上 下
1 / 3

酒は飲んでも飲まれるな

しおりを挟む

※女性関係を匂わせる文章および女性との性行為でしか使わない単語が出てきます。


_____




 置いてあった缶の中身を飲み干して、テーブルに戻したタイミングが同じだった。

「「セックスしたい」」

 性的欲求が口から出てしまうタイミングまで同じとは。



  ◆ 欲求不満こじらせて友達と一線超えちゃった話 ◆



 まったく同じ言葉をぴったりハモらせてしまった二人は、同時に吹き出した。

「おま、なんだよいきなり、考えること同じすぎかよ」
「だってさ……ムラムラするのは抑えられないだろ? お前だって同じなくせに」

 横に座っていた友人を小突いて立ち上がる。酒とツマミしか入っていない冷蔵庫は、典型的な自堕落大学生男子という風情だ。缶を二つ取り出して扉を閉めた。
 かれこれ二時間ほど、松笠まつかさの部屋で宅飲みをしている。
 お互いにアルコールが回り始め、ほろ酔いのまま猥談に花が咲いていたところで、先程の呟きだった。
 八巻やまきと松笠はともに大学三回生だ。ゼミが同じになったことをきっかけに急速に仲良くなったが、それまでは同学科の学生という認識をぼんやり持っているだけの間柄だった。
 話してみればノリが合うし、話題にも事欠かない。趣味が重なることはなかったが、何事も嗜好が似ていた。

「ゼミのさ、金井ちゃん。すげーかわいくていい子なんだけどさ……」
「あー。カノジョって感じじゃない」
「だよなだよなー。なんっか違うんだよな~」
「あの子は? こないだ合コンでいい雰囲気になってた黒髪の」
「あぁ~アリサちゃん? ちょっとだけ付き合ったけどないわ、一回ヤっただけで彼女ヅラ激しすぎて」
「はは、サイテーだな八巻」
「松笠に言われたくねぇ!」

 コンビニで買い込んだ缶チューハイを開けながら、低俗な会話を楽しむのがこのところ二人の日常だった。
 お互いにバイトもしておらず、取るべき授業もあらかた履修済みのだったので日常の娯楽に飢えてしまう。
 一人で過ごすのもなにか物足りない。飲み会と合コンばかりのサークル活動も金が掛かるため、そう頻繁に出向くことはできない。必然的に、松笠のワンルームに出向くことが増えた。
 角部屋で、隣人は夜の仕事らしく鉢合わせにならない。二人では騒音もたかがしれているし、気兼ねなくおしゃべりに興じることができる空間だった。

「そんなわけで俺はもう一ヶ月以上ご無沙汰なわけよ!」
「俺だってカノジョなんかもう半年いねーよ」
「松笠にはセフレいるだろ、この顔だけ男」

 ゼミの女子がやや色めき立つほどの美形である松笠は、ヤりたくなったときだけ会う「ともだち」が数人いるらしい。爛れている、でも羨ましいと八巻は思っていた。

「あー……そっちも最近は会ってねぇ。ていうか顔だけとかお前が言うなって感じなんだけど」
「俺は顔も頭も良いだろ?」
「…………」
「黙るなよ!」
「まぁ、ホントに頭が良ければさっきの一言は出てこないよな」
「いや~性欲は三大欲求ですよ? ヤりたくなっちゃうのは仕方ないだろ。このままじゃ乾きすぎて俺のビッグマグナムが干物になっちまう」
「つまようじの間違いだろ」
「いくらなんでもそれは酷いだろ!」

 軽快にやり取りして、同じように笑う。
 これほど気の合う友人は後にも先にもいないだろう。口にだすことはなくとも、お互いにそう感じているのは明白だった。

「ちなみに今の気分は?」
「爆乳を揉みしだきたい、です! 松笠は?」
「俺は……ぺたんこの胸を好みに開発したい」
「エグい! さすがドSの松笠!」
「誰がドSだ」

 八巻は物心ついた頃から巨乳が大好物だった。日本男児たるもの大きいほうが好き、と思っていたのだが松笠は違うらしい。
 スレンダーな美女を連れ歩く姿を度々目撃される松笠は、むしろ平たい胸のほうがより好きだと日頃から宣っている。ここだけは二人の好みが明確に異なっていた。
 だから、なんとなくこんな流れになることを、以前から八巻は予感していたような気がする。

「なぁ、巨乳は今ここにはないけどさ」
「そりゃあな」
「貧乳はあるよな?」
「……は?」

 松笠の視線が注がれている先を辿る。
 行き着いた先は紛れもなく男の、八巻の胸だった。
 自分の胸と松笠の顔をそれぞれ二度見して、八巻はそっと両手で自らの胸を隠した。

「なに考えてるんですか松やん……」
「いやぁ、俺もお前も欲求不満で、俺好みの平原が広がってるわけよ。でもお前好みの丘陵はないわけよ。じゃあやることは一つだろ」
「待て待て、血迷うな松笠、お前実は結構酔ってる?」

 怪しげに両手をわきわきと動かしながら迫ってくる松笠から八巻はとっさに後退りして距離を取る。しかし狭苦しいワンルーム、すぐに壁際に追い詰められてしまった。

「まぁまぁ。減るもんじゃないし」
「減るわ! ぎゃあ!」
「男でも弄られると気持ちいいらしいぞ」

 シャツの上から松笠の手が八巻の胸を覆った。時にヒョロガリとも評される八巻の胸には、女性らしい膨らみどころか柔らかさすらほとんどないはずだが、松笠は興味深そうな表情で胸元をまさぐっている。

「ど、どうですか……」
「んーほんとになんもないな。手触りが悪い」
「そうだろ!? もう諦めて……ひゃっ!」

 松笠が布越しに八巻の乳首を的確に探り当て、指先で摘んだ。
 これまで感じたことのない、痛痒いような衝撃に声を上げてしまい松笠と思いっきり目が合う。

「……」
「……」

 気まずい。
 うぶな女の子のような声……とまではいかないまでも、ちょっと普段は出すことのないような可愛らしいものが漏れてしまった。
 やや呆然としているように見えた松笠は瞬時に気を取り直して、行為をやめるどころか八巻の乳首を執拗にいじってくる。
 指で摘み、かと思えば押しつぶすようにする。手のひらで転がし、指先を小刻みに揺らして先端を刺激した。
 いくら用途の薄い男のものといえど、そんな風にされれば反応してしまうわけで。

「八巻、乳首立ってる」
「あぁぁ言うな!」
「気持ちいい?」

 手持ち無沙汰だった両手で顔を覆っていたので、覗き込んでくる松笠と視線が絡むことだけは回避できた。しかし明らかにピンと存在を主張してしまっている乳首の反応は隠しようがなかった。
 八巻が返答しないのを見て、松笠はシャツを捲りあげた。ピンク色に染まった二つの尖りを直に触る。

「っあ、嘘! お前何やってんだ!」

 片方は指先で刺激を続け、もう片方の突起を口に含んだ松笠に八巻は仰天した。
 確かに二人とも欲求不満だった。それは確かだ。だからといって男の乳首を吸うかと言われればそれはノーだ。本来ならば。
 松笠はなにが気に入ったのか、舌先で乳首を転がして時折吸い上げる動きをやめない。八巻は今まではその存在すら知覚することのなかった乳首が、すっかり性感帯になってしまったように錯覚した。
 ……むず痒いけど、気持ちいい。

「あ、ぁ、松……やめ」
「敏感なんだな八巻。今までのカノジョにもここ触らせてんの?」
「さ、わらせるか! 俺が揉みたいんだか、らぁあっ!」

 先端に歯と爪を同時に立てられ、八巻は背を弓形に撓らせ仰け反った。背骨を貫くような明確な快感が走った。
 薄っすら涙の膜が張った目で松笠を見下ろすと、今にも舌なめずりをしそうな黒い瞳がある。

「なぁ八巻」
「も、やめてくれよ……男相手にこんなんしても、意味ない、だろぉ」
「カノジョにフェラしてもらったことは?」
「……ん、そりゃ何回かは」

 万年脳内ピンクの八巻だったが、セックスは比較的ノーマルだと自負している。まず女の子を十分に気持ちよくさせ、最終的には二人で上り詰める。歴代の交際相手にあまり積極的な娘がいなかったせいか、フェラをしてもらったことは数える程度だった。
 気持ちがいいことは知っているが、無理にしてもらうものではないと思っている。

「してやろっか、フェラ」
「んぇえ!?」
「今俺、クンニしたい気分なんだわ」
「いやさすがにそれはおかしいだろ!」

 状況も忘れて八巻は目を剥いた。
 性器を直接口で愛撫するという点では同じだが、慎ましい女性器と違って男性器は存在感が違う。八巻は男のものを口に入れるという想定すらしたことがなかったが、一方の問題発言男・松笠は平然とした顔をしている。
 そしてあろうことか、ボトムの上から八巻の股間を撫で上げた。

「うひゃあ!」
「だって硬くなってるぜ、八巻のコレ。大丈夫、同じ男なんだし気持ちいいやり方わかるから」
「いやそういう問題じゃ……こらっ脱がすな! やめろぉ!」

 松笠が顔を離した隙にシャツを引っ張り下ろすことに夢中で、するりとズボンどころかトランクスまで脱がされ八巻は半泣きになった。
 目にも留まらぬ早業に経験値の違いを感じさせる。
 ずり下ろしたシャツを引っ張って股間を隠そうとした八巻の努力も虚しく、手を退かされて反応してしまっているものが松笠の眼前に晒されてしまった。
 男同士でイチモツを見られることなど珍しくないし、特別恥ずかしいことでもないはずなのに、至近距離で松笠にじっと見られることは耐え難いほどの羞恥を感じてしまう。
 改めて八巻が拒否を口にしようとすると、松笠はおもむろに八巻の屹立を口に含んだ。

「ひっ! ま、松笠……!」

 股間に埋まる松笠の頭を退かそうとするが、がっちりと腰を掴まれていてびくともしない。
 本当は殴ってでも止めたほうがいいと分かっているが、そんなことをした拍子に自分のものを噛みちぎられたらと思うと下手な真似はできそうもなかった。
 先程自己申告があった通り、松笠が与える刺激は的確で、八巻の性器は萎えるどころかどんどん嵩を増し、硬くなっていく。
 正直すぎる自分の体の反応に八巻は泣きたくなった。すでに半泣きだったが。

「だめ、まつかさぁ、あ、あぁっ」
「イきそ?」
「そこでしゃべ、んなぁ……ほんとやめ、やめて」
「まだ足りないか」
「ぅあああっ!」

 いくら女の子にやってもらうとはいえ、実際に自分でやるとなったら違うだろうに、松笠の口淫は異常に上手かった。歯が当たることなく竿を舐め上げられ、鈴口を舌先で抉られると否応無しに感じてしまう。目を閉じれば女子にされているように錯覚してしまいそうだった。
 しかし現実には、男友達が自分のアレをナニしている。しかも自分はイきそうになっている。
 そうかこれは夢か、とんでもない淫らな夢だ。こんな夢は松笠にも失礼だ、だから早く目覚めろ俺、目覚めてぇ!

「あっん、ふぅ、ぁあ、イく、いっちゃうから離して、」
「出していーよ」
「だめだめ俺がイヤだ、だめ、あぁ───」

 ……最悪だ。友達の口に出してしまった。
 よりによって一番の友達だと思っていたやつにフェラされて、まんまと放ってしまうなんて。
 賢者モードに入りかけた八巻は慌てて気分を振り払うと、近くにあったティッシュ箱を手繰り寄せて松笠に渡した。
 なぜか松笠は嫌そうな顔も見せず、八巻の精液を吐き出して悪びれる様子もない。こいつ何考えてるんだ。

「意外と遅めなんだな、八巻」
「おま、おまっ……も、なんなんだよ! おかしいだろこんなの!」
「おかしいついでに聞くけどさ」
「…………なんだよ」
「八巻はやったことある?  前立腺マッサージっての」
「ぜっ……」

 とっさの出来事に弱くて、素早く頭を回転させることができない、小学生時代の通知表の申し送り欄に「びっくりすると固まってしまいます」と書かれた八巻は現状に理解ができなくなってきていた。
 ここまでの流れだと、松笠は前立腺マッサージをされたい、か、八巻を実験台にしたい、のどっちかの意味合いが含まれた問いだろう。
 意味不明の状況に脳内をクエスチョンマークが乱舞している。
 とりあえず八巻は、すぐ近くにある友人の目を見て諭すように話しかけた。

「松笠、どうか深呼吸して考えてくれ。お前は今酔っている。さらに欲求不満だ。同情する。しかしそこでどうして、男友達のケツを弄ろうって話になる?」
「まぁ、ならないな」
「っ、分かってるなら話が……」
「でもさ、すっげー気持ちいいらしいぞ」

 その言葉に、松笠を押し退けようとしていた八巻の腕の力が露骨に弱まった。
 そんなに気持ちいいのか? という抗いがたい好奇心が擡げてくる。
 男ならみんな同じだと思うが、八巻は気持ちいいことが大好きだ。
 今一番ハマっているのは足湯だ。簡単に気持ちよくなれる。カノジョを作るのも、セックスするのも、気持ちがいいからに他ならない。
 だから八巻は恋とか愛とか、そういったものを前提とした交際はあまり経験がなかった。なにより恋が終わった時が苦しい。苦痛なことはしたくない。それは相手に求める時も同様だった。
 松笠も似たようなタイプだと思っていて、恐らくそれは当たっている。だからといって、未知のことに抵抗がないわけではない。

「らしい、ってことは松笠はやったことないんだよな? 気持ち悪かったらどうしてくれんだよ」
「それは大丈夫。練習したから」
「れ、練習……?」

 なんだか松笠がすごいことを言っている気がする。
 もしかして知らない間に見た目だけ同じの宇宙人に変わってしまったのだろうか? でもさっきまで馬鹿話していたのは間違いなく松笠だったはずだ。

「絶対気持ち良くさせてやるから。好きだろ、気持ちいいの」
「好きだけど、でも、そんなの……」
「騙されたと思って、ほら」

 体をひっくり返され、上半身をソファに俯せる形にさせられる。
 自然と尻を松笠の前に突き出す格好になり、八巻はさすがに慌てた。

「ちょっなにこの姿勢! 松笠、お前ふざけるのもいい加減に」
「もちろんマッサージのためだ。正しい姿勢がマッサージには重要なんだ」

 体勢を変えたくとも、腰を抑えられてしまったようで身動きが取れない。八巻はなんとか後ろを振り向く。
 先程から何事も素早い松笠は、どこかから取り出した透明な液体をこねくり回していた。見たことはあるようなないようなそれは、ローションらしい。
 間髪入れずそのローションが八巻の尻に塗りたくられた。予想したほど冷たくはないが、違和感に体が跳ねる。

「ま、松笠、本気でやんの?」
「うん。まずは前立腺探すとこからね」
「や、やっぱりやめ……ぅあっ!」

 怖気付いて逃げようとした八巻の尻に容赦なく何かが挿入された。
 実際にはつぷりと、松笠の指先が侵入しただけだったが、それを理解した八巻は凄まじい衝撃を受けていた。
 友人にケツをいじられている。かつてない、そして今後もあまり考えたくないハプニングだ。
 今のところは異物感がひどい。そもそもそこは何かを出す専用の場所で、入れるのは間違った使用法だ。なぜそんなところにあるのか前立腺。
 松笠を振り払って逃げたくとも、酔いが回っているせいか体が思うように動かない。その上内臓を直に探られている感触が、八巻から抵抗する気力を奪い始めていた。

「八巻、どんな感じ?」
「ぅ……気持ち悪ぃ」
「あーごめん。すぐ見つけるから。この辺のはずなんだけど……」
「あ!? ああぁっ」

 松笠の動きが止まる。八巻の思考も止まった。
 なんだ今の、女の子のような声は。咄嗟に口を塞いだが、出てしまったものは取り消すことはできない。
 自分の声に動揺するあまり、八巻の僅かばかりの抵抗はすっかりなくなってしまっていた。それに気を良くしたのか、松笠は先程八巻が反応した場所を執拗に指で抉ってくる。
 触れられるたびとてつもない感覚が体を突き抜け、勝手に声が出てしまうことに八巻自身が一番驚いていた。

「あっあっ、まつかさ、やめ、て」
「初めてでもこんな感じるもんなのか。八巻お前才能あるんじゃね?」
「そんなの、っん、いらな……あぁっ」

 隙を見て挿入される指の数が増やされ、松笠は明確な意思を持って八巻を追い詰める。
 これまでは固く締まっていた筋肉が柔らかく解されていくことも分からず、八巻はただ涙を流しながら喘いだ。自分の体がおかしくなったような、自分のものでなくなってしまったような恐怖に似た感覚が全身を支配している。
 もはや前立腺への刺激が気持ちいいのかどうかもよく分からなくなっていた。

「すげ、ほんとに解れてきた。もう指三本入ってるんだけど、わかる?」
「あ、何、なんで……」
「なぁ八巻。お互いにもっと気持ち良くなれる方法あんだけど……試してみない?」
「も、もっと……?」

 わけのわからない未知の快楽が出口を求めて腹のなかを渦巻くのを、八巻はいっそ苦しいほどに感じていた。
 普段なら、快感は股間の雄に直結して反映される。そこに刺激を与えて射精すれば気持ち良くなってスッキリして終わる。簡単な図式だ。
 しかし今は、覆い被さる松笠が邪魔で下腹部に触れることもできない。立ち上がったものがソファに時折当たるのがもどかしい。決定的な刺激にならず、臓器の中で煮詰まっていくかのようなねっとりした快楽が雄芯から出て行くというビジョンが思い描けない。
 でも、松笠のいう「もっと気持ち良くなれる方法」を試せば、この苦痛すら覚える感覚を散らすことができるかもしれない。
 涙でぐしょぐしょになった顔で振り向いた八巻は、何度も松笠へ頷いて見せた。
 その瞬間、松笠は見たことがないほど邪悪さを感じる笑みをくっきりと浮かべた。八巻が一瞬怖気付く。

(もしかして俺、間違った?)

 もっと気持ち良くなれるというなら当然触れられるであろうと思っていた下腹に、松笠は触れてこなかった。
 代わりにさっきまで散々いじくり回されていた後孔に、指とは比べ物にならないほど太くて熱いものが当てがわれる。
 それが何かを問いただす前に先端がめり込んできて、八巻は肺から押し出される空気を声と一緒に吐き出すのが精一杯になってしまった。

「う、ぐぁ……ま、つかさ、なにやって」
「やっぱキツいな……全部入んないかも」
「何、なに───ひっ」
「あ、いけたわ。根元まで入ってるのわかる?」

 分かる。分かってしまった。尻の皮膚に松笠のものと思われる陰毛の感覚がしっかり感じ取れる。
 いくら八巻とて、この状況を疑いようがないほど理解してしまっていた。
 ひとつしかない八巻の穴に、松笠の松笠が挿入されている。
 これはもうセックスだ。

「ちょっとだけ小休止な。つらいか?」
「ん……」

 ずっと押さえつけられていた背中の圧迫感がなくなり、八巻は無理やりながら後ろを振り向いた。
 松笠は、笑ってもふざけてもいなかった。
 妙に真剣な顔で、少し汗ばんだようすで、八巻としっかり視線を合わせてくる。泣き濡れた八巻の目元を指で拭って、そのまま体を屈めて唇にキスされた。
 ……ん?  キス?

「……なんで今キスしたの」
「八巻がキス待ち顔だったから、つい」
「いやしてねーしそんな顔」
「そう? じゃあ俺がしたかったってことで」
「それよりさぁ、これ入っちゃってるよな。お前俺のこと騙したのかよ」
「騙してはない。これから気持ち良くなるんだよ。動くぞ」
「あ、待っ───!」

 先程から猛烈な異物感のあったそこが、ずくりと勝手に疼く。腸を引きずり出されるような感覚のあと、また松笠が腰を押し当てた。
 その際に指で探り当てられた前立腺が、凶悪なほどの質量で抉られていく。

「ぁああっ! そこだめ、まつか、さ、ぁ!」
「気持ちいいんだろ、八巻」
「きもちい、いいから抜いて、ひぁ、あ」
「ほら、抜いてやった、ぞ!」
「あぁっ───!」

 ストロークはゆっくりとしたものなのに、確実に的確な場所を刺激してくる松笠に、八巻は完全に屈服していた。
 早く抜いてほしいと思いながらも、与えられる快感の先を期待してしまう。
 なにしろ八巻は気持ちいいことが大好きな、そして欲求不満が蓄積した健全な男子だったからだ。
 いつの間にか松笠の手が前に回っていて、汁を零しながらも解放することができず苦しそうに震えていた八巻の昂りを握っていた。後ろからの攻めと前への刺激が同時に与えられ、八巻の脳は完全にキャパオーバーに陥る。
 ひたすら甘く喘ぐだけとなった八巻の耳元に松笠は唇を寄せた。

「なぁ、気持ちいいか?」
「あ、あっ! すごい、きもちい、ぅあ、あ!」
「もっとしたいだろ? 今日だけじゃなくて、また次も」
「んぇ……まつかさ?」
「なぁ、したいよな?」
「あぁああっそこ、ごりってしちゃ、あ! する、次もまた、するからぁ」
「ん、良かった」

 抽送のスピードを上げ、前を扱く緩急をつけ、松笠が追い上げる。
 すでに頭が真っ白になっていた八巻は、そこからさらに上り詰め、落ちて行くような強烈な感覚に嬌声をあげ意識を失った。



 次に八巻が気付いたときには、相変わらず松笠の家のソファに凭れていた。
 しかし体に汚れたところはないし、下も履いている。おまけにソファの座面にだらりと横になっていて、八巻は首を傾げた。

「あれ?」

 しっかりパンツまで履いている下肢を見下ろしていると、キッチンのほうから松笠が近付いてきた。手に水の入ったコップを持っている。

「八巻、気がついたか」
「あ、あぁ……」
「意識飛ばしちゃったみたいで焦った。これ水、起き上がれるか?」
「おう」

 腰の違和感が半端ないが、痛みは感じなかった。ソファに座り直して水を貰う。嚥下して、とても喉が乾いていたことに気付いた。
 なぜだかよくわからないが、八巻は松笠とセックスしてしまったようだ。
 横に座る松笠の顔を見る。特に感情は伺えず平然としていた。
 確か昨夜は松笠と飲んでいて、欲求不満が爆発したんだった。それなら昨日のあれは性欲処理的なものだったんだろう。八巻のほうも、これまで一人で抜いても微妙に残っていた不満感が綺麗さっぱり消えていた。
 色々とおかしい部分はあるが、松笠はたしかに気持ち良くしてくれた。松笠が約束を違えたことはこれまで一度もない。今回も有言実行だったということだ。

「そ、そういえば松笠は、気持ち良くなれたのか?」

 これまでも散々見慣れていたはずの松笠の横顔がなんだか眩しく見えて、八巻は俯きながら問い掛ける。
 松笠の表情は見えなかったが、「あぁ」という短い肯定は満足そうだった。行為の最中なんとなく、松笠は八巻の欲求不満解消に重きを置いていたように感じたので、松笠も気持ち良かったのなら安心できる。

「八巻、昨日約束したこと覚えてるか?」
「え? なんかしたっけ」
「またしようなって、前立腺マッサージ」
「っ!」

 そういえば気を失う直前に、そんなことを言われた気がしないでもない。
 八巻はただ訳も分からず頷いただけだったが、約束を守る男・松笠に念を押されれば首肯するしかなかった。それに前立腺マッサージなら、男女の間でもすることがあるらしいし、そう不自然な話でもない。はず。

「実際にやってみるとやっぱり勉強不足を痛感したよ。次はもっと八巻を気持ち良くさせてみせるから」
「えっ、あれ以上があるのか……?」
「任せろ、欲求不満になる暇もなくしてやる。だから八巻も協力してくれるよな?」

 嬉しそうに話す松笠を突き放すこともしにくくて、八巻は再び頷いた。
 松笠が浮かべていた笑顔がどんなものだったか、この時知っていればと八巻が思ったのはずっと後になってからだった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

彼女がやってたのBLゲームでした

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:118

投了するまで、後少し

BL / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:1,278

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

BL / 連載中 24h.ポイント:809pt お気に入り:1,207

BLすけべ短編まとめ

BL / 完結 24h.ポイント:688pt お気に入り:83

公開凌辱される話まとめ

BL / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:79

【R18】女性向け風俗に行ってきました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:24

既婚若パパ同士でハメ合う幼◯園のパパハメ互助会の話

BL / 連載中 24h.ポイント:724pt お気に入り:281

【完結】DDメス堕ち援交

BL / 完結 24h.ポイント:844pt お気に入り:1,264

処理中です...