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第3部
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何が起こってるのかわからない。
その顔はあのときと同じだ。
状況を認識できずパニックに陥ってるのが手に取るようにわかる。
ソファの上で鈴木にのしかかられて、首筋に顔をうめられている遥。
その目が大きく見開かれ人形のような動きで動き俺を捉えた。
呆然としている遥にあのときのように教えてやればいいのか。
『いまから犯されるから』
あのときは俺で、いまは鈴木に。
だが俺の口から吐き出されるのは紫煙だけ。
俺を見ていた遥の服の裾から鈴木が手を差し込んでいく。
肌を撫でられたのか。
一気に遥の目に怯えが走り我に返ったように暴れ出した。
「ッ、やめてくださいっ、鈴木先生っ」
もがき、鈴木の身体を押しのけようとしながら叫ぶ。
華奢な遥が鈴木から逃げられるわけがないけど。
案の定鈴木は遥の抵抗をものともせず片手で遥の両手を押さえこむともう片手でシャツをめくりあげる。
「うわ、ほっそー。遥ちゃん腰細いね。それに色白だし肌もすべすべ。その辺の女より可愛いし、まじでうまそうだな」
「いやだっ、鈴木先生、やめてくださいっ、やだぁっ」
鈴木ってマジで変態くせぇっていうか親父くさいな。
AVマニアだし、セックスも影響されてたりすんのか?
「乳首かわいー」
いちいちうっせぇな。
にやにやと笑いながら遥の胸に顔を寄せその突起へと鈴木は唇を寄せている。
びくり、と遥の身体が跳ね、その顔がどれほど白くなるんだろうというくらいに蒼白になっていく。
「いや、やだっ、やだやだっ」
力では敵わないとわかるだろうに抵抗を続ける遥とそれを無視し身体を舐めていく鈴木。
いやだいやだ、と繰り返し暴れている遥の抵抗はあのときよりも強い。
あのときは性に対して認識が少なかった分、はじめての行為にパニックになって思考を奪われ抵抗する気力を削がれてたのか。
いまは行為のひとつひとつがなにを意味するか、全部わかるだろう。
行為によって生じる快感も、全部。
でも、いいじゃないか。
あのときと違って、いまは大好きだった鈴木が相手なんだから。
お前が好きになったのは鈴木だった。
たぶん、出会ったのは俺の方が先だったけれど。
―――俺がはじめて遥に会ったのは遥がまだ中学生のときだ。
ここへは模試で来ていたあのとき。
いまでも華奢だがあの頃はまだ小柄で幼い風貌をしていた。
『……僕、ここに入学できたら先生が担任だったらいいな』
ぽつりと呟いた遥と再会したのは一年後数学の準備室。
少し伸びた身長とようやく高校に慣れた様子の遥の目に映っていたのは鈴木だけだった。
「や、やだ、先生っ」
悲鳴混じりの遥の声が響く。
歪ませたのが元に戻るだけ。
俺が遥を犯さなければ遥はずっと鈴木を好きだっただろう。
あのとき俺じゃなければ、あのとき鈴木にいまのように押し倒されていたら、喜んだだろ?
「やだ、やめっ、せんせっ、先生……っ、助けてっ」
いつの間にか涙を溢れさせていた遥が泣きじゃくりながら俺を見ていた。
「いやだっ、やだぁっ、先生っ、先生っ」
必死で俺へと手を伸ばし助けを求めてくる。
なんで俺に助けを求めるのか。
俺もお前を犯したのに。
―――全部、ただの、お前の勘違いだよ、遥。
「やだやだやだっ、先生っ、理哉せんせっ」
ぼろぼろと涙が落ちていく様を眺める。
そんな俺を遥が縋るように見ている。
絡んでいるようで絡んでいない視線。
「せんせい、お願いっ、先生っ」
ぼろぼろと涙が落ちていく様が。
「―――……っせぇな」
は、と我に返る。
遥にのしかかっていた鈴木が今までとは違う低い声で心底うざったそうに吐き捨て遥を冷たい目で見下ろした。
鈴木の雰囲気が変わった。
そのことに遥も気づいたのだろう。
しきりにあげていた抵抗の声は途切れ怯えが増す。
「いい加減、イヤイヤもうぜーな。面倒くせぇし」
普段の鈴木からは考えられないほどの無表情さと冷ややかさ。
固まる遥に鈴木は手を伸ばし、ズボンに手をかけた。
目を見開く遥が弾かれたようにまた抵抗を始めるが、鈴木はその身体を抑え込み下着もろとも脱がせてしまう。
「っ……」
空気にさらされた下肢。
鈴木が脚を開き身体を割り込ませた。
「い、や……だ」
身体の震えをそのままあらわすかのような声。
「ローションで濡らして突っ込めばいーだけだよなぁ」
すでに準備してたローションを手にしたかと思うと鈴木は遥かの下肢へ遠慮なくぶっかけた。
「ッ、ヤ、やめっ、先生っ」
脚を抱え上げようとした鈴木に遥が今までより激しく抵抗しだす。
「いやだっ、やだっ、先生っ、先生っ」
もがき、手足が鈴木へとあたり顔を顰めた鈴木が遥の身体を反転させ、うつぶせにさせると背中で両手を押さえつけた。
するりと腰に触れてくる手にそれでも遥は抵抗を続ける。
本当にーーー。
灰皿にタバコを揉み消し、紫煙を吐き切る。
「いれりゃ、そのうちヨクなってくるんだろ?」
「やだっ、やだっ、先生っ、僕は、葛城先生が、っ」
本当に黙って犯されればよかったのに。
本当にバカだよ。
お前は。
そして、
「……せんせ」
「あ? なんだよ、かつら、ッ」
俺もバカだ。
無理だ、とわかってるのに。
反射的に慌てたように腕で防ごうとした鈴木に構わず、腹へと蹴りをぶち込んだ。
「ッ、ぃてぇっ」
バランスを崩した鈴木がソファから転げ落ちる。
そこにもう一発いれようと足を上げたら、ギョッとしたように鈴木が避けるがすかさずもう片方の足で腹に蹴りをいれた。
「ちょ、っ、おいっ、葛城! ストップ! なにすんだよっ!」
床に転がった鈴木の腹に足をのせたまま、怒鳴りつけてくる鈴木を見下ろす。
「……うっせえんだよ、下手くそが」
「はぁ!? 下手、って、お前俺のテク見たことあんのか! 俺のテクはな―――ッげ」
もう一度足を上げ踏みつけようとしたら鈴木が勢いよく飛び起きて後退し、同時に俺の腰にまわる細い腕。
「せ、んせい……っ」
しがみつくその手が震えているのが伝わってくる。
きつく俺の行動を制するかのような、それでいて助けを求めるかのような。
遥の体温を背中に感じ鈴木を冷たく見据えた。
「出ていけ」
突然俺に蹴られた鈴木は憤った表情で睨みかえしてくる。
「あ? ふざけんなよ、これからだろ」
「出ていけ。こいつに、触るな」
「……はぁ? なんだよ、なに、お前らってまさか付き合ってんの?」
まさか、と驚いたように目を見開く鈴木に、違う、とだけ否定する。
俺の否定にかびくりと遥の身体が震えた。
「いいから出ていけ。もう終わりだ」
鈴木は再び眉を寄せ睨みあげてくる。
黙ってそれを受け、見下ろす。
だが思ったよりもすぐに舌打ちすると鈴木は立ちあがった。
「クソッ!」
苛立たしげに吐き捨て鈴木が歩き出す。それに反応するように遥が一層強く俺にしがみついた。
鈴木は髪をかきむしるようにしながら俺の肩へとわざとぶつかってきた。
一度足を止めて横目に睨んでくる。
至近距離で絡む視線。
「葛城……テメェ、覚えてろよ」
冷ややかに睨みかえせば、
「―――巨乳専門の俺に貧乳触らせた代償は高いからな」
俺の耳元で唸るように低く囁いた。
「……あ?」
「くっそぼけ。遅いんだよクソ」
あーくっそ痛ぇし、ぶつくさ言いながら通り過ぎる鈴木を振り返って見るがヤツは振り返ることなくそのまま部屋を出て行く。
そして玄関ドアの閉まる音が響いてきた。
その顔はあのときと同じだ。
状況を認識できずパニックに陥ってるのが手に取るようにわかる。
ソファの上で鈴木にのしかかられて、首筋に顔をうめられている遥。
その目が大きく見開かれ人形のような動きで動き俺を捉えた。
呆然としている遥にあのときのように教えてやればいいのか。
『いまから犯されるから』
あのときは俺で、いまは鈴木に。
だが俺の口から吐き出されるのは紫煙だけ。
俺を見ていた遥の服の裾から鈴木が手を差し込んでいく。
肌を撫でられたのか。
一気に遥の目に怯えが走り我に返ったように暴れ出した。
「ッ、やめてくださいっ、鈴木先生っ」
もがき、鈴木の身体を押しのけようとしながら叫ぶ。
華奢な遥が鈴木から逃げられるわけがないけど。
案の定鈴木は遥の抵抗をものともせず片手で遥の両手を押さえこむともう片手でシャツをめくりあげる。
「うわ、ほっそー。遥ちゃん腰細いね。それに色白だし肌もすべすべ。その辺の女より可愛いし、まじでうまそうだな」
「いやだっ、鈴木先生、やめてくださいっ、やだぁっ」
鈴木ってマジで変態くせぇっていうか親父くさいな。
AVマニアだし、セックスも影響されてたりすんのか?
「乳首かわいー」
いちいちうっせぇな。
にやにやと笑いながら遥の胸に顔を寄せその突起へと鈴木は唇を寄せている。
びくり、と遥の身体が跳ね、その顔がどれほど白くなるんだろうというくらいに蒼白になっていく。
「いや、やだっ、やだやだっ」
力では敵わないとわかるだろうに抵抗を続ける遥とそれを無視し身体を舐めていく鈴木。
いやだいやだ、と繰り返し暴れている遥の抵抗はあのときよりも強い。
あのときは性に対して認識が少なかった分、はじめての行為にパニックになって思考を奪われ抵抗する気力を削がれてたのか。
いまは行為のひとつひとつがなにを意味するか、全部わかるだろう。
行為によって生じる快感も、全部。
でも、いいじゃないか。
あのときと違って、いまは大好きだった鈴木が相手なんだから。
お前が好きになったのは鈴木だった。
たぶん、出会ったのは俺の方が先だったけれど。
―――俺がはじめて遥に会ったのは遥がまだ中学生のときだ。
ここへは模試で来ていたあのとき。
いまでも華奢だがあの頃はまだ小柄で幼い風貌をしていた。
『……僕、ここに入学できたら先生が担任だったらいいな』
ぽつりと呟いた遥と再会したのは一年後数学の準備室。
少し伸びた身長とようやく高校に慣れた様子の遥の目に映っていたのは鈴木だけだった。
「や、やだ、先生っ」
悲鳴混じりの遥の声が響く。
歪ませたのが元に戻るだけ。
俺が遥を犯さなければ遥はずっと鈴木を好きだっただろう。
あのとき俺じゃなければ、あのとき鈴木にいまのように押し倒されていたら、喜んだだろ?
「やだ、やめっ、せんせっ、先生……っ、助けてっ」
いつの間にか涙を溢れさせていた遥が泣きじゃくりながら俺を見ていた。
「いやだっ、やだぁっ、先生っ、先生っ」
必死で俺へと手を伸ばし助けを求めてくる。
なんで俺に助けを求めるのか。
俺もお前を犯したのに。
―――全部、ただの、お前の勘違いだよ、遥。
「やだやだやだっ、先生っ、理哉せんせっ」
ぼろぼろと涙が落ちていく様を眺める。
そんな俺を遥が縋るように見ている。
絡んでいるようで絡んでいない視線。
「せんせい、お願いっ、先生っ」
ぼろぼろと涙が落ちていく様が。
「―――……っせぇな」
は、と我に返る。
遥にのしかかっていた鈴木が今までとは違う低い声で心底うざったそうに吐き捨て遥を冷たい目で見下ろした。
鈴木の雰囲気が変わった。
そのことに遥も気づいたのだろう。
しきりにあげていた抵抗の声は途切れ怯えが増す。
「いい加減、イヤイヤもうぜーな。面倒くせぇし」
普段の鈴木からは考えられないほどの無表情さと冷ややかさ。
固まる遥に鈴木は手を伸ばし、ズボンに手をかけた。
目を見開く遥が弾かれたようにまた抵抗を始めるが、鈴木はその身体を抑え込み下着もろとも脱がせてしまう。
「っ……」
空気にさらされた下肢。
鈴木が脚を開き身体を割り込ませた。
「い、や……だ」
身体の震えをそのままあらわすかのような声。
「ローションで濡らして突っ込めばいーだけだよなぁ」
すでに準備してたローションを手にしたかと思うと鈴木は遥かの下肢へ遠慮なくぶっかけた。
「ッ、ヤ、やめっ、先生っ」
脚を抱え上げようとした鈴木に遥が今までより激しく抵抗しだす。
「いやだっ、やだっ、先生っ、先生っ」
もがき、手足が鈴木へとあたり顔を顰めた鈴木が遥の身体を反転させ、うつぶせにさせると背中で両手を押さえつけた。
するりと腰に触れてくる手にそれでも遥は抵抗を続ける。
本当にーーー。
灰皿にタバコを揉み消し、紫煙を吐き切る。
「いれりゃ、そのうちヨクなってくるんだろ?」
「やだっ、やだっ、先生っ、僕は、葛城先生が、っ」
本当に黙って犯されればよかったのに。
本当にバカだよ。
お前は。
そして、
「……せんせ」
「あ? なんだよ、かつら、ッ」
俺もバカだ。
無理だ、とわかってるのに。
反射的に慌てたように腕で防ごうとした鈴木に構わず、腹へと蹴りをぶち込んだ。
「ッ、ぃてぇっ」
バランスを崩した鈴木がソファから転げ落ちる。
そこにもう一発いれようと足を上げたら、ギョッとしたように鈴木が避けるがすかさずもう片方の足で腹に蹴りをいれた。
「ちょ、っ、おいっ、葛城! ストップ! なにすんだよっ!」
床に転がった鈴木の腹に足をのせたまま、怒鳴りつけてくる鈴木を見下ろす。
「……うっせえんだよ、下手くそが」
「はぁ!? 下手、って、お前俺のテク見たことあんのか! 俺のテクはな―――ッげ」
もう一度足を上げ踏みつけようとしたら鈴木が勢いよく飛び起きて後退し、同時に俺の腰にまわる細い腕。
「せ、んせい……っ」
しがみつくその手が震えているのが伝わってくる。
きつく俺の行動を制するかのような、それでいて助けを求めるかのような。
遥の体温を背中に感じ鈴木を冷たく見据えた。
「出ていけ」
突然俺に蹴られた鈴木は憤った表情で睨みかえしてくる。
「あ? ふざけんなよ、これからだろ」
「出ていけ。こいつに、触るな」
「……はぁ? なんだよ、なに、お前らってまさか付き合ってんの?」
まさか、と驚いたように目を見開く鈴木に、違う、とだけ否定する。
俺の否定にかびくりと遥の身体が震えた。
「いいから出ていけ。もう終わりだ」
鈴木は再び眉を寄せ睨みあげてくる。
黙ってそれを受け、見下ろす。
だが思ったよりもすぐに舌打ちすると鈴木は立ちあがった。
「クソッ!」
苛立たしげに吐き捨て鈴木が歩き出す。それに反応するように遥が一層強く俺にしがみついた。
鈴木は髪をかきむしるようにしながら俺の肩へとわざとぶつかってきた。
一度足を止めて横目に睨んでくる。
至近距離で絡む視線。
「葛城……テメェ、覚えてろよ」
冷ややかに睨みかえせば、
「―――巨乳専門の俺に貧乳触らせた代償は高いからな」
俺の耳元で唸るように低く囁いた。
「……あ?」
「くっそぼけ。遅いんだよクソ」
あーくっそ痛ぇし、ぶつくさ言いながら通り過ぎる鈴木を振り返って見るがヤツは振り返ることなくそのまま部屋を出て行く。
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