3 / 39
3話 裏切りと決意
しおりを挟む
先生は一度、学校に来なくなった私と2人きりできちんと話がしたいと言い、家までやってきた。そして、部屋の扉は開けているものの、先生と2人きりになり筆記で会話した。
『つらいとは思うけど、どんなことをされたか教えてほしい』
先生のこの質問には困った。色々ありすぎて、何を言っていいのか分からない。とりあえず言われるがまま、箇条書きで書いてみた。すると、書き出した項目に気になるものがあったようで、先生はまたも質問してきた。
『紙の話しは聞いたことがない。どんなことが書かれていたの?』
嫌な記憶が蘇るから書きたくないと思った。しかし、私が伝えないと先生には分からないままだ。
――あまり思い出したくないから書きたくないけど、少しだけなら……。
そう思い、私は本に挟まれた紙に書かれていたことの一部を書き出した。すると、先生は眉間に皺を寄せ、すごい速さで紙にペンを走らせた。
『あなたが今書いた内容は、現実のあの子たちと乖離している』
『どこがですか?』
『あなた乖離って言葉の意味を分かっているの?』
『はい。このあいだ本に出て分からなかったので調べました』
先生は一体どうしたというのか。普通きっかけがなければ、乖離なんて言葉は同い年の多数が知らないと思う。
それなのに、わざわざ難しい言葉を使ったかと思えば、本当に意味が分かっているのかと聞いてくる。むしろ、自分が間違っているとは思わないのだろうか。聞かれたから伝えたのに、乖離しているなんて失礼にも程がある。
この先生の言動にどんどんイライラが募る。先生も先生で怒った顔をし、何やら必死に長文をツラツラと書き連ね始めた。
力任せに書いているように見える。もし耳が聞こえていたら、カンカンカンカンという筆記音が聞こえたに違いない。そんなことを考えながらしばらく待っていると、先生は書いていた紙を私の方へズイっと差し出してきた。
『いいえ、分かっていないでしょう。確かにふざけて、あの子たちがあなたに嫌な思いをさせたことには違いない。けれど、いくら何でもあの子たちがそんなことを書くわけない。乖離しすぎている。
嫌がらせされた被害者だからって、仕返しにそんな嘘を付いて人を傷付けて良いと思っているの? あの子たちがかわいそうでしょう。まだ子どもなのよ?
それに、あなたにした嫌がらせも本当は励ましたかっただけで、その方法をちょっと間違えただけなの。私もあの子たちにちゃんと怒ったわ。
だから、こんな嘘なんて付かずに許してあげなさい。そこは、賢いあなたが大人にならないと。
それに、あなたに対する嫌がらせについて相手の保護者の方たちに伝えたけれど、皆口をそろえて、私の子どもがそんなひどいことをするわけがないと言っていたわ。私の子どもに限ってありえないと。
私も子どもがそんなひどいことをするとは思えない。ちょっと嫌なことをされたからって、話を大きくしてあの子たちをおとしめようとするのはやめなさい』
先生は、なぜか私に対して怒ったような顔をしている。
――なぜ私が怒られないといけないの?
何で信じてくれないの?
読めば読むほど先生の文はおかしい。私は嘘をついてない。だけど、先生は信じてくれないし、その紙は自分で捨ててしまったからもう証明しようがない。瞬間的にされた嫌がらせは、そのときでないともっと証明できない。
――それに私もまだ子どもなのに、何であっちがかわいそうなの?
嫌がらせの紙については、書くわけないと思ったとしても、誰かが実際に書いていることには違いない。励まし方を間違えるだなんて、こんなレベルはさすがに11歳にもなってあるわけがないだろう。そんなのは、ただの言い訳だ。
――そこはってどこ?
なぜ私が大人になることを求められるの?
賢さなんて関係ない……!
あらゆる疑問が大量に浮かび、脳内は渦潮のような状態だ。言いたいことがあまりにも溢れているのに、私は紙とペンがなければ何も伝えられない。そのもどかしさでどうにかなりそうだ。
だが、この先生の反応を見る限り、何を言ったところで私の言うことを信じてくれないに違いない。言っても暖簾に腕押しだろう。
――先生は結局あっち側の味方なんだ……。
そう思うと、先生のことがとても嫌いになった。先生ももう私のことが嫌いだろう。
学校に来いとも言わず、シレッとやり取りの紙を持ち、先生は去ってしまった。そして、私はそんな先生や子どもがいるところに行きたくなくて、学校に断固として行かないことにした。
このことがあって以来、お父さんやお母さんにこれ以上心配はかけたくないと思い、学校に通う人以上の知識を身に付けようとひたすら勉強に勤しんだ。また、それと並行してあることを成し遂げるため、その協力に必要不可欠なお父さんとお母さんに手紙を渡した。
『私はこれから出会う人には絶対に耳が聞こえないと知られたくない。私は本で読唇術というものがあると知ったの。その読唇術と一緒に、私自身が上手く話せる術を習得しさえすれば、きっと普通の人のように生きていける気がするの。
だから、どんなに厳しくても辛くてもいい。私が読唇術と耳が聞こえる人みたいに上手く話せる術を習得できるように協力してくれないかな?』
この手紙に対し、両親は二つ返事で了承し、これでもかというほどに協力してくれた。
絶対に読唇術を習得するんだ。もう耳が聞こえないからって、人でなしにされるがままにならない。辛くても辛くても未来の自分のために強くなるんだ。そう胸に誓い、ひたすら勉強と特訓に時間を費やした。
こうして、苦しみに苦しんだ11歳の少女は7年の時を経て、妙妙たる18歳の女性へと成長した。
『つらいとは思うけど、どんなことをされたか教えてほしい』
先生のこの質問には困った。色々ありすぎて、何を言っていいのか分からない。とりあえず言われるがまま、箇条書きで書いてみた。すると、書き出した項目に気になるものがあったようで、先生はまたも質問してきた。
『紙の話しは聞いたことがない。どんなことが書かれていたの?』
嫌な記憶が蘇るから書きたくないと思った。しかし、私が伝えないと先生には分からないままだ。
――あまり思い出したくないから書きたくないけど、少しだけなら……。
そう思い、私は本に挟まれた紙に書かれていたことの一部を書き出した。すると、先生は眉間に皺を寄せ、すごい速さで紙にペンを走らせた。
『あなたが今書いた内容は、現実のあの子たちと乖離している』
『どこがですか?』
『あなた乖離って言葉の意味を分かっているの?』
『はい。このあいだ本に出て分からなかったので調べました』
先生は一体どうしたというのか。普通きっかけがなければ、乖離なんて言葉は同い年の多数が知らないと思う。
それなのに、わざわざ難しい言葉を使ったかと思えば、本当に意味が分かっているのかと聞いてくる。むしろ、自分が間違っているとは思わないのだろうか。聞かれたから伝えたのに、乖離しているなんて失礼にも程がある。
この先生の言動にどんどんイライラが募る。先生も先生で怒った顔をし、何やら必死に長文をツラツラと書き連ね始めた。
力任せに書いているように見える。もし耳が聞こえていたら、カンカンカンカンという筆記音が聞こえたに違いない。そんなことを考えながらしばらく待っていると、先生は書いていた紙を私の方へズイっと差し出してきた。
『いいえ、分かっていないでしょう。確かにふざけて、あの子たちがあなたに嫌な思いをさせたことには違いない。けれど、いくら何でもあの子たちがそんなことを書くわけない。乖離しすぎている。
嫌がらせされた被害者だからって、仕返しにそんな嘘を付いて人を傷付けて良いと思っているの? あの子たちがかわいそうでしょう。まだ子どもなのよ?
それに、あなたにした嫌がらせも本当は励ましたかっただけで、その方法をちょっと間違えただけなの。私もあの子たちにちゃんと怒ったわ。
だから、こんな嘘なんて付かずに許してあげなさい。そこは、賢いあなたが大人にならないと。
それに、あなたに対する嫌がらせについて相手の保護者の方たちに伝えたけれど、皆口をそろえて、私の子どもがそんなひどいことをするわけがないと言っていたわ。私の子どもに限ってありえないと。
私も子どもがそんなひどいことをするとは思えない。ちょっと嫌なことをされたからって、話を大きくしてあの子たちをおとしめようとするのはやめなさい』
先生は、なぜか私に対して怒ったような顔をしている。
――なぜ私が怒られないといけないの?
何で信じてくれないの?
読めば読むほど先生の文はおかしい。私は嘘をついてない。だけど、先生は信じてくれないし、その紙は自分で捨ててしまったからもう証明しようがない。瞬間的にされた嫌がらせは、そのときでないともっと証明できない。
――それに私もまだ子どもなのに、何であっちがかわいそうなの?
嫌がらせの紙については、書くわけないと思ったとしても、誰かが実際に書いていることには違いない。励まし方を間違えるだなんて、こんなレベルはさすがに11歳にもなってあるわけがないだろう。そんなのは、ただの言い訳だ。
――そこはってどこ?
なぜ私が大人になることを求められるの?
賢さなんて関係ない……!
あらゆる疑問が大量に浮かび、脳内は渦潮のような状態だ。言いたいことがあまりにも溢れているのに、私は紙とペンがなければ何も伝えられない。そのもどかしさでどうにかなりそうだ。
だが、この先生の反応を見る限り、何を言ったところで私の言うことを信じてくれないに違いない。言っても暖簾に腕押しだろう。
――先生は結局あっち側の味方なんだ……。
そう思うと、先生のことがとても嫌いになった。先生ももう私のことが嫌いだろう。
学校に来いとも言わず、シレッとやり取りの紙を持ち、先生は去ってしまった。そして、私はそんな先生や子どもがいるところに行きたくなくて、学校に断固として行かないことにした。
このことがあって以来、お父さんやお母さんにこれ以上心配はかけたくないと思い、学校に通う人以上の知識を身に付けようとひたすら勉強に勤しんだ。また、それと並行してあることを成し遂げるため、その協力に必要不可欠なお父さんとお母さんに手紙を渡した。
『私はこれから出会う人には絶対に耳が聞こえないと知られたくない。私は本で読唇術というものがあると知ったの。その読唇術と一緒に、私自身が上手く話せる術を習得しさえすれば、きっと普通の人のように生きていける気がするの。
だから、どんなに厳しくても辛くてもいい。私が読唇術と耳が聞こえる人みたいに上手く話せる術を習得できるように協力してくれないかな?』
この手紙に対し、両親は二つ返事で了承し、これでもかというほどに協力してくれた。
絶対に読唇術を習得するんだ。もう耳が聞こえないからって、人でなしにされるがままにならない。辛くても辛くても未来の自分のために強くなるんだ。そう胸に誓い、ひたすら勉強と特訓に時間を費やした。
こうして、苦しみに苦しんだ11歳の少女は7年の時を経て、妙妙たる18歳の女性へと成長した。
36
お気に入りに追加
555
あなたにおすすめの小説
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
絶対に離縁しません!
緑谷めい
恋愛
伯爵夫人マリー(20歳)は、自邸の一室で夫ファビアン(25歳)、そして夫の愛人ロジーヌ(30歳)と対峙していた。
「マリー、すまない。私と離縁してくれ」
「はぁ?」
夫からの唐突な求めに、マリーは驚いた。
夫に愛人がいることは知っていたが、相手のロジーヌが30歳の未亡人だと分かっていたので「アンタ、遊びなはれ。ワインも飲みなはれ」と余裕をぶっこいていたマリー。まさか自分が離縁を迫られることになるとは……。
※ 元鞘モノです。苦手な方は回避してください。全7話完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる