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10話 深まる友情
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彼はあまり人慣れしていなさそうだが、話してみると普通に話せる。それなのに、どうして人付き合いが苦手なのかしら。そんな疑問が湧くが、本人に聞けるわけもない。私も言えないのだから。
まあとにかく、こんな私と友達になってくれたんだ。今までの経験があるせいか、耳が聞こえる人として接することで彼を騙していることに申し訳なさを感じる。
しかし、その分この関係は大切にしたいと思える。耳が聞こえないことを言わなければならないシチュエーションが起こりやすい深い人付き合いが苦手な私にとっては、大前進だ。
「私も必要以上の人付き合いが本当は苦手なんだけど、あなたにはつい友達になろうって言葉が出てきて、実は自分でも驚いているの。だいぶおかしな言い方だったけど……」
「人付き合いが苦手には見えないよ。でも正直……あはっ、緊張してそうなのは感じたかな? 今日は僕と真逆だと思ってさ。ふふっ」
「もう! 恥ずかしいから忘れてちょうだい!」
「ごめんね。でも、それは忘れられないよ。社交性があって眩しいくらいに感じてた君が、こんな僕なんかにそう言ってくれて嬉しかったから」
彼が本当は良く笑う人なんだと知って、気分が弾む。それに、彼が笑うたびに不思議と高揚感が沸き上がってくる。だけど、気になることが1つある。
――こんな僕なんかって、さっきからどうしてそんな言い方を?
彼は自分のことを下げた言い方をする。どうして彼が自分自身について、そんな表現をするに至ったのだろうか。そこがずっと心に引っかかっていた。
しかし、良かったと思えることもある。彼には耳が聞こえないことが全くバレていないということだ。
周りから話しかけられても、私の場合は顔を見ないと話しかけられていることすら気付かない。だから、誰かに話しかけられる可能性がある町中よりも、この誰も来ない場所で会う方が都合が良い。2人きりなら絶対に発言を見逃すことは無いからだ。
彼もきっと町中よりも、ここで会うことを望む気がする。私はある意味安心しながら、色々な互いの基礎情報について話し合った。と言っても、話の大部分は彼の家の前を通っていた理由だったが……。話せば話すほど、彼とは良い友になれそうだった。
「今度はいつならこうやってここで会えそう?」
「朝か夕方なら事前に分かっていたら合わせられるよ。それか、ここに来るタイミングが偶然合うかだね」
「なら、早速すぎるけれど、明日の朝はどうかしら?」
「っ! も、もちろんいいよ。じゃあ、いつも君が家の前を通るくらいの時間でいいで……いいかな?」
「ええ、その時間にしましょう」
彼の言い直しにクスっと笑いながら、何気なく時計を見て焦った。
「……って、いけない! もうこんな時間! 私これから大事な用事があるの! 突然でごめんなさい! 私行かなきゃ!」
「気にしないで。僕らはすぐに会えるから。また明日。気を付けてね。」
「あなたも気を付けてね。それじゃあ」
私は彼と別れ、喫茶店に向かい走り出した。まさか、2時間近くたっているなんて思わなかった。
こうして、急いで走り喫茶店には間に合った。そして、メアリーさんから説明を受けようやく家に帰り着いた。明日がもう待ち遠しい。早く明日になってくれと願いながら、今日は用事を済ませて早く寝た。
久しぶりに走ったから熟睡できたのだろう。早く寝たものの、目が覚めたらいつもと同じ起床時間だった。すぐに身支度を済ませ、友人となったアダムに会うために、昨日の丘へと足を進めた。
彼はもうすでに丘に来ていた。ベンチに2人で腰掛け、楽しく談笑した。その話の中で、私たちは2人とも読書が趣味という共通点があることが分かった。そのため、次に会うときは、本を交換するという約束をした。
そして約束通り、次に会ったときに本を持って行き、互いの本を交換した。その日は、偶然読んでいた共通の本の話題と、町の話で盛り上がった。彼はウィットに富んだ話をする人だと改めて思った。
また次に会ったときには、交換していた本の感想を言い合い、新しい本の交換をした。そのとき、彼はサンドイッチを持ってきてくれた。彼の作るサンドイッチは絶品だった。一方で、私はコーヒーと紅茶を持って行った。楽しいモーニングの時間だった。
そして、会う回数が増えるたびに私たちの仲は深まっていった。特に、アダムが私のことをシェリーと呼ぶようになったことで、彼と私の距離はグッと縮まった気がする。そのほか、互いに軽口も叩けるくらいの関係性になった。以前の私たちからしたら、信じられない変化だ。
友達になった日から1か月弱ほど経ち、出会った当初では想像もしていなかったくらいに仲良くなった。名前にさんなんて付けていたのも嘘のようだ。
しかし、1か月経ったということは働き始める時期が来たということだ。私はそんなに器用な人間じゃない。いくら仕事が楽しくても、覚えることがあったり慣れない仕事をしたりすると、どうしても最初は疲れてしまう。だから今までのように、散歩をしたり頻繁にこの丘に来たりできる気がしなかった。
「アダム、私仕事が決まってね、明後日から働き始めるのよ」
「本当!? 良かったね。おめでとうっ」
アダムを見ると、自分のことのように嬉しそうに喜んでくれていることが分かる。
「うん! ありがとう。……それでね、仕事のリズムに慣れるまではしばらくは会えそうにないの。もちろん来られるときは来るようにするわ。あなたの家は知ってるし、私もたまに丘に来ると思うから。だからっ……また会える時に会いたいなって……」
そう言うと、アダムは少し待っててと言い、どこかに行った。そして、言われて通り彼を待っていた。すると、しばらくして帰ってきたアダムは、家で育てている花で作った花束をプレゼントしてくれた。
「シェリーがいつも綺麗って言ってくれるから……これ就職のお祝いにもらってくれるかな? 即席だし、ブーケなんて作ったこと無いからちょっと不器量だけど……」
「私の好きな色ばっかりで作られてるし、すごく綺麗! 大切に育てている花でしょう? むしろ、もらっていいの?」
「うん、綺麗って言って大切にしてくれる人がもらってくれるなら、花も喜ぶよ。……シェリー、応援してるよ。でも、無理は禁物だよ! シェリーのタイミングで良いから、また会える時に会おう」
「ええ! ありがとうっ……アダムっ……」
アダムのプレゼントに胸を躍らせながら笑顔で告げると、アダムは優しくはにかむように微笑み返してくれた。
まあとにかく、こんな私と友達になってくれたんだ。今までの経験があるせいか、耳が聞こえる人として接することで彼を騙していることに申し訳なさを感じる。
しかし、その分この関係は大切にしたいと思える。耳が聞こえないことを言わなければならないシチュエーションが起こりやすい深い人付き合いが苦手な私にとっては、大前進だ。
「私も必要以上の人付き合いが本当は苦手なんだけど、あなたにはつい友達になろうって言葉が出てきて、実は自分でも驚いているの。だいぶおかしな言い方だったけど……」
「人付き合いが苦手には見えないよ。でも正直……あはっ、緊張してそうなのは感じたかな? 今日は僕と真逆だと思ってさ。ふふっ」
「もう! 恥ずかしいから忘れてちょうだい!」
「ごめんね。でも、それは忘れられないよ。社交性があって眩しいくらいに感じてた君が、こんな僕なんかにそう言ってくれて嬉しかったから」
彼が本当は良く笑う人なんだと知って、気分が弾む。それに、彼が笑うたびに不思議と高揚感が沸き上がってくる。だけど、気になることが1つある。
――こんな僕なんかって、さっきからどうしてそんな言い方を?
彼は自分のことを下げた言い方をする。どうして彼が自分自身について、そんな表現をするに至ったのだろうか。そこがずっと心に引っかかっていた。
しかし、良かったと思えることもある。彼には耳が聞こえないことが全くバレていないということだ。
周りから話しかけられても、私の場合は顔を見ないと話しかけられていることすら気付かない。だから、誰かに話しかけられる可能性がある町中よりも、この誰も来ない場所で会う方が都合が良い。2人きりなら絶対に発言を見逃すことは無いからだ。
彼もきっと町中よりも、ここで会うことを望む気がする。私はある意味安心しながら、色々な互いの基礎情報について話し合った。と言っても、話の大部分は彼の家の前を通っていた理由だったが……。話せば話すほど、彼とは良い友になれそうだった。
「今度はいつならこうやってここで会えそう?」
「朝か夕方なら事前に分かっていたら合わせられるよ。それか、ここに来るタイミングが偶然合うかだね」
「なら、早速すぎるけれど、明日の朝はどうかしら?」
「っ! も、もちろんいいよ。じゃあ、いつも君が家の前を通るくらいの時間でいいで……いいかな?」
「ええ、その時間にしましょう」
彼の言い直しにクスっと笑いながら、何気なく時計を見て焦った。
「……って、いけない! もうこんな時間! 私これから大事な用事があるの! 突然でごめんなさい! 私行かなきゃ!」
「気にしないで。僕らはすぐに会えるから。また明日。気を付けてね。」
「あなたも気を付けてね。それじゃあ」
私は彼と別れ、喫茶店に向かい走り出した。まさか、2時間近くたっているなんて思わなかった。
こうして、急いで走り喫茶店には間に合った。そして、メアリーさんから説明を受けようやく家に帰り着いた。明日がもう待ち遠しい。早く明日になってくれと願いながら、今日は用事を済ませて早く寝た。
久しぶりに走ったから熟睡できたのだろう。早く寝たものの、目が覚めたらいつもと同じ起床時間だった。すぐに身支度を済ませ、友人となったアダムに会うために、昨日の丘へと足を進めた。
彼はもうすでに丘に来ていた。ベンチに2人で腰掛け、楽しく談笑した。その話の中で、私たちは2人とも読書が趣味という共通点があることが分かった。そのため、次に会うときは、本を交換するという約束をした。
そして約束通り、次に会ったときに本を持って行き、互いの本を交換した。その日は、偶然読んでいた共通の本の話題と、町の話で盛り上がった。彼はウィットに富んだ話をする人だと改めて思った。
また次に会ったときには、交換していた本の感想を言い合い、新しい本の交換をした。そのとき、彼はサンドイッチを持ってきてくれた。彼の作るサンドイッチは絶品だった。一方で、私はコーヒーと紅茶を持って行った。楽しいモーニングの時間だった。
そして、会う回数が増えるたびに私たちの仲は深まっていった。特に、アダムが私のことをシェリーと呼ぶようになったことで、彼と私の距離はグッと縮まった気がする。そのほか、互いに軽口も叩けるくらいの関係性になった。以前の私たちからしたら、信じられない変化だ。
友達になった日から1か月弱ほど経ち、出会った当初では想像もしていなかったくらいに仲良くなった。名前にさんなんて付けていたのも嘘のようだ。
しかし、1か月経ったということは働き始める時期が来たということだ。私はそんなに器用な人間じゃない。いくら仕事が楽しくても、覚えることがあったり慣れない仕事をしたりすると、どうしても最初は疲れてしまう。だから今までのように、散歩をしたり頻繁にこの丘に来たりできる気がしなかった。
「アダム、私仕事が決まってね、明後日から働き始めるのよ」
「本当!? 良かったね。おめでとうっ」
アダムを見ると、自分のことのように嬉しそうに喜んでくれていることが分かる。
「うん! ありがとう。……それでね、仕事のリズムに慣れるまではしばらくは会えそうにないの。もちろん来られるときは来るようにするわ。あなたの家は知ってるし、私もたまに丘に来ると思うから。だからっ……また会える時に会いたいなって……」
そう言うと、アダムは少し待っててと言い、どこかに行った。そして、言われて通り彼を待っていた。すると、しばらくして帰ってきたアダムは、家で育てている花で作った花束をプレゼントしてくれた。
「シェリーがいつも綺麗って言ってくれるから……これ就職のお祝いにもらってくれるかな? 即席だし、ブーケなんて作ったこと無いからちょっと不器量だけど……」
「私の好きな色ばっかりで作られてるし、すごく綺麗! 大切に育てている花でしょう? むしろ、もらっていいの?」
「うん、綺麗って言って大切にしてくれる人がもらってくれるなら、花も喜ぶよ。……シェリー、応援してるよ。でも、無理は禁物だよ! シェリーのタイミングで良いから、また会える時に会おう」
「ええ! ありがとうっ……アダムっ……」
アダムのプレゼントに胸を躍らせながら笑顔で告げると、アダムは優しくはにかむように微笑み返してくれた。
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