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1. 出会い
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「おい、もっと急いで行こーぜ」
少年が待ちきれないといった様子でもうひとりの少年を急かす。急かされた方の少年は足取りが重く気が乗らないようである。
「いいよね、ジークは」
深くため息。そしてわざとらしいくらいがっくり肩を落としてみせる。しかしそんな様子もまったく気にとめることもなく、ジークと呼ばれた少年は、もうひとりの少年――リックの腕を掴み引っ張っていく。そして、角を曲がったところで人だかりが目に入った。
「ほら、おまえがトロトロしてるからもう始まってるだろ!」
その語調に興奮をのぞかせながら、より強くリックの腕を引っ張り人だかりへと急いだ。
「ちょっとすみません」
そういうとジークは行儀悪く人だかりの山をかき分け中へ進む。リックは周りの人々の冷たい視線を感じ、小さくなりながら、引っ張られるままついていった。その人だかりの中心にはさほど大きくない紙が貼り出されていた。
「王立アカデミー魔導全科・合格者(成績順)」
その紙のいちばん上にはそう書いてある。この王立アカデミーとは国中から優れた人材を見つけだし育成する目的で設立された、学費等すべて免除のアカデミーである。募集数も少ないため当然毎年ものすごい倍率で、ちなみに今年は183倍であった。そうなのだ。ジークとリックのふたりは、今年この試験を受けたのである。そして、その結果が目の前に貼り出されている。リックはおそるおそる顔を上げ、下から名前を見ていった。
「……ったーーー!!!」
片方の手で自分の名前を指差し、もう片方の手でジークの服を強く掴み、辺り中に聞こえる声で叫んだ。
「あったよ! 受かったよ!! しかも最下位じゃない!!」
そう叫びながらジークの服を上下に揺さぶり続けた。が、ジークは無反応。リックはそのことに冷静さを取り戻した。嫌な予感、妙な不安を抱きつつジークの顔をゆっくりと振り返る。その顔は一点を見つめ、口を半開きにしたまま、微動すらしない。リックはジークの目線を辿って合格発表の紙に目をやる。その瞬間、深く長く、ため息をついた。
「なんだ、受かってるじゃない。驚かさないでよ」
安堵の表情で、ジークの頭に軽くこぶしを入れる。それがきっかけで我を取り戻したのか、リックに向き直り、勢いよく訴えかけた。
「オレ、トップじゃねぇんだよ!! それも負けた相手が女だぜ!! なんでだよ!!! 信じられるか?!!」
彼には絶対にトップをとる自信があった。今まで誰にも負けたことがなかったのだ。傍からみればばからしくみえるが、ジークにとっては「初めての敗北」であり一大事なのである。しかも、その相手が「女」であることに、彼はさらに衝撃を強めていた。
「男が女より優れてるなんて、誰が決めたの?」
背後から、凛とした声がした。その声には明らかに不愉快さが滲み出ていた。
「誰だよ」
ジークも負けないくらいに、不愉快さを滲み出させて振り返る。しかし、声の主らしき人物は見当たらない。
「どこを見てるのよ」
声と同時に、踵に何かが当たったような感触。ジークは背後の、自分の真下に近い位置を見下ろした。そこには、いた。自分の腰ほどの位置に頭のある、小さな女の子が。黒い、大きな瞳でじっと睨んでいる。
「ガキが口を出すことじゃねぇだろ。こんなところに来てないで、うちに帰れよ」
多少驚いたものの、子供とわかって軽くあしらうつもりだった。だが――。
「私はアンジェリカ=ナール=ラグランジェ。あなたを負かせた女よ」
そう。「ジーク=セドラック」と書かれた上に唯一ある名前、それが「アンジェリカ=ナール=ラグランジェ」であった。
少年が待ちきれないといった様子でもうひとりの少年を急かす。急かされた方の少年は足取りが重く気が乗らないようである。
「いいよね、ジークは」
深くため息。そしてわざとらしいくらいがっくり肩を落としてみせる。しかしそんな様子もまったく気にとめることもなく、ジークと呼ばれた少年は、もうひとりの少年――リックの腕を掴み引っ張っていく。そして、角を曲がったところで人だかりが目に入った。
「ほら、おまえがトロトロしてるからもう始まってるだろ!」
その語調に興奮をのぞかせながら、より強くリックの腕を引っ張り人だかりへと急いだ。
「ちょっとすみません」
そういうとジークは行儀悪く人だかりの山をかき分け中へ進む。リックは周りの人々の冷たい視線を感じ、小さくなりながら、引っ張られるままついていった。その人だかりの中心にはさほど大きくない紙が貼り出されていた。
「王立アカデミー魔導全科・合格者(成績順)」
その紙のいちばん上にはそう書いてある。この王立アカデミーとは国中から優れた人材を見つけだし育成する目的で設立された、学費等すべて免除のアカデミーである。募集数も少ないため当然毎年ものすごい倍率で、ちなみに今年は183倍であった。そうなのだ。ジークとリックのふたりは、今年この試験を受けたのである。そして、その結果が目の前に貼り出されている。リックはおそるおそる顔を上げ、下から名前を見ていった。
「……ったーーー!!!」
片方の手で自分の名前を指差し、もう片方の手でジークの服を強く掴み、辺り中に聞こえる声で叫んだ。
「あったよ! 受かったよ!! しかも最下位じゃない!!」
そう叫びながらジークの服を上下に揺さぶり続けた。が、ジークは無反応。リックはそのことに冷静さを取り戻した。嫌な予感、妙な不安を抱きつつジークの顔をゆっくりと振り返る。その顔は一点を見つめ、口を半開きにしたまま、微動すらしない。リックはジークの目線を辿って合格発表の紙に目をやる。その瞬間、深く長く、ため息をついた。
「なんだ、受かってるじゃない。驚かさないでよ」
安堵の表情で、ジークの頭に軽くこぶしを入れる。それがきっかけで我を取り戻したのか、リックに向き直り、勢いよく訴えかけた。
「オレ、トップじゃねぇんだよ!! それも負けた相手が女だぜ!! なんでだよ!!! 信じられるか?!!」
彼には絶対にトップをとる自信があった。今まで誰にも負けたことがなかったのだ。傍からみればばからしくみえるが、ジークにとっては「初めての敗北」であり一大事なのである。しかも、その相手が「女」であることに、彼はさらに衝撃を強めていた。
「男が女より優れてるなんて、誰が決めたの?」
背後から、凛とした声がした。その声には明らかに不愉快さが滲み出ていた。
「誰だよ」
ジークも負けないくらいに、不愉快さを滲み出させて振り返る。しかし、声の主らしき人物は見当たらない。
「どこを見てるのよ」
声と同時に、踵に何かが当たったような感触。ジークは背後の、自分の真下に近い位置を見下ろした。そこには、いた。自分の腰ほどの位置に頭のある、小さな女の子が。黒い、大きな瞳でじっと睨んでいる。
「ガキが口を出すことじゃねぇだろ。こんなところに来てないで、うちに帰れよ」
多少驚いたものの、子供とわかって軽くあしらうつもりだった。だが――。
「私はアンジェリカ=ナール=ラグランジェ。あなたを負かせた女よ」
そう。「ジーク=セドラック」と書かれた上に唯一ある名前、それが「アンジェリカ=ナール=ラグランジェ」であった。
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