遠くの光に踵を上げて

瑞原唯子

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13. 闇と静寂のひととき

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ダンテはアンナが抱えた花束ごと、彼女の身体を抱き締めていた。

「アンナ………。それは、君の心からの気持ちかい?………遠慮はいらない。私は君の本心が知りたい」
「そんなの、当たり前じゃないですか………っ!私がどんな気持ちで………っ」

縋り付くように彼の胸に頬を寄せて、悲鳴に近い声を上げたその途端、大きく温かい掌に強い力が込められるのが分かった。

「………すまない………。私は、それが何よりも不安だったんだ…………」

ダンテの体温で、抱えた花束から芳しい花の香りが立ち昇る。

「それならばもう、遠慮なんてしない。
あなたでないと………駄目なんだ。寝ても覚めても、君のその陽だまりのように温かな笑顔が頭から離れない。君の事を思い浮かべるだけで、心が満たされるんだ………。アンナ、君を心から愛している。私は運命だとか、そういうものは信じていなかったけれど………君こそが私の運命の人だ」

耳元で囁かれた言葉に、アンナは身体が芯から震えるのが解った。
悲しくないのに、自然と涙が溢れてきて、アンナは手にしていた花束に思わず顔を埋めた。

「………ダンテ様………。私はダンテ様のお側にいても、いいんですか………っ?」
「ああ、もちろんだ。………いや、違うな」

ダンテは少し考えてから、にやりと笑った。

「アンナ。君にはずっと、私の側にいて欲しい。君のその何よりも美しい笑顔を、ずっと私に向けてくれ。………これが正解だろう?」
「ダンテ様…………」

感極まったようにアンナが言葉を詰まらせると、ダンテは何かを促すようにアンナをじっと見つめた。

「………私も、愛しております…………」

少し気恥ずかしそうに、けれど今までのどんなものとも違う表情を浮かべながらふわりと微笑んだアンナに、ダンテは大きな身体を屈めると、彼女の唇にそっと口付けを落とした。
それはまるで羽根で撫でるような、優しい口付けだったが、アンナはたったそれだけで全身の血管が沸騰するような感覚を覚えた。

それは長い間感じていた躊躇いも、劣等感すらもどうでもいいと思えるくらいの、目眩がする程幸せな瞬間だった。
秋の陽射しが美しく煌めき、風と鳥たちの囀りがさざめき立つ。
まるでこの世の全てが彩り豊かに輝き出したのかのように、美しく映る。

愛しい人と思いが通じ合うというのは何て素晴らしく、何と幸福なのだろう。
クラリーチェやリディアが、いつも幸せそうに見えるのはそのせいなのかもしれないとアンナはダンテの腕の中で考えた。
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