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第一章
06.けんかするほど仲が良い
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食事の内容とシステムは理解したものの、タビトの中の常識とレグルスにとっての常識は異なってばかりで、食という分野ひとつ取っても何もかも違う。
「なにこれ……色がない……虫も浮いてない」
「このお水はね~、ここをひねるとジャーって出るの!」
「なにそれ……」
キッチンの入り口にある巨大な樽の前でレグルスが胸を張る。彼の手柄でもないのに、誇らしげだ。
樽には取っ手がついていて、ひねると透明な水が川のように流れ出た。色も匂いも枯れ葉も浮いていない。
雨水や井戸の水を、樽の中の装置を通すことで濾過し、きれいな水を常に貯蔵しているらしい。
川や雨水溜まりに口をつけていた野生の子トラの常識は、まずここで木っ端微塵に破壊された。
「お肉はね~、ここでゆでて食べるんだよ。そうすると病気になりにくいんだって」
「ゆでて……ってなに」
「お湯にいれること! あと、やくとかにこむとか、ほかにも色々あるんだって」
「……」
シェフの許可のもと立ち入ったキッチンでは、何もかもが未知だった。
さっき食べた肉が妙に白っぽく、血の気がなかったのはここで湯に通されたからだという。
肉の生食は、寄生虫や病原菌などの危険性があるため推奨されないらしい。たとえ食べるのが肉食獣でも、だ。
「これは朝と夜に食べる野菜!」
「やさい? ……草だ」
「そうともいう。これもオレたちにとってはごはんなんだ」
「……おなかがゴロゴロするときに食べて吐くための草、だよね?」
「それとはちがうやつ!」
レグルスが料理人に食事を頼むと、出てきたのは先程の肉ではなかった。
これまで見たことがないほどみずみずしく、大きくてきれいな色の、葉野菜。
胃腸の調子を整えるために食べるものではないと言われ、困惑するしかない。それならなんのために草など食べるのだろう。
葉っぱだけならともかく、色とりどりの木の実や根菜まで、食べやすい大きさにカットされて出てくるのは本当に意味がわからない。
「オレたち獣人はね、半分が人間の体なんだ。だから肉と野菜、あと果物とか……そういうものをバランスよく食べないとダメなんだって」
「へぇ」
人間は植物を食べないといけないのか。難儀なことだ。
ともあれ理由はわかったので、レグルスの食事の邪魔をしないよう一歩下がったら、その場にもう一枚皿が出てきた。
謎の汁がかかった、てんこ盛りの草。レグルスの前に置いてあるのと同じやつだ。
「タビトも獣人のはずだし、食べたほうがいいとおもう!」
「……」
「もしかしたら、人型のほうは元気がなくて出てこられないのかも。葉っぱいっぱい食べて元気になろう!」
「…………やだ」
「なんで?」
「……こんなの、虫が食べるやつだもん」
ぷいと顔をそらすと、頬を肉球に挟まれて無理やり元に戻された。
「オレも食べるんだよ、虫だけじゃなくて。早く人型になりたくないの?」
「じゃあレグルスも虫だもん」
「ケンカ売ってる?」
「虫とケンカなんてしないもん」
「……」
初めてづくしの屋敷での暮らしの中で、タビトはいっとう刺激的な初めてを経験した。
同じくらいの年頃の仲間との、取っ組み合いのケンカ。
レグルスが飛びかかってきて、無理やり草を口に押し込もうとするものだから、タビトは腕を突っ張って拒否して、のしかかってくるお腹を足で蹴ろうとして抑え込まれて……絨毯の上でゴロンゴロンと転がりまわって殴り合った。
耳を噛まれそうになって、思わず爪の出た前足で引っ掻いてしまったが、レグルスの毛皮は丈夫でかすり傷にしかならなかった。
逆にタビトも引っかかれたり噛みつかれたり、やりかえしたりでボロボロになった。
「やめんか二匹とも!」
疲れ果てながらまだケンカしている二匹に、怒鳴ったのはムルジムだった。
大声に驚いて攻撃をやめたタビトと、それに覆いかぶさるように噛み付いていたレグルスは、首根っこを掴まれて座らせられた。
その後長々と座ったまま注意と叱責を受けて……お説教をされるのもこれが初めてだった。
母はタビトが危険な場所に行く前に注意をしていたし、タビトはお利口で母の言いつけを破ったことなんかなかった。
だからこうして怒られるのはレグルスのせいだ。
恨みがましい目で横を見ると、全く同じ目でタビトを見る獅子の子と視線が絡む。
「ふん!」
勢いよくそっぽを向いて視界から追い出す。
凶暴な子ネコだ。手足を何度もかじって引っ掻いてきた。タビトは餌じゃないし、ましてや虫でもないのに。
もう知らないんだから。こんなやつ。
と、威勢よくいられたのはほんの少しの間だけだった。
ムルジムによって客間に戻された二匹は、居心地悪くむずむずと体を揺らしていた。
すぐ横に、さっきケンカしたレグルスがいる。
こっちをちらちら伺ってくる視線が見なくてもわかる。
なんで一緒の部屋にいるんだ、レグルスには自分の部屋があるのに。
無言の時間がしばらく続いて、気まずさが限界に達する頃。
「……タビト」
か細くて自信のなさそうなレグルスの声。でも振り向いてなんかやらない。まだ怒ってるんだ、散々がじがじ噛んできやがって。
黙ったまま片耳だけそちらに向ける。
「タビト、ごめんね」
素直な謝罪の言葉に、張っていた意地も忘れてそちらを向いた。
俯いて小さくなっている子ライオンは、まだ生え揃わないぽしゃぽしゃのたてがみの隙間からちらりと上目遣いでこちらを見る。
「タビトの気持ちも聞かないで、オレ、ひどいことを……タビトは変化したことないのに、オレと同じだとおもいこんで、同じなら同じものを食べてもらいたくて……」
「……レグルス」
「人間は、かたよったごはんをつづけると病気になったり死んじゃったりするって。だからタビトに病気になってほしくなくて、オレ……」
たまらなくなってタビトは頭突きをした。
正確には、レグルスの顔を持ち上げるように下から頭を押し付ける。
レグルスの目は潤んでいて、心から後悔した。
「僕の方こそごめん。レグルスの体に必要なものなのに、悪く言って」
「ううん……葉っぱは、タビトが食べたいとおもったときに食べればいいよ」
「うん。でも僕も食べるよ。レグルスは僕にも葉っぱや木の実が必要だと思ったんでしょ?」
「……うん……」
目一杯首をひねってレグルスの体にこすりつける。
ずっと、いっぱいいっぱいだった。
知らない場所、環境、違う種族、文化、そんなところで生きていかなければならないという不安。
ぎりぎりな精神状態で、生き物にとって何より重要な「食べる」ということに関して常識を覆され、それを強要されてパニックになってしまった。
レグルスはタビトの混乱に巻き込まれただけだ。なのに先に謝ってくれた。
見知らぬ土地でたった一匹、これからも生きていかねばならないタビトは、レグルスと出会えたことが最上の幸運だったと今なら思う。
「タビト、ずっといっしょにいて。死んじゃったりしないで……」
レグルスの前足がそっと首元をおさえ、泣き声のようにすんすんと音を立てて匂いを嗅いできた。
被毛を舐められて、さっき噛みつかれたところを癒そうとしているのだとわかる。
死んだ生き物の話なんかしたから、レグルスも不安になってしまったのかな。
タビトはもう一度謝って、された以上にたくさん体を擦り付けた。
くっついていると心があたたかい。
満足そうに目を細めるレグルスもきっと同じ気持ちだろう。気が抜けて、二匹揃って床の上で丸くなり夕方まで眠りこんでしまった。
「夕ご飯、食べる?」
「うん」
目を覚ますとそこはまだ食堂で、だいぶ日が傾いている。
すでに給仕の使用人が食事の準備を始めていて、まもなく皿が運ばれてきた。
青々とした葉野菜と、赤茶の小さな木の実。
とても肉食獣が食べるものとは思えない。でも、食べると決めた。
目と鼻をぎゅっと顰めて口に入れた葉っぱは、思いがけない味がした。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「なんだか、肉みたいな味がする……」
一口、もう一口。なぜだろう、食べられる。
レグルスも自分の皿をふんふんと嗅いで、葉っぱにかぶりつく。
「あれ? いつもよりおいしい!」
「そっちも?」
顔を見合わせて、また皿を見る。さっき厨房で出された青臭いだけのものと、これは何が違うのだろう。
首を傾げていたら、キッチンから昼とは違う人間が出てきた。
背の高い男の人で、やっぱり背中の毛が逆立ったものの、威嚇はしなかった。たぶんこの人も獣人だ。
「坊っちゃん、今晩の食事はいかがでしたか」
「シェフ! なんだかいつもよりおいしいよ」
「ありがとうございます。こちらには、草食獣の血を用いたソースを使いました」
それを言いたかっただけなのか、シェフはお辞儀をしてすぐに引っ込んでしまった。
改めて皿を見下ろす。
不規則にちぎられた葉っぱと木の実には、つややかな黒っぽいソースが満遍なくかかっている。これが血を使ったというソースか。
昼には鼻についた青臭さが鳴りを潜め、嗅ぎ慣れた肉の匂いで上書きされている。
タビトが騒いだから気を使わせてしまったんだろう。恥ずかしさに身を縮こまらせた。
「おいしいね、タビト!」
でもレグルスが笑顔を向けてくるから、ぎこちなく笑い返して食事を再開した。
ソースの雫一滴まで舐め取った皿は新品みたいにきれいになった。
おいしい食事だと素直に思える。
「タビト、あのね」
皿が下げられた後、レグルスがそっと囁いた。
「ほんとうはオレも、葉っぱのごはんがイヤだったんだ。でもタビトのおかげでこれからは食べられそう」
「……ほんとに?」
「うん」
なんだ、レグルスも嫌だったんだ。同じじゃないか。
お腹を抱えて大笑いしたくなるのを堪えて、二匹はくすくすと笑い合った。
「なにこれ……色がない……虫も浮いてない」
「このお水はね~、ここをひねるとジャーって出るの!」
「なにそれ……」
キッチンの入り口にある巨大な樽の前でレグルスが胸を張る。彼の手柄でもないのに、誇らしげだ。
樽には取っ手がついていて、ひねると透明な水が川のように流れ出た。色も匂いも枯れ葉も浮いていない。
雨水や井戸の水を、樽の中の装置を通すことで濾過し、きれいな水を常に貯蔵しているらしい。
川や雨水溜まりに口をつけていた野生の子トラの常識は、まずここで木っ端微塵に破壊された。
「お肉はね~、ここでゆでて食べるんだよ。そうすると病気になりにくいんだって」
「ゆでて……ってなに」
「お湯にいれること! あと、やくとかにこむとか、ほかにも色々あるんだって」
「……」
シェフの許可のもと立ち入ったキッチンでは、何もかもが未知だった。
さっき食べた肉が妙に白っぽく、血の気がなかったのはここで湯に通されたからだという。
肉の生食は、寄生虫や病原菌などの危険性があるため推奨されないらしい。たとえ食べるのが肉食獣でも、だ。
「これは朝と夜に食べる野菜!」
「やさい? ……草だ」
「そうともいう。これもオレたちにとってはごはんなんだ」
「……おなかがゴロゴロするときに食べて吐くための草、だよね?」
「それとはちがうやつ!」
レグルスが料理人に食事を頼むと、出てきたのは先程の肉ではなかった。
これまで見たことがないほどみずみずしく、大きくてきれいな色の、葉野菜。
胃腸の調子を整えるために食べるものではないと言われ、困惑するしかない。それならなんのために草など食べるのだろう。
葉っぱだけならともかく、色とりどりの木の実や根菜まで、食べやすい大きさにカットされて出てくるのは本当に意味がわからない。
「オレたち獣人はね、半分が人間の体なんだ。だから肉と野菜、あと果物とか……そういうものをバランスよく食べないとダメなんだって」
「へぇ」
人間は植物を食べないといけないのか。難儀なことだ。
ともあれ理由はわかったので、レグルスの食事の邪魔をしないよう一歩下がったら、その場にもう一枚皿が出てきた。
謎の汁がかかった、てんこ盛りの草。レグルスの前に置いてあるのと同じやつだ。
「タビトも獣人のはずだし、食べたほうがいいとおもう!」
「……」
「もしかしたら、人型のほうは元気がなくて出てこられないのかも。葉っぱいっぱい食べて元気になろう!」
「…………やだ」
「なんで?」
「……こんなの、虫が食べるやつだもん」
ぷいと顔をそらすと、頬を肉球に挟まれて無理やり元に戻された。
「オレも食べるんだよ、虫だけじゃなくて。早く人型になりたくないの?」
「じゃあレグルスも虫だもん」
「ケンカ売ってる?」
「虫とケンカなんてしないもん」
「……」
初めてづくしの屋敷での暮らしの中で、タビトはいっとう刺激的な初めてを経験した。
同じくらいの年頃の仲間との、取っ組み合いのケンカ。
レグルスが飛びかかってきて、無理やり草を口に押し込もうとするものだから、タビトは腕を突っ張って拒否して、のしかかってくるお腹を足で蹴ろうとして抑え込まれて……絨毯の上でゴロンゴロンと転がりまわって殴り合った。
耳を噛まれそうになって、思わず爪の出た前足で引っ掻いてしまったが、レグルスの毛皮は丈夫でかすり傷にしかならなかった。
逆にタビトも引っかかれたり噛みつかれたり、やりかえしたりでボロボロになった。
「やめんか二匹とも!」
疲れ果てながらまだケンカしている二匹に、怒鳴ったのはムルジムだった。
大声に驚いて攻撃をやめたタビトと、それに覆いかぶさるように噛み付いていたレグルスは、首根っこを掴まれて座らせられた。
その後長々と座ったまま注意と叱責を受けて……お説教をされるのもこれが初めてだった。
母はタビトが危険な場所に行く前に注意をしていたし、タビトはお利口で母の言いつけを破ったことなんかなかった。
だからこうして怒られるのはレグルスのせいだ。
恨みがましい目で横を見ると、全く同じ目でタビトを見る獅子の子と視線が絡む。
「ふん!」
勢いよくそっぽを向いて視界から追い出す。
凶暴な子ネコだ。手足を何度もかじって引っ掻いてきた。タビトは餌じゃないし、ましてや虫でもないのに。
もう知らないんだから。こんなやつ。
と、威勢よくいられたのはほんの少しの間だけだった。
ムルジムによって客間に戻された二匹は、居心地悪くむずむずと体を揺らしていた。
すぐ横に、さっきケンカしたレグルスがいる。
こっちをちらちら伺ってくる視線が見なくてもわかる。
なんで一緒の部屋にいるんだ、レグルスには自分の部屋があるのに。
無言の時間がしばらく続いて、気まずさが限界に達する頃。
「……タビト」
か細くて自信のなさそうなレグルスの声。でも振り向いてなんかやらない。まだ怒ってるんだ、散々がじがじ噛んできやがって。
黙ったまま片耳だけそちらに向ける。
「タビト、ごめんね」
素直な謝罪の言葉に、張っていた意地も忘れてそちらを向いた。
俯いて小さくなっている子ライオンは、まだ生え揃わないぽしゃぽしゃのたてがみの隙間からちらりと上目遣いでこちらを見る。
「タビトの気持ちも聞かないで、オレ、ひどいことを……タビトは変化したことないのに、オレと同じだとおもいこんで、同じなら同じものを食べてもらいたくて……」
「……レグルス」
「人間は、かたよったごはんをつづけると病気になったり死んじゃったりするって。だからタビトに病気になってほしくなくて、オレ……」
たまらなくなってタビトは頭突きをした。
正確には、レグルスの顔を持ち上げるように下から頭を押し付ける。
レグルスの目は潤んでいて、心から後悔した。
「僕の方こそごめん。レグルスの体に必要なものなのに、悪く言って」
「ううん……葉っぱは、タビトが食べたいとおもったときに食べればいいよ」
「うん。でも僕も食べるよ。レグルスは僕にも葉っぱや木の実が必要だと思ったんでしょ?」
「……うん……」
目一杯首をひねってレグルスの体にこすりつける。
ずっと、いっぱいいっぱいだった。
知らない場所、環境、違う種族、文化、そんなところで生きていかなければならないという不安。
ぎりぎりな精神状態で、生き物にとって何より重要な「食べる」ということに関して常識を覆され、それを強要されてパニックになってしまった。
レグルスはタビトの混乱に巻き込まれただけだ。なのに先に謝ってくれた。
見知らぬ土地でたった一匹、これからも生きていかねばならないタビトは、レグルスと出会えたことが最上の幸運だったと今なら思う。
「タビト、ずっといっしょにいて。死んじゃったりしないで……」
レグルスの前足がそっと首元をおさえ、泣き声のようにすんすんと音を立てて匂いを嗅いできた。
被毛を舐められて、さっき噛みつかれたところを癒そうとしているのだとわかる。
死んだ生き物の話なんかしたから、レグルスも不安になってしまったのかな。
タビトはもう一度謝って、された以上にたくさん体を擦り付けた。
くっついていると心があたたかい。
満足そうに目を細めるレグルスもきっと同じ気持ちだろう。気が抜けて、二匹揃って床の上で丸くなり夕方まで眠りこんでしまった。
「夕ご飯、食べる?」
「うん」
目を覚ますとそこはまだ食堂で、だいぶ日が傾いている。
すでに給仕の使用人が食事の準備を始めていて、まもなく皿が運ばれてきた。
青々とした葉野菜と、赤茶の小さな木の実。
とても肉食獣が食べるものとは思えない。でも、食べると決めた。
目と鼻をぎゅっと顰めて口に入れた葉っぱは、思いがけない味がした。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「なんだか、肉みたいな味がする……」
一口、もう一口。なぜだろう、食べられる。
レグルスも自分の皿をふんふんと嗅いで、葉っぱにかぶりつく。
「あれ? いつもよりおいしい!」
「そっちも?」
顔を見合わせて、また皿を見る。さっき厨房で出された青臭いだけのものと、これは何が違うのだろう。
首を傾げていたら、キッチンから昼とは違う人間が出てきた。
背の高い男の人で、やっぱり背中の毛が逆立ったものの、威嚇はしなかった。たぶんこの人も獣人だ。
「坊っちゃん、今晩の食事はいかがでしたか」
「シェフ! なんだかいつもよりおいしいよ」
「ありがとうございます。こちらには、草食獣の血を用いたソースを使いました」
それを言いたかっただけなのか、シェフはお辞儀をしてすぐに引っ込んでしまった。
改めて皿を見下ろす。
不規則にちぎられた葉っぱと木の実には、つややかな黒っぽいソースが満遍なくかかっている。これが血を使ったというソースか。
昼には鼻についた青臭さが鳴りを潜め、嗅ぎ慣れた肉の匂いで上書きされている。
タビトが騒いだから気を使わせてしまったんだろう。恥ずかしさに身を縮こまらせた。
「おいしいね、タビト!」
でもレグルスが笑顔を向けてくるから、ぎこちなく笑い返して食事を再開した。
ソースの雫一滴まで舐め取った皿は新品みたいにきれいになった。
おいしい食事だと素直に思える。
「タビト、あのね」
皿が下げられた後、レグルスがそっと囁いた。
「ほんとうはオレも、葉っぱのごはんがイヤだったんだ。でもタビトのおかげでこれからは食べられそう」
「……ほんとに?」
「うん」
なんだ、レグルスも嫌だったんだ。同じじゃないか。
お腹を抱えて大笑いしたくなるのを堪えて、二匹はくすくすと笑い合った。
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