お前さんはこれから大事なものを守るどころか、自分の命さえ守ることができねえ。そのことから目を逸らしちゃいけねえぜ」
美津子……、僕は美津子を守らなくちゃいけない。
でも、このままでは駄目だと言うのかい?
僕は今、目の前に現れた化け物を倒すことができなかった。
それは僕が、自分の力を信じることができなかったから。
じゃあ、じゃあ、自分の力を信じることができれば、倒すことができたの?
スサノオのように、普通の剣であっても倒すことができたの?
どうすれば……、どうすれば僕は自分の力を信じることができるんだ。
いったい……、どうすれば。


しおりを挟む
↓読んだ感想を絵文字で送れます✨
[気持ちを送る]
感想メッセージもこちらから!

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】転生して妖狐の『嫁』になった話

那菜カナナ
BL
【お茶目な挫折過去持ち系妖狐×努力家やり直し系モフリストDK】  トラック事故により、日本の戦国時代のような世界に転生した仲里 優太(なかざと ゆうた)は、特典により『妖力供給』の力を得る。しかしながら、その妖力は胸からしか出ないのだという。 「そう難しく考えることはない。ようは長いものに巻かれれば良いのじゃ。さすれば安泰間違いなしじゃ」 「……それじゃ前世(まえ)と変わらないじゃないですか」   他人の顔色ばかり伺って生きる。そんな自分を変えたいと意気込んでいただけに落胆する優太。  そうこうしている内に異世界へ。早々に侍に遭遇するも妖力持ちであることを理由に命を狙われてしまう。死を覚悟したその時――銀髪の妖狐に救われる。  彼の名は六花(りっか)。事情を把握した彼は奇天烈な優太を肯定するばかりか、里の維持のために協力をしてほしいと願い出てくる。  里に住むのは、人に思い入れがありながらも心に傷を負わされてしまった妖達。六花に協力することで或いは自分も変われるかもしれない。そんな予感に胸を躍らせた優太は妖狐・六花の手を取る。 ★表紙イラストについて★ いちのかわ様に描いていただきました! 恐れ入りますが無断転載はご遠慮くださいm(__)m いちのかわ様へのイラスト発注のご相談は、 下記サイトより行えます(=゚ω゚)ノ https://coconala.com/services/248096

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

誓いを君に

たがわリウ
BL
平凡なサラリーマンとして過ごしていた主人公は、ある日の帰り途中、異世界に転移する。 森で目覚めた自分を運んでくれたのは、美しい王子だった。そして衝撃的なことを告げられる。 この国では、王位継承を放棄した王子のもとに結ばれるべき相手が現れる。その相手が自分であると。 突然のことに戸惑いながらも不器用な王子の優しさに触れ、少しずつお互いのことを知り、婚約するハッピーエンド。 恋人になってからは王子に溺愛され、幸せな日々を送ります。 大人向けシーンは18話からです。

闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao
BL
 力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。  無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?  天才、秀才、凡人、そして無能。  強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?  ※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。   のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...