上 下
6 / 77

6話 神聖力の覚醒

しおりを挟む
――地面が……揺れている?

 何だか体が揺れているような感覚がする。薄っすらと目を開けると、瞼の隙間から明るい日差しが差し込んできた。

 その眩しさの影響か、私は徐々に意識を取り戻し、そのままの勢いでゆっくりとだるい身体を起こした。そして、凝り固まった身体を少しでもほぐそうと、地面に座り込んだままグーっと上体を伸ばした。

 しかし、そのタイミングで下から強い振動による衝撃が伝わってきた。そのせいで、せっかく身体を起こしたのに、バランスを崩してドテッと地面に転けてしまった。

「いたたたっ……」

 突然ひっくり返るように転けたため、体を起こそうと地面に手をついたところ、ふとある違和感を覚えた。

――これ地面じゃない!?
 生き物……?

 そう気付いた瞬間、一気に頭が覚醒した。そして、自身の周りの景色を見て、私は現状を把握した。

「っ私、ド、ド、ド、ド、ドラゴンに乗って空を飛んでいるの……!?」

 あまりにも驚きすぎて、つい声が出てしまった。すると、その声にドラゴンが反応した。

「お! 起きたのだな。良かった。そろそろ目的地に着くから、それまでゆっくり休んでおれ」

――何でドラゴンが喋ってるの!? 
 私の能力!? 
 いやいや、そんなわけないわよね……。
 じゃあ、ドラゴンの能力?
 というか、私ったらこんなとんでもない状況で寝てたの……!?

 情報過多すぎる状況に対し、私は考えることを放棄した。そして、言われるがまま、目的地までおとなしくドラゴン様の背中に乗ることにした。もちろん、保護魔法はしっかりかけて。

 こうしてドラゴンの背中に乗るという未知の体験をしていると、ドラゴン様の言う通り、すぐ目的地とやらに到着した。

「ここが目的の場所だ。さあ、降りてくれ」

――ここはどこなのかしら?

 そんな疑問を抱えながらも、大人しくドラゴン様の言うことに従い、本当の地面に降りた。すると、ドラゴン様が突如、ヒト型の子どもへと姿を変えた。

――え!? 
 子ども……!?
 まさか、私こんな子どもに乗っていたの?

 今目の前にいるドラゴン様の姿は、4~5歳くらいの人間の子どもだ。宝石のように煌めく青い目と、シルクのように滑らかな銀白色の長髪を持つ彼は、人形のように美しい。その姿を見ると、妙に罪悪感が湧いてくる。

 しかし、そんな私の様子をドラゴン様は気に留めない。そして「少し待っておれ」と言うと、どこかに行った。

 それから数分後、言われた通り待っていた私に、ドラゴン様はたくさんの果実を持ってくると、それらを目の前に置いてくれた。

「この果実を食べれば、きっと体力が回復するだろう。ここには美味なる果実がたくさんある。好きなだけ食べてくれ」

 みずみずしく熟した果実は、まさに食べごろといった様子で非常に美味しそうだ。

「あ、ありがとうございます」

 目の前の山から、適当に一つ果実を手に取り食べると、予想を遥かに上回る美味しさが口いっぱいに広がる。甘酸っぱくて最高だ。そのあまりの美味しさに、ついつい食べることに夢中になってしまった。

 そんな私の様子を見て、ドラゴン様は微笑みながら話しかけてきた。

「人の子よ。突然そなたに襲いかかりすまなかった。そして、襲いかかったにもかかわらず、われを救ってくれたこと、心より感謝いたす」
「ど、どういたしまして? というより、お話しできたんですか? それなら、突然襲いかからずとも、話し合いで解決できたんじゃ……」

 つい本音が漏れてしまう。しかし、ドラゴン様は怒ることなく説明をしてくれた。

「われが今そなたと会話ができているのは、そなたが覚醒したからだ。われの治療にそなたは膨大な神聖力を使っただろう? そのとき、確かにそなたの神聖力が覚醒したのを感じた」

――私が、覚醒……?

「いつだったか……8000年ほど前にも、覚醒を遂げた人の子が1人いたな」
「え!? 8000年前ってもしかしてオフィーリア様のことですか?」
「そうだっ、知っておるのか? そなた、もしや人の子ではなかったか?」
「いやいやいやいや、私は普通の人間です! 私がオフィーリア様を知っているのは、オフィーリア様が私たちの国では、伝説の聖女様として語り継がれ誇られているからです!」
「そうであったか! あの子が伝説に……。人の子とは面白いものだ。それなら話は早い! ようは、そなたはあの子と同じ力を手に入れたということだ! 神聖力の覚醒によってな」

――私にオフィーリア様と同じ力があるってこと……?

 ドラゴン様は私が8000年も聖女として語り継がれるオフィーリア様と同じ力を得たと言ってくる。

 しかし、いくらそう言われても体感では分からないため、なかなか実感が湧かない。

「では、ドラゴン様の力ではなく、私の力が覚醒したことで、会話ができるようになったということですか?」
「ああ、その通りだ。われも人間と会話出来る能力はあるが、今は身体が本調子じゃないゆえ能力を使っていないのだ。それと、その呼び名は慣れん。ギルと呼んでくれ」
「ギル様ですか?」
「ああ、本当はギルバートだが……そう呼んでくれて構わない。長いのは苦手なんだ」

 別に長いと言うほどの名前でもないと思ったが、それは言わない方が良い気がして堪えた。

「本来であれば、高潔なドラゴンが人の子に名前で呼ばせることは滅多にない、……が、そなただから許そう」

 そう言いながら、ギル様は両手で持った桃を美味しそうに頬張り、ぷにぷにのほっぺたを膨らませながら、もぐもぐと食べ進めている。

――そんなにも大事なことを私に許していいの?

 そんな疑問がふと湧いたが、そこはスルーし話を続けた。

「私が覚醒していなかったから、今みたいに会話できなかったのは分かります。ですが、今のギル様を見ていると、どうしてギル様が突然私に襲いかかったのか分かりません。それに、突然襲うのをやめて、顔をすりつけてきたのも……」

 考えれば考えるほど、謎過ぎるギル様の行動に疑問が湧いてくる。すると、ギル様は桃から私へと視線を移した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。

桜咲 京華
恋愛
剣道の全国大会優勝者だった私の転生先は悪役令嬢クロウツィア。 生前に持っていた剣ダコも筋肉も無くなってしまったけど、もう一度強さを取り戻したい。子供の頃夢に見たようなヒーローになりたい。さっそく騎士団に乗り込んでやる! 婚約者であるウィンスター王子のことも私が守ってあげる。だから婚約破棄しても仲良くしてね。 脳筋系女子の騎士物語。 小説家になろうでも同時連載中。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...