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アダムside
6話 いつもと違う彼女(12話後)
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メアリーさんにこちらに来いと手招きされるまま、2人がいる場所へと足を進めた。お客さんがそこまで多くない時間とはいえ、お客さんがいる時間帯に僕が入り口から堂々と店内に入る機会はあまりない。
だからだろう、お客さんのうち数人は店内に入ってくる僕に対し、気まずげな視線を向けていた。他人からそんな視線を向けられるのはもう慣れっこだ。今更どうこう言うことは無い。
それよりも、今一番大事なことはシェリーの誤解を解くことだ。急いで説明をしなければならないと思いながら、シェリーとメアリーさんの目の前までやって来た。
そして、僕が口を開けるよりも先にメアリーさんがシェリーに話を始めた。
「まだ紹介してなかったわね。あまり会う機会はないと思うんだけど、実は彼もこの店の従業員なのよ。店の裏方の仕事は全部彼がしてくれているのよ! 本当に頼りになる子なの!」
メアリーさんの僕に対する評価を聞く機会はそうそう無い。僕がいるからとジェイスさんと結婚せず、死んだ母の代わりになって育ててくれたメアリーさんに恩返しがしたくて、僕はこの店で働いている。こうして、メアリーさんの助けになっていると改めて分かり、嬉しい気持ちが込み上げてきた。
「困ったことがあったら、もちろん私やジェイスにでもいいけど、この子にも頼っていいからね! 彼は若いし、細身に見えるけど力持ちなのよ!」
そんなことまで言わなくて良いよ。なんて、少し照れながらシェリーを見ると、シェリーの顔はいつもと違い強張っていた。
――どうしたんだろう?
そう思っていると、突然彼女はよろしくお願いしますと言いながら頭を下げた。しかし、僕のことが怖いのか、少し震えているし一向に頭を上げない。
すると、そんなシェリーや僕たちの様子に痺れを切らしたメアリーさんが口を開いた。
「握手でもしたら怖くなくなるでしょ!はい、手出して!」
そう言われ、僕は言われるがまま半ば反射的に、頭を下げ続けているシェリーにも見える位置に手を差し出した。すると、彼女は驚いた顔をして、え? と声を漏らすと、顔を上げてメアリーさんに視線を向けた。
「そんなに緊張しなくていいから、とりあえず握手よ握手! ほら!」
そう言われ、彼女は恐る恐ると言った様子で僕の差し出した手を握ってくれた。そんな彼女の手は冷たかったが、その彼女を包み込むように僕はギュッと彼女の手を握り返した。
こうして彼女の手を握った瞬間、僕は思い出した。
「あ! 斧そのまま置いてきちゃった!」
「それはいけない! 早く行って安全管理は大事よ!」
メアリーさんの言う通り、安全管理は仕事をするうえでとても重要だ。シェリーを追いかけようと、そのまま倉庫の外に放置してしまった斧を回収するべく、急いで店の外へと出た。
もともと、薪割りをするために出した斧だったため、そのまま今日の自分が架した最低ノルマ分だけ薪を割った。そして、素早く作業を終え、早く店に残ってシェリーと話しをしようと思ったが、その日彼女はもうすでに帰っていた。
――今日は帰っちゃったみたいだな。
明日も出勤するはずだから、そのときにでも話をしよう!
そんな風に、楽観的に考えていた。そして、次の日出勤して作業をしていると、突然後ろから彼女の声が聞こえてきた。
「おはようございます!」
「ああ、おはよ――」
そう言いながら振り返ったが、彼女の姿はそこにはなかった。挨拶は聞こえてきたのに、その肝心の人物の姿が消えている。何か急ぎのことがあったと不思議に思いながらも、そのときはスルーした。
しかし、それはその1回きりのことではなかった。仕事中に見かけて声をかけようにも、彼女は僕を避けるようにどこかに行く。それに僕から挨拶をした場合、彼女は完全に無視をする。
――どうしたんだ?
こんなのいつものシェリーじゃない……。
いつもの優しい彼女とは思えない反応に、かなり落ち込んでしまう。しかも、彼女は僕を避けたり無視をしたりしているから、店で会う回数が増えれば増える程、今更僕だよとは言いづらい。
そのうえ、シェリーは仕事のリズムに慣れまではなかなか来られないかもしれないとの宣言通り、いつもの丘に来ることもない。もう完全に正体を言うタイミングを逃してしまった。
――今さら僕だよって言っても、裏切られたとか騙されたとか思われるかも。
他の人ならまだしも、彼女にだけは絶対にそんなこと思われたら、もう立ち直れない。
もう僕とは友達でいてくれないかも……。
そんなの嫌だよ。
考えれば考える程、ネガティブなことしか思い浮かばない。日が経つにつれ、どんどん焦りも出てくる。こうして彼女との関係性に悩んでいたが、ある日から突然荷物置き場にクッキーが置かれるようになった。
『お疲れ様です』
淡白な文で書かれた花柄のメモ用紙が添えられているそのクッキー。現状を考えると、そのクッキーとメモを置いているのは、恐らくシェリーだろう。
確認のためにメアリーさんに聞いてみようかと一瞬考えたが、聞いたら色々詮索されそうであまり聞きたくない。
試しにクッキーを食べてみると、すごく美味しかった。こんなに美味しいクッキーを一方的にもらってばかりと言うのも、日が経つにつれ気が引けてくる。さすがに、お礼くらいは直接伝えたい。
だが、クッキーを置いているのがシェリーじゃなかった場合、そんなことをしたらきっと今以上に関係が悪くなるだろう。しかし、本当にクッキーを置いているのがシェリーだとしても、あまりにも普段とはうらはら過ぎる行動に脳の処理が追い付かない。
そのため、とりあえずの対応として、クッキーを置いてくれるところにありがとうと書いたカードを置くことにした。もらう前提で置いていて自意識過剰な人みたいで恥ずかしい。だけど、お礼を言わないよりはマシなはずだ。
ありがとうと書いたその紙が回収されることは無かったが、クッキーはほとんどの出勤日に置かれるようになっていた。
喫茶店で働いている僕は、ありがとうと伝えられても、お返しをすることができない。だから、いつもの丘で会うときに何らかの形でシェリーにお礼をしようと心に誓った。
だからだろう、お客さんのうち数人は店内に入ってくる僕に対し、気まずげな視線を向けていた。他人からそんな視線を向けられるのはもう慣れっこだ。今更どうこう言うことは無い。
それよりも、今一番大事なことはシェリーの誤解を解くことだ。急いで説明をしなければならないと思いながら、シェリーとメアリーさんの目の前までやって来た。
そして、僕が口を開けるよりも先にメアリーさんがシェリーに話を始めた。
「まだ紹介してなかったわね。あまり会う機会はないと思うんだけど、実は彼もこの店の従業員なのよ。店の裏方の仕事は全部彼がしてくれているのよ! 本当に頼りになる子なの!」
メアリーさんの僕に対する評価を聞く機会はそうそう無い。僕がいるからとジェイスさんと結婚せず、死んだ母の代わりになって育ててくれたメアリーさんに恩返しがしたくて、僕はこの店で働いている。こうして、メアリーさんの助けになっていると改めて分かり、嬉しい気持ちが込み上げてきた。
「困ったことがあったら、もちろん私やジェイスにでもいいけど、この子にも頼っていいからね! 彼は若いし、細身に見えるけど力持ちなのよ!」
そんなことまで言わなくて良いよ。なんて、少し照れながらシェリーを見ると、シェリーの顔はいつもと違い強張っていた。
――どうしたんだろう?
そう思っていると、突然彼女はよろしくお願いしますと言いながら頭を下げた。しかし、僕のことが怖いのか、少し震えているし一向に頭を上げない。
すると、そんなシェリーや僕たちの様子に痺れを切らしたメアリーさんが口を開いた。
「握手でもしたら怖くなくなるでしょ!はい、手出して!」
そう言われ、僕は言われるがまま半ば反射的に、頭を下げ続けているシェリーにも見える位置に手を差し出した。すると、彼女は驚いた顔をして、え? と声を漏らすと、顔を上げてメアリーさんに視線を向けた。
「そんなに緊張しなくていいから、とりあえず握手よ握手! ほら!」
そう言われ、彼女は恐る恐ると言った様子で僕の差し出した手を握ってくれた。そんな彼女の手は冷たかったが、その彼女を包み込むように僕はギュッと彼女の手を握り返した。
こうして彼女の手を握った瞬間、僕は思い出した。
「あ! 斧そのまま置いてきちゃった!」
「それはいけない! 早く行って安全管理は大事よ!」
メアリーさんの言う通り、安全管理は仕事をするうえでとても重要だ。シェリーを追いかけようと、そのまま倉庫の外に放置してしまった斧を回収するべく、急いで店の外へと出た。
もともと、薪割りをするために出した斧だったため、そのまま今日の自分が架した最低ノルマ分だけ薪を割った。そして、素早く作業を終え、早く店に残ってシェリーと話しをしようと思ったが、その日彼女はもうすでに帰っていた。
――今日は帰っちゃったみたいだな。
明日も出勤するはずだから、そのときにでも話をしよう!
そんな風に、楽観的に考えていた。そして、次の日出勤して作業をしていると、突然後ろから彼女の声が聞こえてきた。
「おはようございます!」
「ああ、おはよ――」
そう言いながら振り返ったが、彼女の姿はそこにはなかった。挨拶は聞こえてきたのに、その肝心の人物の姿が消えている。何か急ぎのことがあったと不思議に思いながらも、そのときはスルーした。
しかし、それはその1回きりのことではなかった。仕事中に見かけて声をかけようにも、彼女は僕を避けるようにどこかに行く。それに僕から挨拶をした場合、彼女は完全に無視をする。
――どうしたんだ?
こんなのいつものシェリーじゃない……。
いつもの優しい彼女とは思えない反応に、かなり落ち込んでしまう。しかも、彼女は僕を避けたり無視をしたりしているから、店で会う回数が増えれば増える程、今更僕だよとは言いづらい。
そのうえ、シェリーは仕事のリズムに慣れまではなかなか来られないかもしれないとの宣言通り、いつもの丘に来ることもない。もう完全に正体を言うタイミングを逃してしまった。
――今さら僕だよって言っても、裏切られたとか騙されたとか思われるかも。
他の人ならまだしも、彼女にだけは絶対にそんなこと思われたら、もう立ち直れない。
もう僕とは友達でいてくれないかも……。
そんなの嫌だよ。
考えれば考える程、ネガティブなことしか思い浮かばない。日が経つにつれ、どんどん焦りも出てくる。こうして彼女との関係性に悩んでいたが、ある日から突然荷物置き場にクッキーが置かれるようになった。
『お疲れ様です』
淡白な文で書かれた花柄のメモ用紙が添えられているそのクッキー。現状を考えると、そのクッキーとメモを置いているのは、恐らくシェリーだろう。
確認のためにメアリーさんに聞いてみようかと一瞬考えたが、聞いたら色々詮索されそうであまり聞きたくない。
試しにクッキーを食べてみると、すごく美味しかった。こんなに美味しいクッキーを一方的にもらってばかりと言うのも、日が経つにつれ気が引けてくる。さすがに、お礼くらいは直接伝えたい。
だが、クッキーを置いているのがシェリーじゃなかった場合、そんなことをしたらきっと今以上に関係が悪くなるだろう。しかし、本当にクッキーを置いているのがシェリーだとしても、あまりにも普段とはうらはら過ぎる行動に脳の処理が追い付かない。
そのため、とりあえずの対応として、クッキーを置いてくれるところにありがとうと書いたカードを置くことにした。もらう前提で置いていて自意識過剰な人みたいで恥ずかしい。だけど、お礼を言わないよりはマシなはずだ。
ありがとうと書いたその紙が回収されることは無かったが、クッキーはほとんどの出勤日に置かれるようになっていた。
喫茶店で働いている僕は、ありがとうと伝えられても、お返しをすることができない。だから、いつもの丘で会うときに何らかの形でシェリーにお礼をしようと心に誓った。
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