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第1部
2
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澤野遥を初めて見たのは2年前だ。
まだ澤野―――……遥が中学3年生のとき、模試でうちの高校に来ていたのを観たのが最初。
いまでさえ幼いのに、当時はもっと幼く少女のようにも見えた。
そのときたまたま少しだけ話した。
ただ―――それだけ。
他にはなにもない。
春になり入学してきた遥の担任は鈴木で、俺は違った。
それだけ、だ。
放課後、週に何回か準備室へ来るようになり挨拶くらいは交わすようになった。
そしてまた春が来て、今度は俺があいつの担任になった。
放課後、週に何回か準備室へ来るのは変わらなかった。
あいつと鈴木の接点はなくなってしまった。
だから―――放課後の勉強が例えそれが俺を通してであってもあいつが鈴木と会えるわずかな時間だったからだ。
ただ、それだけ、だ。
何年経とうが俺の位置は変わらない。
***
「雨、ひどいですね」
唸るような風が吹いているのが窓越しでも室内に響いていた。
雨音も強く時折窓が揺れている。
安いアパートの俺の部屋の窓はそう耐久性もなく雨戸もない。
不安定に揺れ天候の悪さをそのまま伝えてくる。
「……そうだな」
明るいよりも、暗い方がましか?
まるで夜のように外は暗く、室内も電気をつけてはいても微かに暗い。
1LDKの室内。リビングにはテーブルと二人掛けソファとテレビと背の低い本棚。
俺はソファーの下に座り、遥は向いに座っていた。
「美味しい」
淹れてやったココアを暖をとるように手にし、頬を緩めて飲んでいる。
「先生も、ココア好きなんですね」
「……ああ」
別に好きじゃない。
基本甘いものは食さないし飲まない。
それでも今日それを用意したのはこいつがココアを好きだからだ。
テレビをつけ適当にチャンネルを変える。
サスペンスドラマの再放送があっていてそれに合わせた。
部屋の中は雨音とテレビの音だけであとは静かだ。
ココアを飲んでいた遥は次第にテレビを眺めている俺へとちらちら視線を寄こしてきた。
映画はみないのか。
そうその眼差しが言っている。
「……澤野」
「はい」
「お前、このドラマの犯人知ってる?」
「……いえ」
「じゃあ悪いけど、犯人わかるまで観ていいか」
「……はい」
本当は犯人なんてどうでもいい。
落ち付かなさそうに、それでも仕方なさそうに遥もまた俺と同じように興味なくテレビを観はじめる。
面白くもないサスペンス。
きまりきった道筋、犯人。
どうでもいいが―――犯人が捕まらなければいいのに、とも思う。
途中から観はじめたそのドラマは30分ほどして犯人が割れた。
会話はなく、やはり室内にある音は雨とテレビの音だけ。
やがてエンドロールが流れ出し―――遥が言った。
「……あの。映画、観ます?」
こいつなりに勇気を出して話しかけたんだろう。
目的は最初から鈴木が貸してきたDVDを見ることで、無為にテレビを見るためじゃない。
それでも俺の指はリモコンを操作しチャンネルを変える。
「……先生?」
戸惑ったように遥が俺を見、俺はテーブルの上に置いていたDVDケースを手に取った。
「見るか」
「はい」
ほっとしたように遥が頷く。
俺はケースからそれを取り出し緩慢な動作でDVDプレーヤーにセットした。
ほんの微かにDVDを読み込む機械音が響く。
テレビの出力を変える。
そして―――始まる。
馬鹿げた、ゲームが。
***
『……ッんあ、やぁっ、はっ……ぁあん』
一層激しさを増している雨音に混じり、女の嬌声が響いていた。
テレビに映し出されているのは半裸にさせられ二人の男にヤられている女の映像。
俺は煙草を吸いながらそれを眺めていた。
ついさっきまで見ていたサスペンスドラマと変わらず興味などなく。
『……ひ、ァンっ、舐めないでぇっ』
女が拒絶する言葉を吐きながら股間を男の顔に擦りつけている。
「……あ、あの……先生……」
"涙と感動を誘うヒューマンドラマ"な映画が始まるはずなのに、なぜか始まったのはAV。
顔を赤くさせた遥は困惑したようにテレビから顔を背けていた。
「あの、これっ」
「鈴木な」
「え」
「複数プレイが好きなんだとさ」
「……」
「リアルじゃねーぞ。AVな」
乾いた笑みを浮かべて遥を見ると一瞬目があった。
だがそれはすぐに逸らされる。
「でもって巨乳フェチ。ほらこの女優、胸でかいだろ?」
煙草を持ったまま画面を指差す。
思わず見た遥は慌てたように再び顔を背けた。
「……せ、先生。あの……映画は」
「だから、これだろ? 鈴木のお気に入りの一枚。男二人に前と後ブッこまれてよがりまくってイイらしいぞ」
AVを見たことがないのか遥は耳まで赤く縮こまっている。
律儀に正座した膝の上に手を握りしめて軽くパニックになっているのがわかった。
「あいつさぁ、AVオタクなんだよ。爽やかそうな顔して変態だろ?」
「……」
「今日も見ながらヤってんじゃねーかな。―――彼女と」
紫煙を吐き出しながらまたひとつ情報を落としてやれば遥は肩を震わせて顔を上げた。
真っ赤に染まった顔がわずかに歪んでる。
「ああ、知らなかったか? あいつ彼女いるぞ。同棲中の」
抑揚なく、どうでもよく言えば遥は再び俯いた。
その様子に冷たい笑いが浮かぶのを感じる。
「残念だったな」
声にも冷たさがこもっているのも実感した。
ガタガタと窓が揺れる音と雨音と女の喘ぎ声がうるさい室内で沈黙が落ちる。
―――え。
と、遥の消え入りそうな驚きの声が俺の耳に届いたのは少ししてからだった。
煙草を消し、立ち上がる。
身体を震わせ俺を見上げる遥と目が合う。
「お前、AV見るの初めてか?」
「……あ、あの」
混乱と戸惑いに半ば呆然としている遥がその顔に怯えを滲ませる。
そんなに俺の顔は怖くなってるんだろうか。
低い笑いをこぼせばさらに遥の顔が歪んだ。
「AV見たことねーの、って聞いてるんだけど」
俺を見上げる遥は何度も目をしばたたかせて、ようやく首を縦に振った。
「へぇ。お前、童貞だよな?」
俺が投げかける言葉に赤かった顔はどんどん青くなっていく。
そりゃそうだろう。
いきなりAVが始まり、俺からは意味のわからないことを聞かれ不安だよなぁ。
「澤野」
俺は笑って―――遥の肩を足で蹴飛ばした。
といってもそんなに強く蹴ったわけじゃない。
バランスを崩すくらいの強さだ。
遥は仰向けに倒れた。
「……せ、ん」
言葉は消え入りただ愕然とした遥の目が俺を映す。
肩を蹴った足をそのまま遥の脚の間へと下ろした。
「―――……勃ってんな。初めてのAVで興奮したか?」
足の裏に感じる確かな硬い感触に目を細め踵で踏む。
驚きすぎて目を見開いていた遥は我に返ったように突然動き出した。
俺の脚から逃げ、体勢を立て直そうとする背に再び蹴りを入れる。
そして床に沈んだ身体を跨ぎ、両手を縫いつけるように押さえつける。
「なんだ女でも勃つんだな。てっきり男しかダメなのかと思ってた」
「……なん…っ」
「あ? お前、鈴木のこと好きなんだろ?」
遥の顔が歪み信じられないものでも見るように俺を見つめる。
「気づいてないと思ってたか? バレバレだよ、お前。まぁ鈴木は馬鹿だから気づいてないけどな」
いまのこの状況をひとつも受け止めも理解もできずにいる遥に笑いがこみ上げる。
両手は塞がっている。
だから顔を近づけ、呆然と薄く開いた口を塞ぎ舌を差し込んだ。
激しく抵抗をしだした遥をねじ伏せたまま咥内を一舐めし、一旦唇を離す。
「……っ、なん、で……っ」
「澤野、お前さ」
血の気の失せた遥は小刻みに口を震わせていた。
ただひたすらに驚き、怯えている。
だからわかりやすいように教えてやった。
「お前、いまから俺に犯されるから」
普段通りの声量で告げたその言葉は、外の暴風雨のせいで少し小さく響く。
遥は感情の抜け落ちたような顔をした。
許容範囲を超えたのか、理解不能すぎたのか。
俺の言葉の意味を理解するまで俺は黙って遥を眺めていた。
「……え……? え」
押さえつけた手から、その脈が激しくなっているのがわかる。
いまこの胸に耳をあてたらどれだけ速い鼓動が聞こえるんだろうか。
「噛むなよ」
どうやったって遥にこの状況を認識することなんてできるはずがない。
だから答えをまたずに再び唇を塞いだ。
「んんんーっ」
抵抗するのを無視し歯列を舐め、舌を絡めていく。
拒否するように逃げる舌を吸い上げながら―――右手を離した。
遥は自由になった片方の手に気づき俺の肩を押してくる。
だが貧弱なこいつが俺に勝てるはずがない。
そのまま咥内を貪りながら空いた手を遥の身体に這わせていく。
「……ッ! っん……ッ、ン!!」
下へと手を伸ばせばさっきは確かに硬かった感触がなくなっている。
そりゃ萎えて当然か、と胸の内で呟きながらそのままズボンの前を緩め中に手を差し込む。
最初から直に触れてやれば激しく身体が震え、俺の舌に激痛が走った。
「―――……ってぇ」
口の中で唾液に混じる鉄の味。
跨ったままでもう片方の手も解放し身体を起こす。
自分の指を舐めてみれば薄い赤が滲む。
「噛むなって、言ったろ」
ため息をつきながら見下ろすと遥は今にもこぼれそうなほど涙を溜めて身体を震わせていた。
自然と顔を寄せ、その目元に舌を這わせる。
白い肌にわずかについた血と、俺の舌に感じる塩味。
「澤野」
言葉もなく遥は呼ばれたことに反応し俺の方を震えながらちらちらと見る。
恐怖のあまり視線を合わせることもできないでいる様子に可哀想になと思う。
気の毒に。
可哀想に、
可哀想に―――……。
「俺、痛いの苦手だからもう噛むな。あと、お前も痛いのはイヤだろう? 俺も痛い想いはさせたくないから。わかるよな」
俺なんかに目をつけられたばかりに、こんな目にあって。
顔を強張らせる遥を眺めながら俺はソファのよこに置いておいた紙袋を手を伸ばしてとった。
そこから用意していたものを取り出す。
遥は"コレ"がなんなのかわからないらしい。
まぁ普通目にすることなんてないだろう。
ドラマで見かけるようなものとは違う、両手をひとくくりにまとめ拘束するための―――手錠。
呆然としすぎているのか力がはいらないのか俺に跨がれたままの遥が再び抵抗をはじめたのは―――それを片方遥の手にかけてからだった。
まだ澤野―――……遥が中学3年生のとき、模試でうちの高校に来ていたのを観たのが最初。
いまでさえ幼いのに、当時はもっと幼く少女のようにも見えた。
そのときたまたま少しだけ話した。
ただ―――それだけ。
他にはなにもない。
春になり入学してきた遥の担任は鈴木で、俺は違った。
それだけ、だ。
放課後、週に何回か準備室へ来るようになり挨拶くらいは交わすようになった。
そしてまた春が来て、今度は俺があいつの担任になった。
放課後、週に何回か準備室へ来るのは変わらなかった。
あいつと鈴木の接点はなくなってしまった。
だから―――放課後の勉強が例えそれが俺を通してであってもあいつが鈴木と会えるわずかな時間だったからだ。
ただ、それだけ、だ。
何年経とうが俺の位置は変わらない。
***
「雨、ひどいですね」
唸るような風が吹いているのが窓越しでも室内に響いていた。
雨音も強く時折窓が揺れている。
安いアパートの俺の部屋の窓はそう耐久性もなく雨戸もない。
不安定に揺れ天候の悪さをそのまま伝えてくる。
「……そうだな」
明るいよりも、暗い方がましか?
まるで夜のように外は暗く、室内も電気をつけてはいても微かに暗い。
1LDKの室内。リビングにはテーブルと二人掛けソファとテレビと背の低い本棚。
俺はソファーの下に座り、遥は向いに座っていた。
「美味しい」
淹れてやったココアを暖をとるように手にし、頬を緩めて飲んでいる。
「先生も、ココア好きなんですね」
「……ああ」
別に好きじゃない。
基本甘いものは食さないし飲まない。
それでも今日それを用意したのはこいつがココアを好きだからだ。
テレビをつけ適当にチャンネルを変える。
サスペンスドラマの再放送があっていてそれに合わせた。
部屋の中は雨音とテレビの音だけであとは静かだ。
ココアを飲んでいた遥は次第にテレビを眺めている俺へとちらちら視線を寄こしてきた。
映画はみないのか。
そうその眼差しが言っている。
「……澤野」
「はい」
「お前、このドラマの犯人知ってる?」
「……いえ」
「じゃあ悪いけど、犯人わかるまで観ていいか」
「……はい」
本当は犯人なんてどうでもいい。
落ち付かなさそうに、それでも仕方なさそうに遥もまた俺と同じように興味なくテレビを観はじめる。
面白くもないサスペンス。
きまりきった道筋、犯人。
どうでもいいが―――犯人が捕まらなければいいのに、とも思う。
途中から観はじめたそのドラマは30分ほどして犯人が割れた。
会話はなく、やはり室内にある音は雨とテレビの音だけ。
やがてエンドロールが流れ出し―――遥が言った。
「……あの。映画、観ます?」
こいつなりに勇気を出して話しかけたんだろう。
目的は最初から鈴木が貸してきたDVDを見ることで、無為にテレビを見るためじゃない。
それでも俺の指はリモコンを操作しチャンネルを変える。
「……先生?」
戸惑ったように遥が俺を見、俺はテーブルの上に置いていたDVDケースを手に取った。
「見るか」
「はい」
ほっとしたように遥が頷く。
俺はケースからそれを取り出し緩慢な動作でDVDプレーヤーにセットした。
ほんの微かにDVDを読み込む機械音が響く。
テレビの出力を変える。
そして―――始まる。
馬鹿げた、ゲームが。
***
『……ッんあ、やぁっ、はっ……ぁあん』
一層激しさを増している雨音に混じり、女の嬌声が響いていた。
テレビに映し出されているのは半裸にさせられ二人の男にヤられている女の映像。
俺は煙草を吸いながらそれを眺めていた。
ついさっきまで見ていたサスペンスドラマと変わらず興味などなく。
『……ひ、ァンっ、舐めないでぇっ』
女が拒絶する言葉を吐きながら股間を男の顔に擦りつけている。
「……あ、あの……先生……」
"涙と感動を誘うヒューマンドラマ"な映画が始まるはずなのに、なぜか始まったのはAV。
顔を赤くさせた遥は困惑したようにテレビから顔を背けていた。
「あの、これっ」
「鈴木な」
「え」
「複数プレイが好きなんだとさ」
「……」
「リアルじゃねーぞ。AVな」
乾いた笑みを浮かべて遥を見ると一瞬目があった。
だがそれはすぐに逸らされる。
「でもって巨乳フェチ。ほらこの女優、胸でかいだろ?」
煙草を持ったまま画面を指差す。
思わず見た遥は慌てたように再び顔を背けた。
「……せ、先生。あの……映画は」
「だから、これだろ? 鈴木のお気に入りの一枚。男二人に前と後ブッこまれてよがりまくってイイらしいぞ」
AVを見たことがないのか遥は耳まで赤く縮こまっている。
律儀に正座した膝の上に手を握りしめて軽くパニックになっているのがわかった。
「あいつさぁ、AVオタクなんだよ。爽やかそうな顔して変態だろ?」
「……」
「今日も見ながらヤってんじゃねーかな。―――彼女と」
紫煙を吐き出しながらまたひとつ情報を落としてやれば遥は肩を震わせて顔を上げた。
真っ赤に染まった顔がわずかに歪んでる。
「ああ、知らなかったか? あいつ彼女いるぞ。同棲中の」
抑揚なく、どうでもよく言えば遥は再び俯いた。
その様子に冷たい笑いが浮かぶのを感じる。
「残念だったな」
声にも冷たさがこもっているのも実感した。
ガタガタと窓が揺れる音と雨音と女の喘ぎ声がうるさい室内で沈黙が落ちる。
―――え。
と、遥の消え入りそうな驚きの声が俺の耳に届いたのは少ししてからだった。
煙草を消し、立ち上がる。
身体を震わせ俺を見上げる遥と目が合う。
「お前、AV見るの初めてか?」
「……あ、あの」
混乱と戸惑いに半ば呆然としている遥がその顔に怯えを滲ませる。
そんなに俺の顔は怖くなってるんだろうか。
低い笑いをこぼせばさらに遥の顔が歪んだ。
「AV見たことねーの、って聞いてるんだけど」
俺を見上げる遥は何度も目をしばたたかせて、ようやく首を縦に振った。
「へぇ。お前、童貞だよな?」
俺が投げかける言葉に赤かった顔はどんどん青くなっていく。
そりゃそうだろう。
いきなりAVが始まり、俺からは意味のわからないことを聞かれ不安だよなぁ。
「澤野」
俺は笑って―――遥の肩を足で蹴飛ばした。
といってもそんなに強く蹴ったわけじゃない。
バランスを崩すくらいの強さだ。
遥は仰向けに倒れた。
「……せ、ん」
言葉は消え入りただ愕然とした遥の目が俺を映す。
肩を蹴った足をそのまま遥の脚の間へと下ろした。
「―――……勃ってんな。初めてのAVで興奮したか?」
足の裏に感じる確かな硬い感触に目を細め踵で踏む。
驚きすぎて目を見開いていた遥は我に返ったように突然動き出した。
俺の脚から逃げ、体勢を立て直そうとする背に再び蹴りを入れる。
そして床に沈んだ身体を跨ぎ、両手を縫いつけるように押さえつける。
「なんだ女でも勃つんだな。てっきり男しかダメなのかと思ってた」
「……なん…っ」
「あ? お前、鈴木のこと好きなんだろ?」
遥の顔が歪み信じられないものでも見るように俺を見つめる。
「気づいてないと思ってたか? バレバレだよ、お前。まぁ鈴木は馬鹿だから気づいてないけどな」
いまのこの状況をひとつも受け止めも理解もできずにいる遥に笑いがこみ上げる。
両手は塞がっている。
だから顔を近づけ、呆然と薄く開いた口を塞ぎ舌を差し込んだ。
激しく抵抗をしだした遥をねじ伏せたまま咥内を一舐めし、一旦唇を離す。
「……っ、なん、で……っ」
「澤野、お前さ」
血の気の失せた遥は小刻みに口を震わせていた。
ただひたすらに驚き、怯えている。
だからわかりやすいように教えてやった。
「お前、いまから俺に犯されるから」
普段通りの声量で告げたその言葉は、外の暴風雨のせいで少し小さく響く。
遥は感情の抜け落ちたような顔をした。
許容範囲を超えたのか、理解不能すぎたのか。
俺の言葉の意味を理解するまで俺は黙って遥を眺めていた。
「……え……? え」
押さえつけた手から、その脈が激しくなっているのがわかる。
いまこの胸に耳をあてたらどれだけ速い鼓動が聞こえるんだろうか。
「噛むなよ」
どうやったって遥にこの状況を認識することなんてできるはずがない。
だから答えをまたずに再び唇を塞いだ。
「んんんーっ」
抵抗するのを無視し歯列を舐め、舌を絡めていく。
拒否するように逃げる舌を吸い上げながら―――右手を離した。
遥は自由になった片方の手に気づき俺の肩を押してくる。
だが貧弱なこいつが俺に勝てるはずがない。
そのまま咥内を貪りながら空いた手を遥の身体に這わせていく。
「……ッ! っん……ッ、ン!!」
下へと手を伸ばせばさっきは確かに硬かった感触がなくなっている。
そりゃ萎えて当然か、と胸の内で呟きながらそのままズボンの前を緩め中に手を差し込む。
最初から直に触れてやれば激しく身体が震え、俺の舌に激痛が走った。
「―――……ってぇ」
口の中で唾液に混じる鉄の味。
跨ったままでもう片方の手も解放し身体を起こす。
自分の指を舐めてみれば薄い赤が滲む。
「噛むなって、言ったろ」
ため息をつきながら見下ろすと遥は今にもこぼれそうなほど涙を溜めて身体を震わせていた。
自然と顔を寄せ、その目元に舌を這わせる。
白い肌にわずかについた血と、俺の舌に感じる塩味。
「澤野」
言葉もなく遥は呼ばれたことに反応し俺の方を震えながらちらちらと見る。
恐怖のあまり視線を合わせることもできないでいる様子に可哀想になと思う。
気の毒に。
可哀想に、
可哀想に―――……。
「俺、痛いの苦手だからもう噛むな。あと、お前も痛いのはイヤだろう? 俺も痛い想いはさせたくないから。わかるよな」
俺なんかに目をつけられたばかりに、こんな目にあって。
顔を強張らせる遥を眺めながら俺はソファのよこに置いておいた紙袋を手を伸ばしてとった。
そこから用意していたものを取り出す。
遥は"コレ"がなんなのかわからないらしい。
まぁ普通目にすることなんてないだろう。
ドラマで見かけるようなものとは違う、両手をひとくくりにまとめ拘束するための―――手錠。
呆然としすぎているのか力がはいらないのか俺に跨がれたままの遥が再び抵抗をはじめたのは―――それを片方遥の手にかけてからだった。
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