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 いそいそと準備をして、潘神のいる神殿を訪問したオスカーだが、初めて会う潘神は、椅子に座って書籍に目を通しているところだった。真っ黒な髪に太い眉で、そこそこ体格のいいオスカーよりも更に大柄だ。しかし顔は小さく、腕や太腿の筋肉が丸太のように発達している割に、全体に均整がとれている。
 凄まじい美丈夫というのは、このような人物を言うのかもしれない。
 この美丈夫に、邂逅一番、驚いた顔をされたので、オスカーもびっくりした。
「オリヴァー……⁉」
 潘神が驚きの声を上げる。オリヴァーというと、恐らく聖女を寝取ったご先祖さまであろう。しかし、潘神の顔に浮かんだそれは、悪感情というより純粋な懐旧の情と驚愕に見えた。
「潘神様、オスカーと申します」
 オスカーは膝をつき、胸に手を当てて挨拶する。
「このたび、潘神様にお仕えすべく、王家より参じました。恐らく、オリヴァーとお呼びになったのは、私の先祖でしょう。それほど私は似ておりますでしょうか」
 はっとした潘神は、たちまち真顔となり、見るからに拒否のオーラを漂わせると、手元の書籍を閉じる。そうして、まっすぐに背筋を伸ばし、視線を合わせることすらなく、
「帰れ」
 と言われてしまった。
 オスカーは帰れと言われてもなあ、と内心腕を組んで思った。
 この国で、主神の神託は絶対である。逆らうと具体的に天罰がくだり、内容も結構シャレにならない。
 潘神は元英雄で、しかも悲劇の英雄だった。彼が魔王と相打ちとなり、数百年の眠りについたことは、主神の同情も寵愛も深いものとしたのだろう。
 かわいそうだから、絶対に幸せにしたる、でないと許さん……という強い圧を感じます、と神託を受けた預言者は言っていた。
 オスカーもそう思う。
 なので、にこにこと反論した。
「潘神様のご意思に添いたく存じますが、主神様より神託を頂いております。聖女の子孫である我々の誰かが、潘神様の――お慰めするようにと」
 言外に告げた意味を汲んだのだろう。潘神は、ぎっ、と険しい顔で振り返った。
「必要ない」
「神託では、ご神格を得られたばかりの潘神様は、不安定でもあらせられると。巫子がお慰めすることで安定につながると聞いております」
「必要ないと言った」
「潘神様。私はお慰めするために、心身を尽くして捧げ――」
「私は」
 閉じた書籍の上で拳を握り、怒りを抑えるように潘神は口を開いた。
「慰めを欲していないし、そもそも存在を安定させるために、生贄のようなことを求めたくない。まして、望みもしない者から、無理やり奪うようなことはしたくない。それでは、悪しき者の行いと何が違う。捧げられても、受け取る気はない。ここまで言ったのだから、帰れ」
「——なるほど。わかりました」
 オスカーは立ち上がると、微笑みを浮かべ、友好的に両手を開いた。
「性的にご奉仕するためにしっかり準備を整えていたのですが、無駄骨になってしまいましたね。あ、いつでもご撤回は受けておりますので。ちなみに潘神様にお仕えするのはよろしいですかね。主神様のご神託を無視するわけにも参りませんし」
「……」
 無視された。駄目とは言われていないので、オスカーは承諾と受け取って、「よろしくお願いしますね」とほがらかに挨拶した。
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