俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 八 支配者フェティシズム

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 お嫁さんの概念が最初わからなかったのに、誓約のようなものはあるらしい。
 何を誓わされているのか謎だったので、一応どういうことを宣誓するのか事前にきちんと教えてもらった。割とダリオたちが結婚式で誓うようなものに近い。もっと簡略なくらいだった。
 でも誓うほどに空気が処理激重パソコンのように重くなるのには閉口した。
 ちなみに本来は用途がちょっと違うらしい。単にテオドールが応用したようである。まあ、ある意味、花嫁になりますと誓う内容なので、問題ありませんと言われた。なんか生け贄が神様の花嫁になりますと誓わされて捧げられるやつっぽくないかという気がしたが、神官や巫覡も誓うので、彼らが生涯、比喩として神の花嫁になるという宣誓の方が近いと言われた。
 結局生け贄ムーブでないかと思ったが、アレンジしてるらしいので流した。
 で、とにかく誓いの交合をすることにした。やっぱ生け贄とか神職の神に捧げて交合イニシエーションではとダリオは思った。
 聞くところによると、支配者は次元によっては神様扱いされることもあり(ドメスティックバイオレンスで拝まれるとか邪教じゃねーか)、下位の奉仕種族もそこそこ存在するらしい。
 あー、よくテオドールにふらふら寄ってきて、奴隷にしてください、うちに来てくださいと発狂してる連中の拡大版かぁ、とダリオは理解した。目がイってしまわれていたから、ふつうにやばそうだ。生け贄とか捧げそう。なんなら支配者に捧げられるのはご褒美です! と精神高揚して生け贄志願しそうである。
 なるほど、そのクソヤバ下位の奉仕種族、邪教団体の神職が、支配者に生涯仕える時の誓いの言葉アレンジらしい。
 へー、じゃあ俺、他の支配者に誓ってんのか、と漏らしたら、テオドールがぐりんと顔をこちらに向けて、
「僕に誓ってもらいました」
と当たり前かつ少し憤慨したように言うので、ダリオは「俺、テオと結婚するのテオに誓ったのか」と困惑した。いやまあいいんだが。テオドールも先の理屈で言えば神様資格あるらしいし、へー、俺、神様と結婚したのか、とまたダリオは思った。
 というか、つまり、ダリオは本来の宣誓用途でいうと、テオドールの専属神官・巫覡になったのではないだろうか。直接神の啓示も聞き放題である。教祖として開業もできそうだ。
「僕の巫覡にして寵愛する心算はありません」
 テオドールは否定する。
「ダリオさんには、僕のお嫁さんになっていただきます」
 お嫁さんでいいらしい。現場からは以上ですアナウンスが脳内を流れ、ふたりは支配者流に結婚した。


 寝台の上。
 ふたつの影が重なっている。
 は、ん゛、う゛、と低いうめき声が水音とともに、時折甘えるような鼻声に抜けていく。
 神様と結婚した後、交合するとか邪教っぽいが、ふたりはふつうに結婚したので個人間の問題である。ダリオはふわふわの気分で、もうずっとキスしててもいい……とテオドールの背や肩に腕を回していた。体温が気持ちいい。しかし、テオドールの唾液を摂取するにつれ、ずるずると両手が滑り落ちてきて、腕が外れた。あとはもう、なされるがままだった。
 ダリオは今や、テオドールに両手で顔を固定されて、のしかかるように舌を入れられている。
「ん、あふ、んっ」
 ブライダルランジェリーを着て、ベッドに移動後は誓いのキスをずっとしているのだ。くちゅくちゅくちゅ、と口の中を丹念に掻き回されている。
 引き寄せられるように耳の中に両指先を入れた状態でキスしながら、次第に前のめりにテオドールが体重をかけてきて、ダリオはその腕に手を置いた。腕を巻きつけて抱き寄せたいが、すでに体力レッドゾーンような状態で、テオドールの腕に手を乗せるのでせいいっぱいである。
 やがて完全に覆いかぶさって、重石をするようにぴったり密着すると、テオドールの下に閉じ込められた。ダリオの体をまたいで両足の間に挟み込み、更に深く唇を重ねてくる。ぐちゅぐちゅと舌先に、テオドールの長い舌が絡み、性感帯を扱かれた。舌が出入りする度に、ダリオの内壁は挿入されてもいないテオドールのペニスを思い出して、ぬぷぬぷと粘膜が擦れ合う気持ちよさを想起させる。触れられてもいない乳首が、キャミソールの刺繍の下で、痒みのようなもどかしさを覚えた。後ろの空洞は寂しくて、何度も収縮をむなしく繰り返す。口の中の快感が、体のあちこちへ官能の火を点けて回っていた。
 違う、そうじゃない。テオドールだ。テオドールに触れられるところ、すべてに快感が生じる。ダリオのからだは、テオドールに触れられると嬉しい、と喜ぶ。うれしい、うれしい、とよろこびが快楽を副次的に増幅させている。
 他の誰かに触れられたってこうはならない。テオドールだけだ。彼だけだ。他の誰にも、いちばんやわいところを、こんな風に触られたくない。ダリオは、テオだけに、やわらかいところを触られたい。さわってほしい。好き。好き。生まれたよろこびの点と点がつながり、次第に大きなそれへと回路を形成していく。回路は、あるはずのないものを、あると錯覚させ、脳が誤認する。尖らせた舌先が口蓋を奥から手前へ辿り、後孔の悦点を甘く擦られている感覚が、現実のようにフラッシュバックした。なにも入っていないというのに、愛液がとろとろと零れ出して、ひとりでイマジナリーセックスを始めてしまう。
「ん゛ん゛っ」 
 ダリオは舌先が特に敏感で、扱かれたり、ぢゅ、と優しく吸われるともう駄目だった。
 その上、テオドールの人差し指の先が、青年のペニスが入ってくるのを感じさせる動きで、性器の付け根からへその下を、つぅっとゆっくりなぞり上げていく。
 やがて、行き止まりの結腸口の上、ぴたりと止まった。それから、とん、とん、とん、と三回、その下の臓器を探るよう優しく叩いて、最後に押し込んだ。
「! ! ! ! っ~~~~~ッ?!?!?!?」
 身体を丸めるようにする。ダリオの性器は下着から頭をもたげながら、びゅく、びゅくっ、と数回の波にわたって、断続的に精を吐き出した。
 もはやほとんど脳イキである。
 凄まじい快楽が、体の中を逆走した。どこにも突き立てることができないのに、腰が浮き上がって、孕ませるよう前後する。
 それをテオドールが、宥めるように声ごと舌で啜り取った。体重で押さえ込まれ、キスされながら、舌を吸われているのか、性器を絞り上げられているのか、果たして両方なのかわからくなる。
 密着して押さえ込まれたまま、下着と相手の腹部を汚すに任せた。ダリオのきれいに割れた腹直筋が、精を根元から搾り上げられる快感に、発達した大胸筋まで反り返らせ、汗を溝に伝わせながらうねる。
 海綿体が収縮し、射精管を昇り上げて押し出される快感はストレートだ。質のいい筋肉で覆われた太腿や、鼠径部から腰までのラインをガクガクと痙攣させた。
 テオドールの肉体に、射精するペニスを擦り付ける形になり、罪悪感にも似たものを覚える。だが、排出する快感に、後追いして腰が前後してしまう。
 ダリオは欲情する自分を、好きな子相手に披露させられていた。
 あ、あ、と止められない。露出プレイのような背徳感と申し訳なさが泡立ちのように、思考の表皮に浮かぶ。しかしそれも、爆発的な快感の前に、脳がスポイルされ、目の前のことしか考えられなくなる。
「はッ、あ゛っ、はッ」
 前で吐精する雄としての快楽は単純で、急速に盛り上がって吐き出すと終わりだ。だが、同時に後孔が空洞を引き絞るようにイマジナリーなペニスを食んで、きゅうきゅうと痛みを覚えさせた。
 底のない絶頂感を思い出しては、空虚な内側を蠕動する。終わったはずの射精感に、脳が覚えていた快感を重ねて、バグを起こしているのだ。入れてもらってない、だから終わりもない。果てがないものに果てがない脳の誤認を重ねて、メンタルが二つに引き裂かれそうだった。
 腰骨が震え、その間、うなじや、背骨、臀部などを優しく愛撫される。ちゅ、と下唇を食むようにキスされ、口を開けるよう舌先でつつかれた。テオドールはこういうことをする。
 吐精直後のダリオが息を荒げながら口を開くと、更に舌を出すよう促され、ゆっくりと舐められる。感度を上げた舌の表面は、ざらざらとしたその感触さえ過敏に受け止めて、また絶頂した。
 もう下着の中はどろどろだ。
 前もそうだが、後ろも酷い。
 愛液でぐちゃぐちゃだ。
(お、俺のここ……)
 テオドールが欲しくて、前立腺からじんわり甘い痛みが広がり、内壁がペニスを食むように収縮を繰り返している。
 蟻の門渡も切なくて、ここにぱっくり女性器ができていないのが不思議なくらいだった。女性が性的快感を得たり、相手を受け入れたいと思ったりした時に分泌する粘液を、とろ……と内側から溢れさせている。
「ダリオさん……」
 見下ろしてくる目が、海中に燃える紫水晶のようだった。深い霧の中にいて、あるいは海溝のさらに深く、沈降するマリンスノーが静かに降り積もり、更に暗黒の口を開く領域。
 無光層領域とも言われるすべての終着点。底なしのそれは、完全な暗黒へと沈み、淀んでいくだけだ。
 深海になど行ったこともない。
 なのに、深い暗黒の世界に、青く、紫に燃えながら咲く花が幻視された。
 花びらは銀河の星辰を抱くように紫を帯びた黒。
 蓮の花。深海に咲く、ブラック・ロータス。
 テオドールが現れた異次元の門という指輪は花びらを模していた。あれは、黒い蓮の……
 あー、人間じゃないな……と改めてダリオは思った。
 テオドールのことをかわいいと思うことも多々あるが、結局俺、最終的にやっぱり人外だと思わされるよな。
 ダリオはそう思って、は、は、と息を乱しながら青年を見上げた。
 彼を人ではないと思うのは、意外にも巨体形態よりも、人型でいる時に感じる場面が多い。
 人型であってさえ、異能をふるう時より、ふとした時に、人間ではないな、と思わされる。
 一種の不気味の谷現象に近いのかもしれない。ロボットなど人工物の造形を、より精度を高く、人間に近づいていけばいくほど、親近感を覚えるが、かなり似て来たある段階で、急激に強い違和感や嫌悪感が誘引される好感度の谷である。更に造形を人間に近づけていけば、それらの違和は解消され、再び好感・共感度グラフは上がっていく。
 以前、マルシェにふたりで出かけた際、テオドールに引き寄せられた買い物客たちから、ダリオが多少暴行まがいなことを受けた際も感じたことである。
 あの時、テオドールは特に異能を使ったわけではなかった。しかし、報復の提案を静かに述べる目の冷淡さ、冷酷さ以上に、何かが彼を決定的に人ではないと、収めておけずに漏れ出させていたように思う。残酷な人間、人間を人間と思っていない人間も、社会にも多々いるだろうが、そういうのとも全く違うのだ。
 一年前まで、花とは言われたが、ダリオだって、テオドールからまともに個体認識されていたのかあやしい。
 なんのきっかけか、どこが琴線に触れたのだか知らないが、今はダリオを個体認識しているとは思う。そして大切にしてくれている。
 そうであっても。
 やはり、違うな、と思い至る。
 嫌悪感が想起されるわけではないが、仕組みとしては不気味の谷現象に近いところがあるよなと感じた。
 人間社会や倫理観を学習し、かなり近いところまで寄ってきてくれたとしても、それは人ではない。
 縦軸に親近感、横軸に擬人性をとったグラフを描く時、擬人性がある程度高いゾーンで突如としてグラフに谷のような深い落ち込みが出現する。
 そういう視点がふと浮き上がって、違和として感じられる。
 ダリオは別にそれがよくないとか、嫌いだとか、思うわけではない。
 ただ、違うな、やっぱり、と思うのだ。
 混乱したこともあったが、徐々に、全体を統合して見られるようになってきたのは、どのテオドールともコミュニケーションしたからかもしれない。
 『違うのだ』ということも認識した上で、全体がテオドールだと思う。
 本人は人の姿をした自分を擬態だというが、それも含めて、彼の全体のすがたを愛していると感じる。
 そうしたら、まるでダリオの心を読んだようなタイミングでテオドールが、表情を失い、真っ黒に瞳孔だけは広がって、こう言った。
「あちらの大きい僕だけでなく……擬態の僕も受け入れてください……」
 ダリオは瞠目した。
 おかしな話だが。
 巨体テオドールの方が意思疎通の容易さから仲良しで、同じ自分だというのに変な嫉妬心を覚えているらしい。
 お前どんだけ……結婚後初夜中(結婚してからは初めて)に、人外伴侶から突如突きつけられる難易度ルナティックのバッドエンドフラグ。なんでだよ。いや、これ真面目に考えないと詰みだぞ……ダリオは落ち着かない呼吸で、テオドールをただ見上げた。
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