俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 十二 キス拒否事件

4 蛇の性編 2

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 寝台に向き合って座り、ダリオの耳に、テオドールの形のよい親指が触れる。
 すぅ、とダリオの短髪に、青年の親指の先や、残りの四指が差し込まれた。そのまま、指の腹や爪先で頭皮を優しく辿っていく。ダリオも、この人外の青年の左腕を抑えるように指を添えた。
「んっ」
 ふたりの影が重なると、添えていただけのダリオの右手は、青年を押し返すように彼の鼻先や頬、顎に触れた。だが、密着して、内緒話をするように体温を擦り付けあうと、もうふたりをとどめるものはない。
 テオドールの親指が降りてきて、ダリオの唇の端に触れると、ぐい、と押し込むよう外側へ柔らかく引っ張って口を開かせた。さほど力をいれたわけではなく、開いて、という合図に過ぎない。ダリオもほとんど自ら口を開いて、短い舌を出す。テオドールはこの短い舌を自身の舌先ですくい、舐めたり吸ったり愛撫した。
「ん、んむ、」
 ふたりの唾液が混ざり、引っ張られた口端から、つぅ、と垂れてくる。食べるように深く重ねられ、合わさったまま、舌も、その付け根も、口蓋も、全部テオドールの長い舌でまさぐられる。よだれはとうとう顎先まで伝い、ダリオは呼吸が苦しくなって上向いた。上からテオドールが覆い被さり、ダリオの顎を固定すると、耐えられないとばかりに舌の表面を擦り合わせてきた。はぁ、はぁ、という乱れた呼吸は主にダリオの方だが、テオドールも多少様子が違う。ちゅる、ちゅ、と水音を立てて、明らかにダリオを「かわいがろう」としている。その瞬間、鋭い疼痛が会陰の裏側から走り、臀部が浮き上がる。からだの中心を這い登る感覚を逃せず、腰をくねらせるようにして、ダリオはがくがくと達してしまっていた。そうしても、テオドールは、じ、とダリオが落ち着くのを待って、再び長い舌で口腔を丹念に舐め上げていく。いつの間にか両耳にテオドールの人差し指が入り込み、くりくりといじられる。ちゅぅ、ちゅっ、ちゅる、じゅる、ぢゅ。耳の中で水音が反響し、ダリオは身悶えながら、いつも咥え込む場所が忙しく開閉するのを感じた。愛液がお漏らし状態にとろとろ垂れてきて、ダリオの膝を割るテオドールのスラックスをぐっしょり濡らしてしまわないか懸念するほど出てくる。
「てお、も、さわ、さわって」
 こっち、かわいがって……! と半泣きで口にした。
 ダリオはおねだりが下手くそだ。自分が主導でやった方がよほど気楽で、相手に任せるのは苦手といってもいい。施設時代から、年下の子どもの着替えを手伝うことはあっても、自分が着替えさせてもらうという発想がなかった。自分のことは自分でする。手が空けば、他者の手伝いをする。それがダリオのナチュラルな立ち位置だった。なので、おねだりというのは、がんばって、がんばって、どうにか口にできる。意識して、かわいがってほしいと甘えるようにしてから、今日に至るまで、その努力の成果は徐々に現れ、この人外の青年を大いに喜ばせていた。
 テオを、喜ばせたい――
 ずっとダリオの中にある核は、この青年を喜ばせたいというただその一心だった。自分の意思を無視して物のように扱われたいとか、一方的に奉仕したいとか、そういうことではない。種族が違うから。考え方も何もかも違うから。だからこそ、コミュニケーションして、自分だけが与えられるのではなく、ダリオもテオドールに与えたかった。一方的ではないその関係を、ダリオは今後も続けていきたかった。
 テオドールに与えられた喜びを、ダリオも返したい。伝えたい。
「ふあ、あっ」
 達した後も、貪るように深く唇が重なり、長い舌が侵入してくる。苦しさとは別の熱に浮かされたようなふわふわとした陶酔感で、頭が真っ白になった。
 何かいつもと違う。
 口の中でセックスしている。初期のメンテナンスでも感じたことだが、それとも少し趣が違う。
 テオのした、こんなにながかったっけ?
 そうダリオは思って、すぐに思考がぐちゃぐちゃに押し流される。
 なんか――なんか、蛇みたいな――と目の前がチカチカした。大体こんな嵐のようなキスをされた記憶があまりない。酷いことをされているという感覚ではなかった。テオドールも興奮のあまり乱暴にというけはいでもない。なんというか、動物的だ。食われている。貪られている。そういう心地になる。
 うっすら涙目でまぶたを開けると、至近距離にまっくらな目がダリオを凝視していた。
 ふつうに怖い。
 ひっ、と仰け反らなかったのはだいぶテオドールの時たま奇行に慣れてきた部分もあるだろう。恐ろしさからではなかったが、テオドールがのしかかって来るため、ダリオは腰を引き寄せられながら体を結局反らせる羽目になった。
「んぅ、んっ」
 舌。長い舌で掻き回される。やがて、それだけ別人のもののような指が、ダリオの腰骨からするりと衣服の中に入りこんで来た。指先はいたずらに上へと向かい、ダリオの胸を撫でると、つまみ上げ、また撫で下ろして、体の輪郭を指の背でゆっくり上下に確かめる。わき腹から降りて来た指が、尾てい骨の方へ差し込んでくると、その周辺を指圧するようにした。
「テオ……今日は」
 テオドールは察したものか、やや首を傾げるようにして、
「今日は挿入しません」
 と感情の読みにくい表情できっぱり告げた。ダリオは言いたいことが言葉にならず、はふ、はふ、と息を荒げたままテオドールを見つめてしまう。テオドールはスーツのジャケットを脱ぎながら、うっすら笑みのようなものを浮かべた。
「ゆびでします。あと少し、本体で」
「え、本体見せてくれるのか?」
 ニュー本体なら、ダリオは見たい。どうかと思って熱心に見せてと言えなかったので、思わず食いついてしまった。
「こちらに少し『呼び』ます。よろしいか」
「あ? こっちに『呼ぶ』?」
 よくわからずに、聞き返したダリオへ、テオドールはわずかに目元を伏せた。
「少し、本体がこちらにはみ出ると思っていただければ」
「あー…」
 テオドールが時々、心の乱れなのか、異音を出してるやつを意図的にやるのかなとダリオは理解した。わかった、と頷いて、それから――
「ひっ」
 影が、伸びた。その伸びた影から、無数の長いもの――手や蛇の頭のような黒いものが出てくる。
「僕の一部です。ダリオさんを傷つけることはありませんのでご安心ください」
「んっ、うん、え、あっ、これ」
 足首をつかまれ、開かされると、別の手が伸びてきてダリオの前をくつろげ、ひぃっ、と悲鳴を飲み込む間に無数のそれらがタイトジーンズを下着ごと抜き取ってしまう。
「あっ、は、あっ!?」
 パーカーの裾を抑えるようにするダリオの手をかいくぐって、蛇頭や手が閉じようとする足の間にするすると入り込んだ。
 テオドールは逆さに上から覗き込んで、はぁ、と瞳孔の細くなった目でダリオを見ている。
「テ、テオ……」
「大丈夫、補助させるだけで、ダリオさんの中には触らせませんから。ダリオさんに触っていいのは僕だけです」
 ダリオはほっとした。おかしなことだが、テオドールには自分の一部とはいえ、人型の時は明確にアイデンティティを分けて考えている節がある。自分で自分の他の姿に嫉妬するようなこともあったから、彼にとって人型の自分は特別視されるものであるらしい。下手をすると、本体よりも自己を強く依拠しているように思われた。
「お、俺も……俺も、テオだけに触られたい……」
 ダリオが言うと、テオドールは明らかに嬉しそうだった。
「あっあっ」
 抱え込むようにして、ゆびでされると、ダリオの足の第二趾が浮くように曲がり、親指の第一趾は強く折り込んだ。
 ダリオはテオドールのゆびが好きだ。
 この青年のペニスでインサートされるのも好きだが、そうなるまでに長い間、手ゆびで開発されてきて、もうパブロフの犬のように、それでされると気持ちよくなれるよう躾けられている。
 ダリオにとって、テオドールの手ゆびで愛されるのは何よりも近く密着できる、ひとつのコミュニケーションだった。
 腕を伸ばし、自分からキスしていいか尋ねると、舌を入れないでできるか聞かれる。できる、できると頷いて、ダリオは自らテオドールの口に、ちゅ、ちゅ、と何度もキスした。
 その間も、シャツの袖口をまくったテオドールの指がダリオの中をすべらせるように撫でたり、時折押し込んでは離す。圧迫しては離す動きに、どんどんと快感が溜まって来て、もうどうしようもないほどにもどかしくなる。とん、とん、と優しく圧迫していた指は、次第にちゅこちゅこと曲げた指の腹で中を掻くような動きにとって変わる。指の腹で、膨らんだ悦点を掘るように掻かれると、ダリオは気が狂わないのが不思議なくらい気持ちよくて、交差した足が動きを阻害するにも関わらずテオドールの腕や腰に巻きついた。背中に腕を回し、シャツが皺になるほど五指で引っ掻いてぐちゃぐちゃにするまま、ぎゅうっ、と内壁を押し込まれる。
「イ゛ッ、~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 !!!???」
 ひたすら寸止めの絶頂感を溜め込まれていたそこを、押し潰されると同時に、凄まじい法悦が弾け、目の前がホワイトアウトした。
 ひく、ひく、と足の指先から手指のそれまで痙攣している。
 テオドールの指が引き抜かれていくと、愛液で糸を引いているのがわかった。
 ダリオは腕を交差して顔を隠し、泣き言を口にする。
「てお、ほしっ、ほしい……っ」
 我慢できない。太いのが欲しい。太くて熱いの。それでごりごり中を擦られたい。ダリオはもうテオドールに挿入される悦びを知っているのだ。
 自分で片足を持ち上げ、太腿の裏に手を通して、もう片足は開いて上から後孔に両方の中指を入れて、左右にくぱ、ぁ、と開いた。眉根を寄せ、真っ赤になった顔でわななくようにおねだりする。
「ここ、ここにテオの入れっ、 テオのおちんちん、俺のここで気持ちよくなってぇ……!」
 頭がぶっ壊れていた。なんか既視感あるなとダリオは思いつつ、人型テオドール相手に、本体とセックスした時のような多幸感とへろへろ感が合わさって、俺終わった的な台詞を吐いているなとどこかで冷静に思った。
「……」
 テオドールは真顔でダリオを見下ろしていたが、ぐちゃっとか、ばきっとか、背後ですさまじい異音がしていた。
 なお、あとからダリオは我慢できなかったと謝罪する羽目になった。


 事後に、動物っぽかった、なんか蛇っぽい、とダリオが毛布にくるまって感想を言うと、テオドールはやはり首を少し傾けながら、
「ああ……父親が蛇の性なので……僕も似たような感じになるのかと思います」
 そうなんでもないように言う。ダリオはしばらく硬直した。
「蛇の性とかよくわからんけど、それより、は? 父親?????」
「? 何か? 人間風に言えば、僕も木の股から生まれたわけではありませんので、父親がいるのはありてあるべきことでは?」
「え、あ、そうだな。父親似? なのか?」
「はい。以前も申し上げたとおり、父は支配者の中では変わり者……穏健な方ですので、その性質がより僕にも強く出て、僕はとりわけ穏やかな方に形質が出たものかと」
「…………………あ?」
 ダリオは完全に思考停止した。
 支配者の中では変わり者。
 という話を、テオドール以外の支配者で、過去に確かにしたことがある。
「…………………白スーツ?」
 ぎぎぎ、と音がしそうな緩慢な動きで、ダリオは毛布から這い出た。テオドールはこともなげに首肯する。
「はい。ダリオさんはそのように呼ばれていましたね」
「は?? 穏健な方?」
 テオドールを皮の破れた水饅頭にまで追い詰めたやつが?
「はい。父はそもそも『花』を手放し、自由にさせている珍しい個体です。また、父は僕に別段興味関心はないのですが、僕を殺すと母が父を見限ると警戒して、痛めつける程度で話が落ち着きましたので」
 ダリオは考えた。考えるの止めようと。
「……俺は寝る」
「かしこまりました」
 もぞもぞと毛布の中にダリオは帰って行った。テオドールが覆いかぶさって、毛布の上からキスを落とすと、明かりを消す。
 聞きたいことは色々ある気がしたが、もう肉体の疲労が、疑問を凌駕して、おまけに頭がおかしくなりそうだった。
 つまり寝るしかない。そういうことだった。
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