東京ラビリンス

瑞原唯子

文字の大きさ
上 下
21 / 64

20. 依頼人

しおりを挟む
「日比野涼風(ひびのすずか)と申します」
 凛とした声が、形の良い唇から発せられる。
 悠人に連れられてきたその美女は、剛三の書斎に集まっていた澪たちの前で挨拶をすると、両手を重ねて恭しく一礼した。小柄で細身の体には不釣り合いなほど、胸にはボリュームがあり、ブラウスははちきれんばかりになっている。
 澪たちは唖然とし、剛三は怪訝に眉をひそめる。
 それでも、彼女は堂々としていた。正面を見据えたぱっちりとした目、僅かに口角の上がった紅を引いた唇――表情は凛として揺らがない。背筋もピンと伸びている。全体的に理知的で仕事の出来そうな雰囲気だが、あまりきつい感じがしないのは、やや童顔ぎみの容貌によるところが大きいのだろう。
「私は、銀座にある小さな画廊のオーナーで、まだ駆け出しですが美術鑑定士もしております」
「まわりくどいのは好まん。簡潔に用件を述べてもらおう」
 剛三は威圧的に睨みつけた。
 しかしながら、彼女は臆することなくニコッと笑う。
「実は、悠人さんの妻にしてもらおうと思って押しかけてきました」
「え……、えええっ?!」
 耳をつんざくような大声を上げ、澪はパイプ椅子からずり落ちんばかりにのけぞった。艶然と微笑む涼風と、その背後に控える悠人を、口を半開きにしたまま交互に見つめる。篤史も、遥も、声こそ上げていないが、息をのんで大きく目を見開いていた。
「真面目に話してくれないか」
 そう言った悠人の声には苛立ちが滲んでいた。
 涼風は軽やかに振り向いて、大きな瞳をくりっとさせる。
「あら、結構本気なのよ」
「私には婚約者がいます」
「そうなの? なぁんだ残念」
 悠人に冷たく一蹴されると、芝居がかった調子でそう言い、手のひらを上に向けて肩をすくめた。残念と言うわりには、それほど残念そうに見えない。むしろ、楽しげにくすっと笑みさえこぼしていた。
 剛三は、おもむろに眉根を寄せる。
「思い出したぞ。おぬし日比野夏彦の娘だな」
「はい、その節は大変お世話になりました」
 先ほどまでのおちゃらけた態度とは打って変わり、すっと姿勢を正して剛三に向き直ると、明瞭な声でよどみなく礼を述べた。肩より少し短めの黒髪をさらりと揺らし、流れるように深々と頭を下げる。
「父の絵画を取り戻していただき感謝しております」
 その言葉で、澪にも何となく事情がわかってきた。涼風のために絵を取り返したのは、おそらく、絵画泥棒である怪盗ファントム――といっても、澪には覚えがないので、悠人と大地がやっていた先代の方だろう。
「そして」
 涼風はちらりと悠人を一瞥した。
「悠人さんには、父を亡くして泣いてばかりいた私を慰めていただきました。優しく抱いてくださったあの日のことは、今でも忘れていませんし、これからも決して忘れはしません」
「……っ!!」
 澪は顔を真っ赤に火照らせ、思わず両手で口を押さえた。しかし、遥は醒めた顔でじとりと視線を送り、篤史は怪訝な顔で頬杖をついている。二人とも、これといって驚いた様子は窺えない。
「抱いたのは肩だけだ」
 悠人は苛立ちを募らせてそう言うと、溜息をつき、きょとんとしている澪に視線を移す。
「何かあらぬ誤解をしているみたいだが、僕がファントムをやってた頃の話だからな。考えてみればわかるだろうが、そのときの彼女は、まだ小学生になるかならないかくらいだった」
「あ、そっか」
 先代が活動していたのは二十数年前。彼女は現在二十代半ばくらいなので、普通に考えれば容易に推測できることである。
「怪盗ファントムとして絵を返しに行ったら、父親のことで泣きじゃくっていて、仕方なく落ち着くまで待っていた――ただそれだけのことだ。会ったのはその一度きりで、もちろん手は出していないし、ましてや将来を約束した覚えもない」
 悠人が半ば自棄になってそう釈明すると、涼風は小さく舌を出し、悪戯っぽく笑いながら肩をすくめた。騙してどうこうするつもりはなく、ちょっとからかうくらいの軽い気持ちだったのかもしれない。
「どうやって我々を突き止めた」
 静かながら凄みのある低い声で、剛三は詰問する。
「そのとき悠人さんにいただいたものです」
 涼風はポケットから紙切れを取り出してそう言うと、打ち合わせ机に歩み寄り、内面が見えるように丁寧に開いて置いた。ノートをちぎったような古びた紙に、橘家の住所がボールペンで書かれている。筆跡は、悠人のものに酷似していた。
「何かあったらここを訪ねるようにと渡されました」
「悠人、おまえ……」
「彼女があまりにも憔悴して痛々しかったので……申し訳ありません」
 悠人は少しきまり悪そうにそう言い、頭を下げる。
 剛三は呆れたように嘆息したものの、それ以上は何も言わなかった。年季の入った小さな紙切れを、ただ忌々しげに睨めつけている。今さら彼を責めたところでどうにもなりはしないのだ。涼風は声を立てず密かにくすっと笑うと、紙切れを掬い上げ、壊れ物を扱うかのように慎重に折り畳んでいく。
「私が今日まで生きてこられたのは、悠人さんにこれをいただいたおかげです。いざとなれば頼れるところがある、そのことが大きな支えとなりました。私にとって何よりも大切なお守りで宝物です」
 そう言ったあと、急に真剣な顔になって剛三を見つめた。漆黒の瞳に強い光が宿る。
「悠人さんとの約束どおり、このことは誰にも話していません」
「それは脅しにならんぞ」
 剛三はフンと鼻を鳴らした。
「君が警察やマスコミに何を言っても、我々が脅かされることはない。逆に、我々が君を社会的に抹殺することは、赤子の手を捻るよりも容易い」
「まあ、物騒なことをおっしゃいますのね」
 涼風はわざとらしい抑揚と仕草で驚いてみせる。
「ご安心ください。恩を仇で返すようなことはいたしませんわ。怪盗ファントムに力を貸していただきたくて訪ねただけのこと。もちろん、相応の依頼料はきちんとお支払いするつもりです」
「残念ながら、依頼は一切受けておらん」
 剛三はピシャリと突っぱねた。それを予期していたかのように、涼風は魅惑的に目を細めて言う。
「日比野夏彦の絵画に関することだとしても?」
 ピクリ、と剛三の眉が動く。
「……よかろう、とりあえず話だけは聞こう」
 低い声でそう応じると、机の上でゆったりと筋張った両手を組み合わせる。剛三が彼女の話に興味を示したことは間違いない。だが、彼女を信用したわけでないことは、少しの隙もない彼の瞳を見れば一目瞭然だった。

「ご覧ください」
 涼風は雑誌の切り抜き記事を机に置いた。切り抜かれているので何の雑誌かはわからないが、下世話な週刊誌などではなく、おそらく美術の専門誌であろうと思われる。その内容は、現代抽象画家である日比野夏彦の遺作が見つかり、所蔵する美術館で近々公開されるというものだった。
「我々が取り返してやったものだな」
「いいえ、違います」
 剛三が記事を一瞥して口にした言葉を、涼風は即座に否定した。
「取り返していただいたものは、ずっと手放すことなく大切にしていました」
 後ろにいた悠人が、脇に立てかけてあった平たい風呂敷包みを手に取った。その中から出てきたのは油絵である。いわゆる抽象画というものだ。澪には何が描かれているのかよくわからない。ただ、その強烈な色彩と筆致の力強さに、何か激しく訴えかけてくるものを感じた。
「なるほど、こちらは贋作というわけか」
 剛三は切り抜きをトントンと指で叩いてそう言うと、鼻から息を漏らした。
 澪は腕をついて身を乗り出し、もう一度その記事に目を走らせる。
「でも……、ほら、これ鑑定したって書いてありますよ?」
「真贋鑑定も絶対ではないからな。後に覆ることもある」
「へぇ、そうなんですか」
 当然だと言わんばかりの剛三の言葉を聞きながら、澪は頬杖をついた。絵画専門の怪盗をやっているわりには、いまだに絵画に関する知識もないし、勉強しようという気にもならない。澪にとっては、あくまで義務的にやらされているだけの仕事である。
 一方、涼風の顔は険しくなった。
「本当に、日比野夏彦が描いたものかもしれません」
 剛三の眉が僅かに上がる。
「どういうことだ?」
「父はよく同じ絵を二つ描いていました。何のためだったかは知りません。けれど、必ず一方は庭で燃やしていました。おそらく試作のようなものではないかと思います。もったいないからちょうだい、と幼い私がお願いしても、これは存在してはいけないものなんだよ、って言って――」
 彼女の声にほのかな感傷が滲んだ。小さく息を継ぐと、研ぎ澄まされた瞳で前を見据える。
「両方とも日比野夏彦の手によるものならば、どちらも本物と言えるかもしれません。しかし、何を本物にするかは作者本人の意思で決めるべきこと。本人が公表する意思のない作品を世に出すなど、許されて良いのでしょうか」
 じっと彼女に向けられていた剛三の目に、ぎらついた光が宿った。
「それで、君は我々に何を望む?」
「この作品を燃やしてほしいのです」
 涼風は毅然と答える。
「父が生きていたら、きっと庭で燃やしていたはずですから。もし、父が描いたものでなかったとしても、その場合は贋作となりますので、どちらにしても燃やすことに問題はないでしょう。美術に携わる者としての、そして日比野夏彦の娘としての願いです」
「こちらが本物だという証拠はどこにある?」
「お預けしますので存分にお調べください」
「そうさせてもらおう」
 剛三は安易に人を信用しない。おそらくその絵も徹底的に調べられることになるだろう。しかし、涼風は揺るぎない自信を瞳に湛えており、澪としてはきっと間違いないのだと思えた。が――。
「あの……」
 遠慮がちにそう切り出し、集まる視線にたじろぎながら言葉を繋ぐ。
「何も燃やすなんて過激なことをしなくても、今の話を公表すればいいんじゃ……」
 本物が手元にあるのなら、世間に証明することも難しくはないはずだ。信頼のおける専門家に比較鑑定してもらえばいいだけのことである。なのに、わざわざ危険を冒して盗み出したうえ、燃やすだなんて――平和主義の澪としては異論を唱えずにはいられない。
 しかし、涼風は優しく言い聞かせるように答える。
「それで、もうひとつの絵の存在が、世間から消えるわけではないわ。それに……」
「必ずしも真実が真実と認められるわけではない、ということだな」
 実感のこもった重い口調。
 涼風は真摯に剛三を見つめて頷いた。ふと、彼の口角が不敵に吊り上がる。
「面白い」
「引き受けていただけるのですね」
 涼風はほっとしたように顔をほころばせる。堂々とした態度で剛三と渡り合っていた彼女も、内心はやはり不安を感じていたのだろう。世間には秘密にしている怪盗ファントムを盾にして、橘財閥会長の家に乗り込むなど、命知らずだという自覚はあったようだ。
「ただし」
 貫禄のある声が書斎に響く。
 あたりは水を打ったように静まりかえった。剛三はもったいつけるようにゆっくり顔を上げると、身を固くした涼風を見据えながら、有無を言わさぬ高圧的な物言いで条件を突きつける。
「この件が片付くまで、君の身柄を拘束させてもらう」
「……えっ?」
 涼風はその場に立ち尽くしたまま、大きな漆黒の瞳をぱちくりと瞬かせた。

「広くてきれいなお部屋、おいしい食事、おいしいお酒……」
 白くほっそりとした指が、ブランデーグラスの縁を官能的になぞる。澄んだ琥珀色の液体が、グラスの中で震えるように揺れ、ふわりと仄かな芳香を立ち上らせた。しかし、その指の持ち主である涼風は、この甘美な雰囲気を台無しにするような、ひどくムッとした顔をしていた。
「待遇に不満はないけれど、私にも仕事があるのよね」
 思いきり恨みがましくそう言うと、革張りのソファに身を預けながら、すらりと伸びた脚を大きく組み替えた。シャワーを浴びたばかりのため、髪はまだ湿り気を帯びており、おまけに白いバスローブ一枚きりという格好だ。胸元からは白く艶やかな谷間が大胆に覗いている。しかし、正面に座るスーツ姿の悠人は、視線を逸らしもせず、かといって興味も示さず、ただ平然と秘書としての顔を見せていた。
「先ほど報告のとおり、あと数日の辛抱です」
「今日、すっごく大切な商談があったのに!」
 涼風はしつこくも言い募る。
 彼女がここに来た日から一週間が過ぎていた。身柄を拘束させてもらう――剛三にそう宣言された直後から、本当に橘家の一室に閉じ込められ、携帯電話も取り上げられ、一歩たりとも外に出させてもらえなくなった。閉じ込められるといっても、牢獄のようなところではなく、涼風の自宅より広くてきれいな部屋だ。トイレも風呂も洗面所も備え付けられている。食事もレストラン並みにおいしい。必要なものがあれば、悠人や執事の櫻井に言えば用意してくれる。毎日、完璧なくらいに清掃もされ、まるで高級ホテルに滞在しているかのような快適な生活だった。
 だが、彼女には仕事があった。
 それも、小さいとはいえ画廊のオーナーである。休暇を取ればいいというものではない。部屋の電話を使うことは許されているが、通話内容はすべてチェックしているという。これでは守秘義務のある話については避けざるを得ないし、そもそも電話だけで済むような仕事ばかりではない。画廊の方は臨時の従業員を手配してくれたので、渋々それで手を打ったが、今日の商談だけは折れるわけにいかなかった。ようやく取り付けたアポイントメントであり、これを逃せば次はないと断言できる相手だ。しかし、必死に縋り付いてみたものの、どうしても部屋から出してもらえなかったのである。
 あまり文句を言える立場でないことはわかっている。彼らは涼風の依頼のために動いてくれているのだ。とはいえ、またとない商機をふいにした落胆は大きく、今日くらいはやけ酒をせずにいられない。悠人の報告を聞いている間、アルコールは強くないにもかかわらず、ブランデーを何杯もハイペースで呷っていた。
「今は篤史を信じて待つしかないでしょう」
「信じるも信じないもないわ!」
 悠人が篤史に行かせることを提案してくれたので、一応、涼風はそれを受け入れることにした。今頃ちょうど相手と会っている頃だろう。だが、あくまで非礼を詫びるために行ってもらったようなものであり、これで次に繋がるなどという能天気な期待はしていない。たまらず、グラスに残っていたブランデーを一気に口に流し込んだ。
「私が行かないと意味がないのよ。私という人間を見て、信用に足る人物か判断して、それで取引を決めてもらうんだから。あなたたちはどうだか知らないけど、私たちの世界は数字だけじゃない。わかる?」
 喉から胃まで焼け付くような熱さを感じながら、それでも強気な態度を崩すことなく捲し立てた。頭が少しくらりとしたが、深く息をついて落ち着けると、自嘲ぎみにうっすらと微笑を浮かべる。
「もっとも、女としてしか見てくれない人もいるけれど」
 それを聞いて、悠人は訝るように眉を寄せた。
「まさかとは思いますが……」
「あら、これでも身持ちは固いのよ」
 涼風は両手を左右に広げ、オーバーな身振りでおどけるように言った。そして、空になったグラスにブランデーを注ぎながら、僅かに目を細めてくすくすと愉しそうに笑う。
「私はただ、相手の勝手な期待を利用させてもらうだけ」
「あまり感心しませんね、そういうやり方は」
「ふふっ、悠人さん心配してくれるの? 嬉しい」
 そう言って、左手でブランデーグラスをすくい上げ、ゆったりとソファにもたれかかった。グラスを優雅にまわすと、琥珀色の液体が緩やかに波打ち、芳醇な香りがふわりと立ち上る。
 悠人は無表情で書類をまとめ始めた。
「今日はこれで失礼します」
「ねぇ、一杯くらい付き合ってよ」
 涼風はしなやかに身を乗り出し、艶のある声で悠人に誘いをかける。化粧をしていない顔はあどけなくさえあったが、表情や仕草は、それとは不釣り合いなほどの色気を醸し出している。しかし、彼は眉ひとつ動かすことなく、書類を脇に抱えて立ち上がった。
「まだ仕事がありますので」
「一杯だけでいいの」
「付き合う義理はない」
 その突き放した拒絶の言葉に、涼風はしゅんとしてうなだれる。
「わかってるけど……」
 小さな口から落とされた声は、これまでの彼女からは想像もつかないほど弱々しいものだった。目には少し涙が溜まっている。瞬きをするだけで粒になって零れ落ちてしまいそうだ。
 悠人は顔をしかめ、そして深く溜息をついた。

「ね、悠人さんって女の涙に弱いでしょう?」
「男女問わず、泣かれるのは好きじゃない」
 涼風がブランデーを注いだグラスを差し出しながら尋ねると、隣に座る悠人は、腕を組んだまま身じろぎもせずに答えた。そんな彼に視線を流し、涼風はふっと柔らかく目を細める。
「でも、ほっとけない?」
「…………」
「あのときもそうだったものね」
 微かに笑いを含んだその声に、悠人は何も答えなかった。目の前のブランデーグラスを手に取ると、乾杯もせず、すぐに口をつけてぐいっと流し込む。それでも、涼風が意に介することはない。
「実はね、悠人さんが私の初恋だったんだぁ」
 懐かしむような甘えた声を出すと、ゆったりと悠人の方に体を倒し、見かけよりも逞しい腕に寄りかかる。スーツ越しにほんのりと彼の体温が伝わってきた。そのあたたかさは、じんわりと心の奥まで沁み入ってくるかのようである。
「ずっと名前も知らなかったけれど、私にとっては恩人でヒーローなの。あのとき優しくしてくれた記憶と、悠人さんのくれたお守りがあったから、私は今日まで頑張ってこられたの。本当よ?」
 涼風は上目遣いで悠人の顔を見つめ、目が合うと、少女のように無邪気にニコッと笑った。
「どうしようかすごく迷ったんだけど、父の絵のこと、お願いに来て本当に良かった。初恋の人と一緒にお酒まで飲めたしね。悠人さん昔と変わらないんだもの。私が大好きだったあの頃のまま……だから、あらためて好きになったのよ。ね、私じゃダメ?」
「婚約していると言ったはずだ」
 相変わらず悠人の言葉はつれないものだった。涼風は少し彼に体重を掛ける。
「澪ちゃん……ですってね。篤史に聞いちゃった」
「別に隠してはいない」
 悠人の他にも、篤史や澪たちが度々この部屋を訪れていた。特に用があるわけではないが、閉じ込められた涼風を気遣い、様子を見に来るといった感じだ。きのう、篤史が一人で部屋に来たときに、婚約者について訊いてみたら、少し迷いながらも澪のことを教えてくれた。ただ、彼も詳しいことは知らないらしい。
 悠人は少し眉を寄せて、自分に寄りかかる涼風を見下ろす。
「篤史の気持ちを弄ぶなよ」
「失礼ね、ちゃーんとお断りしましたっ」
 涼風は口をとがらせて言い返す。当初、篤史は誰の目にも明らかなほど涼風に執心していた。それゆえ、自分にその気はないということを、冗談めかしつつもきっぱり伝えておいたのだ。篤史は大いに残念がっていたが、しつこく言い寄ることはなく、二人の間に変なわだかまりはない。
「私、年下には興味ないのよね。悠人さんくらいがちょうどいいの」
 そう言いながら、腕を絡めてしなだれかかる。悠人の腕に豊満な胸が押し当てられ、バスローブの合わせ目から白い太腿が覗いた。小ぶりの艶めいた唇が、絡め取るような甘い誘惑の言葉を紡ぐ。
「ね、奥さんにしてなんて言わないから、今夜一晩だけでもどう?」
 しかし、悠人は眉ひとつ動かすことなく、そっと涼風の腕を外した。
「あなたには興味がありませんので」
「随分はっきり言ってくれるのね」
 さすがに少しムッとして気色ばんだが、その姿勢は涼風の嫌いなものではない。かえってさっぱりした気持ちになると、ブランデーを呷ってソファの背にどさりともたれかかった。零れた口もとを手で拭い、熱い吐息を落としながら潤んだ目を天井に向ける。
「まあ、せっかくの逆玉を棒には振れないわよね」
「違います」
 悠人は静かながら明確にそう言った。脚の上で組み合わせた指先に力がこもる。
「橘の家や財産は関係ありません。橘会長には別の思惑があるようですが、私はただ澪と一緒にいられるだけでいい。そのためなら今の地位や立場をなげうっても構わないし、逆に橘会長に利用されるのも厭わない。澪と二人で幸せに暮らしていくことが、私のたったひとつの願いです」
「そっかぁ……澪ちゃんいいなぁ……」
 涼風は羨望を口に上すと、ゆっくりと甘えるように悠人の太腿に体を横たえた。何度か身をよじりながら仰向けになり、微妙な顔つきの彼を見上げてニコッと笑う。寝転がってもぞもぞ動いたせいか、もともと緩く着ていたバスローブは崩れ、胸元も裾も大きくはだけている。もうほとんど着ている意味がない状態だった。
「酔ってるだろう?」
「酔ってるふりよ」
 目を閉じる彼女の頬には赤みが差していた。体もほんのり桜色に染まっている。
「飲み過ぎだ。そろそろ寝た方がいい」
「ん……もう少しだけ、このままでいさせて……おねがい……」
 その声は次第にかぼそくなっていき、やがて小さな口も動かなくなった。腹の上に置かれていた手がだらりと滑り落ちる。そのうち、胸がゆっくりと上下に動いて、規則正しい安らかな寝息を立て始めた。
 静寂が二人を包む。
 悠人はグラスに残っているブランデーを一気に呷った。カタン、と空になったグラスをローデーブルに戻す。そして、煩わしげに溜息をつくと、脚の上で眠っている涼風の腰紐に手を掛け、すでに用をなしていないそれを解き始めた。

「いよいよね」
 ひゅうぅ、と不気味な音がして、凍てつく風が黒髪を舞い上げる。
 明かりの灯されていない古びたビルの屋上で、涼風は塗装のはがれかかった金属製の柵にもたれかかり、煌々と輝く小さな美術館を見下ろしていた。その目がふっと感慨深げに細められる。隣でその様子を見ていた澪は、同じように柵にもたれかかりながら、にこっと力づけるように微笑んでみせた。
 まもなく怪盗ファントムの予告時刻である。
 今回の標的は、眼下の美術館が所蔵している日比野夏彦の遺作だ。ただし、それは『偽物』――涼風の持っている方が本物だと確信した剛三は、彼女の望みどおり、美術館の方を盗み出して燃やすことに決めたのである。
 周囲には溢れんばかりの野次馬が集まっていた。日比野夏彦という画家は、美術界ではそれなりに評価されているが、一般的な知名度はほぼ皆無といってもいい。抽象画という理解されにくい分野ゆえかもしれない。にもかかわらず、これだけの人間が集まったのは、怪盗ファントムがこの絵を狙うのは二度目であるということ、予告状に「本物は一つ」という謎めいた言葉が書かれていたこと――その暗示的な二つの事象が、様々な憶測や論争を巻き起こしたためである。
 涼風と澪がここに来たのは、悠人の指示だった。涼風に願いの成就を見届けさせるためである。念のため、彼女がおかしな行動をとらないか見張るのが澪の役目だ。だが、それはほとんど形だけのものといえるだろう。
 涼風は美術館を見下ろしたまま言う。
「今の怪盗ファントムって澪ちゃんかと思ったけど、遥くんだったのね」
「私と遥の二人でやってるんです。今日は私の出番はないんですけど……私だと燃やすの失敗しそうだから、って師匠に言われて……」
 自分の鈍くささはそれなりに自覚しているし、別にファントムをやりたいわけではないのだが、師匠に認めてもらえないのはやはり悔しい。澪は無意識に口をとがらせる。
「大切にされているのよ、悠人さんに」
「単に信用されてないだけです」
 反論の声が気色ばんだ。
 涼風は柵に両肘をついて顎をのせ、視線だけをそっと澪に流す。
「婚約してるんでしょう?」
「……まだ、していません」
 澪は硬い顔で答える。「まだ」など、婚約自体は決定しているかのような言い様だが、そう口を滑らせたのは、心のどこかに諦めの気持ちがあったせいかもしれない。刺すように冷たい風を頬に受けながら、小さく溜息をつく。
 涼風はぱっちりとした目を瞬かせた。
「へぇ、そうなの……じゃ、私にもチャンスがあるのかな」
 小悪魔っぽく挑むような彼女の言葉に、澪は一気にパァッと顔を輝かせた。長い黒髪をなびかせて涼風に向き直ると、目をキラキラさせながら、胸元でこぶしを握り締めてずいっと踏み込む。
「それはもう! ぜひ頑張ってくださいっ!!」
 その勢いに気おされるように、涼風はたじろぎながら一歩足を引いた。不思議そうな顔で小首を傾げる。
「もしかして、悠人さんとの結婚に乗り気じゃないの?」
 図星だった。
 あれほどわかりやすい態度を見せれば、言い当てられるのも当然といえば当然である。澪は神妙な面持ちになってこくりと頷いた。しかし、涼風はまだ納得していないようで、立てた人差し指を口もとに当てると、記憶をたどるように言葉を紡ぐ。
「でも、澪ちゃんの初恋は悠人さんだって篤史から聞いたんだけど……」
「それは小さいころの話ですっ!」
 篤史にそこまで話した覚えはないので、おそらく悠人か遥から聞いていたのだろう。知られたところで困る話ではないが、今さら蒸し返されるのも少し恥ずかしく、みんなの口の軽さを恨めしく思う。
「悠人さん、いい人だと思うんだけどなぁ」
「それは、わかってますけど……」
 澪は困ったように声のトーンを落とし、顔を曇らせた。
「だからって結婚はまた別の話じゃないですか。師匠のことは今も好きだし、尊敬してるし、感謝もしてますけど、結婚だけはどうしても考えられない、っていうかありえない……私にとっては親同然の人なんですよ?」
「……えっ?」
 涼風は大きく目をぱちくりとさせた。澪は視線を落として続ける。
「両親がずっと仕事で家を空けていて、師匠が代わりに育ててくれたようなものなんです。学校にも保護者代理として来てくれますし。物心ついたときからずっとそうで。なのに、そんな人といきなり結婚だなんて言われても……私、付き合っている人もいますし……」
「そっかぁ」
 涼風は目を細めて夜空を仰ぎ、白い吐息まじりの相槌を打つ。
「悠人さんは知ってるの? 彼氏のこと」
「何度か顔を合わせたこともありますよ」
 澪は軽く苦笑して答える。
「今すぐ別れろとは言われてないんですけど、私たちのことを認める気はなさそうで……どんな手を使ってでも私と結婚するつもりみたいです。彼が刑事だと知ってからは譲歩もしてくれませんし」
「ちょっ……刑事なの?!」
 涼風の声が裏返った。澪は肩をすくめる。
「彼と付き合い始めたときは、まだ知らなかったんですよ。ウチが怪盗やってること」
 自分の一家がそろって怪盗などという話は、あまりにも非現実すぎて、澪でなくとも思いつきはしないだろう。ましてや橘家は財閥である。危険を冒してまで盗みを働くなどあり得ないことだ。あえてやっているのは祖父の道楽のために違いない。それに無理やり付き合わされた挙げ句、彼氏が刑事であることを理由に別れさせられるなど、澪からすれば受け入れがたい横暴である。
「でも……」
「あっ、来たわよファントム!」
 思い詰めたように呟きかけた言葉は、はしゃいだ声に掻き消される。
 涼風の視線をたどると、濃紺色の空に浮かび上がる白いハンググライダーが見えた。すうっと静かに闇を切り裂きながら、緩やかに弧を描くと、美術館の屋上に滑り込むように着地する。野次馬たちからワアッと割れるような歓声が上がり、警備員や警察の動きも一気に慌ただしくなった。
「遥に任せておけば大丈夫ですよ」
「ええ、私も信じているわ」
 剛三と対峙してもまるで怯まなかった涼風だが、この状況にはさすがに緊張を隠せないようだ。息を詰め、祈るような眼差しを怪盗ファントムに送っている。館内に侵入してその姿が見えなくなっても、彼女は立ち尽くしたまま微動だにしない。柵を掴む指先は、血が止まったように白くなっていた。
 再び、大きく歓声が上がる。
 絵画を脇に抱えた怪盗ファントムが、颯爽と屋上へ舞い戻り、自らの姿を見せつけるように正面側へ向かった。いつもならすぐさま逃走するところだが、今日はもうひとつ大切な仕事が残っている。追ってきた警備員たちを牽制しつつ、縁に立つと、手にしていた絵画を全力で上方に放り投げた。
 白い手袋から飛び出したそれは、ほとんど回転せず、すうっときれいに夜空に上がる。
 バンッ――!!
 放物線の頂点に達して動きが止まった瞬間、大きな音がして、キャンバスは目映いオレンジの炎に包まれた。派手に燃えさかったまま、怪盗ファントムの眼前を落下していき、正面玄関前のコンクリートに叩き付けられる。木枠が砕け散りながらも、まだ燃焼は収まらず、色とりどりの炎が揺らめいていた。
 警備員も野次馬も館長も凍り付く。その隙に、怪盗ファントムは姿を消した。

 傍目にも明らかなくらい硬直していた涼風の体から、ふっと力が抜けた。古びた柵からそっと手を離すと、大きく安堵の息をつく。血が通わなくなるほど真っ白になった指先に、次第に赤みが戻っていった。
「ありがとう」
「良かったですね!」
 澪は満面の笑顔で言った。しかし、涼風は再びきゅっと表情を引き締める。
「今度は私の出番ね」
 このあと、涼風が日比野夏彦の遺作を公表する段取りになっている。
 それは、怪盗ファントムの名誉を回復するために必要不可欠なことで、この依頼を受けるための交換条件として、剛三に約束させられていたことだった。絵画を愛する知的でスマートな怪盗というイメージを、真っ向から覆す今回の行動に、大きな失望を感じた人も少なくないだろう。実際に、野次馬から怒号のようなものが聞こえ、戸惑いがちなどよめきも起こっている。しかし、涼風の方が本物だと認められれば、燃やされた方は必然的に偽物となり、怪盗ファントムは血迷っていなかったと証明できるのだ。
「頑張ってくださいね。師匠とのことも!」
 澪は元気よく声を弾ませながらこぶしを握り、涼風を後押しする。しかし――。
「あ、そっちはやめておくわ」
「えっ?」
 涼風は軽く肩をすくめる。
「私、まったく脈のない相手には執着しない主義なの。泣き落としも、色仕掛けも、悠人さんにはぜーんぜん通用しなかったしね。裸で抱きついてもビクともしないんじゃないかしら」
「そんなことないですよ!」
 澪はあたふたと両手を振りながら、なんとか引き留めようとする。
「ほら、理性で我慢してるだけかもしれませんしっ」
「いいえ、あれは完全に澪ちゃんしか見えてないわね」
 涼風はどこか楽しむような弾んだ口調で言う。からかっているのか本心なのかはわからない。ただ、彼から想いを聞かされている澪には、それを真っ向から否定することはできなかった。
「でっ、でも、心変わりすることもありえますし」
「私、それを待てるほど暇でも気長でもないの」
「…………」
 あっというまに返す言葉が尽き、思わず口をとがらせて涼風を睨む。理不尽な八つ当たりであることはわかっているが、それ以外に気持ちの持っていき場所がなかった。しかし、彼女はそんな澪の様子を見ながら、口元に手を添え、楽しそうにクスクスと笑っている。
「ごめんなさいね、澪ちゃんの期待に応えられなくて」
「せっかくいいチャンスだと思ったのに……」
 澪は肩を落とすより他になかった。その肩を、涼風は励ますようにポンと叩く。
「愚痴くらいならいつでも聞いてあげるから、ねっ」
「そんなこと言ったら、本当に押しかけちゃいますよ?」
「ええ、いつでもどうぞ」
 涼風は身を翻し、明るく凛とした声を闇夜に響かせる。
 その小柄な後ろ姿を目で追いつつ、澪はふっと柔らかく表情を緩めた。一縷の望みが絶たれたことは残念だが、気持ちは不思議と軽くなっている。おそらく、今まで友人にさえ話せなかったことを、涼風にすべて聞いてもらえたからだろう。
 それが、何の解決にもならないことはわかっている。けれど――。
 澪の足がコンクリートを蹴る。長い黒髪をさらりとなびかせながら、小走りで涼風を追うと、後ろからその腕にじゃれつくように抱きついた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子
ファンタジー
ノエル・コレットは引きこもりのもやし伯爵として、シャンポリオン国の屋敷にひっそりと暮らしている。しかしノエルは実は女の子で、その正体は世間を賑わせる乙女怪盗ジョゼフィーヌ。父の形見である「天空の星」という名の宝石を捜している。ところがある日、新任のアラン警部から特別国王憲兵隊として部下に任命され、乙女怪盗の捕縛に協力することになる。凄腕のアラン警部と完璧執事のフランソワ、うっとうしい刑事バルスバストルという愉快な仲間たちに囲まれて、ノエルは正体がバレずに父の形見の宝石を取り戻すことができるのか……!?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...