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68話 生きているからこそ
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私が目覚めてから三十分ほどが経った。そのころには、私は集まった面々から私が眠っている間にあった話を色々と教えてもらった。
まず私についてだが、どうやら丸二日眠り続けていたらしい。そして、ネクロマンサーを倒した後についてだが、本部に騎士の応援を要請し、怪我人を除く第五騎士団と軍司令官様を残し他の騎士たちは帰還したとのことだった。
――じゃあ、眠ったままの私をここまで誰かが運んでくれたのね。
ネクロマンサーが倒れた後だったから良かったけれど、皆が疲弊しているのに迷惑をかけてしまったわ……。
完全に力の抜けきった人間を運ぶ苦労は想像に難くない。しかも、戦闘で疲弊しきっている人たちだから、尚更大変だっただろう。
そう考えると、思わず罪悪感が胸に滲む。しかし、そんな私の心情と反するような明るい声で、アルバート先生が何かを思い出すように笑いながら話しかけてきた。
「こうして、クリスタさんが目覚めたからこそ笑って話せますが、クリスタさんがここに来たとき、本当に驚いたんですよ」
「私が来たとき……?」
「はい。なんせ、エンディミオン君が血塗れのままクリスタさんを抱き抱えて入ってきましたから」
「えっ、血塗れ!?」
血塗れだったと知り、私は急いでエンディミオン様へと向き直って彼に声をかけた。
「血塗れだったなんて、エンディミオン様、どこか怪我をされたんじゃ……!」
「擦り傷程度はありますが、血塗れの件に関しては返り血ですのでご安心ください」
そう言うと、エンディミオン様は「脱ぎましょうか?」なんて言い出したから、本当に酷い怪我はしていないのだと判断し、脱ぐのは止めてもらった。今の私には、色々な意味で心臓に悪いような気もする……。
そんなことを思っていたが、ふとある別の疑問が脳内を過ぎった。そのため、私はアルバート先生にその疑問について恐る恐る質問をしてみることにした。
「アルバート先生」
「はい。どうしました?」
「エンディミオン様が血塗れだったということは、私にも血が付いていましたよね。でも、その……」
そう言いながら、私は自身が今身に着けている服に目をやった。すると、純白の清潔な服が視界一面に広がった。当然だが、私が戦闘中に来ていた服とは全くの別物だ。
――誰かが着替えさせてくれたのよね?
でも誰が?
今はただでさえ少ない女性職員も、騎士団員たちの処置で忙しいから来られないだろうし……。
変なドキドキで、思わず汗がツーっと背中を伝う。だが、その緊張は可愛らしい声によって、すぐに取り払われた。
「クリスタを綺麗にしたのも、着替えさせたのも全部我だぞ! 清浄魔法で綺麗にして、交換魔法で着替えさせたのだ!」
カイルの腕の中で、えっへんと誇らしげにそう告げるギル様。そんな彼を見て、私の心に浮かんだ懸念はすぐ打ち払われ、どっと安心の波が押し寄せてきた。
「ギル様だったんですね! ありがとうございます。ああ、良かったぁ。いくら先生でも、ちょっとその……恥ずかしいのでっ……」
恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなことを言える環境でないのは分かっている。だが、男性に裸を見られると言うのは、貴族以前に女性として恥ずかしい。だから、ギル様が対処してくれたと分かり、私は心底ホッとした。
そう思ったのも束の間、ギル様が誇らしげな笑顔を浮かべながら爆弾発言を追加した。
「一緒に寝た仲だ。そんな大親友の我らの間に、恥ずかしいことなど無いも同然。すまぬな、アルバート」
そう言うと、ギル様は先生ににっこりと微笑みかけた。だが、皆の心配はアルバート先生ではない。私から見て右側の椅子に座っている彼に向いていた。
「クリスタ様、それはどういう……」
一切の覇気がない声でそう問いかけてくるエンディミオン様。そんな彼がこれ以上変な誤解をしないよう、私は慌てて言葉を返した。
「エンディミオン様、どうか誤解なさらないでください。ギル様が言う「寝た」とは、睡眠の意しか指しておりません。ね? ギル様!?」
「ああ、そうだぞ! ん? 言い方がまずかったかのう?」
そう言うと、ギル様はカッ耳を赤くしたエンディミオン様に気付き、ふっと微笑みながら言葉を続けた。
「エンディ、誤解させて悪かった。……それにしても、勘違いするなんてエンディは可愛らしいのぉ! 愛いぞ!」
エンディミオン様の照れた様子を見て、ギル様の口角がぐんぐん上がっていく。しかし、私はその光景を見てある違和感を抱いた。
――エンディミオン様の反応が思った感じと違うわ。
そうだったんですね……とか言って、照れて笑うと思っていたのに……。
困惑したように照れた顔をするという、予想外の反応を示すエンディミオン様。そんな彼に内心戸惑ってしまう。
しかも時間が経つにつれ、彼はただでさえ真っ赤な顔をさらに赤面させ始めた。そして、顔を少し下げて伏し目がちになったかと思えば、ぶるぶると震え出した。
その様子は、見ていると心配になってくるほどだ。よって、私はエンディミオン様にそっと声をかけてみることにした。
「エンディミオン様。何だか様子が……大丈夫ですか?」
「――せん」
「え?」
何かをぼそりと呟いたが、何と言ったのか上手く聞き取れない。そのため、思わず声を漏らすと、エンディミオン様はバッと顔を上げ私と目を合わせて、見たことも無いほどの赤面で再び口を開いた。
「私は勘違いしておりません。そのままの意味で受け取っていましたっ……」
――ん?
ということは、エンディミオン様の反応から、私が変に勘繰りすぎたってこと……?
そう気付いた瞬間、今度は私の顔から火が噴き出した。だが、エンディミオン様は羞恥心で何も言えないそんな私に言葉を続けた。
「クリスタ様と一緒に寝ただなんて、羨ましすぎて死ぬかと思いました」
そう言うと、エンディミオン様は切なげな表情でギル様に視線をやった。そんな彼の姿を見て、私は心臓が止まりそうになった。好きという感情は、本当に恐ろしいものだ。なんでも可愛く見えてしまう。
なんて思っていると、私たちの様子を見たカイルがあっけらかんとした様子で言葉を発した。
「ま、こうして生きてるんだから、これからいくらでもその機会はあるじゃん。それに、クリスタが目覚めてから最初に探した人間はエンディミオンだっていうしよ」
なんてことを暴露するんだ。そう思い私が口をワナワナさせていると、そのうちギル様もそこに加勢を始めた。
「その通りだ。我はしかとこの耳で聞いたぞ」
そう言うと、ギル様は自身の耳を指で指した。
その瞬間、私にはカイルとギル様、そしてエンディミオン様の強い視線が突き刺さり始めた。だが意外なことに、その視線はアルバート先生の声によってすぐに解かれた。
「はい、そこまでです。クリスタさんも起きたばかりでゆっくりしたいでしょう。負担をかけてはいけません。そろそろ退散しましょう」
そう言うと、「さあ、行きますよ」と言って、先生が多少強引に皆に出て行くよう促し始めた。その光景はまるで、魔導士学校時代の引率の先生を彷彿とさせる。
エンディミオン様も、そんな医務室の長には逆らえないのだろう。名残惜しそうな顔で私を見つめながら立ち上がった。だが、こうして出て行こうとしているエンディミオン様に、アルバート先生が改まった様子で声をかけた。
「すみません、エンディミオン君。君にお願いごとをして良いでしょうか?」
「どうされましたか?」
「今からクリスタさんが目覚めたと報告しに行きます。多分、三十分くらい医務室を空けなければならないでしょう。なので、その間クリスタさんのことを看ていただくことは出来ますか?」
――え?
エンディミオン様は残るの……?
先生のお願いが予想外だったため、私は内心驚いた。ただ、エンディミオン様もそれは同じだったらしい。
しかし、彼はポカーンとした顔になったものの、直ぐに満面の笑みへと表情を切り替えた。そして「もちろんです!」という元気な返事を返した。
すると、先生は安心そうに笑いながら「それが良かった。頼みますね」と言い残し、カイルとギル様を引き連れて、医務室から出て行った。
こうして、医務室は再び私とエンディミオン様の二人きりになった。
――――――――――――――――――
お読み下さりありがとうございます。
以後、本作とは関係のない余談です。
私は本作以外にも、何個か小説を投稿しております。そのうちの『誓略結婚~あなたが好きで結婚したわけではありません~』という作品について、近況ボードで色々とご報告させていただきました。
もし、ご興味のある方がいましたら、お手すきの際に近況ボードを見ていただけますと幸いです。
そして、本作と並行して誓略結婚をとお読みくださっている方がいましたらお知らせです。
非公開にしましたが、外部URLで見られるように設定いたしました。(教えて下さりありがとうございます!)
続きを読むよという神がおられましたら、そちらからお読みいただけますと幸いです。
まず私についてだが、どうやら丸二日眠り続けていたらしい。そして、ネクロマンサーを倒した後についてだが、本部に騎士の応援を要請し、怪我人を除く第五騎士団と軍司令官様を残し他の騎士たちは帰還したとのことだった。
――じゃあ、眠ったままの私をここまで誰かが運んでくれたのね。
ネクロマンサーが倒れた後だったから良かったけれど、皆が疲弊しているのに迷惑をかけてしまったわ……。
完全に力の抜けきった人間を運ぶ苦労は想像に難くない。しかも、戦闘で疲弊しきっている人たちだから、尚更大変だっただろう。
そう考えると、思わず罪悪感が胸に滲む。しかし、そんな私の心情と反するような明るい声で、アルバート先生が何かを思い出すように笑いながら話しかけてきた。
「こうして、クリスタさんが目覚めたからこそ笑って話せますが、クリスタさんがここに来たとき、本当に驚いたんですよ」
「私が来たとき……?」
「はい。なんせ、エンディミオン君が血塗れのままクリスタさんを抱き抱えて入ってきましたから」
「えっ、血塗れ!?」
血塗れだったと知り、私は急いでエンディミオン様へと向き直って彼に声をかけた。
「血塗れだったなんて、エンディミオン様、どこか怪我をされたんじゃ……!」
「擦り傷程度はありますが、血塗れの件に関しては返り血ですのでご安心ください」
そう言うと、エンディミオン様は「脱ぎましょうか?」なんて言い出したから、本当に酷い怪我はしていないのだと判断し、脱ぐのは止めてもらった。今の私には、色々な意味で心臓に悪いような気もする……。
そんなことを思っていたが、ふとある別の疑問が脳内を過ぎった。そのため、私はアルバート先生にその疑問について恐る恐る質問をしてみることにした。
「アルバート先生」
「はい。どうしました?」
「エンディミオン様が血塗れだったということは、私にも血が付いていましたよね。でも、その……」
そう言いながら、私は自身が今身に着けている服に目をやった。すると、純白の清潔な服が視界一面に広がった。当然だが、私が戦闘中に来ていた服とは全くの別物だ。
――誰かが着替えさせてくれたのよね?
でも誰が?
今はただでさえ少ない女性職員も、騎士団員たちの処置で忙しいから来られないだろうし……。
変なドキドキで、思わず汗がツーっと背中を伝う。だが、その緊張は可愛らしい声によって、すぐに取り払われた。
「クリスタを綺麗にしたのも、着替えさせたのも全部我だぞ! 清浄魔法で綺麗にして、交換魔法で着替えさせたのだ!」
カイルの腕の中で、えっへんと誇らしげにそう告げるギル様。そんな彼を見て、私の心に浮かんだ懸念はすぐ打ち払われ、どっと安心の波が押し寄せてきた。
「ギル様だったんですね! ありがとうございます。ああ、良かったぁ。いくら先生でも、ちょっとその……恥ずかしいのでっ……」
恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなことを言える環境でないのは分かっている。だが、男性に裸を見られると言うのは、貴族以前に女性として恥ずかしい。だから、ギル様が対処してくれたと分かり、私は心底ホッとした。
そう思ったのも束の間、ギル様が誇らしげな笑顔を浮かべながら爆弾発言を追加した。
「一緒に寝た仲だ。そんな大親友の我らの間に、恥ずかしいことなど無いも同然。すまぬな、アルバート」
そう言うと、ギル様は先生ににっこりと微笑みかけた。だが、皆の心配はアルバート先生ではない。私から見て右側の椅子に座っている彼に向いていた。
「クリスタ様、それはどういう……」
一切の覇気がない声でそう問いかけてくるエンディミオン様。そんな彼がこれ以上変な誤解をしないよう、私は慌てて言葉を返した。
「エンディミオン様、どうか誤解なさらないでください。ギル様が言う「寝た」とは、睡眠の意しか指しておりません。ね? ギル様!?」
「ああ、そうだぞ! ん? 言い方がまずかったかのう?」
そう言うと、ギル様はカッ耳を赤くしたエンディミオン様に気付き、ふっと微笑みながら言葉を続けた。
「エンディ、誤解させて悪かった。……それにしても、勘違いするなんてエンディは可愛らしいのぉ! 愛いぞ!」
エンディミオン様の照れた様子を見て、ギル様の口角がぐんぐん上がっていく。しかし、私はその光景を見てある違和感を抱いた。
――エンディミオン様の反応が思った感じと違うわ。
そうだったんですね……とか言って、照れて笑うと思っていたのに……。
困惑したように照れた顔をするという、予想外の反応を示すエンディミオン様。そんな彼に内心戸惑ってしまう。
しかも時間が経つにつれ、彼はただでさえ真っ赤な顔をさらに赤面させ始めた。そして、顔を少し下げて伏し目がちになったかと思えば、ぶるぶると震え出した。
その様子は、見ていると心配になってくるほどだ。よって、私はエンディミオン様にそっと声をかけてみることにした。
「エンディミオン様。何だか様子が……大丈夫ですか?」
「――せん」
「え?」
何かをぼそりと呟いたが、何と言ったのか上手く聞き取れない。そのため、思わず声を漏らすと、エンディミオン様はバッと顔を上げ私と目を合わせて、見たことも無いほどの赤面で再び口を開いた。
「私は勘違いしておりません。そのままの意味で受け取っていましたっ……」
――ん?
ということは、エンディミオン様の反応から、私が変に勘繰りすぎたってこと……?
そう気付いた瞬間、今度は私の顔から火が噴き出した。だが、エンディミオン様は羞恥心で何も言えないそんな私に言葉を続けた。
「クリスタ様と一緒に寝ただなんて、羨ましすぎて死ぬかと思いました」
そう言うと、エンディミオン様は切なげな表情でギル様に視線をやった。そんな彼の姿を見て、私は心臓が止まりそうになった。好きという感情は、本当に恐ろしいものだ。なんでも可愛く見えてしまう。
なんて思っていると、私たちの様子を見たカイルがあっけらかんとした様子で言葉を発した。
「ま、こうして生きてるんだから、これからいくらでもその機会はあるじゃん。それに、クリスタが目覚めてから最初に探した人間はエンディミオンだっていうしよ」
なんてことを暴露するんだ。そう思い私が口をワナワナさせていると、そのうちギル様もそこに加勢を始めた。
「その通りだ。我はしかとこの耳で聞いたぞ」
そう言うと、ギル様は自身の耳を指で指した。
その瞬間、私にはカイルとギル様、そしてエンディミオン様の強い視線が突き刺さり始めた。だが意外なことに、その視線はアルバート先生の声によってすぐに解かれた。
「はい、そこまでです。クリスタさんも起きたばかりでゆっくりしたいでしょう。負担をかけてはいけません。そろそろ退散しましょう」
そう言うと、「さあ、行きますよ」と言って、先生が多少強引に皆に出て行くよう促し始めた。その光景はまるで、魔導士学校時代の引率の先生を彷彿とさせる。
エンディミオン様も、そんな医務室の長には逆らえないのだろう。名残惜しそうな顔で私を見つめながら立ち上がった。だが、こうして出て行こうとしているエンディミオン様に、アルバート先生が改まった様子で声をかけた。
「すみません、エンディミオン君。君にお願いごとをして良いでしょうか?」
「どうされましたか?」
「今からクリスタさんが目覚めたと報告しに行きます。多分、三十分くらい医務室を空けなければならないでしょう。なので、その間クリスタさんのことを看ていただくことは出来ますか?」
――え?
エンディミオン様は残るの……?
先生のお願いが予想外だったため、私は内心驚いた。ただ、エンディミオン様もそれは同じだったらしい。
しかし、彼はポカーンとした顔になったものの、直ぐに満面の笑みへと表情を切り替えた。そして「もちろんです!」という元気な返事を返した。
すると、先生は安心そうに笑いながら「それが良かった。頼みますね」と言い残し、カイルとギル様を引き連れて、医務室から出て行った。
こうして、医務室は再び私とエンディミオン様の二人きりになった。
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お読み下さりありがとうございます。
以後、本作とは関係のない余談です。
私は本作以外にも、何個か小説を投稿しております。そのうちの『誓略結婚~あなたが好きで結婚したわけではありません~』という作品について、近況ボードで色々とご報告させていただきました。
もし、ご興味のある方がいましたら、お手すきの際に近況ボードを見ていただけますと幸いです。
そして、本作と並行して誓略結婚をとお読みくださっている方がいましたらお知らせです。
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続きを読むよという神がおられましたら、そちらからお読みいただけますと幸いです。
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