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43話 見極め役
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ギル様の発言により、カイルとアルバート先生の顔が引き攣った。
別にギル様が悪いわけではない。ここに戻ってきたときの私の話しを知らないんだ。
だが、今の発言により、非常に気まずいが医務室を包み込んでいる。そんな中、私はギル様にありのままの真実を告げた。
「ギル様……」
「んむ? どうした?」
「……結婚は無くなりました」
驚いたのだろう。ギル様は綺麗な目を真ん丸に開き、口をアワアワと動かした。
「な、何でだ!? 結婚するために、われのところに来たと言っていたではないか!」
――いや――――――! 言わないで!
もうダークマターくらい黒い歴史だから!
カイルはまだしも、先生の前では本っ当にやめて……!
カイルは経緯を知っているけれど、アルバート先生には恥ずかしすぎて試練を受けた理由は話していなかった。だが、こうして思わぬ形で暴露されてしまったため、羞恥心が私の身体中を爆速で駆け巡った。
しかし、それと同時に、レアードとアイラ、カトリーヌに対する怒りも込み上がってきた。何で結婚しなかったのか……その理由を鮮明に思い出してしまったからだ。
ここまでくれば、ここに居る皆に隠す必要もないだろう。私はもうアルバート先生に聞かれても良いと思いながら、ギル様に説明をすることにした。
「私が帰ってきたら、別の女性と結婚式をしていました」
「結婚式? 婚姻の契りを結んだということか?」
「簡単に言うと……そう言うことです」
視界に映り込むカイルとアルバート先生の顔は、ヤバいものを見るような表情になっている。一方で、ギル様は私の話に集中している。
「その後どうなったのだ? きちんと落とし前はつけたか?」
「全員と縁を切りました」
そう答えると、ギル様はプンプンと怒ったような表情から途端に笑顔になった。
「さすがわれの大親友であり愛し子だけある。よくやったぞ、クリスタ! われもそいつらに制裁を――」
「あんなやつらに関わらないでください! もう良いんです。あんな人間のことで労力使うことすらもう無駄です」
これは本心だった。制裁してくれたら嬉しいという気持ちもある。だが、それ以上にあんな薄汚い性根の腐った人間と関わって欲しくないという気持ちが勝った。
すると、何を思ったのかギル様は徐にソファに膝立ちをした。
「そうか……クリスタは本当に優しい子だな」
そう言いながら、ギル様は一生懸命腕を伸ばして私の頭をポンポンと撫でてくれた。その優しさが身に沁み渡り、一瞬にして心が癒えていくのを感じる。
そして、しばらくして撫で終わるとギル様は私の隣に腕を組んで座った。
「我と離れている間に、そのようなことがあったとは……これならずっと一緒に居てやればよかったな……」
そう声を漏らしながら、うーんと何やら考え事をしている。すると、突然何かを閃いたようにキラキラとした眼差しと笑顔を私に向けてきた。
「そうだっ……! われがクリスタの伴侶に相応しい男を見極めてやろう!」
――えっ……!?
見極めるって……私の伴侶になる人を!?
ギル様が……!?
なんて名案なんだと嬉しそうにはしゃいでいるギル様に、私は面食らっていた。一方、私と違い冷静沈着なアルバート先生はギル様と楽しそうに話をしている。
「ギル様は、クリスタさんのお父上の役目を果たすということですね」
「そうだぞ! わが愛し子に嫌な思いを何度もさせたくない。傷付いてほしくないからな……」
そう言うと、ギル様は先生から私に視線を戻した。
「クリスタ! われを父と呼んでも構わぬぞ!」
「お父様と呼ぶのはちょっと……遠慮しておきますね。大人の姿も私と大して変わらない年齢に見えますし……」
事あるごとにお父様と呼んでくれと期待の眼差しで見られても困る。下手に気を遣うこと無く、素直に言っておいた方が後々良いだろう。
そう思いギル様にはっきりと伝えると、ギル様は少しがっかりとしてしょぼんとした反応を示した。しかし、この一連の行動は、ある男の心を完全に射貫いていたようだ。
「今の見た目でその発言は、さすがにかわいすぎるだろ! ギル様気にしなくていいっすよ。クリスタも大親友だから父親として見れないってだけですよ!」
「た……確かにな! そなた、飄々としてチャラチャラしているようだったが、やはり良い人の子だったのだな!」
ギル様をさりげなくフォローし、ちゃっかりと自身の株を上げることに成功している。そんなカイルはデレデレと笑いながら、突然私に話しを振ってきた。
「そもそも、ギル様泊まるところないだろうし、どうせクリスタの家に行くんだろう? ついでに見極めてもらえよ」
――確かに見極めてもらえた方がいいのかもしれないわ。
私どうやら人を見る目が怪しいみたいだし……。
一度裏切られたせいか、恋愛関係になると途端に自身の判断力が信用できなくなる。普通他所の家の令嬢は、父母が結婚相手を精査してくれる。その役割をギル様に任せる、そう思えばとても良い話に聞こえてきた。
「ギル様、私の家に泊まりますか?」
「ああ、クリスタが良いのであればわれはそうしたいぞ!」
「では、一緒に暮らしましょう。そこで見極めをお願いします」
「もちろんだ……! ならば、クリスタが結婚するその日までここに留まることにしよう!」
そう言うと、ギル様は喜んで思い切り私のことを抱き締めてきた。私はそんなギル様を受け止め、自身の膝の上に座らせた。
「クリスタさんもギルさんも、上手く話がまとまって良かったですね」
まるで子どもを見守る父親のような目で、私たちを見ながらアルバート先生が声をかけてきた。すると、そんな先生にギル様はとんでも無い発言をした。
「うむ! ちなみに、そなたはクリスタと結婚してもよいぞ! おすすめだ!」
――何てことを言っているの!?
突然の発言に驚いてしまったが、私よりもその発言を許さない人間がいた。
「何言ってるんですか!? アルバート先生は俺の! いくらクリスタでも、アルバート先生はダメです!」
取られるものかというような勢いで、カイルは隣に座っているアルバート先生の腕にひしとしがみ付いた。
「っ! そうであったか……それは悪いことを言った……」
カイルの予想外の反応に驚いたのだろう。ギル様は本当に申し訳なさそうにカイルに謝った。そんな中、ある意味当事者のはずの先生は、平然とした様子で口を開いた。
「別に僕は誰のものでもないのですが……。まあ、それはいいとしてクリスタさん、今日は早退したらどうかな?」
そして、そのまま自身の腕にしがみついたままのカイルに視線をやった。
「カイル君は今日のお仕事が終わっているみたいだから、きっと手伝ってくれると思うよ。そうだよね、カイル君?」
「先生! 俺の予定を覚えてくれていたんですね! 先生とならずっと一緒で良いですよ! ってことだ。クリスタ、今すぐ帰れっ!」
そう言うと、カイルは私に帰れと急き立て始めた。そんなカイルの勢いに圧倒され、私は早退手続きを済ませて子どもの姿をしたギル様と一緒に自宅へと帰った。
別にギル様が悪いわけではない。ここに戻ってきたときの私の話しを知らないんだ。
だが、今の発言により、非常に気まずいが医務室を包み込んでいる。そんな中、私はギル様にありのままの真実を告げた。
「ギル様……」
「んむ? どうした?」
「……結婚は無くなりました」
驚いたのだろう。ギル様は綺麗な目を真ん丸に開き、口をアワアワと動かした。
「な、何でだ!? 結婚するために、われのところに来たと言っていたではないか!」
――いや――――――! 言わないで!
もうダークマターくらい黒い歴史だから!
カイルはまだしも、先生の前では本っ当にやめて……!
カイルは経緯を知っているけれど、アルバート先生には恥ずかしすぎて試練を受けた理由は話していなかった。だが、こうして思わぬ形で暴露されてしまったため、羞恥心が私の身体中を爆速で駆け巡った。
しかし、それと同時に、レアードとアイラ、カトリーヌに対する怒りも込み上がってきた。何で結婚しなかったのか……その理由を鮮明に思い出してしまったからだ。
ここまでくれば、ここに居る皆に隠す必要もないだろう。私はもうアルバート先生に聞かれても良いと思いながら、ギル様に説明をすることにした。
「私が帰ってきたら、別の女性と結婚式をしていました」
「結婚式? 婚姻の契りを結んだということか?」
「簡単に言うと……そう言うことです」
視界に映り込むカイルとアルバート先生の顔は、ヤバいものを見るような表情になっている。一方で、ギル様は私の話に集中している。
「その後どうなったのだ? きちんと落とし前はつけたか?」
「全員と縁を切りました」
そう答えると、ギル様はプンプンと怒ったような表情から途端に笑顔になった。
「さすがわれの大親友であり愛し子だけある。よくやったぞ、クリスタ! われもそいつらに制裁を――」
「あんなやつらに関わらないでください! もう良いんです。あんな人間のことで労力使うことすらもう無駄です」
これは本心だった。制裁してくれたら嬉しいという気持ちもある。だが、それ以上にあんな薄汚い性根の腐った人間と関わって欲しくないという気持ちが勝った。
すると、何を思ったのかギル様は徐にソファに膝立ちをした。
「そうか……クリスタは本当に優しい子だな」
そう言いながら、ギル様は一生懸命腕を伸ばして私の頭をポンポンと撫でてくれた。その優しさが身に沁み渡り、一瞬にして心が癒えていくのを感じる。
そして、しばらくして撫で終わるとギル様は私の隣に腕を組んで座った。
「我と離れている間に、そのようなことがあったとは……これならずっと一緒に居てやればよかったな……」
そう声を漏らしながら、うーんと何やら考え事をしている。すると、突然何かを閃いたようにキラキラとした眼差しと笑顔を私に向けてきた。
「そうだっ……! われがクリスタの伴侶に相応しい男を見極めてやろう!」
――えっ……!?
見極めるって……私の伴侶になる人を!?
ギル様が……!?
なんて名案なんだと嬉しそうにはしゃいでいるギル様に、私は面食らっていた。一方、私と違い冷静沈着なアルバート先生はギル様と楽しそうに話をしている。
「ギル様は、クリスタさんのお父上の役目を果たすということですね」
「そうだぞ! わが愛し子に嫌な思いを何度もさせたくない。傷付いてほしくないからな……」
そう言うと、ギル様は先生から私に視線を戻した。
「クリスタ! われを父と呼んでも構わぬぞ!」
「お父様と呼ぶのはちょっと……遠慮しておきますね。大人の姿も私と大して変わらない年齢に見えますし……」
事あるごとにお父様と呼んでくれと期待の眼差しで見られても困る。下手に気を遣うこと無く、素直に言っておいた方が後々良いだろう。
そう思いギル様にはっきりと伝えると、ギル様は少しがっかりとしてしょぼんとした反応を示した。しかし、この一連の行動は、ある男の心を完全に射貫いていたようだ。
「今の見た目でその発言は、さすがにかわいすぎるだろ! ギル様気にしなくていいっすよ。クリスタも大親友だから父親として見れないってだけですよ!」
「た……確かにな! そなた、飄々としてチャラチャラしているようだったが、やはり良い人の子だったのだな!」
ギル様をさりげなくフォローし、ちゃっかりと自身の株を上げることに成功している。そんなカイルはデレデレと笑いながら、突然私に話しを振ってきた。
「そもそも、ギル様泊まるところないだろうし、どうせクリスタの家に行くんだろう? ついでに見極めてもらえよ」
――確かに見極めてもらえた方がいいのかもしれないわ。
私どうやら人を見る目が怪しいみたいだし……。
一度裏切られたせいか、恋愛関係になると途端に自身の判断力が信用できなくなる。普通他所の家の令嬢は、父母が結婚相手を精査してくれる。その役割をギル様に任せる、そう思えばとても良い話に聞こえてきた。
「ギル様、私の家に泊まりますか?」
「ああ、クリスタが良いのであればわれはそうしたいぞ!」
「では、一緒に暮らしましょう。そこで見極めをお願いします」
「もちろんだ……! ならば、クリスタが結婚するその日までここに留まることにしよう!」
そう言うと、ギル様は喜んで思い切り私のことを抱き締めてきた。私はそんなギル様を受け止め、自身の膝の上に座らせた。
「クリスタさんもギルさんも、上手く話がまとまって良かったですね」
まるで子どもを見守る父親のような目で、私たちを見ながらアルバート先生が声をかけてきた。すると、そんな先生にギル様はとんでも無い発言をした。
「うむ! ちなみに、そなたはクリスタと結婚してもよいぞ! おすすめだ!」
――何てことを言っているの!?
突然の発言に驚いてしまったが、私よりもその発言を許さない人間がいた。
「何言ってるんですか!? アルバート先生は俺の! いくらクリスタでも、アルバート先生はダメです!」
取られるものかというような勢いで、カイルは隣に座っているアルバート先生の腕にひしとしがみ付いた。
「っ! そうであったか……それは悪いことを言った……」
カイルの予想外の反応に驚いたのだろう。ギル様は本当に申し訳なさそうにカイルに謝った。そんな中、ある意味当事者のはずの先生は、平然とした様子で口を開いた。
「別に僕は誰のものでもないのですが……。まあ、それはいいとしてクリスタさん、今日は早退したらどうかな?」
そして、そのまま自身の腕にしがみついたままのカイルに視線をやった。
「カイル君は今日のお仕事が終わっているみたいだから、きっと手伝ってくれると思うよ。そうだよね、カイル君?」
「先生! 俺の予定を覚えてくれていたんですね! 先生とならずっと一緒で良いですよ! ってことだ。クリスタ、今すぐ帰れっ!」
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