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番外 二十 テオドール『可愛い』の研究
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先日は、テオドールと時間の見解相違問題で、色々あったダリオである。
自分の人生設計も、ミクロからマクロに引き直さないといけないなと思わされた。
ダリオは元々公認会計士になるつもりだったのだ。人生数十年、もしかしたら数百年になるかなと考え、現役の間にしっかり稼いでおく。その上で、所有する証券取引口座や不動産、財産などを、いわば金庫のような存在にまとめる信託でもするかなぁくらいに思っていた。生前信託は自分で管理し、ある程度年月が経過したら、遺言書に信託管理者(別名義の自分)を指名して……
そう考えていたら、全然スケールが違った。
計画引き直しである。
たぶん、ヘルムートに教えを請う形で、彼の店に就職するのが一番対応可能なコースなのだろうが、あの人のところにいきなり就職するの博打すぎねぇか、という気もした。
学んだことは減るものではないし、予定通り公認会計試験は受けて、アルバイトをヘルムートの店に多めに入れていくか、と再度結論する。
すでに、変な逃亡魔法もどきや、システムを使った育毛剤も作れるようになっているし、できることが増えれば、長生きしやすくなるだろう。
人間世界のルールも、怪異の世界のルールも、どちらか一つではなく、両方で生きられるように、手札が多いほうがダリオも安定する。
ダリオとしては、本格的にヘルムートに師事するなら、彼の言う魔法陣とか今どき流行らないんだよね~!発言が気になっていた。魔法陣の代替に、ヘルムートが使っていたシステムだ。
プログラミング言語のように仕様を学べるなら、かなり応用が効いて、独自に開発できるのではないだろうか。
自分でプログラムが書けるようになれば、だいぶ幅が広がる。
そういう風に計画を引き直して、ライフスタイルをそこそこ変更したダリオである。
その日も、意味わからん、と頭を悩ませながら、ヘルムートの店でマジックプログラミング言語ともいうべき内容を教えてもらい、疲れ果ててダリオは帰宅した。
そうしたら、珍しくテオドールの出迎えがなく、特に気にせず居間に顔を出して、ダリオは硬直する。
手乗りサイズの水饅頭スライムが、テーブルの上に鏡を置いて、その前で変なポージングをしていたからである。
どう考えても、テオドール本人だった。
弱っている時に、テオドールはこのような形態になったことがあるが、別に今回は体液も漏れていない。
(え、なにしてんの? なに?)
水饅頭スライムは、五腕のヒトデ型になり、二本の腕を足に見立てて立ち、もう二本は広げて、体をひねるように振り返りモデルポーズする。
ダリオと目があった。
どこが目かわからんけど、目があった、とダリオは思う。
鞄を肩にかけたまま、ダリオは無性に緊張して尋ねた。
「あの……なにしてんの……?」
ヒトデ形態二足立ち水饅頭スライムのテオドール(情報量が多い)は、その姿形のどこから発声しているのか謎の美声で、超然と応じた。
「『可愛い』を研究しています」
そうか……とダリオは頷いた。そうはならんやろ! と常人なら切れるところである。
スライムのテオドールも重々しく頭部に見立てた部分で頷いてみせた。
「僕にとってこの姿は弱くて醜いものなのですが、以前ダリオさんは可愛いと仰ったので」
「あー、言ったね、言った」
何故か2回言ってしまうダリオだ。我ながら、真顔で混乱しているらしい。
「はい。その時、ダリオさんが僕のこの姿を連れ回したいほど『可愛い』と仰ったので、更に可愛くなるように研究していました」
へー、そうか、とダリオは鞄を降ろした。俺の言ったこと覚えてて、それでか、と思い、しばらくして、えっ、となった。
「研究しなくても可愛いけど……」
けど、なんなのだ。つまり、ええとつまり、と考える。それは要するに、『連れ回したい』が、実際『連れ回す』になるように、可愛さをもっと研究してたということなのだろうか。
テオドールは、とてっ、とてっ、とてっ、と短い二本の足のような部分で歩いて来て、やっぱり短いヒトデ型の腕のような部分を広げた。もうすでにそのポーズが可愛い。
「今後も取り組む予定ですが、研究成果が出るまで、しばらくお待ち下さい」
「もう行動が全部可愛いから……」
「……?」
色々ダリオは疲れていたが、今晩クリティカルヒットしたのはテオドールで優勝過ぎた。
ええ、もう無理、えっちしたい……と性癖がなんやかんや歪んできているダリオである。
思うだけでなく、口から出ていた。
「可愛い。えっちしたい……研究中にごめん。でももう凄く可愛いから、十分だと思う……」
だ、だめか……と妙に控えめにお伺いを立ててしまう。
研究中断してしまうからだろうか。発情した自分を恥ずかしく思うのは、滅多にないダリオなのだが、この時ばかりはめちゃくちゃ恥ずかしかった。
「……」
テオドールが沈黙する。
その後、スライムボディが、バッ、と四方八方、ウニのように飛び出して、ウニウニウニャウニャ、名状しがたい形になりながら極彩色に変形膨張するのを、ダリオは呆然と見る羽目になった。
え、これ、俺大丈夫なやつか? と顔が引きつる。気づいたら極彩色の軟体壁が眼の前に広がり、腰を抜かして見上げていた。
自分の人生設計も、ミクロからマクロに引き直さないといけないなと思わされた。
ダリオは元々公認会計士になるつもりだったのだ。人生数十年、もしかしたら数百年になるかなと考え、現役の間にしっかり稼いでおく。その上で、所有する証券取引口座や不動産、財産などを、いわば金庫のような存在にまとめる信託でもするかなぁくらいに思っていた。生前信託は自分で管理し、ある程度年月が経過したら、遺言書に信託管理者(別名義の自分)を指名して……
そう考えていたら、全然スケールが違った。
計画引き直しである。
たぶん、ヘルムートに教えを請う形で、彼の店に就職するのが一番対応可能なコースなのだろうが、あの人のところにいきなり就職するの博打すぎねぇか、という気もした。
学んだことは減るものではないし、予定通り公認会計試験は受けて、アルバイトをヘルムートの店に多めに入れていくか、と再度結論する。
すでに、変な逃亡魔法もどきや、システムを使った育毛剤も作れるようになっているし、できることが増えれば、長生きしやすくなるだろう。
人間世界のルールも、怪異の世界のルールも、どちらか一つではなく、両方で生きられるように、手札が多いほうがダリオも安定する。
ダリオとしては、本格的にヘルムートに師事するなら、彼の言う魔法陣とか今どき流行らないんだよね~!発言が気になっていた。魔法陣の代替に、ヘルムートが使っていたシステムだ。
プログラミング言語のように仕様を学べるなら、かなり応用が効いて、独自に開発できるのではないだろうか。
自分でプログラムが書けるようになれば、だいぶ幅が広がる。
そういう風に計画を引き直して、ライフスタイルをそこそこ変更したダリオである。
その日も、意味わからん、と頭を悩ませながら、ヘルムートの店でマジックプログラミング言語ともいうべき内容を教えてもらい、疲れ果ててダリオは帰宅した。
そうしたら、珍しくテオドールの出迎えがなく、特に気にせず居間に顔を出して、ダリオは硬直する。
手乗りサイズの水饅頭スライムが、テーブルの上に鏡を置いて、その前で変なポージングをしていたからである。
どう考えても、テオドール本人だった。
弱っている時に、テオドールはこのような形態になったことがあるが、別に今回は体液も漏れていない。
(え、なにしてんの? なに?)
水饅頭スライムは、五腕のヒトデ型になり、二本の腕を足に見立てて立ち、もう二本は広げて、体をひねるように振り返りモデルポーズする。
ダリオと目があった。
どこが目かわからんけど、目があった、とダリオは思う。
鞄を肩にかけたまま、ダリオは無性に緊張して尋ねた。
「あの……なにしてんの……?」
ヒトデ形態二足立ち水饅頭スライムのテオドール(情報量が多い)は、その姿形のどこから発声しているのか謎の美声で、超然と応じた。
「『可愛い』を研究しています」
そうか……とダリオは頷いた。そうはならんやろ! と常人なら切れるところである。
スライムのテオドールも重々しく頭部に見立てた部分で頷いてみせた。
「僕にとってこの姿は弱くて醜いものなのですが、以前ダリオさんは可愛いと仰ったので」
「あー、言ったね、言った」
何故か2回言ってしまうダリオだ。我ながら、真顔で混乱しているらしい。
「はい。その時、ダリオさんが僕のこの姿を連れ回したいほど『可愛い』と仰ったので、更に可愛くなるように研究していました」
へー、そうか、とダリオは鞄を降ろした。俺の言ったこと覚えてて、それでか、と思い、しばらくして、えっ、となった。
「研究しなくても可愛いけど……」
けど、なんなのだ。つまり、ええとつまり、と考える。それは要するに、『連れ回したい』が、実際『連れ回す』になるように、可愛さをもっと研究してたということなのだろうか。
テオドールは、とてっ、とてっ、とてっ、と短い二本の足のような部分で歩いて来て、やっぱり短いヒトデ型の腕のような部分を広げた。もうすでにそのポーズが可愛い。
「今後も取り組む予定ですが、研究成果が出るまで、しばらくお待ち下さい」
「もう行動が全部可愛いから……」
「……?」
色々ダリオは疲れていたが、今晩クリティカルヒットしたのはテオドールで優勝過ぎた。
ええ、もう無理、えっちしたい……と性癖がなんやかんや歪んできているダリオである。
思うだけでなく、口から出ていた。
「可愛い。えっちしたい……研究中にごめん。でももう凄く可愛いから、十分だと思う……」
だ、だめか……と妙に控えめにお伺いを立ててしまう。
研究中断してしまうからだろうか。発情した自分を恥ずかしく思うのは、滅多にないダリオなのだが、この時ばかりはめちゃくちゃ恥ずかしかった。
「……」
テオドールが沈黙する。
その後、スライムボディが、バッ、と四方八方、ウニのように飛び出して、ウニウニウニャウニャ、名状しがたい形になりながら極彩色に変形膨張するのを、ダリオは呆然と見る羽目になった。
え、これ、俺大丈夫なやつか? と顔が引きつる。気づいたら極彩色の軟体壁が眼の前に広がり、腰を抜かして見上げていた。
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