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第2部
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だけどそれは一瞬で、そうだったのかわからない。
いつもならしばらくそのままで、そして続けて2回目をすることもある。
けど今日は体内から先生のものが出ていくのを感じて、それっきり先生はベッドサイドに座って煙草を吸いはじめた。
僕は脱力はしていたけど、でもいつもほどの倦怠感はない。
いつもはたいてい何度もイかされて、最後はよくわからなくて寝てしまってるから。
もうしないんだろうか、休憩なんだろうか。
快楽の余韻がとけていくと思考もはっきりしてきて、どうすればいいのかわからずにシーツにくるまった。
「……シャワー浴びて来い」
慣れない煙草の匂いと沈黙に息苦しさを感じていたら先生がそう言ってきた。
そっと先生の背中を見る。
いままで言われたことのないことだった。
いつもは目が覚めてココアを飲んで、送ってもらって。
それだけだったけど、でもいまシャワーという言葉を聞いてひとつ気づいたことがある。
いまさらだけど自分で吐き出したり汗でべたついていたはずの僕の身体はいつも綺麗だった。
行為自体が怖くて、なにも考えてなかったけど―――先生が、綺麗にしてくれてたんだろうか。
本当にいまさらすぎるけど、訊けない。
動くことができない僕を先生が振り返って見る。
「トイレの隣が風呂だ」
「……は……い」
それでも戸惑ってしまう。
それにいま全裸だし……、このままお風呂まで行かなきゃいけない……んだよね。
「……身体べたついてるだろ。あと……今日、ゴム忘れたから」
「……え?」
先生は少し気まずそうに視線を逸らした。
ゴムを忘れた。
それが何を意味するのか、答えにいきつくのに数十秒かかって僕の顔は熱く火照った。
「……お前、出せるか」
「……え?」
「……」
なにを、って言いかけた僕に先生はため息をつく。
それに思わずビクッとしてしまってたら、先生は煙草の火を消して僕の方を向くと手を取った。
「シャワー浴びるぞ」
来い、と引っ張られる。
もしかして一緒にお風呂に入るのかな。
軽く頭の中がパニックになるけど、先生の手を振りほどけるわけがない。
どうしたらいいのかわからないままお風呂についた。
僕の家よりも狭いお風呂。
ユニットバスのそこは僕と先生が一緒にはいると窮屈に感じる。
「……っ」
どこに視線を向ければいいのかわからずにあちこちを見てたら急に冷水が頭上から降ってきた。
少しして温水になるけど、びっくりして僕は身体を竦ませる。
「壁に手をつけ」
不安はあったけど言われる通りにした。
もしかしたら先生はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。
そう思いもするけど、なにをされるんだろうと怖さの方がやっぱり多くて、先生に背を向けながら唇を噛みしめた。
緊張していると先生の手が腰に触れてくる。
「脚開け。すぐ終わらせる」
「……は……い」
なにするんだろう。
やっぱり……またスるんだろうか。
困惑してると後孔に指が触れてきて、あっさりと指が挿入された。
「……っ」
グッと歯を噛み合わせる。
さっきまで先生のものが挿っていたそこは敏感になってて、指が動くたびに背筋に快感が走ってしまう。
先生の指は後孔をかきまわすようにしてた。
しばらくして指が抜かれてシャワーがかけられる。
そして、
「終わったぞ。ついでに身体洗っておけ。その辺にあるの適当に使え」
「……え?」
声を耐えるのに必死だった僕は先生の言葉を認識するのにすこしかかって、振り返ったときには先生は浴室から出ていってしまった。
浴室のドアが閉まって、向こう側に先生の影が見える。
どういうことかわからなくて戸惑いながらも、身体を濡らすシャワーにのろのろと身体を洗いだした。
いったいさっきのはなんだったんだろう。
言われたとおりに先生のボディスポンジを借りて、ボディソープを借りて。
―――あ、これ先生と同じ匂いだ。
そんなことに気づいた。
学校では気づくことがなかった香り。
ここへ来るようになって先生に抱かれるようになってから、僕が意識を飛ばしてしまったあと、先生はシャワーを浴びているようで。
起きたときに先生からこの匂いをかいだことがあった。
清潔感のあるハーブの香り。
その匂いを漂わせる泡で全身を洗いながら、先生と同じなんだって……どうしてか妙に気恥ずかしくなって慌てて泡を洗い流した。
シャワーを終えて浴室を出ると、バスタオルと寝室に脱いだままにしていた洋服がきれいに畳んで置いてあった。
それに着替えてリビングへと向かうと香ばしい匂いがしている。
先生はキッチンに立ってフライパンを動かしていてなにか作っているのがわかった。
だけど近づくこともできず、どうすればいいかわからずにその場に立ちつくす。
先生は僕に気づいていないのか調理をつづけていたけど味見をしているときに僕の視線に気づいたようでこっちを見た。
「座ってろ」
「……はい」
言われるままにソファに座ってしばらく待っていると先生が料理を運んできた。
「スープはインスタントだ」
「……」
僕の前に置かれたのはチャーハンとワカメのスープ。
先生の分も同じテーブルに置かれて、お茶が出される。
そして先生は僕の斜め向かいに座ると「いただきます」と言って食べ始めた。
先生が作ったチャーハンとスープ。
目の前にあるということは食べていいっていうことなんだろうけど、手を動かせなかった。
先生の食べるペースは早くて僕が躊躇っている間にあっというまに半分ほど皿が空いていく。
視線を落ちつきなくうろうろとチャーハンや手元へとさまよわせていると先生の声がした。
「冷めるぞ」
「……はい」
短い言葉に押されるようにチャーハンを一口食べた。
パラパラときちんとご飯が炒められたチャーハン。
「おいしい」
お母さんが作るのよりも正直美味しくて、思わず口からそうこぼれていた。
静かな部屋の中に僕の声は大きく聞こえる。
ハッとして口をつぐんで先生を盗み見るけれど先生は黙々と食べていて反応はなかった。
気まずさを感じながらもチャーハンを食べ進めていくうちに、その美味しさにだんだんと緊張はほぐれていく。
食べてしまえばお腹が空いてたんだなって実感して先生より少し遅れて僕も完食した。
インスタントらしいスープも美味しくてシンプルなメニューだけどお腹いっぱいで満足感があった。
ごちそうさまでした、と手を合わせたら先生が空いた皿をキッチンに運んでいく。
僕も自分の分の皿を持っていって「洗いましょうか」と声をかけた。
「いい」
素っ気なく返して先生はリビングに戻る。
食器はあとで洗うらしくテーブルにつくとお茶を飲みながら数冊の本らしきものを取りだした。
「なににする?」
「え?」
テーブルの片隅に置いてあった煙草を手繰り寄せ、一本咥えて火をつける様子を見ながら首を傾けた。
「……勉強だよ」
「……」
言われてテーブルの上の冊子を見たら参考書やプリント類だった。
「……えっと」
なんて返事をすればいいのかわからなかった。
「勉強道具持ってきてるんだろ?」
「……持ってきてます」
そう言えば今日この部屋に来てすぐも聞かれたことを思い出す。
「じゃあ出せ」
「……はい」
言われるままに問題集を出して広げる。
カサカサと紙の擦れる音と先生の煙草の匂いが充満していく部屋の中。
「……夕食の時間は何時だ」
「え? あ、えっと7時半です」
「……6時には送る」
「は、い……」
混乱したままの僕に先生は勉強を促し、することにした。
お母さんに"勉強してくる"と言ったのは先生に会うという後ろめたさを隠すためで。
でも"勉強してくる"っていうのは嘘だったから、その分にも後ろめたさもあって。
だけど実際にいま勉強することに違和感が―――。
「わからないところは言え」
「……はい」
昼下がりの静かな時間。
休日だからか遠くで子供の遊び声が微かに聞こえてきていた。
さっきまでの情事なんてなかったように、まるで学校で、あの準備室で放課後教えてもらっていたひとときのように僕と先生は勉強をして過ごした。
「ありがとうございました」
そして約束通り先生のアパートを6時に出て、30分後には僕の家の近所についた。
いや、と聞こえるかどうかくらいの小さな返事のあと車は去っていく。
僕はそれを見送って家に入って、リビングのお母さんに声をかけて自室に向かった。
バッグを下ろしてベッドに身体を投げ出すように飛び込んで枕に顔をうずめる。
今日一日がとてつもなく長いものだったような気がする。
午前中に先生の家に行って―――犯されて。
そのあとお昼を食べて、勉強をして、そして―――。
ほんの二時間ほど前にまた開かれた身体はまだ少しだけ熱を残しているような気がして寝がえりをうつと膝を丸めて目を閉じた。
いつもと違う過ごし方。
昼前に出掛けたときは不安ばかりだったのに、帰ってきたいまはよくわかんないけどモヤモヤとしたものが心の中に広がってる。
よく、わからない。
勉強がひと段落して休憩しようとなってココアを出されてそれを飲んで、そして先生と視線があって。
先生は僕から視線を逸らせて何かを見て、僕はその視線を追ってそれが時計だってことを知った。
気にかけてたのは僕が帰る時間?
時計の針は4時にかかるくらいだった。
僕はそれを見てあと二時間なんだって思って、そしてまた先生を見たら目があって。
のしかかる重みはまだ残ってる。
二度目はリビングでだった。
ラグの上で、先生に抱かれて―――。
『――遥』
始まりの合図である名前を行為の最中に呼ばれた。
先生が僕の名前を呼ぶ回数は少ない。
今日会って3回だけだし。
その3回目は余裕のない掠れた低い声。
なぜか背筋が震えてしまうような響きのある声で僕の名前を囁かれたけど、後ろから貫かれていた僕は先生がどんな表情をしているのかは見えなかった。
だけど、なんだか……なんなんだろう。
「―――先生は」
どうして僕を、抱くんだろう。
恐怖や不安じゃなく、単純にそう初めてその日僕は思った。
***
いつもならしばらくそのままで、そして続けて2回目をすることもある。
けど今日は体内から先生のものが出ていくのを感じて、それっきり先生はベッドサイドに座って煙草を吸いはじめた。
僕は脱力はしていたけど、でもいつもほどの倦怠感はない。
いつもはたいてい何度もイかされて、最後はよくわからなくて寝てしまってるから。
もうしないんだろうか、休憩なんだろうか。
快楽の余韻がとけていくと思考もはっきりしてきて、どうすればいいのかわからずにシーツにくるまった。
「……シャワー浴びて来い」
慣れない煙草の匂いと沈黙に息苦しさを感じていたら先生がそう言ってきた。
そっと先生の背中を見る。
いままで言われたことのないことだった。
いつもは目が覚めてココアを飲んで、送ってもらって。
それだけだったけど、でもいまシャワーという言葉を聞いてひとつ気づいたことがある。
いまさらだけど自分で吐き出したり汗でべたついていたはずの僕の身体はいつも綺麗だった。
行為自体が怖くて、なにも考えてなかったけど―――先生が、綺麗にしてくれてたんだろうか。
本当にいまさらすぎるけど、訊けない。
動くことができない僕を先生が振り返って見る。
「トイレの隣が風呂だ」
「……は……い」
それでも戸惑ってしまう。
それにいま全裸だし……、このままお風呂まで行かなきゃいけない……んだよね。
「……身体べたついてるだろ。あと……今日、ゴム忘れたから」
「……え?」
先生は少し気まずそうに視線を逸らした。
ゴムを忘れた。
それが何を意味するのか、答えにいきつくのに数十秒かかって僕の顔は熱く火照った。
「……お前、出せるか」
「……え?」
「……」
なにを、って言いかけた僕に先生はため息をつく。
それに思わずビクッとしてしまってたら、先生は煙草の火を消して僕の方を向くと手を取った。
「シャワー浴びるぞ」
来い、と引っ張られる。
もしかして一緒にお風呂に入るのかな。
軽く頭の中がパニックになるけど、先生の手を振りほどけるわけがない。
どうしたらいいのかわからないままお風呂についた。
僕の家よりも狭いお風呂。
ユニットバスのそこは僕と先生が一緒にはいると窮屈に感じる。
「……っ」
どこに視線を向ければいいのかわからずにあちこちを見てたら急に冷水が頭上から降ってきた。
少しして温水になるけど、びっくりして僕は身体を竦ませる。
「壁に手をつけ」
不安はあったけど言われる通りにした。
もしかしたら先生はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。
そう思いもするけど、なにをされるんだろうと怖さの方がやっぱり多くて、先生に背を向けながら唇を噛みしめた。
緊張していると先生の手が腰に触れてくる。
「脚開け。すぐ終わらせる」
「……は……い」
なにするんだろう。
やっぱり……またスるんだろうか。
困惑してると後孔に指が触れてきて、あっさりと指が挿入された。
「……っ」
グッと歯を噛み合わせる。
さっきまで先生のものが挿っていたそこは敏感になってて、指が動くたびに背筋に快感が走ってしまう。
先生の指は後孔をかきまわすようにしてた。
しばらくして指が抜かれてシャワーがかけられる。
そして、
「終わったぞ。ついでに身体洗っておけ。その辺にあるの適当に使え」
「……え?」
声を耐えるのに必死だった僕は先生の言葉を認識するのにすこしかかって、振り返ったときには先生は浴室から出ていってしまった。
浴室のドアが閉まって、向こう側に先生の影が見える。
どういうことかわからなくて戸惑いながらも、身体を濡らすシャワーにのろのろと身体を洗いだした。
いったいさっきのはなんだったんだろう。
言われたとおりに先生のボディスポンジを借りて、ボディソープを借りて。
―――あ、これ先生と同じ匂いだ。
そんなことに気づいた。
学校では気づくことがなかった香り。
ここへ来るようになって先生に抱かれるようになってから、僕が意識を飛ばしてしまったあと、先生はシャワーを浴びているようで。
起きたときに先生からこの匂いをかいだことがあった。
清潔感のあるハーブの香り。
その匂いを漂わせる泡で全身を洗いながら、先生と同じなんだって……どうしてか妙に気恥ずかしくなって慌てて泡を洗い流した。
シャワーを終えて浴室を出ると、バスタオルと寝室に脱いだままにしていた洋服がきれいに畳んで置いてあった。
それに着替えてリビングへと向かうと香ばしい匂いがしている。
先生はキッチンに立ってフライパンを動かしていてなにか作っているのがわかった。
だけど近づくこともできず、どうすればいいかわからずにその場に立ちつくす。
先生は僕に気づいていないのか調理をつづけていたけど味見をしているときに僕の視線に気づいたようでこっちを見た。
「座ってろ」
「……はい」
言われるままにソファに座ってしばらく待っていると先生が料理を運んできた。
「スープはインスタントだ」
「……」
僕の前に置かれたのはチャーハンとワカメのスープ。
先生の分も同じテーブルに置かれて、お茶が出される。
そして先生は僕の斜め向かいに座ると「いただきます」と言って食べ始めた。
先生が作ったチャーハンとスープ。
目の前にあるということは食べていいっていうことなんだろうけど、手を動かせなかった。
先生の食べるペースは早くて僕が躊躇っている間にあっというまに半分ほど皿が空いていく。
視線を落ちつきなくうろうろとチャーハンや手元へとさまよわせていると先生の声がした。
「冷めるぞ」
「……はい」
短い言葉に押されるようにチャーハンを一口食べた。
パラパラときちんとご飯が炒められたチャーハン。
「おいしい」
お母さんが作るのよりも正直美味しくて、思わず口からそうこぼれていた。
静かな部屋の中に僕の声は大きく聞こえる。
ハッとして口をつぐんで先生を盗み見るけれど先生は黙々と食べていて反応はなかった。
気まずさを感じながらもチャーハンを食べ進めていくうちに、その美味しさにだんだんと緊張はほぐれていく。
食べてしまえばお腹が空いてたんだなって実感して先生より少し遅れて僕も完食した。
インスタントらしいスープも美味しくてシンプルなメニューだけどお腹いっぱいで満足感があった。
ごちそうさまでした、と手を合わせたら先生が空いた皿をキッチンに運んでいく。
僕も自分の分の皿を持っていって「洗いましょうか」と声をかけた。
「いい」
素っ気なく返して先生はリビングに戻る。
食器はあとで洗うらしくテーブルにつくとお茶を飲みながら数冊の本らしきものを取りだした。
「なににする?」
「え?」
テーブルの片隅に置いてあった煙草を手繰り寄せ、一本咥えて火をつける様子を見ながら首を傾けた。
「……勉強だよ」
「……」
言われてテーブルの上の冊子を見たら参考書やプリント類だった。
「……えっと」
なんて返事をすればいいのかわからなかった。
「勉強道具持ってきてるんだろ?」
「……持ってきてます」
そう言えば今日この部屋に来てすぐも聞かれたことを思い出す。
「じゃあ出せ」
「……はい」
言われるままに問題集を出して広げる。
カサカサと紙の擦れる音と先生の煙草の匂いが充満していく部屋の中。
「……夕食の時間は何時だ」
「え? あ、えっと7時半です」
「……6時には送る」
「は、い……」
混乱したままの僕に先生は勉強を促し、することにした。
お母さんに"勉強してくる"と言ったのは先生に会うという後ろめたさを隠すためで。
でも"勉強してくる"っていうのは嘘だったから、その分にも後ろめたさもあって。
だけど実際にいま勉強することに違和感が―――。
「わからないところは言え」
「……はい」
昼下がりの静かな時間。
休日だからか遠くで子供の遊び声が微かに聞こえてきていた。
さっきまでの情事なんてなかったように、まるで学校で、あの準備室で放課後教えてもらっていたひとときのように僕と先生は勉強をして過ごした。
「ありがとうございました」
そして約束通り先生のアパートを6時に出て、30分後には僕の家の近所についた。
いや、と聞こえるかどうかくらいの小さな返事のあと車は去っていく。
僕はそれを見送って家に入って、リビングのお母さんに声をかけて自室に向かった。
バッグを下ろしてベッドに身体を投げ出すように飛び込んで枕に顔をうずめる。
今日一日がとてつもなく長いものだったような気がする。
午前中に先生の家に行って―――犯されて。
そのあとお昼を食べて、勉強をして、そして―――。
ほんの二時間ほど前にまた開かれた身体はまだ少しだけ熱を残しているような気がして寝がえりをうつと膝を丸めて目を閉じた。
いつもと違う過ごし方。
昼前に出掛けたときは不安ばかりだったのに、帰ってきたいまはよくわかんないけどモヤモヤとしたものが心の中に広がってる。
よく、わからない。
勉強がひと段落して休憩しようとなってココアを出されてそれを飲んで、そして先生と視線があって。
先生は僕から視線を逸らせて何かを見て、僕はその視線を追ってそれが時計だってことを知った。
気にかけてたのは僕が帰る時間?
時計の針は4時にかかるくらいだった。
僕はそれを見てあと二時間なんだって思って、そしてまた先生を見たら目があって。
のしかかる重みはまだ残ってる。
二度目はリビングでだった。
ラグの上で、先生に抱かれて―――。
『――遥』
始まりの合図である名前を行為の最中に呼ばれた。
先生が僕の名前を呼ぶ回数は少ない。
今日会って3回だけだし。
その3回目は余裕のない掠れた低い声。
なぜか背筋が震えてしまうような響きのある声で僕の名前を囁かれたけど、後ろから貫かれていた僕は先生がどんな表情をしているのかは見えなかった。
だけど、なんだか……なんなんだろう。
「―――先生は」
どうして僕を、抱くんだろう。
恐怖や不安じゃなく、単純にそう初めてその日僕は思った。
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