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45話 本当はあなたのためだった

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 騎士団に到着し、いつも通り私は医務室へと向かった。

 ――あら? 
 明かりがついているわ。
 今日は先生が先に来ていたのね。

「おはようございます」

 そう声をかけながら室内に入ると、いつも通りの優しい笑顔の先生が挨拶を返してくれた。そんな先生に、私は昨日の早退後のことを訊ねてみた。

「昨日は大丈夫でしたか?」
「大丈夫だったよ。カイル君が手伝ってくれたし、実は昨日クリスタさんが帰ってからは怪我をして医務室に来る人がいなかったんだ」
「それなら良かったです! カイルにもちゃんとお礼を言わないと……」

 そう言うと、先生は深く頷いて口を開いた。

「ぜひお礼を言ってあげてください。昨日、第5騎士団の方々がカイル君にギル様のことを根掘り葉掘り色々聞いていましたから。一応、クリスタさんの恩人ということになってますよ」

 ――あっ……そうだった。
 私ったら昨日第5騎士団の人に心配かけたのに、そのままにしてしまっていたんだわ……。

「そうだったんですね。ご迷惑をおかけしました。先生も昨日はありがとうございました」

 私が収束もせずいなくなったばかりに迷惑を掛けてしまった。そのため申し訳ないという感情が湧いてきていたが、そんな私の心境に反するように先生は楽しそうに話し出した。

「僕はまったく迷惑と思ってないよ。それよりも、ドラゴンと話すことが出来て嬉しくてはしゃいじゃったよ。ははっ、年甲斐もなく恥ずかしいな」

 確かに、昨日の先生には好奇心旺盛というような印象を抱いた。しかし、そんなに言う程はしゃいでいるとは思っていなかったため、ひっそり驚いてしまった。

「はしゃいでたんですね……」
「ふふっ、恥ずかしながらね。もし、ギル様とお話しできる機会があったら、またお話しさせてほしいな」
「もちろんです! ギル様は先生のことを気に入っていたので、すぐにその機会は来ると思いますよ」

 そう答えると、先生は少し照れたようにクスっと笑っていた。その姿を見ると、先生は私が思っていた以上にギル様に会えたことが嬉しかったんだろうなと思った。

 そして、このまま私はいつも通り仕事を開始した。仕事中に第5騎士団の人が来たときに、ギル様について「恩人だったんだな」と言われたため、カイルの情報操作力に少し怖さを感じたのはここだけの秘密だ。

 こうして業務を進めながら、スキマ時間にポーションを量産していると、いつの間にか昼になっていた。

 ――お昼になったのに、エンディミオン様なかなか来ないわね……。

 今日はエンディミオン様が時間になっても来ない。もし来られない時は、今日は来ることが出来ないと何らかの方法で伝えてくれる。

 それか、昼休みが始まって一瞬だけ来ることがほとんどだ。だと言うのに、彼が来る気配はない。そのことに不思議に思っていると、先生が話しかけてきた。

「今日はクリスタさんが先に休憩の日ですね。行ってきてください」
「はい。ただそうしたいところなんですが……エンディミオン様が来ていないんです。いつもだったら来るのに……」

 本当に純粋に気になり先生に告げると、先生は心当たりがあるように「あー」と声を漏らし言葉を続けた。

「エンディミオン団長は今日は来ないよ。彼は昨日の討伐が長引いていて、昨日帰るはずだったけどまだ帰ってきてないみたいだから……」
「え!? そうなんですか!?」
「はい」

 ――知らなかったわ。
 昨日から行っているのに帰って来られない討伐だなんて……。

 長引くほどの討伐ということから、それなりに強い敵と戦っているということが容易に想像できた。だが、ここ最近でそんなに強い敵がいるなんて話を聞いたことがない。そのため、何か知ってそうな先生に恐る恐る訊ねてみた。

「第3騎士団は何の討伐に行っているんですか……?」
「なんでも、ネクロマンサーがアンデッドを使役して、人々を襲っているという緊急事案があったらしいんですよ」

 ――ネクロマンサー……?
 ということは、黒魔術師が敵ということね。
 何だか私が昔行った討伐のことを思い出すわね……。

「彼らは大丈夫なんでしょうか……?」

 心配になり先生に訊ねると、先生は私の肩をポンポンと叩きながら安心感のある顔を向けてきた。

「おそらく、第3騎士団だけで行ったということは、それなりに対処できるということでしょう。それに、エンディミオン団長です。大丈夫だと我々は信じていよう」
「はい、そうですね……」

 そう答え、私は1つ困ったことがあったため先生に言葉を続けた。

「先生……ちょっとお願いがあるんです」
「どうしたの?」
「昨日エンディミオン様が来てくれたのに、お昼を一緒に食べられなかったじゃないですか……。なので、実はお詫びにエンディミオン様にお弁当を作ってきていたんです」

 ずっと昨日からエンディミオン様に悪いなと思っていた。そのため、私はいつもより少し早く起きて、エンディミオン様にお詫びとしてお昼ご飯を作っていたのだ。

 ――でも、1人じゃこんな量食べられないわ……。

 そう思い、先生に頼んだ。

「先生さえよろしければ、今日は作ってきたお弁当を一緒に食べてくれませんか?」
「っ! 僕がエンディミオン団長よりも先にクリスタさんの手料理を食べても良いんでしょうか……?」

 ――あっ、確かに……。
 って、私何考えてるの!?
 確かにじゃないでしょ!
 ただの手料理じゃない!

 エンディミオン様にとっては私の手料理が特別のような言い方をされた。それだけでも恥ずかしいのに、それに納得しかけた自分に顔から火が出そうだ。

 だが、何とか気を取り直して先生に言葉を返した。

「せ、先生ならいいと思います。何より、私だけでは食べきれないので、このままでは食材が無駄になってしまうんです……」
「そう……ですか。分かりました。少し気が引けますが、そちらのお弁当をいただきます。今日は久しぶりに一緒に食べましょうか!」

 食材が勿体ないということが、先生の琴線に触れたのだろう。先生は食べることに了承してくれた。そのため、私は先生と一緒に医務室で食べ始めた。

「どれも美味しいですね。それに、彩りも綺麗です」

 そう褒めながら先生は私のお弁当を食べてくれている。だが、先生は騎士のエンディミオン様と違い小食だ。そのため、多めに作ってきた食材を残さないようにしようと、私も一生懸命食べ進めていた。

 こうして2人でお弁当と格闘していると、医務室の扉がガラガラと音を立て徐に開けられた。
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