俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 五 Look at me!

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 ダリオは割と体格が良い。テオドール程無表情ではないが、性格もあまり動じることのないタイプだ。大体年上の同性にはかわいがってもらえるが、中には生意気だと勝手に敵視する人間もいた。
 いずれにせよ、ダリオに好意的であれ、敵対的であれ、今の彼を見たら仰天したに違いない。
 夢幻のような世界で、どろどろにテオドールの本体と交わった時とは違う。あれは誰が見たところで、異常な状態だった。彼の変わりようをみたとしても、恐怖が先立ち、どうこう思う余裕もないような光景だったが、今は『現実』である。
 些末なことでは動じないダリオが、うつぶせに声を出さぬようシーツを噛みしめ、あたかも苦しみもがいていた。
 普段そのような姿を想像できないだけに、これまで執拗にダリオを敵視してきた者たちが見れば、口笛を吹いて「たまんねぇよ」とでも言ったかもしれない。
 彼を知る人間からすれば、とてもダリオが出しているとは思えぬうめき声だ。
「……っ……ふっ……う゛う゛……っ」 
 テオドールの巨体と交わった時はあれほど雄弁だったのに、現実世界で挿入に及ぶとなると、ダリオは『無口』だった。
 理由は簡単だ。
 あまりにも『生々しかった』からである。
 いわばドギースタイルで、現実にはもっとも負荷の少ない体勢に後ろから挿入していったわけだが、とにかくダリオは声を出さないように注力していた。いや、そうしようとしてしたわけではない。あれこれおしゃべりになれるほど、他に注意を向ける余力がなかったのだ。
 とにかく生々しかった。後ろから入って来る。
 気持ちがいいだけで、言いたいことはノンブレスに言えた夢の世界と違い、まず呼吸するのが一苦労だった。それに腰骨をつかむ手のひらの熱さが、テオドールの体温というより、ダリオの熱がそちらにうつって、体中が溶鉱炉になったかのように錯覚してしまう。ダリオのおとがいから、ぽたぽたとシーツに汗が落ち、とうとう呻き声ごと封じるように、シーツを噛んで、「んっ」と鼻にかかる低い声が、二人の荒い息の合間に盛れた。
 面白いのは、テオドールも息が乱れていることだった。この人外の青年は青年なりに、人間の性欲とは違う事情があったわけだが、後から事情を聞くと、肉体が変形しそうなのを必死に留めていたらしい。この時ダリオは事情を正確には知らなかったが、テオドールもなにがしかの衝動を相当におさえつけているのだけは理解した。
 それに、実を言うと、テオドールの性器は挿入しやすいように形を変えていた。この人外の青年は合理的であると同時に、ダリオに最も負荷の少ない形で挿入をこころみるいつもの気遣いを発揮したのだった。
 まるで長い舌先のように、ぬろろろろっ、と穂先が入って来て、具合を確かめる。これは本当に負担の少ない、いわば偵察のようなもので、ダリオの内側を舐めまわし、快楽だけを与えるようにちゅぷちゅぷと浅く、中ほどまで抜き差しされた。
 気持ちいいというには、あまりにも非人間的な動きである。背徳感とは縁のないダリオも、謎の驚嘆と怖さに襲われ、それも夢と違うからだと思い知らされた。
 ——現実だ。
 現実って、こんなに生々しいのか、と。
 夢の世界でもっとすごいことをされて、ダリオ自身もっとすごいことを口にしていたのに。 
 全然違う。
 両ひざを立てていたはずが、次第にへたりこんで、ついにダリオは交差させた腕の中に自分の顔を埋め、背後から、ちゅっちゅっ、と舌先を尖らせるようにして、隧道をたどられる。前立腺の少し手前から、つーっと外までなぞられると、物足りないような気持ちいいような、たまらないそれがあった。
「んっ、ん!」
 気持ちいい。もうとにかく気持ちい。尻の中が気持ちいい。
 テオドールを気持ちよくするはずだったのに、結局ダリオの方がもう駄目になっている。
「こ、こんなのじゃ、……」
 これじゃあ、駄目だろ、と思うのに、筋張った内腿の筋肉がぶるぶると震え、うまく意思疎通できない。
 もう、と思った時だ。ちゅぽちゅぽと舐め回していたそれが引き抜かれ、っぐ、と先ほどよりもはっきりとした質量が押し当てられた。
「……」
 テオドールが背後で「待て」をしているのをダリオは感じ、みっともない声でゴーサインを出した。
 押し当てた先端が、つぷ、と押し入ってくるが、やはり変な形である。亀頭が連弾しているようなエグい変形をされてもダリオは我慢するつもりだったが、逆につるりとして、穂先がスマートだ。ダリオがフェラチオをしていた時は普通の形だったから、こいつ性器を変形させまくってる、いや、助かるけども……とダリオは一瞬気が遠くなる。
 先ほどのように浅いところから前立腺の手前を舌先で擦るような動きとは違い、つるりとした先端はさほど抵抗を受けることもなく、奥へ奥へ入っていってしまう。
 ダリオは目をつぶった。また開いて、後ろを見ようとするが、どんどん入って来る性器に、じわじわと涙目になって、口元をわななかせながら、自分の中の恐怖のありかに混乱した。
 もっと抵抗が有ると思ったダリオの肉体は、テオドールが性器を変形させているせいで、簡単に侵入をゆるしてしまい、引っかかるところがない。
 こんなに生々しいのに、奥へ奥へと容易に入ってしまうのだ。
(入っちゃ、う、入っちゃう……!)
 嫌なのではない。そうではなくて。
(あっ、あっ、はいっちゃ、う、あ゛っああっ、ておの、奥まで、はいっちゃ)
「う゛うう゛~~~」
 テオ~~~と語尾にハートマークをつけながら、種付けされる犬猫の雌のように臀部を上げ、ダリオはひんひんと感じ入った。
 入っちゃうなどと思いながら、到達した性器を、きゅうぅんと締め付けて、好き好きと愛撫している。
「ダリオさん」
 テオドールが、聞いたこともないような切羽詰まった声を出す。
「ダリオさんダリオさんダリオさんダリオさんダリオさん」
 背後から、およそ正気の沙汰とは思えぬ、抑揚のない狂気に満ちたそれが振って来た。色で言うなら、真っ黒だ。というか、いつの間にか部屋は二人の荒い息以外、外から一切音の入らぬサイレント空間になっている。ひ、とダリオは悲鳴を飲み込んだ。腹の中で、ぼごり、と性器がかさを増した。奥まで入り込んだ穂先が、射精する犬のように真逆にも亀頭を張り出し、隘路を押し開く。ひぃっ、と今度こそダリオは慄いた。テオドールの影がダリオの上に落ちて来た。え、こいつ身体でかくなってないか? と思ったのは恐らく間違いではない。テオドールも発汗しているのか、汗が毛先に含まれて滴る。
「好きです、好き……、おかしくなります……僕、もう、ずっと、おかしく……おかしくなって……やさしく……ヤサシクしますから……」
 ぼたり、と大粒の涎がおそらくテオドールの口元から零れ落ちた。
 あー、言ってたな、食欲とか、破壊衝動とか……とダリオは何故かこの段になって、思考がすっきり明晰になり、思い出した。
 テオドールはダリオの背にのしかかり、耳をべろりと舐めると、またぼたぼたとよだれを零した。ごまかすように、ゆすゆすと腰が動く。
「あっ、ちょ、待っ」
 いつの間にか体内で開いたカリがごりごりと気持ちのいいところを削って行く。
「あ、こすっ、擦らないでっ、きもちいいとこ、あ、っ、そんなにこすらないでくれっ」
 嫌ではないのだが、これちょっと話し合わないとヤバいやつでは? とダリオの理性は思うのだけれども、気持ちよくなってしまう。いつものテオドールならこの段階で止まってくれるのだが、本人の言う通り、ちょっと「おかしくなっている」けはいはあった。テオドールにしてみれば、一生懸命我慢しているところに、好きな子に交接孔を指でくぱあされた末に「ここで気持ちよくなって」などと言われた日にはもうまあ多少は理性もぶっ飛ぶところである。
 しまいにはダリオをひっくり返して、もう色々と人外がはみ出している状態で、だらだらと発汗しながら、この青年はガン決まりに瞳孔の開いた状態となり、それでも一度は止まった。止まったのではあるが――
「て、てお……」
 太い眉根を寄せ、普段鋭いそれが垂れさがった目じりに朱色を刷き、彼の『花』が口元をわななかせながら、水分を含んだ目で言うものだから。その声があまりにも青年に信頼を寄せ、甘く、やさしく、こころを開いて、何一つ隠すことなく、『支配者』を呼ぶものだから。
 多くの支配者たちが陥った飢餓も、食欲も、破壊衝動も、孤独も、悲嘆も、千の万の億の絶望も。
 彼らふたりの上に降り注がぬように、この美しい青年は覆いかぶさって腰を押しつけた。
「あ、あ、あ、あ、あ゛ぁ゛ん゛」
 だめえっ、とダリオは言ったか言わないか。テオドールの背中に手を回し、ぎゅうっと両脚で腰を引き寄せるよう巻きつけた。俗に言う大しゅきホールドである。人外の青年が少しばかり『大きく』なっていたので、体格差が可能にした。
 二人の結合部位は、ダリオの未開拓だった後孔をテオドールのこれまた少しばかり肥大してしまった怒張でめいいっぱい押し開かれ、根元まで押し込むと、脈動のリズムで最奥にびゅくびゅく吐精した。
 テオドールの体液である。特濃の精液である。がつん! とダリオの脳はヒューズを飛ばすように目もくらむ真っ白な闇が腰の奥から背筋を這い上り、理性がやっぱりぶっ飛んだ。
「ん゛、あっ、おっ、しゅ、しゅき……て、ぉ……すきぃ、ぁん、あ゛あ゛ぁ゛あ゛っ、らめ、や、も、また、いく……俺、またイッ……っ! ああああああんっ」
「だ・ri・おさん……明日も、あさっても、ずっと……ヤさシクします……」
 おかしな音の外れたようなそれが、ずっとやさしくしますから……と痛切に言ったのを皮切りに、ダリオの記憶は途切れている。とにかく、しつこく伝えなければと思ったことは、恐らく口にできたはずだ。 
 ぱくぱくと食む奥を、凶悪な亀頭でこね回され、中に入れてとこじ開けられる。じゅぱじゅぱと吸い付いては、喜んで迎え入れ、更に快感が増して、もっともっとと最奥と亀頭がキスをし、深く舌をからめあうようにした。そのまま足を高くかかげられる。根本までぐいと押し付けられて、ぐりぐりされながら射精されるともう駄目だった。腹の奥底から性器の先端へと気持ちいいのが押し出される。
 呂律が回らない。
「て、お、しゅきぃっ、あ゛ぁ゛ん゛っ、ら゛い゛しゅきぃい~」
 がくんっ、とダリオは落ちた。
 ダリオも絞り出すようにぐねぐねと射精管をなにかがせり上がってお漏らしする。
 いや違う。射精していない。
 絶頂感に、ぐぽぐぽと中を抉られドライでイき続けながら。
 長く、ちょろちょろと、何か出してはいけないものを粗相しながら。
 『花』のダリオと『支配者』のテオドールの現実初セックスは、はちゃめちゃに終了したのだった。
 
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