遠くの光に踵を上げて

瑞原唯子

文字の大きさ
上 下
7 / 94

7. 圧倒

しおりを挟む
 ジークの放った光球に飲み込まれようかというまさにそのとき、ラウルは瞬間的に魔導力を高め、目の前の光球の倍もあろうかという規模の光球をその身体全体からから繰り出した。一瞬にしてジークの光球を飲み込み、それを相殺した。それでもその勢いはとどまらず、ジークに向かって突進していった。そのスピードは、ジークのものとは比べ物にならない。まるで反応できないまま、今度はジークが光球に飲み込まれそうになっていた。そのすんでのところ、その僅かな隙間に透明な結界が張られた。しかし、それも鈍く砕け散る。そして、同時にジークも吹き飛ばされた。

 リックたちはただ呆然としていた。一瞬にして起こったことに、考えが追いつかない。目の前は爆風が巻き起こした粉塵で、真っ白に煙っていた。

「ジーク……? ジーク?!」
 リックは大声で名前を呼びながら、粉っぽく、そしてまだ熱さが残る空間へと飛び込んでいった。大きく削れた床、砕け散った机、椅子、壁。ジークの姿は見当たらない。嫌な想像が頭の中を駆け巡り、今にも泣きそうな顔に変化していく。

「ドコ見てんだ……こ……っちだ」
 後方からかすかな声が耳に届いた。
「ジーク?!」
 瞳を潤ませながら、声の方に振り返った。リックが探していたよりも遥か後方にジークは倒れていた。既にアンジェリカが手当てを始めていたが、服はボロボロで、全身傷だらけだった。
「大丈夫?」
 駆け寄りながらリックが尋ねる。
「おまえな、大丈夫そうに見えるか? これが」
 ジークは力なく苦笑いをした。
「腕にひびが入ってそうね。ちゃんと診てもらわなきゃ」
 そういうと、アンジェリカは顔を上げた。彼女が投げかけた視線の先には、ラウルの姿があった。しばらくアンジェリカと視線を繋げたあと、ラウルは軽く溜め息をつきジークたちの方へ歩き出した。
 リックとジークはその足音を聞きながら、息が出来なくなっていた。リックはともかく、ジークにとっては初めて味わう恐怖心。鼓動さえ凍りつく。足音が止まり、その恐怖が最高潮に達したところで、ジークの身体は宙に浮かんだ。ラウルに抱きかかえられていたのだ。ジークはギョッとした。
「私は医者だといったのを忘れたのか」
 ラウルは何の表情も見せずに言った。ジークを軽々と抱えたまま、ボロボロに半壊した教室を後にした。アンジェリカも黙ってその後ろをついていった。
「……ま、待って。僕も!」
 我に返ったリックが小走りで後を追った。
 教室に取り残されたその他の生徒たちは、いまだに呆然としたままだった。
「オレたち、ひょっとしてとんでもないところに来たんじゃ……」
 その場にいたひとりが、ぽつりとつぶやいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...