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番外 二十三 ダリオ事故記憶喪失失明、知らん美形が迎えに来て囲われ軟禁生活
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しおりを挟むなんで、と意味もなくダリオは悔恨の呻きが絞り出すように漏れる。
そっと抱き込んだゼラチン質の何かが、ふる、と震えた。
「ぼく、かってにさわりました……ごめんなさい」
同じことを言う。ダリオはわけもわからず胸が締め付けられた。苦しくてダリオは言葉を飲み込む。目も喉も痛い。青年が変容したものらしきゼラチン質は、理由の説明を求められていると判断したのだろう。
「だりおさん、このすがた、かわいいから、すきといってくれました。ふところはいって、いっしょにさんぽしました。べんきょうちゅうもゆるしてくれた。いそいで、ふところはいったら、はやくまたすきになってくれるおもいました」
ダリオが怖がるからこの姿になった。以前は、この姿なら、かわいいから勝手に触っても許してもらえた。人間の姿だと怖がられて拒絶されたが、この姿なら大丈夫だと考えたと。
はやく、また好きになってもらえると思った。
懐に急いで入ったら。
早く入ろうとして、声を掛ける間も惜しんで、ダリオの指を這い上って来たのだ。
服の中に以前のように収まったら、また好きになってもらえると思ったと。
ダリオは何も言えなかった。
「もしかして、ぼく、かわいい、ちがうのかもおもいました……ごめんなさい」
と胸(むね)を衝(つ)かれ、ぼろ、と涙がまた出てくる。
なんてことを言わせてしまったのだろう。
可愛い可愛いと愛されてきた存在が、本当は自分は違うのではないか、と疑問を持ち、怖い思いをさせる振る舞いをした、ごめんなさいと謝罪しているのだ。
どう考えても、疑問視させたやつが悪いだろう。
俺だ――
可愛い、と口にするのは簡単だが、ダリオは目が見えなくて、何も言えなかった。
相手がどんな姿をしているのかもわからないのだ。
いい加減なその場しのぎの誤魔化しを口にするのはできなかった。
「ごめん。痛くない? 痛いよな」
「だいじょうぶです」
本当か分からなかった。ダリオはもう一度謝った。
「ごめん。俺は……今、君がどんな姿をしているかわからないが、君は今日、ずっと俺に行動で誠意を見せてくれた。俺がどう思うか、危険な目に合わないか、怖い思いをしていないか、たくさんたくさん気を配ってくれた」
小さな存在は黙って、ダリオを見上げているようだった。
視線を合わすことも、どんな姿かたちをしているのかも分からなかったが、ダリオはしっかりと見ているつもりで話しかけた。
「君は人間じゃないし、俺が何をNOと思うのか、わかっていないところもあったんだな。前の俺はOKだったみたいで、分からなかったんだろう」
「……はい」
「そっか。前の俺が、寝起きであの状態でもOKだったなら、よっぽど君に気を許して、君のこと好きだったんだろうな……俺がNOと意思表示したら、君はすぐに姿を――」
ダリオは言葉が途切れた。
涙がまた溢れてきて止まらなくなってしまう。
彼はダリオが怖がるかと思って、全部能力を封じたとも言っていた。無防備に、全てダリオに生殺与奪を預け、中身を剥き出しの状態で登ってきたと言われたに等しい。
その彼を、ダリオは気持ち悪がって、思い切り振り払ったのだ。
壁に叩きつけた。
「……大丈夫ですって、痛いだろ……怪我してないのか? お願いだから、俺の目の治療できるっていうなら、自分の方……してくれ。元の姿に戻ればいいのか?」
「……」
手のひらの上で、ゼラチン質の彼がもぞもぞと動いた。
「だりおさん、ないています。まだ、ぼく、こわいですか? ぼく、いちばんこのすがたがよわいので、あんしんしてほしい。にんげんのすがた、こわがらせる。もどりたくないです」
「……違うよ。違うんだよ」
泣いているのは、そうじゃないんだよ。人間じゃないから、ダリオの心の機微がわからないのだろう。分からないなりに、ダリオが怖がっていると思って、怖がらせたくないと言っている。
色々おかしな怪奇現象はあったが、彼は――テオドールは、一貫してダリオの気持ちのことしか考えていなかった。自分本位に振り回そうとしてきた他の怪異とは一線を画している。それに気付けるタイミングはいくらでもあったのに、最悪になってしまって、ダリオは本当に自分が情けなくて仕方なかった。
目が見えなくて怖くても、他者からの優しさを蔑ろにしてよいはずがなかったのに。
お互いにお互いのことで譲り合わないので、ダリオは「一緒に寝よっか」と提案する。まるで彼は目を大きく見開くように停止したが、承知してくれた。ダリオもほっとする。明日考えようと言って、彼を抱き上げてベッドに横になった。
テオドールはまたもぞもぞとして、ダリオの懐でいい位置を見つけたらしい。
「うれしいです……」
小さな声が、独り言のように言う。うん、とダリオも彼を手のひらで撫ぜた。
寝て、起きたら考えよう。
メンタルがどん底だった。
今考えてもろくなことにならない。
朝になったら、きっといい考えが浮かぶだろう、とダリオは懐に彼を抱いて目をつぶった。
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