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50話 招かれざる男
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突然聞こえてきた怒鳴り声、それはカイルのものだった。
「てめーみたいなクズと関わりたくねーんだよ。それに、あいつにお前みたいなクソ野郎を会わせるわけないだろ!」
「お願いだ! 頼むからクリスタに会わせてくれ! クリスタを大切な友人と思うなら――」
「大切だから会わせないんだよ……!」
「そんな……お願いだって言ってるだろ!?」
この声を聞き、私の心臓が凍りついていくような感覚がした。歩みが止まり、勝手に手がワナワナと震えてくる。
――この声は……!
二度と顔を見せるなと言ったのに、来たというの……!?
聞こえてくる声に、一気に怒りが込み上げてくる。すると、再びカイルの怒鳴り声が聞こえてきた。
「話になんねぇ! クリスタには会わせない! しつこいぞ、もう帰れ! 今すぐ行かなきゃ行けない事案があるんだ。ぜってー帰っとけよ!」
その声が聞こえた直後、立ち去っていく1人分の足音が聞こえた。
――あんなにカイルが怒っているのは初めて聞いたわ。
私だけならまだしも、カイルにまで迷惑を掛けるだなんて……。
罪悪感と嫌悪感が綯い交ぜになり、酷く不快な気分になる。そんななか、唯一状況は把握しきれていないギル様が、クイクイッと手を引っ張り、心配そうに話しかけてきた。
「クリスタ、どうしたのだ……?」
「ちょっと会いたくない人が、私に会いに来ているみたいです」
そう答えると、ギル様は握る手の力を強め、何かを考えるような表情をした。すると、そのタイミングでエンディミオン様が声をかけてきた。
「私が話しをつけてきます。隠れていてください」
そう言うや否や、彼は例の男がいる方へズンズンと足を進めだした。
「えっ、ちょっと……! エンディミ――」
彼を引き止めよう、声をかけながら追いかけた。しかし、彼は追いかける私に気付くと振り返り、怒りを孕んだ様な真剣な表情で諭すように話しかけてきた。
「絶対に出て来てはいけませんよ」
そう言うと、振り返ることなくエンディミオン様は再び歩き始めた。そして私は、そんな彼に気圧され、その場にギル様と立ち尽くしてしまった。
だがすぐに我に返り、エンディミオン様に言われた通り隠れ、例の男の様子を覗くことにした。幸いなことに、馬車乗り場近辺には誰もいないようだ。
そして、目的地に辿り着いたエンディミオン様は、早速例の男に声をかけた。
「あなたは、レアード卿ですね」
「あなたは……ルアン公爵家のエンディミオン卿ですか?」
「はい、左様です」
その答えを聞き、レアードは怪訝そうな顔をしてエンディミオン様に話しかけた。
「そのような方が何か御用ですか?」
御用も何も、ここは騎士団の敷地内だ。むしろ、レアードの方が何か御用と聞かれる立場だというのに、なんと失礼な質問をしているのだろうか。
そんなレアードにほとほと呆れる。何でこんな人が好きだったのかと、自分で自分が信じられない。こうして嘆き恥じ入っていると、エンディミオン様が口を開いた。
「単刀直入に言います。クリスタ様をあなたに会わせることはできません。あなたは部外者です。即刻この場から立ち去ってください」
エンディミオン様の明快な説明で、レアードも自分が今出て行けと言われていると分かっただろう。しかし、彼はこの説明を聞いてなお、エンディミオン様に取りすがった。
「クリスタは僕の婚約者だった! きちんと話をしたいんだ!」
――何も話すことなんてないわ!
会いたくも無かった!
もう婚約者だったなんてことも聞きたくない!
自分の口ではっきり言わなければ、他の人にもこんなことを言い続けるのではないか。そう思い、レアードに二度と顔を見せるなと伝えるため、2人の元へ向かおうとした。
しかし、私が飛び出ようとした瞬間に、エンディミオン様がレアードに淡々とした様子で言葉を返した。
「クリスタ様は、あなたと会うことを望んでいません。話もしたくないはずですし、二度とあなたの顔を見たくはないでしょう」
――よく言ってくれたわ!
そうよ、その通りよ……!
ここまで私の気持ちを忠実に読み取り、レアードに伝えてくれる人がいるだろうか? レアードもこの言葉には、さすがに黙り込んだ。
すると、ここまで聞いて話をすべて理解したギル様が、コソッと話しかけてきた。
「あいつが例の男なのか……?」
「はい」
「どうりで魂があんなにも濁っているわけだ。クリスタと会ったら、もっと濁りそうだ。あいつと関わってもろくなことにならん。今のままエンディに任せておけ」
――確かに、エンディミオン様に任せたら私の考えを代弁してくれる……。
でも、エンディミオン様を矢面に立たせることは正しいのかしら……?
気圧されて隠れたけど、やっぱり私自身が行った方が……。
そう思っていると、ギル様に手を引っ張られた。
「クリスタ、行く気か?」
「はい、私の不始末ですから。人に任せきるのはどうかと……」
「では、次あの男がどう出るかで判断しろ。不用意に飛び出ても火に油だ」
「はい……分かりました」
そんな会話をしていると、突然黙り込んでいたレアードが声を荒らげた。
「さっきから何なんだ!? エンディミオン卿には関係ないだろう? 僕はクリスタと話しをしに来たんであって、あなたに用はない!」
――エンディミオン様に怒鳴るだなんて……!
レアードが人を怒鳴るような人だとは思っていなかった。そのため驚いていると、エンディミオン様はその驚きを超越する言葉をレアードに放った。
「関係ありますよ。クリスタ様は私の愛する人ですから」
その言葉を聞き、思わず呼吸が止まった。
「てめーみたいなクズと関わりたくねーんだよ。それに、あいつにお前みたいなクソ野郎を会わせるわけないだろ!」
「お願いだ! 頼むからクリスタに会わせてくれ! クリスタを大切な友人と思うなら――」
「大切だから会わせないんだよ……!」
「そんな……お願いだって言ってるだろ!?」
この声を聞き、私の心臓が凍りついていくような感覚がした。歩みが止まり、勝手に手がワナワナと震えてくる。
――この声は……!
二度と顔を見せるなと言ったのに、来たというの……!?
聞こえてくる声に、一気に怒りが込み上げてくる。すると、再びカイルの怒鳴り声が聞こえてきた。
「話になんねぇ! クリスタには会わせない! しつこいぞ、もう帰れ! 今すぐ行かなきゃ行けない事案があるんだ。ぜってー帰っとけよ!」
その声が聞こえた直後、立ち去っていく1人分の足音が聞こえた。
――あんなにカイルが怒っているのは初めて聞いたわ。
私だけならまだしも、カイルにまで迷惑を掛けるだなんて……。
罪悪感と嫌悪感が綯い交ぜになり、酷く不快な気分になる。そんななか、唯一状況は把握しきれていないギル様が、クイクイッと手を引っ張り、心配そうに話しかけてきた。
「クリスタ、どうしたのだ……?」
「ちょっと会いたくない人が、私に会いに来ているみたいです」
そう答えると、ギル様は握る手の力を強め、何かを考えるような表情をした。すると、そのタイミングでエンディミオン様が声をかけてきた。
「私が話しをつけてきます。隠れていてください」
そう言うや否や、彼は例の男がいる方へズンズンと足を進めだした。
「えっ、ちょっと……! エンディミ――」
彼を引き止めよう、声をかけながら追いかけた。しかし、彼は追いかける私に気付くと振り返り、怒りを孕んだ様な真剣な表情で諭すように話しかけてきた。
「絶対に出て来てはいけませんよ」
そう言うと、振り返ることなくエンディミオン様は再び歩き始めた。そして私は、そんな彼に気圧され、その場にギル様と立ち尽くしてしまった。
だがすぐに我に返り、エンディミオン様に言われた通り隠れ、例の男の様子を覗くことにした。幸いなことに、馬車乗り場近辺には誰もいないようだ。
そして、目的地に辿り着いたエンディミオン様は、早速例の男に声をかけた。
「あなたは、レアード卿ですね」
「あなたは……ルアン公爵家のエンディミオン卿ですか?」
「はい、左様です」
その答えを聞き、レアードは怪訝そうな顔をしてエンディミオン様に話しかけた。
「そのような方が何か御用ですか?」
御用も何も、ここは騎士団の敷地内だ。むしろ、レアードの方が何か御用と聞かれる立場だというのに、なんと失礼な質問をしているのだろうか。
そんなレアードにほとほと呆れる。何でこんな人が好きだったのかと、自分で自分が信じられない。こうして嘆き恥じ入っていると、エンディミオン様が口を開いた。
「単刀直入に言います。クリスタ様をあなたに会わせることはできません。あなたは部外者です。即刻この場から立ち去ってください」
エンディミオン様の明快な説明で、レアードも自分が今出て行けと言われていると分かっただろう。しかし、彼はこの説明を聞いてなお、エンディミオン様に取りすがった。
「クリスタは僕の婚約者だった! きちんと話をしたいんだ!」
――何も話すことなんてないわ!
会いたくも無かった!
もう婚約者だったなんてことも聞きたくない!
自分の口ではっきり言わなければ、他の人にもこんなことを言い続けるのではないか。そう思い、レアードに二度と顔を見せるなと伝えるため、2人の元へ向かおうとした。
しかし、私が飛び出ようとした瞬間に、エンディミオン様がレアードに淡々とした様子で言葉を返した。
「クリスタ様は、あなたと会うことを望んでいません。話もしたくないはずですし、二度とあなたの顔を見たくはないでしょう」
――よく言ってくれたわ!
そうよ、その通りよ……!
ここまで私の気持ちを忠実に読み取り、レアードに伝えてくれる人がいるだろうか? レアードもこの言葉には、さすがに黙り込んだ。
すると、ここまで聞いて話をすべて理解したギル様が、コソッと話しかけてきた。
「あいつが例の男なのか……?」
「はい」
「どうりで魂があんなにも濁っているわけだ。クリスタと会ったら、もっと濁りそうだ。あいつと関わってもろくなことにならん。今のままエンディに任せておけ」
――確かに、エンディミオン様に任せたら私の考えを代弁してくれる……。
でも、エンディミオン様を矢面に立たせることは正しいのかしら……?
気圧されて隠れたけど、やっぱり私自身が行った方が……。
そう思っていると、ギル様に手を引っ張られた。
「クリスタ、行く気か?」
「はい、私の不始末ですから。人に任せきるのはどうかと……」
「では、次あの男がどう出るかで判断しろ。不用意に飛び出ても火に油だ」
「はい……分かりました」
そんな会話をしていると、突然黙り込んでいたレアードが声を荒らげた。
「さっきから何なんだ!? エンディミオン卿には関係ないだろう? 僕はクリスタと話しをしに来たんであって、あなたに用はない!」
――エンディミオン様に怒鳴るだなんて……!
レアードが人を怒鳴るような人だとは思っていなかった。そのため驚いていると、エンディミオン様はその驚きを超越する言葉をレアードに放った。
「関係ありますよ。クリスタ様は私の愛する人ですから」
その言葉を聞き、思わず呼吸が止まった。
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