Astray

雲乃みい

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第2部

21

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後孔に自分の指がハンドクリームが触れる。
ひんやりとした感触に息を飲む。
触れた、けど、動かせないでいたら「無理なら出ていけ」と先生の冷ややかな声がした。
その声に押されるように僕は息を止めて自分の指を少しだけ動かした。

「……っ」

異物感に鳥肌が立つ。
もう何回も先生を受け入れていたはずなのに、先生じゃないってだけで自分の指でさえ違うって思ってしまう。
眉をきつく寄せて深く息を吸い込んで―――少しづつ指を進めていった。
力を抜かなきゃいけないんだろうけれどどうしても身体中に力が入っていてなかなか指がはいっていかない。
それでも何度か深呼吸を繰り返しながら一本全部うめることはできた。
ここから動かしてほぐしていかなきゃいけない。
いれるだけで精いっぱいでどう動かせばいいのか全然わからなくてまた手が止まってしまう。

「早くしないと授業始まるぞ。俺は別にどうでもいいけどな」
「……っ、んっ」

先生の言葉に慌てて指を動かす。
授業が終わってしまったら鈴木先生も来ちゃうだろうし早くしなきゃ。
いつも先生がしてくれていたようにほぐすことなんてできなくて、でもきついのは自分でもわかっているから指を無理やりもう一本増やした。
苦しさに息を詰めながらハンドクリームの力を借りて恐る恐る指をぎこちなく出し入れする。
快感なんて全然なくて違和感だけ。
早く、って気ばかり焦ってうまく動かせないまままた一本指を増やす。
ギチギチだけどなんとか挿入出来た三本の指を動かしていこうとしたところで―――足音が近づいてきた。

「もう、いい」

先生の声が背後で響く。
肩越しに振り向くと無表情な先生が僕を見下ろしている。

「せ……ん」

言葉の意味に、もう見放されたんだってパニックになった。
いやだって、目頭が熱くなったとき先生の低い声が―――指を抜け、と言った。
混乱したまま言われるまま指を引き抜く。
直後カチャカチャとベルトを外す音がした。
え、と思った途端に背中を押され僕は上半身を机に預けるようにさせられて腰を突きださせられた。
そして、たいしてほぐしていない後孔に熱い塊が宛がわれる。

「……ッ」

驚きに目を見開いた瞬間腰が押し付けられ、無理やり先端が挿ってきた。
充分にほぐしていないせいで初めて犯されたときのような苦しさと痛みが襲う。

「……んっ……ぁ」

でも、止めてほしいなんて思わない。
だから深呼吸を繰り返しながら力を抜くことに意識を集中させた。
そんな僕の中に容赦なくぐんぐんと先生の半身が押し広げるように突き進んでいく。

「っ……ふ……っ」

じわりと額に浮かぶ汗。
机の上で手を握りしめながら苦しくて痛いけど先生のが全部はいりきったときにはほっとしてしまった。
安心したのは一瞬で、すぐに先生が動き出す。
強引に出し入れされる先生のものが摩擦する感触に目眩がする。
痛みは熱さとなって痺れるように蔓延してくる。

「……ぁ……っぁ」

苦しかったはず。
なのに、次第に別の熱に侵されてくる僕の身体。
静かな室内に響いてくるのは肌同士がぶつかる音と僕の喘ぎと、ときおりこぼれる先生の吐息。
こんな状況なのにまた繋がれることができて嬉しいなんて思ってしまっている自分がいる。

「せんせ……い……っ」

呼びかけても先生からの返事はない。
でも一層律動の激しさが増した気がした。
いつもだったら前立腺を刺激されて何回もイかされるけど、いまはただひたすら打ちつけられてる。
僕のものにも触れられていない。
なのに段々と僕の身体は絶頂に近づいていた。
ギシギシと机が揺れる。
僕の身体も揺さぶられるたびに昂ぶっていく。
そして―――

「ッ……く」

深く深く突き挿し呻く先生。
そのすぐあと僕の体内に熱いものが吐き出された。
それに反応するように僕の目の前が真っ白になって一度も触られないままだった半身から白濁が飛び散るのがわかった。

「ぁ……っあ……は……んっ」

先生に教えられた快感になにも考えられないまま支配される。
余韻に身体を震わせながら乱れた呼吸で必死に酸素を吸い込んでいたら先生のものが出ていくのを感じた。
喪失感と脱力感に襲われて床に座り込む。
肌につく床のひんやりとした感触と、後孔から先生が出した欲の印がほんの少し肌を伝う。
カチャカチャと響くベルトの音。
力なく見上げれば僕に背を向け先生がズボンを履きなおしていた。

「―――……これで」

着衣を整えた先生が抑揚のない声で呟く。
僕は先生を見つめつづけ、先生は振り向いてくれない。

「満足か?」

だけどそう吐き出すように言った後、振り向いた。

「……っ」

ここに来たときと変わらない凍てつくような冷たい眼差しが僕を貫く。

「お前、本当に淫乱だな? 犯されてイキまくって、いまも触ってないのにイってたな?」

羞恥に顔が熱くなる。
その通りだけどでもそれは先生だから。

「せんせ……っ、僕はっ」
「……やっぱり今抱いてわかった。ツマラナイんだよ、お前。もう飽きた。学校のこと以外で俺のところにくるな」

侮蔑。
そんな言葉が浮かぶくらい先生の声は僕を拒絶していた。

「……先生っ」

ツマラナイって言われた。
飽きたって言われた。
でも、でも―――。

「先生っ、僕、先生がっ」
「もうすぐ授業が終わる時間だ。俺は煙草吸ってくる。お前は汚いもの掃除してとっとと出ていけ」

僕の声を遮り先生が歩き出す。

「先生っ!!」

必死で先生って呼びかけた。
だけど先生は振り向きもしないでドアを開ける。



「先生、僕は先生が好―――」

そして、

「―――」

閉じた。



しんと静まりかえる室内。
性交の熱がまだ残っているはずなのに冷え切っている空気。
僕は呆然として動くことができなかった。
ドアが閉まる瞬間聞こえてきた呟き。



―――気持ち悪いんだよ。



「……は」



一気に目の前が歪んだ。
ぼたぼたと熱い雫が床に落ちていく。
ぼたぼたと落ちていくそれを止めることができず、先生に掃除しておけって言われたのに動くことができず。
授業が終わるチャイムが鳴るギリギリまでその場にうずくまっていることしができなかった。





side H


第2部 END
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