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5話 ドラゴン

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 いよいよ始まった試練に、色々な意味でドキドキが止まらない。

――下がどうなっているか分からないから、とりあえず保護魔法をかけておきましょう。

 何があるかも分からない場所に生身で落下したら、試練どころではなくなる。

 そのため、全身に保護魔法をかけ完全防御状態になり、浮遊魔法を使いながら地上へと降り立った。

 降り立つと目の前には1本道があったため、道なりに沿って歩みを進めていった。すると、目の前に突如として洞窟が現れた。

――恐らく、この洞窟に入らないと話にならないみたいね。

 足を踏み入れると、洞窟の中は寒くて湿気があった。そのうえ、当たり前のことだが一切明かりが無く前も見えない。

――不気味な場所ね。
 早く抜けられたら良いんだけど……。

 そんなことを考えていると、何か生き物がいるような気配がした。

――な、なに!?
 やっぱり何か生き物がいるの!?
 少しだけなら、明かりを付けても良いわよね……。

 明かりを付けることによって、何か問題が起きる可能性もある。しかし、視界を奪われた真っ暗闇で襲われたら、それこそひとたまりもない。

 そのため、弱いロウソクの火程度の明かりを付けたところ、巨大な何かの大きな目が視界に入った。

「―――――――っ!」

 驚きのあまりつい叫びそうになった。だが何とかグッと声を堪え、その目から距離を置くべく遠くへと離れた。

 しかし、動揺したためだろう。魔力量の調整に失敗し、一瞬だけだがランタンで照らしたような明るさの光を出してしまった。するとその瞬間、謎の生き物の全体像が見えた。

――ド、ドラゴン……!?
 架空の生物じゃなかったの!?

 何でドラゴンがこんなところにいるのだろうか。考えても見なかった生き物が目の前に現れ、恐怖でパニックになってしまう。

――と、とりあえず逃げなきゃ……!

 ここから逃げようと、私は反射的に足を踏みだした。ところが、ぬかるんだ地面に足を取られ転けそうになってしまった。

「キャ!」

――嘘でしょ! いつもだったらこんな失敗しないのに!
 声が出ちゃった!
 どうしようっ……。

 いくら焦っていたとはいえ、いつもだったら有り得ない失敗を立て続けに起こし、余計に焦りが加速する。

 すると、私の先ほどの声に気付いたのだろう。ドラゴンが鋭い眼光でこちらを睨み、襲いかかって来た。

 とりあえず、慌てながらも何とか厳重な保護魔法を自身にかけた。しかし、襲いかかってきたドラゴン相手に安心できるはずもない。

――ここで死んじゃうの? 
 いや、ここで死にたくない……!
 ドラゴンには保護魔法を通用しないかもしれないわ!
 どうしようどうしようどうしようどうしよう……!

 考えている間に、ドラゴンとの距離がどんどん近くなってくる。そんな瞬間、ふと思い出した。

――お、お守り!
 もうなりふり構っていられないわ!

 役には立たないと言っていたが、何もしないよりはマシだろう。自暴自棄な心境で第3騎士団長にもらったお守りのハンカチを急いで取り出し、咄嗟にドラゴンの目の前で広げて見せた。

 すると、走っていたドラゴンが突然その足を緩めた。そうかと思うと、突然キュルルルルーとご機嫌な様子で鳴き、こちらに歩み寄って私に顔を擦りつけてきた。

――え!? 怖い!
 どうなっているの!?

 予想外の態度の変わりように対し、あたふたと狼狽してしまう。だからこそ冷静になろうと、ドラゴンを観察した。

――多分だけど……だいぶ機嫌もよさそうだし、さっきみたいな敵意も感じない。

 態度が軟化した理由は分からないが、とりあえず今は襲われなさそうだ。そう判断した瞬間、突然ドラゴンが苦しそうな表情になり、その場に倒れこんでしまった。

――ど、どうしたのかしら!?
 声をかけた方が良いわよね。でも、ドラゴンは一応神聖な生き物だから、敬語の方が良いのかしら……? 
 呼び方もドラゴン様?
 ってそんなことより、明るくしないと。

 倒れたドラゴンの様子を確認するため、魔法で洞窟内を昼のように明るくした。すると、私の目の前には傷だらけの1体のドラゴンが倒れていた。

「こんなに怪我をしていたんですか!?」

 明かりが弱かったためまったく気付かなかったが、目の前にいたドラゴンはかなり深い傷を何か所にも負い、弱りきった状態だということが分かった。具合も相当悪そうだ。

「ドラゴン様、具合が悪いんですか?」

 心配になりそう声をかけると、その声に反応するように、ドラゴンはキュグルルルと泣きそうな声で鳴いた。

「ちょっと待ってください。今すぐ治してあげますからね」

 先ほどまでドラゴンを怖がっていたことは完全に頭から抜け、私は急いでカバンの中から持ってきた薬を取り出した。

「これは私が作った薬なんです。これを飲んだらだいぶ回復すると思います」

 そう声をかけ、ドラゴンに薬を飲ませることにした。

――念のために1つ残すけど、後の全部はドラゴン様に飲ませても大丈夫よね。
 こんなに弱ってるし身体も大きいから、そのくらいしないと……!

 こうして、私は持って来た回復ポーションを1つ除き、残りのポーションをすべてドラゴンに飲ませた。

――これだけじゃ、まだ足りないかもしれないわね。
 神聖力も付与した方が回復の促進につながるかも……!

 そう考え、私はドラゴン様にありったけの神聖力使った治癒魔法をかけた。すると、みるみる傷が消えていき、ドラゴン様の具合がよくなっていくのが分かった。

「良かった……。傷は完全に治りましたね。具合もよさそう……。良かったですね。本当に良かったですね」

 そう言いながら、ドラゴン様の傷口の消えた部分を撫でてると、急に目の前が真っ暗になった。

――あれ、何で真っ暗に?
 ああ、明かりが消えたのかしら? 
 それにしても、治って本当に良かった。
 でも、もう無理、体力の限界……。

 そう思ったところで、完全に私の意識は絶たれた。
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