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間奏【リクエスト】テオドール父とランナーの一幕
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時制は、テオを父の白スーツがぼこぼこにした後のあたりですね。父たちのカプなので、あまり興味ない方は読まないほうがいいかもしれないです。
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星雲。
青とも銀ともつかぬ細い格子の走る黒曜石のような床下に、星々が遠く輝いていた。
暗黒の空間は開放され、頭上にも銀河の煌めきが瞬いている。
ひらりとカーキ色のモッズコートを翻し、無造作にポケットへ手を突っ込んだまま、1人の男が空中より現れると、格子の床に降り立った。
あまり重力を感じさせない動きである。
なにしろ、この男はゴーストなのだった。
男は、星の空間を見回した。
目を凝らせば、闇の中に、太い木の根のように隆起する無数の触腕が蠢いているのが分かる。
その触腕から、白い発光体が浮かび上がると、ぼんやりとした人の形を取った。それは、歓迎するように両腕を広げる。
「やぁ、君が《周期》でもないのに来てくれるなんて、嬉しいなァ」
「はぁ、仕組んだくせによく言うよな……」
モッズコートの男は吐き捨てた。頭痛を覚えるように眉毛を寄せ、発光体と対峙する。
「まぁいい。言いたいことがあって、突然お邪魔させてもらったよ」
「僕はいつでも、大歓迎なんだけれどなァ」
発光体は機嫌が良いらしく、ところどころ深海魚のように明滅していたが、不便に感じたのか次第と《人間》の姿に変わっていく。
現れたのは、ハイブランドの白いスーツを着込んだ壮年の男で、人間離れした美しい容貌だ。タウンを歩けば、人々はへなへなと腰を抜かし(実際あった)、息を詰めて窒息しそうになり(実際にあった)、彼の足元に身を投げ出して、奴隷にしてくれと泣き叫びかねないカリスマを身にまとっている(全部実際にあった)。
モッズコートの男、ランナーは、片手をいまだポケットに突っ込んだまま、思い切り嫌そうな顔をした。
「こっちはできれば、こんなごたごたごめんだったんだが。ああとにかく、お前なァ、仮にも血を分けた……いや、血はあるのか? いやいやとにかく、テオドールになんてことするんだよ。めちゃくちゃ弱体化してたみたいだが?!」
「あーーーーそんなこともあったかなァ?」
記憶になさそうに首を傾げている相手に、ランナーは額をとうとうおさえた。
「お前、わざとやったんだろ。俺が文句の一つも言いに来ると当て込んでたなら、腹も立つが正解だよ。だが」
ランナーは顔を上げる。
「二度とこんなことはするな」
「分かったよ」
返事は簡潔で、もうテオドールをいたぶったことはどうでも良さそうだ。
はぁ、と今度こそランナーは大きなため息を吐いた。
「一度きりの手だと分かってそうなところが本当に小賢しくて嫌だ」
「君に嫌われたくはないからね」
「これはマジの話だが、2度目は本当にないからな」
「もちろんだよ、ぼくの花」
やさしく、甘く声色を変えて、白スーツの男は両手を差し伸べた。
「さぁ、難しい話はもう終わりだろう」
「勝手に終わらせないでくれ……」
「ここに来た時には、仲良くしてくれる約束だろう?」
それ以外は我慢しているんだ……君のお願いだからね、と低く地を這うようなテノールながら、どこまでもぐずぐずに甘い声で、ランナーの方が折れた。
一歩、一歩と抵抗を感じさせる足取りで近づくと、「あぁ……」と同意する。
その時にはもう、自分にだけは優しい支配者の腕の中に囲い込まれ、ランナーは黙って頭を預けた。
「俺だってテオドール君たちみたいに……無理だろ……お前、初動でさすがの俺も許せないほど悪行し過ぎなんだよ……」
「ウーン、ぼくも誠心誠意償っていくつもりだから、愛しい君、ここに居る時だけはお願いだよ」
「本当に許せないな……お前と仲良くし過ぎたら、顔向けができなさすぎる……」
「ごめんね?」
「謝るなら、息子をいたぶって俺をおびき寄せる悪行をそもそもしないでくれ。ハァ、まんまと引っかかってる俺も大概だよな」
「あまり、テオドール、テオドールと言われると、また彼をいたぶりたくなってきたな」
「いい加減にしろ、クズ親かお前は! いやそもそもクズだった……」
ランナーはすでに諦めかけていたが、一応釘を差した。
「俺以外の人間や息子に優しくしろとは言わないさ。せめて加害するな」
「愛しい花のお願いだ。そうしたいのは山々だが、君のこととなると、理性的ではいられないんだよ。そこは加味してほしいね」
「お前ら、結局とことん自己中心的なんだ……あぁ、なんでこんなやつ……」
ランナーは後悔しながら頭を押し付けると、彼の支配者は嬉しそうに囲いを抱擁に変え、囁いて、唇を落とした。
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