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46話 恋する男の会心の一撃

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 扉の方を見てみると、そこにはカイルが立っていた。

「あっ! カイル! 昨日はありがとう。先生から話は聞いたわ。あなたってやっぱり機転が利くのね。恩人って設定にしてくれていたから助かったわ」 

 そう声をかけると、カイルはそれは自慢げに口を開いた。

「ああ、クリスタ。良いってことよ。俺の手にかかれば、あいつら騙すのなんてイージーゲームだ。それより……クリスタが先生といるなんて珍しいな」

 そう言いながらカイルは私たちに近付きながら先生に声をかけた。

「せーんせい! 何食べてるんですか♡……って……これ、クリスタと一緒のものですか?」
「はい。食べきれない分を僕に分けてくれたんだよ」
「はっ……手作りか!? 残りは俺が全部食べます! 先生はこっちを食べてください!」

 そう言うと、カイルは先生から私の作ったお弁当を奪い、その代わりに自分が持ってきていた食料を先生に押し付けた。

 先生は困った顔をしながらも、しょうがないなというように笑いながら、素直にカイルに押し付けられたものを食べ始めた。

 ――ちょっと私もカイルのことを考えてあげられてなかったわね……。
 でも、ちょっと横暴過ぎない?

「カイル……先生が優しいから良いものの、ちょっと横暴過ぎない?」

 そう言うと、カイルは私の作ったお弁当を食べながら開き直った様子で口を開いた。

「横暴で結構! 恋路を守るためには多少の乱暴も必要なんだよ!」
「もう、またそんな――」 
「てか、クリスタの料理マジでうまいな!」
「へっ……? あ、ありがと……」

 急に褒められたから、ついドギマギしてしまう。すると、こんな私たちを見ておかしく感じたんだろう。アルバート先生が笑いながら声をかけてきた。

「ふふっ、本当に2人とも愉快な人たちですね」

 その言葉1つで、カイルはとても嬉しそうな顔をして先生に笑いかけた。だが、カイルはすぐに私に向き直り問いかけてきた。

「でもよ、何でこんなに作って来たんだ?」

 ――そうよね。
 普通気になるわよね……。

 聞かれてしまったからには仕方ない。そう思い、カイルには先生と同様の説明をした。すると、カイルはとんでもない第一声を放った。

「なーんだ、ちゃっかりエンディミオンとそんな関係になってたのか!」
「そんな関係って何!? 違うからっ!」

 そう即答したが、カイルは笑顔を消し、ジト目で私を見つめながら言葉を発した。

「違わないだろ。お前は自分の気持ちを受け入れたくないだけ。レアードのことがあったからってのは分かるけど、ガード堅すぎなんだよ。難攻不落にも程があるわ」

 その言葉に心当たりが無かったわけが無く、カイルの放った言葉はそのまま私の心にグサリと突き刺さった。しかし、カイルの言葉はそれに止まらなかった。

「ここまでエンディミオンに気を持たせるようなことして、お前自分が酷なことしてるって分かってるか? ただでさえ男との交流が多い騎士団で働いてるんだぞ? エンディミオンが何をしても傷付かない超人って勘違いしてないか? 恋する男の繊細な心を舐めるなよ!」

 完璧なまでのクリティカルヒットをくらってしまった。先生をチラッと見ると、先生も気まずげに目を逸らしていた。どうやら、先生もカイルの言葉に何か思う節があったようだ。

 このカイルの言葉は、私の心の奥深くまで突き刺さった。その影響力は凄まじく、午後の仕事が始まってからもずっと脳内で再生され続けていた。

 ◇ ◇ ◇

「それじゃあ、今日はお疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」

 定時になったため、私たちは戸締りをし医務室から出た。そして、先生と別れ馬車乗り場に向かって歩き出したところ、ちょうどウィルキンス家の馬車が到着した。

 ――あら、ちょうど今来たのね。
 馬車を待たさずに済んで良かったわ!

 そう思いながら、目の前に停まった馬車の方へと歩みを進めた。すると、私が到着するよりも先に、中から大人の姿をしたギル様が出てきた。そして、ギル様は目の前の私を見つけるなり声をかけてきた。

「クリスタ、迎えに来たぞ」
「家の中は退屈でしたか?」
「いや、なかなか面白かったぞ。ただ、今日は屋敷からここまでの道をちゃんと覚えるために来たのだ」
「そうだったんですね。では、帰りましょうか」

 そう声をかけ、私はギル様と共に馬車へと乗り込んだ。


 ◇ ◇ ◇


「第3騎士団エンディミオン・ルアン、今回の討伐結果について閣下へご報告いたします」
「無事帰還したようだな。それで……どうなった?」
「はい。その場で発見したアンデッドは殲滅しましたが、ネクロマンサーは未だ消息不明のため、引き続き調査が必要です」
「そうか、では第8部隊と合同で対処した方が良さそうだな。いや、ほかの団も入れ対処しよう」
「私も今回の件はそれがベストだと思います」
「承知した。ご苦労、今日はゆっくり休め」
「御意。それでは失礼いたします」

 こうして報告を済ませ、私は部屋を出た。そして、第3騎士団長室へ向かおうと総司令官の部屋から移動を開始した。するとその道中、気になる会話が耳に入ってきた。

「おいおい、見たか? 姉さんまた昨日の男が来てたぜ。あの超絶美形の男! 来てすぐに一緒に馬車に乗ってどっか行ったけどよ……」
「え? そうなのか!? いったいあの男と姉さんどういう関係なんだろうな? 2人で抱き合ってたしよ」
「カイル団長と先生が姉さんの恩人とか言ってたぞ。確かに、姉さんあのとき泣いてたし……」
「うんうん、確かにそうだ! なんだ、俺はてっきりただならぬかんけ――」

 私はその2人の第5騎士団の団員の肩に、後ろから手を載せた。

「ちょっとその話し、詳しく聞かせてください」

 私に肩を載せられて驚いたのだろう。血の気が引いた顔の2人が、ギギギと首を後ろに向け私の名前を漏らした。

「エンディミオン団長……」
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