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66話 終戦

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 どれだけの時間が経ったのかも分からない。そんな中私は、とにかく、ただひたすらに出せる力すべてを振り絞るようにして、ネクロマンサーに対する攻撃を続けた。

――意識を保つのもやっと……。
 もう少しで力が尽きてしまう。
 限界が近いわ……。

 身体から大量の魔力が抜け出ている感覚がする。少しでも気を抜けば、確実に意識を失うだろうという私の考えは、恐らく間違っていない。そう確信を持てるほどに、私の魔力や体力は着実に摩耗していた。

 だが、そんな私に機会が訪れた。正面にいるネクロマンサーの攻撃が緩んだのだ。その瞬間のネクロマンサーの表情は、確実に攻撃当初よりも苦痛に歪んでいる。

――こんな大チャンスを逃すわけがない!
 今に賭けるのよっ……!

 思わず力が籠り、何とか気合で立っている状態の私の足は思わず痙攣した。だが、足が痙攣することなど気にしていられるわけがない。ネクロマンサーの力が緩んだ今を逃したら、私の魔力が先に尽きることになるかもしれないからだ。

 そのため、私は一縷の望みとばかりに今出せる最大の力を込めた雷を、ネクロマンサーに打ち付けた。すると、途端に当たり一面にバリバリバリバリとんでもない轟音が鳴り響いた。

――確実にネクロマンサーに雷は直撃しているはずっ……。
 お願い、これで倒れて……!

 雷撃により、辺りは真っ白な世界に包まれている。よって、私はネクロマンサーに攻撃が直撃しているという感覚だけに縋り、心の中で祈りを捧げながら攻撃を続けた。

 だが、私の魔力もいよいよ限界だった。攻撃を辞めるという意図は無かったが、身体に本能的な制御がかかったようで、私は魔力放出を停止した。それと同時に、辺りは雷撃を始める以前の仄暗さを取り戻した。

――ネクロマンサーはっ……。

 遠のきそうな意識の中、私は必死に意識を現実に繋ぎ止め、ネクロマンサーがいるはずの場所へと目を向けた。するとそこには、雷の攻撃により丸焦げになりうつ伏せになって倒れているネクロマンサーが居た。

「やっと……たお、した……」

 息も絶え絶えで、ようやっと喋る。そんな状態であるにもかかわらず、私の口からは思わず声が漏れた。

 ネクロマンサーは、仮に生きていたとしても到底起き上がることは出来ないであろう状態になっている。そうと理解したときには、私の身体は勝手に次の行動を起こしていた。

「エンディ、ミオン……さまっ……」

 今にも意識を失いそうだ。そんな中、私は自身の身体を張ってまで守りたかった彼に振り返り、その名を呼んだ。だが、振り返った拍子に、力が抜けつい地面に倒れそうになった。

「クリスタ様っ!!!!!!」

 そう私の名を呼ぶと、エンディミオン様は心配そうな表情で駆け寄り、倒れそうになる私を受け止めようとしてくれた。しかし、私を受け止めきる直前、彼の表情に憤怒の険しさが走った。

 かと思った瞬間、エンディミオン様は思い切り引っ張るようにして、片手で私のことを抱き留めた。そして案の定、私の身体にエンディミオン様の身体がぶつかった衝撃が走った。

――な、何が起こったのっ……?

 気付けば彼の左手は、私の肩を庇うように掴んでいる。そのことに気付いた直後、強い衝撃の前に見たエンディミオン様の表情を思い出し、彼の腕の中で思わずその身を強張らせた。

 そしてそのまま、眼前にある彼の右肩から右腕を添うように視線を辿った。すると、エンディミオン様の右手で握った剣が、ネクロマンサーの心臓を貫いていた。

――まだ動けたの!?
 なんて化け物なの……。
 信じられない……。

 確実に仕留めたと思っていたのに、まだ動けたネクロマンサーに驚きを隠せない。そんな私は、庇うように包んでくれたエンディミオン様の腕の中で、さらにその身を強張らせた。

 だが、それは一瞬のことだった。

「おいっ……アンデッドたちがっ!!!!!」

 誰かが叫んだその言葉を聞き、私はエンディミオン様の腕の中から、地面に倒れているアンデッドたちに目を向けた。そして、アンデッドたちの光景を見た瞬間、私の身体の強張りは徐々に弛緩していった。

 エンディミオン様の剣で心臓を貫かれたネクロマンサーが脱力した直後、周囲にいたアンデッドたちが急速的に腐り始め、かと思えば、そのまま干からびたということに気付いたからだ。

 ついに……本当に戦いが終わった瞬間だった。

 そして、そのことに気付いた私の意識は、もう限界だった。私は身体中から力が抜け、完全にエンディミオン様にぐったりと体重を預けた。

「クリスタ様っ……!?」

 心配そうな彼の声が、遠くから聞こえる。目を閉じていても、心配そうな彼の顔が目に浮かぶように分かる。

「クリスタ様っ……クリスタ様!? 嫌です! 死なないでください!」


 私は力が枯渇して倒れるだけだ。だが、どうやらエンディミオン様は私が死ぬと勘違いしているらしい。

 彼は、腕の中で崩れ落ちた私を、地面に膝を突きながら抱き締めてくれている。そして、必死に目を閉じている私に訴えかけてきた。

「ハンカチも返すって約束しましたよ!? 嫌です! 起きてください! クリスタさまっ……!」

 彼も満身創痍だろうに、私に向かって残ったエネルギーすべてを注ぐように、必死に訴えかけてくる。そんな彼にこれ以上心配をかけたくなくて、私は何とか気合いだけで薄らと目を開き、泣き出しそうな顔をした彼に語り掛けた。

「死にま、せんよ……受け取って、いま、せんし……っちゃんと、返事をするって……約束、しました、から……」
「そうですよ! だから死なないでください!」

 私のかけた言葉に対し、エンディミオン様は必死に死なないでと声をかけてくる。

――今のでは足りなかったのよね。
 何とか、彼を安心させてあげないと……。

 そう考え、私は出せる最後の力を振り絞り、彼に言葉を紡いだ。

「はい……死にま、せんよ……。だけ、ど……すこし、ねかせて……」

 心配をかけまいと微笑んだ。だが、完全なる限界が来たため、私はそこから意識を失った。

 意識を失っているというのに、ずっとエンディミオン様が私の名を呼ぶ声が聞こえる。夢を見ていても、彼の声が届いているような気がした。

 こうして意識を失った私は、ずっとどこからか彼の声が聞こえてくるような夢の世界の中を彷徨い続けた。

――早く……会いたいな。

 そう願いながら。
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