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18話 2人の秘密
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アダムが仮面の男だと分かったこの瞬間、2人の秘密が今すべて出揃った状態になった。
アダムが仮面の男だった。何で教えてくれなかったんだろうか。どうして今まで隠していたのだろうか。そんなあらゆる疑問が脳内を渦巻いている。
初対面の瞬間から、私と会うときに彼は仮面を付けていなかった。それなのに、なぜ頭をすっぽりと隠すほどの仮面を付けているか。2人であるときと、仮面を付けている彼とのギャップに頭が混乱している。
――左手にだけ付けた手袋も……ん? 左手だけ?
右手とは何が違うの?
あっ、もしかして……。
ある考えが思いついた矢先、ずっと黙っていたアダムが口を開いた。
「言いたくなかったのに、シェリーは秘密について教えてくれたね。僕も仮面を付けている理由を君にはちゃんと説明する義務がある。……聞いてくれるかな?」
話してくれると言うのなら聞きたい。私はしっかりとアダムを見据え頷いた。すると、アダムが問いかけてきた。
「シェリーは何も聞いてこないし言ってこなかったけど、僕のこの傷跡気にはなってたでしょ? たまに見ている時あったし……」
――古傷だけど痛そうに見える時があったから、そのとき不躾に見すぎたかも……。
でも、その傷どうしたのとは聞けなかった。子どもの頃に派手にこけて残った傷跡とか、そんなレベルの傷ではないからだ。
バレていたことに少しドキッとしながらも、彼の推理を素直に認めた。すると、彼は確認をするようにうんうんと頷きながら、話を続けた。
「これはね……火事が原因の火傷跡なんだ」
――え……。
火傷跡みたいだとは思っていた。だけど、火事での火傷とは思っていなかった。想像しただけでも痛々しい。でも、内心動揺しまくっている私に反し、彼は極めて冷静に淡々と話しを続けた。
「父親と生まれたばかりの弟が燃えている家の中にいてね、そしたらそれを知った母が助けるって家の中に入ってからなかなか戻って来なかったんだ。それで、焦って助けないとって思って、僕は考え無しにドアを開けたんだ。でもその瞬間、爆発して僕は一瞬で炎に包まれた。すぐに周りに居た人たちが水をかけて消してはくれたんだけど、こうして火傷跡が残ってしまったんだ……」
メアリーさんが仮面の男性について、子どもの頃に家族を亡くしたと言っていた。
――ということは、ご家族はみんなその火事で……。
思っても見なかったアダムの過去に、胸が悲痛の叫びをあげる。
――こうして話すということは、やっぱり火傷跡を隠すために仮面を付けていたのね。
右手は火傷跡が無いけど、手袋をしている左手には跡があるもの。
でも、私は仮面をしてないときに会ったし……。
ここはもう素直に聞かなければ何も分からないだろう。思い切って彼に尋ねてみることにした。
「私と出会ったときは仮面を付けてなかったよね? どうして喫茶店だけでは付けてたの?」
そう尋ねると、アダムは唇をぎゅっと引き締め口を開いた。
「人にこの火傷の跡を見せたくなかったんだ。傷付きたくなくて」
そして、一呼吸おいて話し始めた。
「この見た目になってから、同世代はもちろんだけど、大人からも気持ち悪いから顔を見せるなとか、醜いって毎日言われてたんだ。それで、こんなことが死ぬまで続いたらと思うと、耐えられなかった……」
――何てこと……。
子どもはまだしも、傷付いた子どもに大人がそんなことを言うだなんて……。
町の人は火事があって怪我したことくらい知っているはずだ。それなのに、子どもに注意するどころか大人もそんなことを言うなんて信じられなかった。
この人はいったいどんな子ども時代を過ごしたんだろうと思うと胸が痛む。思い出すだけでもしんどくてつらい話をしてくれている。そんなアダムの話しに私は意識を集中させた。
「だから、顔を見せるなって言われた通り、顔を見せないようにするために仮面を付けることにしたんだ。極端って思うかもしれないけどね? でも、そうしてからは基本的に誰も僕には関わらなくなって、何かを言われるってこともなくなったんだ」
そう言うことだったのかとすべてが繋がった。
「だから、人がいるところでは仮面を付けることにしたんだよ」
喫茶店は人の出入りが多いから納得だ。私と会うときは、人がいたことが無い。
――その場にいる人数によって決めるのかしら?
そんなことを考えていると、彼はその考えの答えを話してくれた。
「シェリーが僕の家の前と丘に来たのは予想外。だって普通は人が来ないところだもん。人が来ないところでは、仮面を外してるんだ。シェリーが仮面をのけた僕としか遭遇したこと無いのは、本当に奇跡的な偶然だ」
本当に奇跡だ。人が来ないところなんてそうそうない。ということは、基本的にアダムは仮面を付けて過ごしていることになる。そんな彼の数少ない仮面をのけた場面にだけ出くわしていたのだ。
「それで、シェリーとは仮面無しで何回かあったのに突然仮面付けたらおかしいでしょ? だから仮面を外したまま会ってたんだ。シェリーの職場を聞かなかったのも、来てって言われても行けないから聞かなかったんだ」
そう言うことだったのかと、すべてに合点がいった。すると、そんな私にアダムはまた問いかけてきた。
「ねえ、シェリー。この丘はどうして人が来ないんだろうって思ったこと無い?」
「ずっと思ってたわ。だって、ここレイヴェールで一番の景勝地じゃない? すごく素敵な場所だもの!」
素直に答えた。するとその私の答えを聞き、アダムは少しバツが悪そうな顔をして躊躇いがちに口を動かした。
「知ったらシェリーすごく嫌がるかもしれないけど、実は……この丘は、元々僕の家が建っていたんだ。焼け野原だったけど、ちゃんと手入れして芝生を育てて、最近ではようやく花も咲き出したんだ」
衝撃的すぎる告白に驚きを隠すことが出来なかった。
「え……!? そうだったの! 私そんなことも知らないで! 勝手にズカズカ入ってごめんなさい! あなたの大切な場所なのに、こんな部外者が……! しかも不法侵入っ……」
最新版だと言って不動産屋がくれた地図には、ここの丘は誰かの私有地のような表記をしてなかった。簡易的だったし、結構杜撰な地図だったのだろう。本当にアダムに申し訳ないことをしたと、罪悪感がドッと込み上げてくる。
すると、そんな私の心境とは反するようにアダムは呟くように口を動かした。
「いや、いいんだ。……シェリーだから」
――えっ……。
私だから……?
一体どういうことだと混乱している私にアダムは言葉を続けた。
「僕だけの唯一の憩いの場なんて思ってたけど、やっぱり他の人がいてくれた方が楽しいし。焼け跡なんて嫌かもしれないけど、シェリーさえ良ければ遠慮せずに来て欲しい」
そんなことを思ってこの地にいたのかと、アダムの心の奥を初めて覗いたような気がした。しんみりした気持ちになっていると、顔を覗き込むようにしてアダムが話しかけてきた。
「話しは戻るけど、今まで隠しててごめんね。初めて会った時すごく仮面を怖がってたから、僕って言ったら嫌われると思って……。それに時間が経てば経つほど、なかなか言い出せなくなってしまって……」
――いやいや、彼よりも私の方が謝らないといけないわ!
私ったらアダムにばかり謝らせちゃダメでしょ!
そう思いながら、被せ気味に彼に言葉を返した。
「私の方こそ本当にごめんなさい……! 耳が聞こえないことを知られたくなかったとはいえ、どこからどう見ても感じ悪かったわ。あなただけじゃなくて、あなたの育ての親のメアリーさんたちまでも傷付けてしまった。ごめんなさい」
謝っても謝り足りないと思いながらも彼にそう告げると、彼は1つの質問をしてきた。
「僕も悪かったんだ。そんなに謝らないで? あと、言いたくないなら言わなくていいんだけど、どうして耳を聞こえないことを人に知られたくなかったのか聞いてもいい?」
心配だという感情と不思議だという感情が入り混じった表情でアダムが尋ねてきた。こんな疑問が湧くのも無理はない。
だって、耳が聞こえないなら聞こえない前提で、周囲に配慮してもらおうと働きかけることが普通だと考えるだろうから。だから、私はそんな彼に簡単に過去の話をした。
「耳が聞こえなくなって、私も人から色々言われたし嫌がらせもされたの。それに、耳が聞こえないことがバレてクビにされたこともあるし、耳が聞こえないことを事前に伝えたら誰も雇ってくれなかったの。私の能力が足りなくてそうなるなら分かるけど、耳が聞こえないと知った途端にそういう対応をされるから、耳が聞こえないことを隠したかったの」
説明を終えると、アダムは悲痛の表情で口を開いた。
「酷い……そうなのか、辛かったね」
「確かにそうだけど、あなたも私と同じような体験をしてたのよ。それを考えたら、あなたが仮面を付けざるを得なかったって分かる」
そう言うと、アダムもハッとした表情になり話し出した。
「僕もシェリーが言いたくなかった気持ちがよく分かったよ。僕はシェリーを責める気なんて一切無い。そうするしか方法が無かったんだ。こうして事情が分かったら、なおさらそう思う。いくら理由があったとはいえ、仮面を付けている方がイレギュラーなんだ。1人で悩みを抱え込ませて苦しい思いをさせてごめんね、シェリー」
そう言って、彼はまた私に謝ってきた。
「謝らないで! 私の方こそ、耳のことを素直に言わなかったツケが回ってきただけで、あなたが悪いわけじゃない。むしろ長い間感じの悪い態度で嫌な思いをさせてごめんなさい」
こうして、私たちは謝り合戦をしばらく繰り広げた後、やっとお互いに謝罪を受け入れ完璧なる和解を遂げた。
――普通には接してくれるだろうけど、耳が聞こえないことを知ったのに、アダムは……友達でいてくれるかな?
そう思いながらアダムを見ると、アダムが口を開いた。
「ねえ、シェリー泣きそうな顔しないでよ。君は気にしているかもしれないから言うけど、君の耳が聞こえていようと、聞こえてなかろうと、君は僕にとって大切な存在だ。ずっと嘘ついて君を傷付けてしまったけど、こんな僕と友達のままでいてくれる……かな?」
人に泣きそうな顔をするなと言うくせに、泣きそうな顔をして唇を震わせながらアダムは伝えてくれた。そんなアダムを見ると、泣きそうな顔をするなと言われたのに、本当に泣きそうになる。
「ほっ本当に、私と友達のままで、いてくれるの……?」
「当たり前だ。むしろ、こっちのセリフだよ」
その言葉に、私の涙腺は完全に崩壊してしまった。
「アダム、わっわたし、あなたと友達のままでいたいっ……。ありがとうっ……!」
泣きじゃくりながらアダムに告げると、アダムはそっと抱きしめてくれた。
こうして、私とアダムが付けていた互いの仮面が私たちの間で完全に外れた。
アダムが仮面の男だった。何で教えてくれなかったんだろうか。どうして今まで隠していたのだろうか。そんなあらゆる疑問が脳内を渦巻いている。
初対面の瞬間から、私と会うときに彼は仮面を付けていなかった。それなのに、なぜ頭をすっぽりと隠すほどの仮面を付けているか。2人であるときと、仮面を付けている彼とのギャップに頭が混乱している。
――左手にだけ付けた手袋も……ん? 左手だけ?
右手とは何が違うの?
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「言いたくなかったのに、シェリーは秘密について教えてくれたね。僕も仮面を付けている理由を君にはちゃんと説明する義務がある。……聞いてくれるかな?」
話してくれると言うのなら聞きたい。私はしっかりとアダムを見据え頷いた。すると、アダムが問いかけてきた。
「シェリーは何も聞いてこないし言ってこなかったけど、僕のこの傷跡気にはなってたでしょ? たまに見ている時あったし……」
――古傷だけど痛そうに見える時があったから、そのとき不躾に見すぎたかも……。
でも、その傷どうしたのとは聞けなかった。子どもの頃に派手にこけて残った傷跡とか、そんなレベルの傷ではないからだ。
バレていたことに少しドキッとしながらも、彼の推理を素直に認めた。すると、彼は確認をするようにうんうんと頷きながら、話を続けた。
「これはね……火事が原因の火傷跡なんだ」
――え……。
火傷跡みたいだとは思っていた。だけど、火事での火傷とは思っていなかった。想像しただけでも痛々しい。でも、内心動揺しまくっている私に反し、彼は極めて冷静に淡々と話しを続けた。
「父親と生まれたばかりの弟が燃えている家の中にいてね、そしたらそれを知った母が助けるって家の中に入ってからなかなか戻って来なかったんだ。それで、焦って助けないとって思って、僕は考え無しにドアを開けたんだ。でもその瞬間、爆発して僕は一瞬で炎に包まれた。すぐに周りに居た人たちが水をかけて消してはくれたんだけど、こうして火傷跡が残ってしまったんだ……」
メアリーさんが仮面の男性について、子どもの頃に家族を亡くしたと言っていた。
――ということは、ご家族はみんなその火事で……。
思っても見なかったアダムの過去に、胸が悲痛の叫びをあげる。
――こうして話すということは、やっぱり火傷跡を隠すために仮面を付けていたのね。
右手は火傷跡が無いけど、手袋をしている左手には跡があるもの。
でも、私は仮面をしてないときに会ったし……。
ここはもう素直に聞かなければ何も分からないだろう。思い切って彼に尋ねてみることにした。
「私と出会ったときは仮面を付けてなかったよね? どうして喫茶店だけでは付けてたの?」
そう尋ねると、アダムは唇をぎゅっと引き締め口を開いた。
「人にこの火傷の跡を見せたくなかったんだ。傷付きたくなくて」
そして、一呼吸おいて話し始めた。
「この見た目になってから、同世代はもちろんだけど、大人からも気持ち悪いから顔を見せるなとか、醜いって毎日言われてたんだ。それで、こんなことが死ぬまで続いたらと思うと、耐えられなかった……」
――何てこと……。
子どもはまだしも、傷付いた子どもに大人がそんなことを言うだなんて……。
町の人は火事があって怪我したことくらい知っているはずだ。それなのに、子どもに注意するどころか大人もそんなことを言うなんて信じられなかった。
この人はいったいどんな子ども時代を過ごしたんだろうと思うと胸が痛む。思い出すだけでもしんどくてつらい話をしてくれている。そんなアダムの話しに私は意識を集中させた。
「だから、顔を見せるなって言われた通り、顔を見せないようにするために仮面を付けることにしたんだ。極端って思うかもしれないけどね? でも、そうしてからは基本的に誰も僕には関わらなくなって、何かを言われるってこともなくなったんだ」
そう言うことだったのかとすべてが繋がった。
「だから、人がいるところでは仮面を付けることにしたんだよ」
喫茶店は人の出入りが多いから納得だ。私と会うときは、人がいたことが無い。
――その場にいる人数によって決めるのかしら?
そんなことを考えていると、彼はその考えの答えを話してくれた。
「シェリーが僕の家の前と丘に来たのは予想外。だって普通は人が来ないところだもん。人が来ないところでは、仮面を外してるんだ。シェリーが仮面をのけた僕としか遭遇したこと無いのは、本当に奇跡的な偶然だ」
本当に奇跡だ。人が来ないところなんてそうそうない。ということは、基本的にアダムは仮面を付けて過ごしていることになる。そんな彼の数少ない仮面をのけた場面にだけ出くわしていたのだ。
「それで、シェリーとは仮面無しで何回かあったのに突然仮面付けたらおかしいでしょ? だから仮面を外したまま会ってたんだ。シェリーの職場を聞かなかったのも、来てって言われても行けないから聞かなかったんだ」
そう言うことだったのかと、すべてに合点がいった。すると、そんな私にアダムはまた問いかけてきた。
「ねえ、シェリー。この丘はどうして人が来ないんだろうって思ったこと無い?」
「ずっと思ってたわ。だって、ここレイヴェールで一番の景勝地じゃない? すごく素敵な場所だもの!」
素直に答えた。するとその私の答えを聞き、アダムは少しバツが悪そうな顔をして躊躇いがちに口を動かした。
「知ったらシェリーすごく嫌がるかもしれないけど、実は……この丘は、元々僕の家が建っていたんだ。焼け野原だったけど、ちゃんと手入れして芝生を育てて、最近ではようやく花も咲き出したんだ」
衝撃的すぎる告白に驚きを隠すことが出来なかった。
「え……!? そうだったの! 私そんなことも知らないで! 勝手にズカズカ入ってごめんなさい! あなたの大切な場所なのに、こんな部外者が……! しかも不法侵入っ……」
最新版だと言って不動産屋がくれた地図には、ここの丘は誰かの私有地のような表記をしてなかった。簡易的だったし、結構杜撰な地図だったのだろう。本当にアダムに申し訳ないことをしたと、罪悪感がドッと込み上げてくる。
すると、そんな私の心境とは反するようにアダムは呟くように口を動かした。
「いや、いいんだ。……シェリーだから」
――えっ……。
私だから……?
一体どういうことだと混乱している私にアダムは言葉を続けた。
「僕だけの唯一の憩いの場なんて思ってたけど、やっぱり他の人がいてくれた方が楽しいし。焼け跡なんて嫌かもしれないけど、シェリーさえ良ければ遠慮せずに来て欲しい」
そんなことを思ってこの地にいたのかと、アダムの心の奥を初めて覗いたような気がした。しんみりした気持ちになっていると、顔を覗き込むようにしてアダムが話しかけてきた。
「話しは戻るけど、今まで隠しててごめんね。初めて会った時すごく仮面を怖がってたから、僕って言ったら嫌われると思って……。それに時間が経てば経つほど、なかなか言い出せなくなってしまって……」
――いやいや、彼よりも私の方が謝らないといけないわ!
私ったらアダムにばかり謝らせちゃダメでしょ!
そう思いながら、被せ気味に彼に言葉を返した。
「私の方こそ本当にごめんなさい……! 耳が聞こえないことを知られたくなかったとはいえ、どこからどう見ても感じ悪かったわ。あなただけじゃなくて、あなたの育ての親のメアリーさんたちまでも傷付けてしまった。ごめんなさい」
謝っても謝り足りないと思いながらも彼にそう告げると、彼は1つの質問をしてきた。
「僕も悪かったんだ。そんなに謝らないで? あと、言いたくないなら言わなくていいんだけど、どうして耳を聞こえないことを人に知られたくなかったのか聞いてもいい?」
心配だという感情と不思議だという感情が入り混じった表情でアダムが尋ねてきた。こんな疑問が湧くのも無理はない。
だって、耳が聞こえないなら聞こえない前提で、周囲に配慮してもらおうと働きかけることが普通だと考えるだろうから。だから、私はそんな彼に簡単に過去の話をした。
「耳が聞こえなくなって、私も人から色々言われたし嫌がらせもされたの。それに、耳が聞こえないことがバレてクビにされたこともあるし、耳が聞こえないことを事前に伝えたら誰も雇ってくれなかったの。私の能力が足りなくてそうなるなら分かるけど、耳が聞こえないと知った途端にそういう対応をされるから、耳が聞こえないことを隠したかったの」
説明を終えると、アダムは悲痛の表情で口を開いた。
「酷い……そうなのか、辛かったね」
「確かにそうだけど、あなたも私と同じような体験をしてたのよ。それを考えたら、あなたが仮面を付けざるを得なかったって分かる」
そう言うと、アダムもハッとした表情になり話し出した。
「僕もシェリーが言いたくなかった気持ちがよく分かったよ。僕はシェリーを責める気なんて一切無い。そうするしか方法が無かったんだ。こうして事情が分かったら、なおさらそう思う。いくら理由があったとはいえ、仮面を付けている方がイレギュラーなんだ。1人で悩みを抱え込ませて苦しい思いをさせてごめんね、シェリー」
そう言って、彼はまた私に謝ってきた。
「謝らないで! 私の方こそ、耳のことを素直に言わなかったツケが回ってきただけで、あなたが悪いわけじゃない。むしろ長い間感じの悪い態度で嫌な思いをさせてごめんなさい」
こうして、私たちは謝り合戦をしばらく繰り広げた後、やっとお互いに謝罪を受け入れ完璧なる和解を遂げた。
――普通には接してくれるだろうけど、耳が聞こえないことを知ったのに、アダムは……友達でいてくれるかな?
そう思いながらアダムを見ると、アダムが口を開いた。
「ねえ、シェリー泣きそうな顔しないでよ。君は気にしているかもしれないから言うけど、君の耳が聞こえていようと、聞こえてなかろうと、君は僕にとって大切な存在だ。ずっと嘘ついて君を傷付けてしまったけど、こんな僕と友達のままでいてくれる……かな?」
人に泣きそうな顔をするなと言うくせに、泣きそうな顔をして唇を震わせながらアダムは伝えてくれた。そんなアダムを見ると、泣きそうな顔をするなと言われたのに、本当に泣きそうになる。
「ほっ本当に、私と友達のままで、いてくれるの……?」
「当たり前だ。むしろ、こっちのセリフだよ」
その言葉に、私の涙腺は完全に崩壊してしまった。
「アダム、わっわたし、あなたと友達のままでいたいっ……。ありがとうっ……!」
泣きじゃくりながらアダムに告げると、アダムはそっと抱きしめてくれた。
こうして、私とアダムが付けていた互いの仮面が私たちの間で完全に外れた。
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