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53話 招待状

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 エンディミオン様と別れ、ギル様は私の膝を枕にして座椅子に寝転んだ。そして、その体勢のまま私に話しかけてきた。

「エンディがいてくれて良かったな」
「はい」
「あのサンダーボルトも良かったぞ」
「ありがとうございます」

 そこまで言うと、少し間を開けてギル様が問いかけてきた。

「好きなのか?」
「えっ……」
「エンディのこと、本当はどう思ってるんだ?」

 ギル様なら……まあ良いだろう。そう思い、包み隠さず話してみることにした。

「多分……好きなんだと思います。でも、やっぱりどうか分かりません」
「ん? 分からぬとな?」
「私は雰囲気に酔ってしまう癖があるんです。恋愛にも向いてないし、自分が正しく自身の気持ちを認識出来ているかも……分からないんです。情けないですよね」

 思わず自虐で苦笑を漏らしてしまう。一方、そんな私の話を聞いたギル様は、考え事をするようなしぐさを見せ再び口を開いた。

「つまり、好きだと思っているが、その認識自体が間違っていないかが不安ということだな。そうか……ならば、好きという前提でもう少し一緒に過ごしてみると良い」
「好きという前提で、ですか……?」
「ああ。そうしたら、好きという気持ちの確信が高まるか、やはり間違いだったと思うかのどちらかだろう」

 ――確かに、ギル様の言う通りね。
 というか、ギル様って何でこんなに恋愛感情に詳しいの?

 そう思いながらも、ギル様に言葉を返した。

「では、求婚に対する返事はもう少し寝かせても良いんでしょうか? 早く答えないと悪い気が……」
「人は儚い生き物だ。だから待たせすぎてはいかんが、気長に考えてみた方が良いこともある。エンディも短絡な返答は望んでいないだろう」
「……そうですね」
「ああ、考えるんじゃなくて感じたら良い。気難しく考えず、本能のままにな。そして、そのありのままを好きなタイミングでエンディに伝えてやれ」

 ギル様にそう言われると、何となく気持ちが落ちついてきた。そのため、待たせすぎはしないが、もう少し共に過ごし頃合いを見て返事をすることに決めた。

 ――恋ってこんなに怖いものだったかしら……。


 ◇ ◇ ◇


 しばらく馬車に揺られると、家に帰り着いた。そして、書斎に入ると手紙が置かれていた。

 ――こんな豪華な手紙……誰からかしら?

 そう思い、目に入った手紙を手に取ると、王室から届いた王室主催の舞踏会の招待状であることが分かった。ただこの招待状には問題があった。

 踊りのペアがいないのだ。当主として出ないわけにはいかないが、ペアとなる男性がいない。それに1人で行くにしろ、母親や叔母のように付き添いを頼める人もいない。

 ――困ったことになったわね……。
 明日取り敢えず、先生に相談してみましょう。

 一応、自分なりに解決方法を考えてはみた。しかし良い案は出ず、結局次の日の昼休みに先生と、先生に会いに来たカイルに相談することにした。

「ちょっと相談があるんですが……」
「ん? どうしたの?」
「どうした? 言ってみろよ」

 2人とも聞いてくれるようだ。そのため、私は話しを続けた。

「実は昨日王室主催の舞踏会の招待状が届いたんです。ですが、出ないといけないのに肝心のペアが居なくて……何か良い対処法はないですか?」

 そう尋ねると、真っ先にアルバート先生が口を開いた。

「僕がペアでもいいけど、それじゃあエンディミオン団長に悪いよね……」

 怒りはしないが、嫌な気にはなるだろう。そう思っていると、横にいたカイルが大声で先生に突っかかった。

「エンディミオンだけじゃなくて、俺にも悪い! 先生俺のことも気にしてよ!」

 そう言うと、突然先生から視線を私に移し、カイルが勢いよく話しかけてきた。

「それよかさ、大人の姿のギル様に頼めばそっこー解決じゃね?」
「それは私も昨日考えたの。だけど……」

 そう、私もカイルと同じでギル様をペアにしたら解決するのではないかと考えたのだ。そのため手紙を読んだ後、試しにギル様と踊ってみた。

 踊る前のギル様は、自身の踊りに自信満々の様子だったからだ。だから、そんなギル様を見て私は勝手に試す前から安心していた。

 だが、実際はとんでもなかった。踊ってみると、ギル様はまるで大道芸のように好き勝手踊り、最終的に私はギル様の魔法で空に浮かされた。

 これではダメだ! そう思い暴走する彼を何とか止めて、私は1から舞踏会のダンスを教えた。すると、ギル様はあっという間に一通りの振りを覚えた。

 ――今度こそ大丈夫なんじゃないかしら……!

 そう油断して実践した結果、私のつま先は死にかけた。昨日ほど、治癒魔法を自身に使えて良かったと思ったことは無いかもしれない。

「――ということで、ギル様がペアになるのは無理なのよ」

 そう説明をすると、カイルは愉しそうに腹を抱えて笑い出した。なんて奴だ。そう思いながらカイルをジーっと見ると、「悪い悪い」と言いながら、言葉を続けた。

「じゃあ、ダメだな。そしたらさ、もう普通にエンディミオンに頼めば?」

 良い案と思ってカイルは提案したのだろう。しかし、私はその案を一蹴した。

「今回の遠征は舞踏会の前日帰還の予定だから、話をつけていないし無理よ。その日に必ず帰って来られる保証も無いし……。それに、公的な場所で安易にペアになったらダメでしょ?」

 そう言うと、先生も私に続いてカイルに話しかけた。

「僕もその通りだと思います。それにカイル君、婚約もしてない2人が舞踏会に行ったらどうなると思います?」

 そう尋ねられ、カイルは何か嫌なものを想像したのだろう。ウエッと声を漏らしながら顔を歪めた。そして、そんなカイルに先生はなおも言葉を続けた。

「エンディミオン団長を狙うご令嬢たちに、クリスタさんが冗談でなく本当に暗殺されかねません。ただでさえ、大会の件で未だに噂になっているんですから」

 暗殺されかねないなんて怖すぎる。しかも、そんなわけ……と否定しきれないことがより怖さを湧き立てる。

 ――馬車の乗降口が騎士団内部で本当に良かったわ……。

 そう思っていると、その令嬢たちに絡まれた経験のあるカイルは、げっそりとした様子で口を開いた。

「確かに……。あの令嬢たちの一部は冗談抜きでヤバいぜ。どうするんだ?」

 いよいよ案が尽きてしまった。本当にどうしたら良いのだろうか。そう思い、カイルと頭を抱え込んでいると、先生が楽しそうな声で話しかけてきた。

「1ついい考えを思いついたんだけど……」

 そう言うと、先生はにこやかに微笑み、その考えについて話し出した。
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