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17話 麗らかな公爵家
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メーデイアの元に行くと旅立ってから約一週間後、私たちは無事公爵家に帰り着いた。
使用人たちの大半は事情を知らないが、ユアンさんやメリダさんのように事情を知っている使用人たちは、さぞかし不安の日々を過ごしただろう。
「リアス、準備はいい?」
「ああ、いつでもいいよ」
頼もしいいつもの笑顔を向けた彼は、私に頷きを返し、晴れ晴れとした笑顔で馬車から降りた。
私もそんな彼に続き、差し出された手を取って馬車から降りて、ユアンさんたちの元へと歩み寄った。
「ラディリアス、エリーゼ様っ……」
私たちの名を呼ぶ彼の瞳には、心配の色が滲んでいる。リアスはそんな彼に、感情の起伏を一切見せず手短に告げた。
「談話室に来てくれ」
こうして、私たちは他の使用人たちには怪しまれることなく、ユアンさんとメリダさんを連れて、談話室へと移動した。
「それで、ラディリアス。どうなったんだ!?」
「どうなさったんです!?」
他の使用人の目が無くなり、なんの憚りもないユアンさんとメリダさん言葉がリアスに向けられる。
すると、リアスは私にアイコンタクトを送り、ユアンさんに向き直って答えた。
「結論から言うと、魅了魔法は解けていた」
「えっ……それって、つまり……?」
驚嘆したかのように目を見開く彼が零した言葉に、私はようやく満面の笑みを向けて答えた。
「私とリアスは、これからもずっと夫婦です!」
隣に座るリアスの手を繋ぐ。すると、リアスが繋いだ私の手に口付けを落とし、見せつけるようにユアンさんに笑って見せた。
途端に、前のめりになっていたユアンさんが背もたれに身体を預け、崩れ落ちるように力を抜き両手で顔を覆った。
「本当に良かったっ……」
「ユアン、心配をかけて本当に悪かった」
「ホントだよ、リアス! でも、これで一件落着だっ……」
二人がそんな会話をしている中、胸に手を当て息を詰まらせていたメリダさんが、ワンテンポ遅れて口を開いた。
「こんな奇跡があるだなんてっ……。奥様、リアス様をお許しくださりありがとうございます。これからも末永く、どうぞろしくお願いします」
「はい、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」
この家に来てから私を真っ先に温かく迎え入れてくれた彼女を思い出し、感慨深さを感じながら笑みを返す。
すると、メリダさんもそんな私に応えるよう目を細めてくれた。その隙間からは、一筋の涙が溢れている。
「すみません。年甲斐もなくっ……。ふっ……この歳になると、涙脆くなっていけませんね」
彼女がそう告げると、リアスが胸元からハンカチを取りだしメリダさんに差し出した。
「っ……! ありがとうございます、リアス様」
「本当に心労をかけました。これからは胸を張ってエリーゼの夫として、公爵として勤めます。どうかご安心ください」
「当然です。奥様の尻に敷かれながら、しっかりと挽回していただきます!」
乳母のメリダさんだからこそ言える言葉に、一同がクスッと微笑む。
こうして無事、ヴィルナー公爵家には、久方ぶりの平和が訪れたのだった。
後日、私たちの帰りを知ったアルチーナが、公爵家にやってきた。
私はそのとき、メーデイアの言葉を彼女に伝えてあげた。
すると、いつもの妖艶な雰囲気をまとった人物とは思えないほど、アルチーナは珍しく純真無垢な少女のようにはしゃぎ喜んだ。
「メーデイア様が本当にそう仰っていたの!?」
「ええ。微笑ましそうに『アルチーナも成長したものね』って言っていたわよ」
「うわぁ~! 奥様、教えてくれてありがとう! 私、これからは真っ当な魔女を目指して頑張るわ!」
今まで真っ当じゃなかったのかしら。
なんて野暮なことは言わず、私は倫理ある正統な魔女を目指す彼女を応援することに決めた。
過程は良くなかったとは思うけれど、ある意味私たちのキューピッドみたいなものだしね。
またこの日は、アルチーナと入れ違うようにロビンもやってきた。
「ほら、言った通りだったでしょう?」
申し訳なさげなリアスに向けたロビンの表情は、その皮肉っぽい喋りとは裏腹に喜びに満ちていた。
「これからは勝手な憶測で決めつけず、エリーゼのことを信じてあげてくださいね」
「ああ、もちろんだ。ロベルト卿、すまなかったな……」
「いえ、私は何も謝られるようなことをされておりませんから」
そう言うと、ロビンは眉根を下げて柔らかく笑った。そして、改まった様子でリアスに呼びかけた。
「ヴィルナー公爵」
「どうした、ロベルト卿?」
「……これからもずっと、エリーゼと仲睦まじい夫婦でいてください」
「ああ、約束するよ」
リアスのその堂々たる答えを聞くと、ロビンは満足そうに私に向き直った。そのため、私から先に彼に声をかけた。
「ロビン、ありがとう」
「ううん、僕は何もしてないよ」
「そんなこと無いわ!」
こういう時、いつも謙虚になるロビンだからこそ、あえてきちんとお礼を伝えた。
本当にロビンの助言が無かったら、実際もっと状況は悪化していたと思う。
「あなたがメーデイアのことを教えてくれなかったら、きっと今も解決していなかったもの」
「そう言ってくれるなら、素直に受け取ろうかな。エリーゼ、ちゃんとヴィルナー公爵を離さないようにね」
からかうように告げるロビンに、私は「離れられないようにしておくわ」と返した。すると、ロビンは一瞬だけ目を見開いた後、ふっとその瞳に弧を描いた。
一方リアスはどうしてか、頬を染め何か期待するような眼差しをこちらに向けていた。
「じゃあね、ロビン。ありがとう。また遊びに来てね」
「ロベルト卿なら、いつでも歓迎するよ」
私の言葉を追うようにリアスが告げると、ロビンは口角を上げた。
「ありがとうございます。ですが、次は会う時はきっと社交界でしょう。またお会いしましょうね」
ロビンはそう言うと、いかにも肩の荷が降りたというように深呼吸をし、笑顔のまま公爵家を後にした。
ベルガー家にやってきたばかりの弱々しさの影はなく、頼りになる侯爵の姿を彷彿とさせる背姿だった。
◇◇◇
時の流れは早いもので、リアスの魅了魔法騒動があってから六年もの月日が経過した。
そんな麗らかなある春の日のこと。
「お父さま! お母さま! おかえりなさいっ!」
「ただいま、フィニアス」
「今日はおしごともう終わったの!?」
「ええ、あなたに会うために早く帰ってきたのよ」
「やった~! お母さま大好き!」
フィニアスは嬉々とした声で叫ぶと、リアスにそっくりの天使のような笑顔で私にギューッと抱きついてきた。
「フィニアス、お父様には?」
リアスがそう声をかけると、フィニアスはハッと私から腕を解いた。
その次の瞬間、私に対するものとは比にならないほど、フィニアスは勢い良くリアスに飛び付いた。
「お父さまも大好きだよ!」
子どもの全力という力で衝突するフィニアス。しかし、リアスはビクともせず彼を受け止め、いともたやすく彼を抱き上げると、頬同士をくっつけ合い始めた。
――なんて眼福なのっ……!?
今のうちしか見られないであろうその光景を、必死に目に焼きつける。
私は今あるこの得難き幸せに、報われるような気持ちで心満たされるのだった。
この夜、ふとあることを思い出し、ともにベッドに入って私の腕枕になっているリアスに話しかけた。
「あのね、リアス」
「うん?」
「六年前、私たちがメーデイアのところに行ったとき、問題を解いたでしょう?」
「ふふ、そうだったね」
「あのとき出てきた少年って、今よくよく考えれば、フィニアスそっくりじゃないかしら?」
ずっと気になっていた。成長するにつれ、フィニアスがあの少年と重なって見えたのだ。
すると、私の言葉を聞いたリアスが軽く寝返りを打った。かと思えば、突然もう片方の腕で私の身体を抱き留めて口を開いた。
「実は、俺もそれについてずっと考えていたんだ」
「そうだったの?」
「うん。……もしかして、あの鏡は未来を映してたんじゃないかって」
「えっ……」
さすがにそこまでは考えていなかった。
私はより鮮明に思い出そうと、脳内であの日の光景の記憶を辿ることに集中する。
だがそのとき、リアスが流れるような手つきで私の手を絡めるように手を握り、チュッと音を立てて口付けを落とした。
不意打ちのキスに思考が遮断され、リアスに視線を向ける。すると、悪戯な笑みを浮かべる彼が目に入った。
「ところで、あの鏡に映ってたのはフィニアスだけじゃなかったって、エリーゼは気付いてた?」
「ど、どういうこと……?」
「フィニアスの奥に、ゆりかごが見えたんだけど?」
「えっ……」
驚く私にリアスは甘い笑みを浮かべると、今度は口の端にキスを落とした。
「リアスっ……」
「エリーゼ、明日は一緒に寝坊しよっか?」
耳元でそう囁いたリアスは、今度こそ私の唇に深めのキスを落とした。
この口づけを皮切りに、甘やかな温もりに絆され、うっとりと熱に浮かされ蕩かされる、二人の長い夜が始まりを告げた。
こうして魅了の魔法をかけられて結ばれた私たちではあったものの、ヴィルナー家には麗らかで幸福な日々が続くのだった。
―――――――――――――――
本作を最終話までお読みいただき、誠にありがとうございます。
ちなみにですが、ここでロビンがメーデイアに会いに行った裏話をちょこっと。
彼はラディリアスの予想(懸念)通り、実はエリーゼを愛していました。
ただ、ラディリアスという人が現れたのであれば、自分がエリーゼと結ばれる訳にはいかない。
しかし、エリーゼに対し、これまで募らせた恋情を殺すというのも難しい。また、恋仲となった二人の姿を見ることも辛いという、葛藤や苦しみを抱えていました。(ちなみに、エリーゼはまったくロビンの恋心に気付いていません)
そこで、ロビンは『エリーゼへの恋心を消してもらう』という目的の元、メーデイアのところへ行きました。
そして見事、彼女への家族愛や恩情は残りながらも、恋心だけを消失させることに成功しました。
このような経緯があったため、ロビンはメーデイアを知っていました。
ということで、本作はこれにて完結です。
今後は既存作品の番外編や、新作を出しますので、機会がありましたらお読みいただけると嬉しいです。
お読みくださっただけでなく、お気に入り登録をしてくださったり、いつもいいねをくれたりした方、励ましをいつも本当にありがとうございました。
使用人たちの大半は事情を知らないが、ユアンさんやメリダさんのように事情を知っている使用人たちは、さぞかし不安の日々を過ごしただろう。
「リアス、準備はいい?」
「ああ、いつでもいいよ」
頼もしいいつもの笑顔を向けた彼は、私に頷きを返し、晴れ晴れとした笑顔で馬車から降りた。
私もそんな彼に続き、差し出された手を取って馬車から降りて、ユアンさんたちの元へと歩み寄った。
「ラディリアス、エリーゼ様っ……」
私たちの名を呼ぶ彼の瞳には、心配の色が滲んでいる。リアスはそんな彼に、感情の起伏を一切見せず手短に告げた。
「談話室に来てくれ」
こうして、私たちは他の使用人たちには怪しまれることなく、ユアンさんとメリダさんを連れて、談話室へと移動した。
「それで、ラディリアス。どうなったんだ!?」
「どうなさったんです!?」
他の使用人の目が無くなり、なんの憚りもないユアンさんとメリダさん言葉がリアスに向けられる。
すると、リアスは私にアイコンタクトを送り、ユアンさんに向き直って答えた。
「結論から言うと、魅了魔法は解けていた」
「えっ……それって、つまり……?」
驚嘆したかのように目を見開く彼が零した言葉に、私はようやく満面の笑みを向けて答えた。
「私とリアスは、これからもずっと夫婦です!」
隣に座るリアスの手を繋ぐ。すると、リアスが繋いだ私の手に口付けを落とし、見せつけるようにユアンさんに笑って見せた。
途端に、前のめりになっていたユアンさんが背もたれに身体を預け、崩れ落ちるように力を抜き両手で顔を覆った。
「本当に良かったっ……」
「ユアン、心配をかけて本当に悪かった」
「ホントだよ、リアス! でも、これで一件落着だっ……」
二人がそんな会話をしている中、胸に手を当て息を詰まらせていたメリダさんが、ワンテンポ遅れて口を開いた。
「こんな奇跡があるだなんてっ……。奥様、リアス様をお許しくださりありがとうございます。これからも末永く、どうぞろしくお願いします」
「はい、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」
この家に来てから私を真っ先に温かく迎え入れてくれた彼女を思い出し、感慨深さを感じながら笑みを返す。
すると、メリダさんもそんな私に応えるよう目を細めてくれた。その隙間からは、一筋の涙が溢れている。
「すみません。年甲斐もなくっ……。ふっ……この歳になると、涙脆くなっていけませんね」
彼女がそう告げると、リアスが胸元からハンカチを取りだしメリダさんに差し出した。
「っ……! ありがとうございます、リアス様」
「本当に心労をかけました。これからは胸を張ってエリーゼの夫として、公爵として勤めます。どうかご安心ください」
「当然です。奥様の尻に敷かれながら、しっかりと挽回していただきます!」
乳母のメリダさんだからこそ言える言葉に、一同がクスッと微笑む。
こうして無事、ヴィルナー公爵家には、久方ぶりの平和が訪れたのだった。
後日、私たちの帰りを知ったアルチーナが、公爵家にやってきた。
私はそのとき、メーデイアの言葉を彼女に伝えてあげた。
すると、いつもの妖艶な雰囲気をまとった人物とは思えないほど、アルチーナは珍しく純真無垢な少女のようにはしゃぎ喜んだ。
「メーデイア様が本当にそう仰っていたの!?」
「ええ。微笑ましそうに『アルチーナも成長したものね』って言っていたわよ」
「うわぁ~! 奥様、教えてくれてありがとう! 私、これからは真っ当な魔女を目指して頑張るわ!」
今まで真っ当じゃなかったのかしら。
なんて野暮なことは言わず、私は倫理ある正統な魔女を目指す彼女を応援することに決めた。
過程は良くなかったとは思うけれど、ある意味私たちのキューピッドみたいなものだしね。
またこの日は、アルチーナと入れ違うようにロビンもやってきた。
「ほら、言った通りだったでしょう?」
申し訳なさげなリアスに向けたロビンの表情は、その皮肉っぽい喋りとは裏腹に喜びに満ちていた。
「これからは勝手な憶測で決めつけず、エリーゼのことを信じてあげてくださいね」
「ああ、もちろんだ。ロベルト卿、すまなかったな……」
「いえ、私は何も謝られるようなことをされておりませんから」
そう言うと、ロビンは眉根を下げて柔らかく笑った。そして、改まった様子でリアスに呼びかけた。
「ヴィルナー公爵」
「どうした、ロベルト卿?」
「……これからもずっと、エリーゼと仲睦まじい夫婦でいてください」
「ああ、約束するよ」
リアスのその堂々たる答えを聞くと、ロビンは満足そうに私に向き直った。そのため、私から先に彼に声をかけた。
「ロビン、ありがとう」
「ううん、僕は何もしてないよ」
「そんなこと無いわ!」
こういう時、いつも謙虚になるロビンだからこそ、あえてきちんとお礼を伝えた。
本当にロビンの助言が無かったら、実際もっと状況は悪化していたと思う。
「あなたがメーデイアのことを教えてくれなかったら、きっと今も解決していなかったもの」
「そう言ってくれるなら、素直に受け取ろうかな。エリーゼ、ちゃんとヴィルナー公爵を離さないようにね」
からかうように告げるロビンに、私は「離れられないようにしておくわ」と返した。すると、ロビンは一瞬だけ目を見開いた後、ふっとその瞳に弧を描いた。
一方リアスはどうしてか、頬を染め何か期待するような眼差しをこちらに向けていた。
「じゃあね、ロビン。ありがとう。また遊びに来てね」
「ロベルト卿なら、いつでも歓迎するよ」
私の言葉を追うようにリアスが告げると、ロビンは口角を上げた。
「ありがとうございます。ですが、次は会う時はきっと社交界でしょう。またお会いしましょうね」
ロビンはそう言うと、いかにも肩の荷が降りたというように深呼吸をし、笑顔のまま公爵家を後にした。
ベルガー家にやってきたばかりの弱々しさの影はなく、頼りになる侯爵の姿を彷彿とさせる背姿だった。
◇◇◇
時の流れは早いもので、リアスの魅了魔法騒動があってから六年もの月日が経過した。
そんな麗らかなある春の日のこと。
「お父さま! お母さま! おかえりなさいっ!」
「ただいま、フィニアス」
「今日はおしごともう終わったの!?」
「ええ、あなたに会うために早く帰ってきたのよ」
「やった~! お母さま大好き!」
フィニアスは嬉々とした声で叫ぶと、リアスにそっくりの天使のような笑顔で私にギューッと抱きついてきた。
「フィニアス、お父様には?」
リアスがそう声をかけると、フィニアスはハッと私から腕を解いた。
その次の瞬間、私に対するものとは比にならないほど、フィニアスは勢い良くリアスに飛び付いた。
「お父さまも大好きだよ!」
子どもの全力という力で衝突するフィニアス。しかし、リアスはビクともせず彼を受け止め、いともたやすく彼を抱き上げると、頬同士をくっつけ合い始めた。
――なんて眼福なのっ……!?
今のうちしか見られないであろうその光景を、必死に目に焼きつける。
私は今あるこの得難き幸せに、報われるような気持ちで心満たされるのだった。
この夜、ふとあることを思い出し、ともにベッドに入って私の腕枕になっているリアスに話しかけた。
「あのね、リアス」
「うん?」
「六年前、私たちがメーデイアのところに行ったとき、問題を解いたでしょう?」
「ふふ、そうだったね」
「あのとき出てきた少年って、今よくよく考えれば、フィニアスそっくりじゃないかしら?」
ずっと気になっていた。成長するにつれ、フィニアスがあの少年と重なって見えたのだ。
すると、私の言葉を聞いたリアスが軽く寝返りを打った。かと思えば、突然もう片方の腕で私の身体を抱き留めて口を開いた。
「実は、俺もそれについてずっと考えていたんだ」
「そうだったの?」
「うん。……もしかして、あの鏡は未来を映してたんじゃないかって」
「えっ……」
さすがにそこまでは考えていなかった。
私はより鮮明に思い出そうと、脳内であの日の光景の記憶を辿ることに集中する。
だがそのとき、リアスが流れるような手つきで私の手を絡めるように手を握り、チュッと音を立てて口付けを落とした。
不意打ちのキスに思考が遮断され、リアスに視線を向ける。すると、悪戯な笑みを浮かべる彼が目に入った。
「ところで、あの鏡に映ってたのはフィニアスだけじゃなかったって、エリーゼは気付いてた?」
「ど、どういうこと……?」
「フィニアスの奥に、ゆりかごが見えたんだけど?」
「えっ……」
驚く私にリアスは甘い笑みを浮かべると、今度は口の端にキスを落とした。
「リアスっ……」
「エリーゼ、明日は一緒に寝坊しよっか?」
耳元でそう囁いたリアスは、今度こそ私の唇に深めのキスを落とした。
この口づけを皮切りに、甘やかな温もりに絆され、うっとりと熱に浮かされ蕩かされる、二人の長い夜が始まりを告げた。
こうして魅了の魔法をかけられて結ばれた私たちではあったものの、ヴィルナー家には麗らかで幸福な日々が続くのだった。
―――――――――――――――
本作を最終話までお読みいただき、誠にありがとうございます。
ちなみにですが、ここでロビンがメーデイアに会いに行った裏話をちょこっと。
彼はラディリアスの予想(懸念)通り、実はエリーゼを愛していました。
ただ、ラディリアスという人が現れたのであれば、自分がエリーゼと結ばれる訳にはいかない。
しかし、エリーゼに対し、これまで募らせた恋情を殺すというのも難しい。また、恋仲となった二人の姿を見ることも辛いという、葛藤や苦しみを抱えていました。(ちなみに、エリーゼはまったくロビンの恋心に気付いていません)
そこで、ロビンは『エリーゼへの恋心を消してもらう』という目的の元、メーデイアのところへ行きました。
そして見事、彼女への家族愛や恩情は残りながらも、恋心だけを消失させることに成功しました。
このような経緯があったため、ロビンはメーデイアを知っていました。
ということで、本作はこれにて完結です。
今後は既存作品の番外編や、新作を出しますので、機会がありましたらお読みいただけると嬉しいです。
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