one night

雲乃みい

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contact3.そして、その手を掴むのは

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タクシーを降りてみれば乗っていた間は長く感じていたのにもう着いてしまったと早く感じてしまう。
繋いだままの手を引かれエントランスに入ってエレベーターに乗る。
盗み見た智紀さんは楽しそうな笑みをたたえていて、反対に俺は眉間にしわが寄っているのが自分でわかっていた。
繋いだ手も―――正直そろそろほどいてほしい。
だけどそうとは言えずエレベーターはあっという間に智紀さんの部屋がある階に停まってしまう。
タクシーに乗ってから俺たちの間には会話はなかった。
「……」
ため息が出そうになるのをなんとか飲みこむ。
智紀さんが鍵をとりだして開けるのを視界の端に捉えながら俺は明後日の方を見ていて、ガチャリと開いた音に重く足を踏み出す。
そして俺の背後でドアが閉まる音がして―――同時に智紀さんが吹きだした。
「……どうしたんですか、急に」
眉間のしわをさらに寄せて言うと智紀さんの腕が腰にまわって一気に引き寄せられて、顔をのぞきこまれた。
「いや、だってさ。千裕、緊張しすぎ」
「……っ」
誰が緊張なんて―――と、反論したいけど、それよりも先に顔が熱くなるのを自覚するから何も言えない。
「ちーひーろ」
俯いてしまいそうになった顔を上げさせられて食むように唇が触れてくる。
下唇を甘噛みされて歯列をなぞられて、それだけで収まりかけていた熱があっという間に再燃する。
「ちょ……っ、智紀さん」
ぞくり、と首筋から背筋を走り抜ける痺れに慌てる。
「なーにー?」
言いながらもついばむようなキスが降ってきて玄関の壁に背中がぶつかった。
「ここ、玄関ですよっ」
「俺の家だからいーの。ここで一回とりあえずヤろっか」
「はっ?! 冗談―――っ」
「だって我慢できねーもん」
もん、ってオイ、もう寝室まであとちょっとだろ。
「いや、ちょっ……んっ、まっ」
ストップかけるのにキスは止まらないうえに、服の中に手が入ってきて素肌を撫で始める。
「俺、シャワー浴びたいんですけどっ」
「あとでね」
「っ、は……、ちょ、いや、……でも」
「―――千裕」
不埒に動いていた手がぴたりと止まって智紀さんがまっすぐ見つめてくる。
真剣な眼差しに怒らせただろうかと一瞬不安になったけどすぐに緩む目元を見て違うと知る。
「結構初心だよね」
「……」
初心? 初心って……俺か?
「……俺、別にいままでだって彼女いたことありますけど」
「でも実際好きになった相手と付き合うのって俺が初めてじゃないの」
「……」
あっさり言われて思いっきり顔が引き攣った。
それはタクシーの中で自分でも思ったことだ。
ただ実際指摘されると―――。
「拗ねた?」
「……べつに」
「俺的には緊張して心臓バクバクさせてるちーくんが可愛いなぁって早く食べたいなって思っただけなんだけどね」
「……可愛いって褒め言葉になりませんから」
「しょうがないじゃん。俺には可愛く映るんだし。それにさぁ」
智紀さんが目を細めて俺の頬を撫でる。
「俺も久しぶりだからさ」
「……なにが、ですか」
「こうやって交際するの」
音符でもついてんじゃないのかってくらいの弾んだ声。
「……え」
久しぶりつっても、どうせ半年とかそんなもんじゃないのか。
「もうかれこれ8年近く恋人いなかったからさ」
「……8年!? うそだろ」
「マジで。だから」
呆然とする俺の目を覗き込んで智紀さんが笑う。
恋人が8年いなかったからって、その間なにもなかったなんてありえない、そうわかる妖艶さを口元に浮かべて。
「早くヤろ? 本当のセックス」
本当の―――って、という疑問全部飲みこまれるように唇が塞がれて、もう止まらないだろうことを悟った。





数えきれないくらいしてきたキス。
慣れはしないけどいつもと同じキスのはずなのに、何かが違うように感じるのはなぜなんだろう。
ぬるりと舌先が咥内を這うだけで腰が重くなってすがりつくように智紀さんに抱きついてしまう。
心臓の音がやけに速く大きくて耳にうるさい。
角度を何度もかえてひたすらに舌を絡み合わされ。
そうしながら智紀さんの指が髪に触れてきて、耳を辿り、首筋から肩へと落ちていくのに小さく身体が震えた。
片手で腰を抱かれ密着した身体。
下肢に当たる硬い感触は智紀さんのもので、俺も同じようになってるってのはわかってる。
肩から、身体の線を辿るように動いて行く指が隙間を縫って下腹部に触れ、そして慣れた手つきであっさりと前をくつろげて中へと滑りこんでくる。
「っ、……んっ」
直接俺のに触れられて大袈裟なほどに身体がびくついた。
ぬるぬると上下する指にもう押えきれないくらい先走りが溢れてるってことを知らされて羞恥に腰が引ける。
無意識に逃げかけた俺をしっかりと抱きしめなおして、キスしたまま掌で俺のを包み込みきつく扱きだした。
「……っ、は、……っ、まっ」
待ってくれと、ぎゅっと智紀さんの腕を掴む。
俺のものからなのか、それとも唾液の混ざる音なのか、小さな水音が大きく俺の耳に響く。
ほんの少し顔が離れ視線が絡んだ。
智紀さん、と上擦った喘ぎ混じりの自分の声が恥ずかしい。
俺を見つめてくる色欲に染まった目にさらされて、ますます心臓が軋むように跳ねて、さらに強く掴んだ手に力を込めた。
「待って、……っ、ちょっ」
ずっとペースを落とすことなく動き続ける手に焦って声を出すけど止めてくれるはずがない。
ふっと目を細めた智紀さんが俺の唇を舐めて、首筋に顔をうずめる。
舌が肌を這う感触に眉を寄せ、もう一度待ってくれって言う。
―――本当、ほんのちょっとでいいから、ペースを弱めてほしい。
正直このままだとあっという間に……吐き出してしまいそうだった。
あの路地裏からずっと燻っていた熱は限界まで煽られて、いつ爆発してもおかしくない。
触れられた瞬間からイキそうだった、なんて、さすがにないだろ。
それに智紀さんのにも触れたい。
だから、ちょっと待ってくれって言ってるのにこの人が聞くはずもなく。
追い上げられるまま吐精感に身体を震わせていると不意に電子音が鳴りだした。
「―――……っ、智紀さん……っ、電話……ッン」
俺のじゃない。智紀さんのだ。
着信音とともに微かな振動が伝わってくる。
無視するつもりなのか、そのまま動きを止めない智紀さんに俺は迷いながらもポケットをさぐって智紀さんのスマホをとりだした。
ちらりと見えた液晶。
「っは、……んっ、待っ、電話っ。あの、松原さんの……お兄さん、ッぁ」
もう片方の手が胸をすべり突起を弄ってきて間抜けなくらいに声が裏返った。
スマホを持つ手の力が緩みかけたけど、紘一さん、と表示されていた名前に溶けかけていた理性がほんの少し引き戻される。
仕事の電話なんじゃないのかってスマホを智紀さんの肩に押しあてたら、無表情に智紀さんはスマホを受け取り―――
電源をオフにした。
「……っえ、電話!」
「どうせたいした用じゃないからいいんだよ。ていうか、ちーくん」
スマホは床に落ちていた鞄の上に放られる。
そんな投げて大丈夫なのかと目で追っていた俺は、鈴口に爪を立てられて息を飲んだ。
ぎゅっと握られ強く擦られる。
「我慢しないでイっていいよ」
ほら、と先端をぐりぐりと押され、甘く囁かれ。
俺は言われるままに白濁を吐きだしてしまった。




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