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番外 十 支配者編

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 一晩中ダリオはテオドールを撫でたり、時々スライム状の頭頂と思しき丸いてっぺんにキスしたりして過ごした。しばらくするとテオの体液出血のようなものも止まり、数時間でだいぶ復調したようだった。そうすると、二人の間でぽつぽつと状況の情報交換が始まり、大体の事情をお互い把握することになった。
 やはり、あの邪悪な支配者のおっさん、白スーツ男にやられたらしい。
「あの白スーツ、そんなに強いのか?」
『エルダーの中では序列は高い方ですが――どちらかというと狡猾さで変わり者と思われている支配者ですね』
 切れ切れだった言葉は、だいぶ元に戻っており、ダリオも安心する。同時に、疑念が沸き上がった。テオドールは以前、彼曰く年をとった同族エルダーたちに呼び出されて、交戦するつもりだと平然と述べていた。白スーツがどれほど強くても、複数エルダーを相手取るにあたり、顔色ひとつ変えずに交戦を宣言していたテオドールが一方的にやられるのは不自然だ。もし彼が抵抗しない状態に、自らを封じたならともかく。つまり、無抵抗にせざるを得なかったと考えた方が自然だ。ではなぜそうしたのか。そうすることを飲んだのか。テオドールにわかりやすい弱点はない。あるとすれば、それはダリオだろう。あまり想像したくないが、ダリオは言葉にして尋ねることにした。
「テオ……もしかして、俺のこと人質に取られてたんじゃないか?」 
 テオドールはすぐには答えない。やがて、歯切れも悪く、慎重に回答する。
『……座標を隠蔽されていたので……取引はしました』
 ダリオの表情は厳しいものになった。
「取引……無抵抗でやられろとかそんな感じのか?」
『……』
 沈黙は肯定に等しい。ダリオは言いたいことは色々あれど、ぐっと抑えた。ぎこちなくテオドールの頭とおぼしき部分を撫でる。
「そうか……」
 本当は、そんなことしなくていい、と声を大にして叫びたかった。だが、再会時に表皮の破れたような状態で体液を吹き出していたのを思うと、お前の努力は無為だったととても言えるはずがなかった。まずは、彼がこんなになるまで耐えてくれたことを労いたかったし、褒めたかった。その上で、二度としてほしくないと思った。
「がんばってくれたんだな……痛かっただろ……怪我は……あんまりしないでくれな……」
 悲しい。やさしく撫でながら、責めるような言い方にならぬよう極力気を払う。テオドールもわかっているのか、『はい……』と静かに応じた。お互いにわかっていて、これ以上責め立てるのは無意味に思われた。
 実際、ダリオはテオドールが迎えに来てくれないと、どうしようもなかったわけである。
 ダリオは懸念が現実のものとなるのを感じた。
 あの支配者の男は、ダリオがテオドールを好きな理由を、彼が強くて助けてくれるから、と斜め上に解釈していた。だから、ダリオが『弱くて助けてくれない』テオドールにどう対応するのか、どう反応するのか実験することにしたのだろう。それを知るために、テオドールが小さくなるまで痛めつけてなぶったのだ。
 そうなると、テオドールが受けたのは、とばっちりということになる。
「ごめん、もしかしたら俺のせいかもしれん」
 ダリオは先に謝った。
「あのおっさんが、どうしたらテオのこと嫌いになるかってわけの分からん質問してきて」
 言いさしたダリオは、水饅頭のようなテオドールのボディが、激しく不定形になるのに仰天した。
「だ、大丈夫か?」
『ダリオさんが、僕を嫌いに?』
 ぞくっとするような色気のある声音だが、ドス黒く、どこか思い詰まって自問自答する。
「いやいやいや、仮定で質問投げられただけだからな!?」
『僕がこんな……小さく醜くなったから、ダリオさんは僕を嫌いに?』
 実際声にしているわけではないのだが、思考が駄々洩れで、それに合わせてボディがウニのように突っ張ったり、収縮したり、変形している感じである。いくらなんでも動揺し過ぎだ。もしかしてまた知性ガタ落ちしてんのかなーという気もしたが、人型でも同じことをしそうなので、あまり因果関係はなさそうだ。テオドールの0か100の極端思考に針が振り切れている通常運転のやつである。なお、言葉の切り取り方は、白スーツと同レベルじゃねーかという気持ちになった。
「そんなんで嫌いになるわけねーだろ」
 嫌うんじゃなくて、辛いのはあったけどな、とダリオは付け足した。
「小さくなって酷い怪我してるから……痛いだろうって……何もできなくて辛かったくらいだ」
『……』
「大体、前も言ったけど、よっぽど生理的に無理なのでなければ、なんでもかまわねーよ。今のテオだって、怪我して弱ってそうだったから心配だっただけで……かわいいし」
 テオドールが、ずあっ、と磁石で砂鉄を集めるように、ヒトデ型になった。どういう気持ちなんだ、わからん、とダリオは内心真顔になる。
『この姿でもかわいいのですか?』
「怪我してなければな。頬ずりして、懐入れて、どこ行くにも一緒にしたいくらいかわいい」
『どこに行くにも一緒にしたいくらいかわいい……?』
 テオドールは理解不能なことを言われたように、咀嚼するよう繰り返した。
「ああ」
『それでは、就寝されるのも、一緒にしていただけますか?』
「あ? テオがいいなら、一緒に寝るか」
『はい』
「うん。怪我の経過も心配だし、その方が俺も安心だ」
『負傷自体は、ほぼもう問題ありません。万全の状態に戻るまでに少し時間がかかる程度です』
「よかった……」
 ダリオは心底ほっとした。ついでに、誤解のないよう付け加えておく。
「あともうな、俺にとって、中身がテオなら、どの姿でもかわいいんだよ。全部好き。あ、人型のテオが一番一緒にいるから、一番好きだな」
 人型テオドールの自身への嫉妬深さを考えて、一応フォローを入れるダリオである。テオドールの変形は止まっていた。
『……では、人型の時でも、一緒に寝てくださいますか?』
「あ?」
 何、そうしたかったのか? とダリオは思考が停止した。二人はふだん、寝室は別にしている。というか、テオドールは睡眠が必要ないので、性交時以外は、ダリオは一人で寝ているのだ。
「テオ、寝ないから、退屈かと思って……一緒に寝てもらうの悪いなって思ってた」
『僕はダリオさんといつでもご一緒したいです。退屈ではありません。ダリオさんが就寝されているのを、横で見ていたいのです』
 なんかそれホラーじゃねーか? とダリオは思ったが、テオドールが欲望を口にするのは稀有なので、叶える方に注力することにした。
「ん……じゃあ、戻ったら、テオが良ければいつでもベッド入ってきていいぞ。俺も一緒に寝られるの嬉しいし」
 うれしいと言うのは嘘じゃないが、素直な心情ではないなと思い、ダリオは言いなおした。
「ええと……すごく嬉しいし。だったら、ベッド新調しないと駄目だな」
『します。お任せください』
「ああ。えっと……一緒に寝る時、くっついても、いい?」
 恥じらいというのではないが、ダリオはもたもたと尋ねる。
 すると。
 テオドールのボディが形容しがたいぐちゃぐちゃになった。
 本当に、人型より感情表現豊かなのは何なのだ。というか、いつも同じくらいテオドールは喜んだり驚いたりしているのかもしれない。そういえば、よくダリオの言動で固まっている。
 それぞれの姿の彼は、それぞれに少しずつ違っているが、やはりテオドールだなと思わされた。
 やがてぐちゃぐちゃしていたのも治まって来て、もちろんですとか、何か思念だけは伝わって来た。
『ダリオさん……キスしたいです。口と口をくっつけるやつがしたい』
「ん……、俺もしたいけど、もう痛くないのか? 大丈夫か?」
『はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました』
「よかった……テオの口どこだ?」
『作りますから、持ち上げて』
 うん、とダリオは両手でテオドールを口元まで持ち上げて、確認してから、ちゅ、と丸い物体にキスしてみた。
 ぬるり、と水饅頭のようなそれがダリオの唇を食む。口のような亀裂を作って、口唇も上下に配置したようだ。
(あ……)
 はむ、と唇を挟まれて、やわやわと愛撫されると、ダリオの体に、じん、とした痺れのような快楽の小さな炎が灯った。
 あむ、はむ、とやわらかな力でキスされ、自然と開く唇は、舌先をテオドールの方へ差し出させる。
「んっ、んぅっ」
 伸ばした舌先を、長い突起が絡んできて、ぢゅ、と吸い上げられる。そのままダリオの口腔の中に長い舌のような突起が入ってきて、ぞりぞりと口蓋を這いずり、舌先や、舌の根、気持ちのいいところを全部擦って行く。
「んっ、はぅっ、んぁっ」
 まるでフェラチオをさせられているようで、ダリオは全部口の中を性器にされていた。
 ぢゅぷ、ちゅぷ、ちゅく、ちゅっ、と水音が耳の中で反響する。
 弱い舌先をしごかれ、腰がぞくぞくした。
(舌、舌吸っちゃだめ)
 だめではないのだが、どんどん頭がバカになってくる。
『だりおさん……』
 テオドールの艶っぽい声が、直接頭の中で響いた。いつも、テオドールのペニスで押し当ててもらうところが、思い出したように、ぎゅううっと収縮する。
(だめ。きもちい。舌きもちい。おなか、キュンキュンする。テオ。テオだ。テオにされてる。うれしい。すき。すき)
 最後はもう、そんな単純でどうしようもない思考が駆け巡った。テオドールのボディを捧げ持ったまま、口の中をいっぱいにされ、気持ちのいいことをされて、ダリオはもう姿勢を保っていられない。
「ん」
 舌の上を長い突起を出し入れして擦られながら、同調するようにダリオの後孔もトロトロ愛液が垂れてきて、同じく性器を抜き差しされているような感覚に腰が揺れ動いてしまう。
(ふあ、あ、あ、あっ)
 もう何か月もしてない。
 また舌を、ぢゅうっ、とテオドールの長いそれで甘く吸われた。
(すき、すき、いっちゃ、俺、いっちゃう)
「~~~~~~~~~~っっ」
 と、その瞬間、小さなテオドールが、ずるん、とダリオの手のひらからこぼれた。テオ?!と焦るとそれは同時だった。テオドールの質量体積が爆発する。ダリオの体を包み込むと、後頭部や背中を支え、衝撃を吸収した。
 何が起きているのか。
 ずるずるとテオドールの水饅頭状のボディがダリオの体を這い、さざなみのようにうごめいて、布地の上から覆い被さった。
「あ、っ、テオ!?」
『ダリオさん……したいです』
「お、俺も……テオ、急におっきくなっ……」
『……ダリオさんのおかげで、だいぶ回復しました』
「あ? はっ……、は、そうなのか? なんでだ」
『僕とダリオさんは、この世界の言葉でいうと魂の情報において、双生児性がありますので……法悦のような情報交換を通して、僕のデータ復元が大幅になされたものかと』
「はぁ……よくわからんが、俺、バックアップみたいなもんで、えっちしたらリカバリーできたってことか? なんかどうなんだそれってなるが、まあいいか……」
 工学部の成人向け和製エロゲーム好き友人が、似たようなこと言ってたな、と思い出した。まあ普段から、メンテナンスでエロゲームみたいなことをしているので今さらである。
『ダリオさん、脱がせて、触れてもいいですか?』
「ん……回復すんなら、いっぱいしよ……あと、俺もテオに触られたいから、たくさん……かわいがって……」
『はい。かわいがらせて』
 テオドールの声は、耳元に直接ささやくように穏やかで優しい。だが、どこか内に粘性の毒の蜜がこもるような、甘苦しい狂熱を帯びていた。素直にダリオがおねだりしたり、甘えたりすると、テオドールは喜ぶ。本当は全部お世話したいんだったか、とダリオは白スーツの言葉をぼんやり思い出した。もっとエグイことを言っていた気がするが、突起が器用にダリオの衣服を剥いていくのに意識を持っていかれる。
「ん」
 現実では体験したことのないような、全身を同時に愛撫する動きに、ダリオは鼻にかかった甘ったれた嬌声を上げてしまう。
 空気に触れ尖りきった乳頭には触れず、その周囲の胸筋をマッサージしながら徐々に範囲を狭めて来て、それでも触れずに、性器の方へ突起を伸ばした。つぷ、と鈴口に差し込んで、亀頭全体を覆うと、ぞりっと左右に濡れた布地を引くように動かされる。
「あ。あっ、あっ」
 気持ちいいのに、決定的ではなく、泣き叫びたいような快楽だけ延々与えられた。意地悪をされているわけではないようだが、今度はぴたりと亀頭を左右に引き下ろしていた動きが止まって、また大胸筋のふっくらしたカップをいじられる。
「んっ……」
 足の指や手の指の間を出し入れする流動体に擦られ、次第に胸の先へと狭まりながらも結局触れず、時折思い出したように亀頭をスライムローションガーゼされる。
「は……あっ、あっ、あぁんっ」
『あぁ、だりおさん……かわいい……』
 テオドールが感じ入ったように思念を飛ばしてきた。テオドールも感じている。彼がうれしそうだと、ダリオもうれしくなり、余計に感じて腰がびくびく浮き上がった。
 ダリオは自分が気持ちよくなるより、テオドールが気持ち良さそうな方が感じる。彼が怪我をして小さくなった状態で現れた時も、そっと撫でて、少しずつ回復していくのに、泣きたいほど安堵した。体液も出ていて、触ってもいいのか、撫でたりキスしたりするのも、大丈夫なのか、いちいち確認して、そうしても心配でたまらなかった。だが、テオドールの方からそうして欲しいと言われると、いいのか、痛くないのか、と不安と喜びが同時に胸を満たした。何よりも、テオドールからして欲しいことを言われるのが嬉しかった。そうでなければ、ダリオは指一本、あの酷い状態のテオドールに触れることができなかっただろう。弱っている彼の望みを何でもいいから叶えさせてほしくて仕方なかった。
 テオドールがダリオに触れる時も、こんな気持ちなのだろうか。そうだとしたら、ダリオはもっと甘えようと思った。自分より弱い存在が、触れて欲しいと寄ってきてくれなければ、ゆるしてくれなければ、できるはずもない。
「テオ……すき」
 ちゅ、とダリオは自分からテオドールの顔とおぼしき部分に手を添えると口づけた。ぐわっ、とテオドールの体積が更に膨れ上がる。ダリオは更に押し潰されるように閉じ込められたが、全く重さを感じなかった。配慮されている。いつもそうだ。
「ふっ……」
 触れそうで触れない胸への愛撫が、とうとう乳首に辿り着いて、軽く数回弾いた。目の前を真っ白な闇が明滅したと思った瞬間。蓄積されたむず痒い快感が、性器の付け根まで線を結び、また乳首に上ってきて、ぐるぐると駆け巡る。増幅した快感が爆発し、後から電気を通されたのかと思う絶頂感が追いつくと、気づいたら胸をそらしていた。ダリオは性器をいじられてもいないのに、
「く……んんっ」
 う゛ーっっ、といじめられた子犬のような声を上げて、びゅく、びゅ、と割れ目から数度の波に渡って精を吐き出してしまった。勢いを失っても、絞り出すように、吐精がぴゅくぴゅく止まらない。
「あんっ、あっ」
 おそらく、ドライも入っている。がく、がく、と内腿の筋肉を痙攣させ、ダリオは快楽の余韻に腰をくねらせるよう上下させた。
(乳首だけでイってしまった……)
 ダリオは遠い目になる。キスだけでドライオーガズムに達する脳イキ、乳首を少しはねられただけで、射精する乳首イキ……もう失うものはあんまりない。
『だりおさん、やさしくします……』
 少し休むと、またじりじり弱火で炙るように性感を高められ、今度はイかせてもらえなかった。テオドールは挿入したいらしい。入れる時は、気持ちのいいまま入れられる。だから、寸止め状態に置かれるというのは、そういうことだった。
「ひっ……」
 ばくっ、と抑え込まれ、ダリオよりも体積が三倍は大きくなったテオドールに、両脚を割られると、ひざ下のふくらはぎから足首まで突起が巻き付いて開かされ、太い別の突起が性器から後孔までぐぎゅるっとろくでもない音を立てて這う。膨れ上がった肉塊のようなボディはダリオよりよほど体格のよい二百キロ級のそれのように圧し掛かり、左右の突起数本が抱えこむように閉じ込めると、もうダリオの腕だけが哀れに、背中に回されている状態だ。
 第三者が見たら、どう見ても化け物にダリオが襲われて、腕と足だけがのぞいており、捕食されているとしか思えなかっただろう。
 ところがこの捕食されているダリオと、捕食しているテオドールは、合意ラブラブセックスしているだけであった。
 非人間的な動きにダリオは驚くこともあるが、基本的にテオドールに抑え込まれても、嫌だと意思表示してどかれなかったことがないから、圧迫感もない。
「ん、テオ、テオ、もう」
『ダリオさん、ダリオさん、ダリオさん』
 ダリオの後孔はもうすっかり受け入れ準備ができていたし、テオドールの性器もどきもそろそろと挿入されようとしていた。
 ぎゅっとダリオはテオドールに抱きつき、
「テオ、すき」
 と語尾にハートマークで了解サインを告げる。
 ぬぬぬっ、と生殖器のようなものが入ってきて、揺さぶられている内に、テオドールの姿がぶれた。あ、と思ったか否か。
「テオ……!」
 両手を突き、恐ろしいほどの人間離れした美貌で、汗を伝わせながら、ダリオの上で揺さぶっているのは元の人型の青年テオドールだった。
 妖艶な切れ長の目に、目元に色香を落とす長い睫毛。柔らかな漆黒の髪はやや乱れ、薄く開いた唇の間から、真珠のような歯と赤い舌先がエロティックにのぞいている。物憂げに愁眉を寄せ、苦悶とも法悦ともつかぬ表情は、清潔でありながら、見るものを狂わせるような魔性の妖しさがあった。律動する度に、彫像のような繊細かつ力強い筋肉が、美しい肉体を三角筋、大胸筋から中部、下部へと陰影を作り、皮下のしなやかな張りを思わせる腹筋へと溝を走らせながら躍動する。理想の肉体の極致が、生きて性を絞り上げる動きは、美への驚くべき冒涜とも思われた。
 青い目が、海の底で燃える存在しない紫の炎を宿している。ふたりの視線が絡んだ。
 ダリオは、自分の中にテオドールの性器が突き立てられている状態を自覚した。彼のペニスが、怒張となって、ダリオの中にいる。
 テオドールとセックスしている。
 そう思い、その存在を強く感じた瞬間、ダリオはあっという間に、ぎゅうううううっと中を収縮して上り詰めてしまった。
「あ、あぅ、あっ、あ゛ーっっ」
 上り詰めて、凄まじい絶頂感に、また次の絶頂が追いかけてきて、びくびくと痙攣が止まらない。快楽から降りてこられない。テオドールがダリオを宥めるように抱き締めて、唇を肩や額、頬、鼻先、喉元、鎖骨へと順番に降らした。
 ダリオは涙が出てくる。言葉にならない。ダリオはどのテオドールも好きだ。でも、人型のテオドールが、本人の『僕も受け入れてください』という言い分のとおり、一番テオドールだという気がする。一番初めに人型の彼に会い、呆れ、面倒に思い、近寄られ、声をかけられ、助けられ、優しくされ、時々振り回されては、彼を愛した。
 やだ、とダリオは子どものように思った。彼の姿が失われるのは嫌だ。テオドールが考えて姿を変化させたのではなく、無理に奪われるのは。
「てお……てお……っっ」
 蛇口の壊れた水道のように、泣きじゃくってダリオはテオドールにしがみついた。元のテオドールだ。もう大丈夫なんだな? そう思っていいんだな? 怖かった。心配した。あんなに、あんなに小さくて、体液が出て、喋れなくなってて。人間の姿を作れなくなるくらいに消耗していた。すごく怖かった。平気なふりをしたわけではなく、ダリオは鈍麻していた。テオドールがもとに戻って、ようやく本当に堤を切り、ボロボロと涙も止まらず、喉が痛くて声が出なくなった。
「ダリオさん……」
 テオドールはもう喋れるようになったはずだ。しかし、この青年も声が出ないようにダリオに覆い被さって、離れがたいように頭や鼻先を擦り付けた。
 ダリオはようやく、ばか、ばかっ、とキンダーガーデンの幼児のようになじり、人外の青年も甘んじてこれを受けたのだった。

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