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第三話
しおりを挟む「最近アイツら見ないな」
ゲーセンで佑月のとなりでタバコに火をつける。
「……シンとリョウ? テスト勉強でもしてるんじゃねーの」
「テスト? アイツらがかよ」
思わず笑う。テストなんて無縁すぎる。いや高校生なんだから本当なら本分ってやつなんだろーけど。アイツらが勉強してる姿なんて想像できねぇ。
最近、といってもまだ4日くらいのことだ。ほとんど毎日のように顔を合わせていたから珍しく感じる。そういや俺アイツらがどこに住んでるのかとかも全然知らねぇな。
「まあ別にいいけど。ずっとつるんでるのはお前だけだしな、昔から」
もともと俺と佑月がずっと一緒だった。いつからかシンとリョウがいた。俺が話しかけるわけもねぇから、きっと佑月がきっかけだったんだろう。よく覚えてねぇけど、いつの間にかバーがたまり場になった。
「……奏人」
珍しく佑月がまともに俺の名前を呼んだ。
「なんだ?」
ゲーム画面はゲームオーバーでコンティニューするか表示がでている。
「あのさ……」
画面に視線を向けたまま佑月が呟く。その横顔はいつものへらへらとした笑いはなくて思いつめたような、そんな表情が浮かんでる。
「佑月?」
どうした? と思ったのは数秒だった。俺を見た佑月はへらっと笑った。
「タバコちょーだい」
そう手を出したして。
「自分で買えよ」
呆れながらもタバコを渡す。悪い悪いと全然そう思ってねーくせに口だけの佑月は火をつけながらゲームをコンティニューさせた。
そこへ転校生が来る。
気色わりぃ異物感に顔を背けた。
オッサンに買い物頼まれて酒屋へ向かっていた。金曜の夜九時過ぎ。街並みはにぎやかだ。
バーには佑月と転校生がいる。シンたちは今日も来てねぇ。もう一週間も顔見てねぇな。
そう思った矢先だった。
「――シン」
酒屋への通り道、ちょうど前からくるシンと出くわした。
「よお、久しぶりだな」
「……ああ」
いつも俺の次に血気盛んなシンが視線を揺らし歯切れ悪く頷く。
「リョウは?」
「今日は会ってねぇ」
「ふーん」
シンは俺のほうを見ようとしなかった。身に覚えはないが、シンたちが来なくなったのは俺がなんかやったのか?
「じゃあな」
そうだとしても、どうでもいい。来ないなら、それだけ。軽く手を上げて通り過ぎようとした。
「……カナト」
シンに呼び止められて、肩を並べる位置で立ち止まる。シンは一瞬俺を見て、すぐに視線を逸らして口を開いた。
「……お前さ、一度病院行ったほうがいい」
なにを言われたのかわからなかった。シンの言葉をしばらく考える。
「病院? そんな怪我してるように見えるか?」
「……違う。……科だよ」
言いにくそうにシンが呟く。かすれた声のせいで聞き取れなくて、なに、と聞き返した。シンは口をつぐんで、ようやく俺を真っ直ぐ見た。
「……お前さ……。お前……父親となんか、あるんだろ」
――。
父――……。
「お、いたいたー」
「みーつけた」
シンの顔が歪む。声がしたほうを見ると俺が言えたことじゃねーけど、ガラの悪そうなヤツらがゾロゾロとやってくる。
「この前のお礼しようと思ってさ、探してたんだよ」
顔にデカい青あざつくったハゲが笑う。
俺も、笑った。ホッとして、笑った。
さぁ、ケンカ。殴って、殴って、殴って、殴られて、だ。
ぞろぞろと十人ぐらいのヤツらに俺とシンは囲まれるようにしてソイツらのたまり場に連れていかれる。シンは険しい顔をしているけど、俺は高揚した。
コイツら、殴って殴って殴ってやる。早くぶっ潰したくて、コイツらのたまり場についてすぐに俺から殴り始めた。
「シね!」
笑って、殴って殴って、殴られて殴られて、殴られて。
「カナト!」
シンも殴られながら俺を心配そうに見る。バカが。俺に構わねぇで身を守れ。ああ、ほら、殴られた。そして俺も木材で殴られる。
頭がグラグラ揺れる。くそ痛ぇ。グラグラしながら、殴る。殴って殴って、殴られて殴られて。
強い衝撃を後頭部に受けて、視界が真っ暗になった。
***
ッ、ア――。
触手が蠢いてる。久しぶりの触手だ。
痛い、痛い。くそ痛ぇ。
触手が喉の奥まで入り込んでいる。孔に入り込んでる。
久しぶりの触手の夢。
だけど、いつもと違う気がする。触手が違う気がする。
触手にも種類があるんだろうか。
どっちでもいい。気持ち悪いのは変わらない。
――ウ、グッ。
触手が嗤ってる。ざわざわ、ざわざわ嗤ってる。
うっせぇ、うっせぇな、この触手。
――ン、ンン。
引き攣った声が出る。
触手が孔に無理やり二本入ってきた。
――ぐ、ぐ。
痛ぇ。
この触手、あとで全部殺してやる。
痛ぇ。
触手が嗤ってる。
ずぶずぶ、ずんずんと触手が二本、孔を犯してる。喉も犯されてる。触手が肌を滑って。乳首に吸い付いている。
――ッン、ンンン。
痛い。気持ち悪い。痛い。――気持ちいい。
触手の嗤い声も気にならなくなってくる。
こじ開けられた孔が犯されて犯されて触手の体液が大量に吐き出されて、また別の触手が入り込んできて。
――ッ、あ、あ、あ。
痛い。気持ち悪い。気持ちいい。
精液が、出そうだ。
出る、と、身体が痙攣しはじめたとき、ひかりが差し込んだ。
触手がざわめいた。だけどすぐにまた嗤う。
気持ち悪い。気持ち悪い。
気持ち悪い。
触手の中に、アイツがいる。
夢じゃない。怪物だ。怪物がいる。
怪物が触手を潰していく。俺の身体にたかっていた触手たちをはがして潰していく。
ヤメロ。気持ち悪い。
怪物が触手を潰して、潰して、触手が消えていく。
そして――俺のそばへ来た。
気のせいじゃない。怪物がいる。
怪物が俺に触れてくる。
頬に触れてくる。
気持ち悪い。気持ち悪い。怖い。
コイツは、だめだ。怪物は消えろ。
怪物から逃げる。逃げようとしたのに、身体が動かなかった。
怪物が俺の身体に触れる。
触るな。触るな。触るな。
逃げなきゃいけない。怪物をどうにかしなきゃいけない。
きらり、と光るものが視界の端に映った。咄嗟に、必死で、力を振り絞ってそれを取った。
そしてそれを怪物に振り下ろした。
――っ。
手ごたえがあった。
怪物が顔を歪めた。
手ごたえがあった。
肉の手ごたえがあった。だから、何度も振り下ろした。
シね、死ね。
怪物は消えろ。
怪物の顔が歪んでいく。
歪んで、怪物が俺を抱きしめた。
俺は怪物の腹に光ったモノを突き立てた。
『奏人。ごめん。遅くなってごめん。ごめん……』
震える声が、聞こえてきた。
ぼたぼたと、顔になにか落ちてきた。
怪物が泣いていた。
怪物が。
「――っ!」
怪物が。
「と。――奏人ッ!」
身体を、引っ張られた。頬を叩かれた。
夢、夢、夢から引きずり起こされる。
「やめろ、奏人っ! 死ぬ!」
佑月が俺の手から、光るものを、ナイフを奪った。
「……ゆづき」
真っ青になった佑月がいた。どうしたんだ、と笑うくらい真っ青な顔をしている。佑月は俺から顔を背けて、叫んだ。
「リョウ! 救急車呼べ!」
救急車? 俺は平気だ。身体のあちこち痛いが、平気だ。救急車なんて呼んだら、警察も来るだろ。
たかがケンカに。
久しぶり見たリョウが佑月と同じように真っ青になって、駆け寄った。俺の足元に。
下を見る。
血だまりがあった。
怪物が倒れていた。
「怪物……死んだか?」
リョウが怯えるように俺を見上げた。
怪物が、血を流して倒れている。
「……っ、奏人ッ! しっかりしろ!」
佑月にまた頬を張られた。
「コイツ、お前、知ってるだろっ!」
佑月が怪物の名前を、叫んだ。
『奏人。俺が絶対、助けてやる。絶対……』
ああ。
そういや、そんなバカなこと言っていたな。
――譲。
お前、なんで血流して倒れてるんだ?
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