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二度あることは三度ある
しおりを挟むどうしてこんなことになってしまったのか。
レポートや課題がこのところなく、その割に金がなくてヒマで。すぐに次ができると思っていた彼女もできず、夜も寂しくご無沙汰で。
松笠が「高い洋酒をもらった」なんていうもんだから、ホイホイ家までついて行ってしまった。
いや、決して先週末にあった、あの忌まわしい出来事のことを忘れたわけじゃない。
ただ松笠が、好き好んで二度も男の八巻を襲うなんてこと、あるわけがないと考えたからだ。だから油断していた。そもそも警戒していなかった。
美味しいタダ酒を遠慮せず飲んでいいと言われて、グラス5杯ほど干したところで、いい具合に酩酊してきて。
気がついたらコレだ。
「ん、ぅ……あ?」
「お。起きたか八巻」
「…………なにしてんの?」
八巻は柔らかい布の上に仰向けになっていた。これは恐らく松笠宅のベッドだ。
そして家主である松笠が、八巻に乗っかっている。
太腿の上に座られているので身動きが取れず、抑え込まれているような形だった。
これが積極的な女の子であれば垂涎ものだが……残念ながら相手は八巻よりゴツい男である。
やけに体がスースーすると思って見下ろすと、ひとつしか空けていないはずのワイシャツのボタンが全部外されている。
どうやら松笠は意識のない八巻をベッドに寝かせ、服を脱がせようとしていたらしい。
「ぁ、俺……酔っ払って寝ちゃったのか。介抱してくれたのか」
「んん、まぁそうとも言えるな」
なんだか引っかかる言い方に八巻は首を傾げた。
介抱する以外に服をはだけさせる意味がわからない。
八巻が可愛らしい女の子であれば、酔いつぶれた相手にヤることはひとつだが……。
「え、まさか」
「やっと頭が回ってきたか?」
とてつもなく嫌な予感がして松笠を凝視すると、八巻に跨るイケメンモテ男はとても悪そうな笑みを浮かべる。
松笠がゆっくりと屈み込んで、無防備に晒されている乳首に舌を這わせるのを、八巻は呆然と見ることしかできなかった。
「ぅ、あっ……! ま、松笠おまえなにして……」
「いやさぁ。こないだ俺言ったろ? 乳首開発したいって」
「そ、んなの覚えてな……」
「言ったんだよ。でもあのとき盛り上がっちゃってさ、こっちはあんまり触れなかったなと思って」
「あっ!」
唾液で濡れた肌に呼気が掠めるのすら微妙な刺激だったのに、そこへ軽く歯を立てられ八巻は胸を仰け反らせた。
得体の知れないビリビリとした快感が、体の内側から全身へ広がっていく。
「やっぱビンカンだなぁ八巻。才能あるよ」
「そこ、で、しゃべんな、ぁ! やめろ、って!」
「まぁまぁそう言わずに」
舌先でちろちろとつつかれ、かと思えば全体を舐めあげられる。戯れのように乳頭へ歯を立てられ、口内で舌が先端を舐る。
執拗に左ばかり刺激されることも、どうしようもない熱が生まれる要因となってしまっていた。
押さえつけられている両脚が勝手に内腿をすり合わせようとする。
「松笠、あの、」
「ん?」
「そっちばっかり……だと、ちょっと、その」
いつのまにか体の両脇でシーツを握りしめていた指先に、変な力が籠もった。
状況をよく考えてみれば、八巻の腕は拘束されているわけではない。力づくで払い除けてやめさせればいい話だ。
シーツを手放して腕を浮かせたところで、松笠があぁ、と呟いてにっこり笑った。
「右もいじってほしいのか」
「ち、違っ」
「そう? じゃあやめてもいいんだ」
言うが早いか松笠は八巻の胸元から顔と両手を離した。
太腿に跨る姿勢はそのままに、降参するようなポーズで距離を取る。そうされると、今まで散々いじられてぷっくりと立ち上がった突起が、妙に寒々しく寂しいような気持ちにさせられる。
「────ぁ……」
八巻を見下ろす松笠の目には、なんの感情も読み取れない。このままやめろと言えば、本当に手を引く。そういう空気だった。
それを望んでいたはずなのに、浮かせた手を突き出せない。
拒否の言葉が喉まで上がってきているのに、その先へ進めない。
じんじんと腫れた熱が、下半身の反応すら引き出していることに八巻はとっくに気がついていた。ただ気持ち悪いだけであれば、萎えてしまうはずのそれ。
「やめなくて、いい……かも」
「なんだよ『かも』って」
小さく笑った松笠の頭が下がってきて、今度は右の乳首を口に含まれる。
触られていなかったはずなのに、左側と同じだけ尖ったものはしっかりと存在を主張していた。与えられる快感は、焦らされたせいなのか先程より腰骨に響く。
「ぅあっ、あぁ……っ」
「きもちい? 八巻」
「ん……んぅっ」
素直に頷くことなどできなくて首を振ったのに、返答など必要としていなかったのか、松笠の攻めが止むことはなかった。
芯を持って尖ったものを舌先で押しつぶすようにされ、空いた左は指先で弄くり回されている。
硬い爪で押しつぶされ、小刻みに弾かれ、指先で痛いくらいつまみ上げられ、それらすべての刺激が体内に凝っていくようだった。
苦しいほどの快楽が、出口を求めて彷徨うのに、手を伸ばしても届かない。松笠の体が邪魔で、下衣をずらすことすらできない。
覆いかぶさる体を遠ざけたくて肩へ伸ばした手が、いつのまにか松笠の頭を抱えていることに八巻は気付いていなかった。
「八巻の、すげーかわいいな」
「んっ……なに……?」
「ちっちゃくて、敏感で。そこらの女よりピンクかも」
「あぅっ! それ嫌、や、乳首のびちゃうぅ……」
右は前歯で、左は指先で引っ張られ、八巻は堪らず抱えた松笠の頭を胸に押し付けた。
まるで自らねだるような姿に、松笠のほうも煽られる。
両手はありもしない乳房を揉むように動き、時折脇腹を撫で下ろす。普段は意識もしないであろうなんの変哲もない皮膚すら、性感帯になってしまったように、八巻の反応は良かった。
ひっきりなしに甘い声が漏れ、びくびくと小さく体を跳ねさせる。
「まつか、さ、あっ! ぁああっ───」
「八巻?」
どれくらい時間が経ったのか。
突然八巻の反応が劇的になり、大きく体を震わせたので松笠は顔を離した。
見下ろした八巻の顔は快楽で歪み、そして呆然ともしている。もしかしてと体をずらすと、八巻は横向きに転がって背中を丸めた。しきりに下肢を気にしているのに、布を押し上げる昂りがない。
「もしかして、胸だけでイった?」
「うあぁああ! 言うな馬鹿!」
顔を真っ赤に染め上げた八巻は、松笠を下から睨みつけ、すぐさまシーツに顔を埋めた。
恥ずかしすぎて今すぐ消えたい。
歴代の彼女たちにも胸など触らせたことはない。それなのにたった二回、松笠に弄られただけで、達してしまう体になってしまったことが八巻には信じられなかった。
松笠の言う通り八巻が敏感すぎるのか、はたまたこのヤリチンクソ野郎のテクニックが神業なのか……。
気持ち悪い感触が広がる下半身をどうにかしたくて、でも松笠の部屋でトイレや風呂を借りるのは嫌で、どうしたものかと八巻は考える。
相変わらず両手はシーツを掴んだままで、だから松笠が素早くジーンズごとトランクスをずり下ろすのを、八巻は全く防ぐことができなかった。
「うわーっ!?」
「なんだよ。気持ち悪いだろ? 洗っといてやるから」
「い、いやっ、結構です!エンリョします!」
「まぁまぁ」
くしゃくしゃのジーンズたちがベッド下に投げ落とされるのを、八巻は呆然と見つめた。
いやらしい笑顔を貼り付けた松笠がゆっくりと覆いかぶさってくる。
その手にはどこから出してきたのか、なんとなく見覚えのあるローションの容器と、よく覚えのあるゴムの小袋が握られていた。
「まだまだ夜は長いぜ。楽しもうな八巻」
「楽しいのはお前だけだーっ!」
腕を突っ張って必死に抵抗する八巻の声が色っぽい喘ぎに変わるのは、それからすぐのことだった。
八巻は誓った。
二度とタダ酒に釣られないことを。
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