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番外 三十八 ダリオと一炊の夢
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なんか妙に生々しい変な夢を見たなぁと思って、ダリオは寝台の中で目が覚めた。
テオドールが運んでくれたらしく、横で目をバッチリ開けて、凝視ならぬガン見されている。
ふつうに怖い。
人外の挙動をそこそこの頻度で見せてくるテオドールに、ダリオは怖いものは怖いので、まあ毎度新鮮に引くよな、と思った。
頭を少し傾けて、ダリオは口を開いた。
「テオ、横で寝る時は、目ェ瞑っててくれると助かる」
「……何故ですか」
不満らしい。今更頼むのもどうかと確かにダリオも思わないでもないが、変に遠慮するのも関係にねじれが生じるだろう。
「目が覚めたら、穴が空きそうなほど凝視されてると怖いから……びっくりするし」
「ダリオさんがびっくりされるのはよくありません。前向きに対処させて頂きます」
「お前、時々公約守らねー政治家みたいな言い方するのなんなの」
ダリオの方へ顔を寄せると、瞬きひとつせずにテオドールは主張した。
「この件は持ち帰りたいと思います」
どこへだよ、ここがお前の家だろ、お前がご用意した館だろ、とダリオは思った。つまり、テオドールは、あまりこの凝視を止めたくないらしい。
「まあ、どうしてもならかまわねーが」
「どうしてもです」
光の速さでレスポンスされて、ダリオは諦めた。ダリオには諦めぐせがある。
もそもそと動いて、テオドールの肩口に額を押し付けるように頭を寄せた。
「テオも多少寝るようになったみたいだし、まああんまり無理はせずにな」
ふわ、とあくびが出そうになる。サイドボードの時計に視線をやると、まだ時刻は午前四時の早朝で、二度寝したほうがよさそうだ。
目を閉じると、さっきの夢が思い出されてきて、ダリオは眉根をぐっと寄せた。
結末は悪くなかったのかもしれないが、途中看過できない内容だったからだ。
なんの力もない水饅頭のテオドールが、人間に寄って集って棒で滅多なぐりされて、地面に千切れて広がり、石ころや草などが体内に入り込んでしまうなど、本当に最悪だった。
というか、現実のテオドールも似たようなことをしていて、荒唐無稽な夢とも言い切れない。
目を頑張って閉じていたが、あー駄目だ、とダリオは白旗を揚げた。
「テオ」
「はい」
「ちょっと、抱きしめさせてくれ」
テオドールはびっくりしたらしい。ダリオが思わぬ言動をすると、反応ができずに固まることがある。今回も硬直してしまった。
ようやく、はい、と言うので、彼の肩をつかみ、抱き寄せて、頭ごと抱えるように胸の中にしまい込んだ。
「うーーーーん」
丸っこい形の良い頭の形を確かめるように、柔らかな黒髪に五指を差し込んで優しく撫でながら、ダリオは気の済むまで自分より大きな青年を横抱きに抱っこしている。
「テオー、お前ほんとうに、痛い思いとか辛い思いとか、そういうの独りでしないでくれよ。後から知らされると、俺、勝手にたまらん気持ちになる。お前の行動を制限したいわけじゃねーんだけどさ、これコントロール欲なのかね……」
参ったな~と思いつつ、言うほど参っていないダリオだ。
テオドールも、すり、と額や頬を押し付けてきて、長い腕がダリオの腰に巻き付いた。それから、だりおさん、と聞いた者が腰のへたりそうな美声で、伸び上がって逆にダリオを自分の中に抱き寄せて閉じ込めると、青年の黒髪が白いシーツの上を擦っていく。
白い指先がダリオの頬に触れると、確かめるように輪郭を何度もなぞった。
テオドールの目は黒黒として、ドロドロの黒蜜を更に煮詰めて溶かしたようだった。光を吸い込んで逃さないブラック・ホールや、それこそ光の届かぬ超深海層のアビスのような重く息苦しさの滴る、人間ではない無光の色。
ゆっくりと、緩慢に、切れ長の双眸も、艶を帯びた唇も、三日月型に歪んでいく。
それは悦びだった。
人外である支配者が、その『花』に双方向の好意を、関心を、情を向けられて、気も狂わんばかりに悦ぶ。そういう表情だ。
ダリオも初対面でこれをかまされたら、問答無用で帰ってくださいと拒否していたが、今はテオ、嬉しいんだな~と平常心である。
「だりおさん」
はい、と気持ちは返事しているのだが、ダリオは黙ってさせたいようにさせることにした。
「だりおさんだりおさんだりおさんだりおさん」
本日二回目、ふつうに怖い。
だが、ダリオはじっとしている。させたいようにさせた方が早く落ち着くだろうという経験によるそれだ。
「僕の花、僕だけのダリオさん。ぼくの、ぼくの」
普段頑張って抑えてんだなぁ、と所有格で連呼されながらダリオはテオドールの腕の中で動かずに最後まで好きなようにさせているのだった。
支配者の独占欲って、とぼんやり思う。
テオの父親である白スーツは、彼の花である絵画の男ランナーとダリオが話したというだけで、ダリオを半ば死ねばいいのにするわ、息子を半殺しにするわの無茶苦茶をしてきたのだ。
あれでテオドールいわく、穏健な方と言う。
誰にも話しかけさせたくないし、接触させたくないし、なんなら自分の中に溶かして、それこそ蜜のようにドロドロに同化してしまいたい欲望がある種族だ。
テオも本当はそうしたいんだよな。
そうしてしまいたいのに、努力して、抑えている。
たくさん、あまりにもたくさん、彼の種族的に困難なことを我慢させているのだと、ダリオは思った。
テオドールは、ダリオよりずっと強くて、簡単にそうしてしまえるから、自分がそうしてしまわないために、莫大なコストを常に払い続けている。
強い者は、いつだって、弱い者を好きにしてしまえる力を持ち、それを行使するしないの選択権を握っているのだ。
ダリオはテオドールを最初信じられなくて、どうにか遠ざけようとした。彼と他の怪異の区別なんて、さほど違いはなかったからだ。
共に過ごした時間と、テオドール自身がダリオに身を持って示したその信頼だけが、ふたりを近い距離に紐付けている。
テオドールはこの関係を、彼の方から一瞬で粉々に破壊することだってできる。
そうしないために、一線を踏み越えぬよう、たくさんの注意を払ってくれているのだ。
自分を受け入れろと強要してきたことは一度もない。だからこそ、ダリオは自分の方から招いて、ここに入ってきていいと選択することができる。
以前、テオドールはダリオの方から許してもらえるような、お嫁さんの衣装着脱行為がしたいのだと言っていた。
ああ、たぶんそういうことなんだろうな、とダリオは腑に落ちる。
好きに支配できてしまうからこそ、テオドールはもっと独占欲が強い。支配では我慢できない。ダリオの方から。
ゆるして、寄ってきてもらわねば、なんの意味もないことを、この青年はもう知っているのだろう。無理矢理相手の意志をねじ伏せて、受け入れさせるような独りよがりな『愛』など、欺瞞の薄皮を剥げば、それはただの支配欲に過ぎないのだと。
弱い立場のダリオの意志を守るために、支配者のテオドールが払うコストを、ダリオは言葉にすることができないほど、強く愛だと感じている。
それから、テオドールがどうにも興奮しすぎて、ダリオも自分から腕を伸ばして受け入れた。
テオドールが物理的に中へ入ってきて、気持ちのいいところをたくさん擦られ、甘ったれたような鼻声が出てしまう。
ペニスが前立腺を擦るから気持ちいいだけではない。無理やりでもなく、もうそれしか選択肢がないわけでもなく、自由に選べて、合意で、いつでも辞められて、そこに力による強制がないから。
力の差があっても、ダリオの意志を守ってくれるから。
だから、受け入れられる。
受け入れろと言われたら、もう簡単に壊れてしまうものを、テオドールが必死に守ってくれるから。
「テオ……ぜんぶ、きもち、きもちぃよぉ……」
飴玉のように中で舐めしゃぶって食い締めて、また擦られて、奥を今度は亀頭でぐりんと舐め回されて、引いて、擦り上げられて、甘くて、苦しくて、痺れるような疼痛と甘い疼きが繰り返され、どんどん累積して、通電するような凄まじい絶頂感に押し上げられていく。
すき、だいすき、と駄々漏れに、漏らしてはいけないものを今回も漏らして、ダリオは早朝から奥の奥まで愛されて、腰骨が浮くほどに絶頂した。
その後、朝の反省をし、マルチバースに関して、テオドールから説明があった。
「つまり、コイントスをして、裏が出るか、表が出るか。表が出たとして、確率上の世界はフィフティーフィフティーに同時に存在します。僕ら支配者は、表の世界にいながらにして、裏の出た世界も観測可能ですし、行き来も理論上は可能です」
ソファに座って、コーヒーを手渡されたダリオは、疑問に思ったことを聞いた。
「あ? それなら、花と和解するまで正解当てゲームのループみたいなこともできんじゃねーの? なんでお前等、大体当たって粉々に砕けてるんだ?」
空中から自分のコーヒーカップも呼び寄せ取り出したテオドールは、それこそ理解不能なことを聞かれたとばかりに片方の柳眉を上げた。
「ダリオさんは不思議なことをお尋ねになりますね」
一応聞かれたので答えるがといった体で、テオドールはこう言ったのである。
「やり直した世界の『花』は、もう自分の『花』ではないでしょう。僕達は独占欲が強いので、例え関係を失敗したにせよ、自分の『花』以外に興味はありません。紛い物の『ありえた可能性』である『花』など、人間で言う粗悪なフェイクフラワーのようなものです。僕達支配者が愛でたいのは、例え枯らしてしまったにせよ、ただ一度きり、一度だけの関係性しか築きえぬ記憶と経験の連続性を持った自分の『花』だけです。もし、……自ら手折ったとしても、他に欲しくない。紛いものなど醜悪で不愉快なだけだと」
あー、とダリオは言葉に詰まった。
案外、支配者の方が、この点については健全な価値観に思えた。ダリオだって、もし人生を子供の頃からやり直して、優しい愛情深い両親の元幸せに育ったとしても、それはもう今のダリオではない。
「そうか」
ダリオはそう答えて、テオドールに隣に座るよう促した。
後日、バッコス教は子飼いの施設が未成年を性の自由や本当の自分を見つけようなどの名目で集めて、売買春や人体切除の手術斡旋をしていた事実がワイルドハントという女性フリー記者にすっぱ抜かれ、世論は一気に否定的なまなざしに傾いた。
更には、件のランプをヘルムートの店に持ち込んで相談したところ、
「あ、それ、うちが売ったランプ」
とへらへら爆弾発言を投下されて、ダリオは、「はぁ?」と素で聞き返した。
詳しく聞くと、バッコス教の発祥自体、「あ、それも、たぶん俺が活躍してた頃に、人間が宗教団体作って~俺の異名だよ~」と言う。「マジのマジにテメーが元凶で犯人じゃねーか!!!」とさすがのダリオも思ったが、百年ほどは前の話らしい。
銃を武器屋が売ったところで、末端の武器屋が全ての責任を負うわけではないのは分かる。
ゆえに、もう少し言葉を選んで、きちんと商品に説明書きをしてくださいと再三のお願いをしたのだった。
おわり!
_____________
長くなりましたが、バッコス編にかかる関連番外フラグ回収全て終わりです!よかったらご感想お待ちしております!!
テオドールが運んでくれたらしく、横で目をバッチリ開けて、凝視ならぬガン見されている。
ふつうに怖い。
人外の挙動をそこそこの頻度で見せてくるテオドールに、ダリオは怖いものは怖いので、まあ毎度新鮮に引くよな、と思った。
頭を少し傾けて、ダリオは口を開いた。
「テオ、横で寝る時は、目ェ瞑っててくれると助かる」
「……何故ですか」
不満らしい。今更頼むのもどうかと確かにダリオも思わないでもないが、変に遠慮するのも関係にねじれが生じるだろう。
「目が覚めたら、穴が空きそうなほど凝視されてると怖いから……びっくりするし」
「ダリオさんがびっくりされるのはよくありません。前向きに対処させて頂きます」
「お前、時々公約守らねー政治家みたいな言い方するのなんなの」
ダリオの方へ顔を寄せると、瞬きひとつせずにテオドールは主張した。
「この件は持ち帰りたいと思います」
どこへだよ、ここがお前の家だろ、お前がご用意した館だろ、とダリオは思った。つまり、テオドールは、あまりこの凝視を止めたくないらしい。
「まあ、どうしてもならかまわねーが」
「どうしてもです」
光の速さでレスポンスされて、ダリオは諦めた。ダリオには諦めぐせがある。
もそもそと動いて、テオドールの肩口に額を押し付けるように頭を寄せた。
「テオも多少寝るようになったみたいだし、まああんまり無理はせずにな」
ふわ、とあくびが出そうになる。サイドボードの時計に視線をやると、まだ時刻は午前四時の早朝で、二度寝したほうがよさそうだ。
目を閉じると、さっきの夢が思い出されてきて、ダリオは眉根をぐっと寄せた。
結末は悪くなかったのかもしれないが、途中看過できない内容だったからだ。
なんの力もない水饅頭のテオドールが、人間に寄って集って棒で滅多なぐりされて、地面に千切れて広がり、石ころや草などが体内に入り込んでしまうなど、本当に最悪だった。
というか、現実のテオドールも似たようなことをしていて、荒唐無稽な夢とも言い切れない。
目を頑張って閉じていたが、あー駄目だ、とダリオは白旗を揚げた。
「テオ」
「はい」
「ちょっと、抱きしめさせてくれ」
テオドールはびっくりしたらしい。ダリオが思わぬ言動をすると、反応ができずに固まることがある。今回も硬直してしまった。
ようやく、はい、と言うので、彼の肩をつかみ、抱き寄せて、頭ごと抱えるように胸の中にしまい込んだ。
「うーーーーん」
丸っこい形の良い頭の形を確かめるように、柔らかな黒髪に五指を差し込んで優しく撫でながら、ダリオは気の済むまで自分より大きな青年を横抱きに抱っこしている。
「テオー、お前ほんとうに、痛い思いとか辛い思いとか、そういうの独りでしないでくれよ。後から知らされると、俺、勝手にたまらん気持ちになる。お前の行動を制限したいわけじゃねーんだけどさ、これコントロール欲なのかね……」
参ったな~と思いつつ、言うほど参っていないダリオだ。
テオドールも、すり、と額や頬を押し付けてきて、長い腕がダリオの腰に巻き付いた。それから、だりおさん、と聞いた者が腰のへたりそうな美声で、伸び上がって逆にダリオを自分の中に抱き寄せて閉じ込めると、青年の黒髪が白いシーツの上を擦っていく。
白い指先がダリオの頬に触れると、確かめるように輪郭を何度もなぞった。
テオドールの目は黒黒として、ドロドロの黒蜜を更に煮詰めて溶かしたようだった。光を吸い込んで逃さないブラック・ホールや、それこそ光の届かぬ超深海層のアビスのような重く息苦しさの滴る、人間ではない無光の色。
ゆっくりと、緩慢に、切れ長の双眸も、艶を帯びた唇も、三日月型に歪んでいく。
それは悦びだった。
人外である支配者が、その『花』に双方向の好意を、関心を、情を向けられて、気も狂わんばかりに悦ぶ。そういう表情だ。
ダリオも初対面でこれをかまされたら、問答無用で帰ってくださいと拒否していたが、今はテオ、嬉しいんだな~と平常心である。
「だりおさん」
はい、と気持ちは返事しているのだが、ダリオは黙ってさせたいようにさせることにした。
「だりおさんだりおさんだりおさんだりおさん」
本日二回目、ふつうに怖い。
だが、ダリオはじっとしている。させたいようにさせた方が早く落ち着くだろうという経験によるそれだ。
「僕の花、僕だけのダリオさん。ぼくの、ぼくの」
普段頑張って抑えてんだなぁ、と所有格で連呼されながらダリオはテオドールの腕の中で動かずに最後まで好きなようにさせているのだった。
支配者の独占欲って、とぼんやり思う。
テオの父親である白スーツは、彼の花である絵画の男ランナーとダリオが話したというだけで、ダリオを半ば死ねばいいのにするわ、息子を半殺しにするわの無茶苦茶をしてきたのだ。
あれでテオドールいわく、穏健な方と言う。
誰にも話しかけさせたくないし、接触させたくないし、なんなら自分の中に溶かして、それこそ蜜のようにドロドロに同化してしまいたい欲望がある種族だ。
テオも本当はそうしたいんだよな。
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たくさん、あまりにもたくさん、彼の種族的に困難なことを我慢させているのだと、ダリオは思った。
テオドールは、ダリオよりずっと強くて、簡単にそうしてしまえるから、自分がそうしてしまわないために、莫大なコストを常に払い続けている。
強い者は、いつだって、弱い者を好きにしてしまえる力を持ち、それを行使するしないの選択権を握っているのだ。
ダリオはテオドールを最初信じられなくて、どうにか遠ざけようとした。彼と他の怪異の区別なんて、さほど違いはなかったからだ。
共に過ごした時間と、テオドール自身がダリオに身を持って示したその信頼だけが、ふたりを近い距離に紐付けている。
テオドールはこの関係を、彼の方から一瞬で粉々に破壊することだってできる。
そうしないために、一線を踏み越えぬよう、たくさんの注意を払ってくれているのだ。
自分を受け入れろと強要してきたことは一度もない。だからこそ、ダリオは自分の方から招いて、ここに入ってきていいと選択することができる。
以前、テオドールはダリオの方から許してもらえるような、お嫁さんの衣装着脱行為がしたいのだと言っていた。
ああ、たぶんそういうことなんだろうな、とダリオは腑に落ちる。
好きに支配できてしまうからこそ、テオドールはもっと独占欲が強い。支配では我慢できない。ダリオの方から。
ゆるして、寄ってきてもらわねば、なんの意味もないことを、この青年はもう知っているのだろう。無理矢理相手の意志をねじ伏せて、受け入れさせるような独りよがりな『愛』など、欺瞞の薄皮を剥げば、それはただの支配欲に過ぎないのだと。
弱い立場のダリオの意志を守るために、支配者のテオドールが払うコストを、ダリオは言葉にすることができないほど、強く愛だと感じている。
それから、テオドールがどうにも興奮しすぎて、ダリオも自分から腕を伸ばして受け入れた。
テオドールが物理的に中へ入ってきて、気持ちのいいところをたくさん擦られ、甘ったれたような鼻声が出てしまう。
ペニスが前立腺を擦るから気持ちいいだけではない。無理やりでもなく、もうそれしか選択肢がないわけでもなく、自由に選べて、合意で、いつでも辞められて、そこに力による強制がないから。
力の差があっても、ダリオの意志を守ってくれるから。
だから、受け入れられる。
受け入れろと言われたら、もう簡単に壊れてしまうものを、テオドールが必死に守ってくれるから。
「テオ……ぜんぶ、きもち、きもちぃよぉ……」
飴玉のように中で舐めしゃぶって食い締めて、また擦られて、奥を今度は亀頭でぐりんと舐め回されて、引いて、擦り上げられて、甘くて、苦しくて、痺れるような疼痛と甘い疼きが繰り返され、どんどん累積して、通電するような凄まじい絶頂感に押し上げられていく。
すき、だいすき、と駄々漏れに、漏らしてはいけないものを今回も漏らして、ダリオは早朝から奥の奥まで愛されて、腰骨が浮くほどに絶頂した。
その後、朝の反省をし、マルチバースに関して、テオドールから説明があった。
「つまり、コイントスをして、裏が出るか、表が出るか。表が出たとして、確率上の世界はフィフティーフィフティーに同時に存在します。僕ら支配者は、表の世界にいながらにして、裏の出た世界も観測可能ですし、行き来も理論上は可能です」
ソファに座って、コーヒーを手渡されたダリオは、疑問に思ったことを聞いた。
「あ? それなら、花と和解するまで正解当てゲームのループみたいなこともできんじゃねーの? なんでお前等、大体当たって粉々に砕けてるんだ?」
空中から自分のコーヒーカップも呼び寄せ取り出したテオドールは、それこそ理解不能なことを聞かれたとばかりに片方の柳眉を上げた。
「ダリオさんは不思議なことをお尋ねになりますね」
一応聞かれたので答えるがといった体で、テオドールはこう言ったのである。
「やり直した世界の『花』は、もう自分の『花』ではないでしょう。僕達は独占欲が強いので、例え関係を失敗したにせよ、自分の『花』以外に興味はありません。紛い物の『ありえた可能性』である『花』など、人間で言う粗悪なフェイクフラワーのようなものです。僕達支配者が愛でたいのは、例え枯らしてしまったにせよ、ただ一度きり、一度だけの関係性しか築きえぬ記憶と経験の連続性を持った自分の『花』だけです。もし、……自ら手折ったとしても、他に欲しくない。紛いものなど醜悪で不愉快なだけだと」
あー、とダリオは言葉に詰まった。
案外、支配者の方が、この点については健全な価値観に思えた。ダリオだって、もし人生を子供の頃からやり直して、優しい愛情深い両親の元幸せに育ったとしても、それはもう今のダリオではない。
「そうか」
ダリオはそう答えて、テオドールに隣に座るよう促した。
後日、バッコス教は子飼いの施設が未成年を性の自由や本当の自分を見つけようなどの名目で集めて、売買春や人体切除の手術斡旋をしていた事実がワイルドハントという女性フリー記者にすっぱ抜かれ、世論は一気に否定的なまなざしに傾いた。
更には、件のランプをヘルムートの店に持ち込んで相談したところ、
「あ、それ、うちが売ったランプ」
とへらへら爆弾発言を投下されて、ダリオは、「はぁ?」と素で聞き返した。
詳しく聞くと、バッコス教の発祥自体、「あ、それも、たぶん俺が活躍してた頃に、人間が宗教団体作って~俺の異名だよ~」と言う。「マジのマジにテメーが元凶で犯人じゃねーか!!!」とさすがのダリオも思ったが、百年ほどは前の話らしい。
銃を武器屋が売ったところで、末端の武器屋が全ての責任を負うわけではないのは分かる。
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