上 下
3 / 77

3話 未来のための選択

しおりを挟む
 家に帰り、早速妹のアイラに相談することにした。

 アイラは継母ままははのカトリーヌ様とは違い、いつも笑顔で優しく接してくれている2歳年下の可愛い妹である。

「……それでね、どう思う?」

 試練について打診されたことを説明し、アイラの答えを待った。

「え!? お姉様があの試練を受けるですって……! でも、それって……」

 察しの良いアイラはその先は言わないが、言わんとすることは分かる。

「うん、死ぬ可能性もあるってことよ」
「お姉様はレアード様と結婚するんですよね!? そんな死ぬだなんて、もしものことがあったら……」

 優しいアイラにこの話をしたら、絶対にショックを受けると思っていた。そして、案の定泣きそうな顔になりながら心配するようにこちらに目を向けている。

 しかし、そんなアイラは突然何かをひらめいたように口を開いた。

「あっ! でも……」
「どうしたの?」
「お姉様がその試練を受けたら、レアード様との結婚に、皆が快く賛成してくれるかもしれませんよ!」

 その妹の指摘は、ここ最近で私が抱えている最も大きな悩みの種であった。というのも、私とレアード様は子爵ししゃく家と侯爵こうしゃく家という家格の差がある。そのため、レアード様のご両親が私たちの結婚に反対しているのだ。

 現時点において、レアード様がご両親に私のことを話しても、家格が違うからと言って会ってさえくれない状況だ。だからこそ、身分問わず最大の名誉を得られるこの試練は、ある意味のチャンスでもあった。

――確かにアイラの言う通り、結婚に賛成してもらうためには、この試練を受けた方が良いのかもしれないわね……。
 もし成功すれば、きっとレアード様との結婚を認めてもらえるもの。

「どうでしょうか、お姉様?」

 考え込む私の顔色を窺うように、アイラは私の顔を覗き込んできた。私の返答を待っているようだ。

「恋に障害はつきものというものね。分かった。試練を受ける方向で考えてみる。けれど、明日レアード様とも相談してみる」
「ええ、ぜひ相談してみてください」

 そう言って微笑むアイラは、少し不安げな表情をにじませていた。私はそんなアイラを安心させるよう、彼女の頭を撫でた。

「相談に乗ってくれてありがとう。あなたが居てくれて良かったわ、アイラ」
「大事なことだもの! きちんと話しておかないと! 血は繋がって無くても、私たちはたった2人の姉妹なんだから! 何かあったらまた相談してね? 絶対、絶対よ! うふっ」

 血は繋がっていないけれど、アイラはこうして私の心強い味方になってくれる。ふと、彼女も大人になったのだなと改めて実感した。

 そして、翌日のお昼休憩の時間に、打診された試練についてレアード様に相談した。

「そんな……認めてもらうためにクリスタがそこまでの危険を冒さなくても……」

 そう言うレアード様の顔には、アイラと同じく心配の色が滲み出ている。

「でも、もし帰って来られたら、あなたとの結婚を皆がもろ手を挙げて祝福してくれるはずです。ご両親も私のことを認めてくださると思うんです」

 話しているたびに、相談と言いながらも自分の考えが固まっている感覚がする。

「それに、あなたが家格の低い女と結婚したっていう悪いレッテルを張られなくて済みます!」
「うーん……」

 煮え切らない返事のレアード様は、やはりあまり試練を受けることに賛成してはいないのだろう。しかし、考えれば考える程、こんな絶好のチャンスはないと思えてくる。

「私は、私と結婚したせいであなたが悪く言われるのは嫌なんです。だから、周囲がそんなことを言えなくなるくらい頑張ります。愛するあなた、そして、私たちの未来のために」

 そう言うと、レアード様はハッとした顔をした。

「私は必ず帰ってきます。愛するあなたを一人残して死ぬわけにはいきませんから。……私、試練を受けます」

 試練を受けると断言した瞬間、レアード様の目が一気に涙ぐんだ。そして、少し顔を歪ませながらレアード様が口を開いた。

「ごめん……。そこまで君が考えてくれていたなんて……」

 そう言うと、彼はおもむろに私を抱き締めた。

「クリスタが戻ってきたらすぐにでも結婚しよう。僕は君を必ず待っているからっ……。帰ってくるのが何年後になっても良い。僕の為にそこまで君がしてくれるのに、待つのなんて苦じゃないよ」

 彼の腕により力が入る。

「僕は君を信じる。愛しているから。君ほどの実力があれば、きっと試練も突破できるはずだ。皆に祝福されながら結婚しよう! 本当に心から愛しているよ。っありがとう……!」

 滅多に気持ちを伝えることのない彼のその言葉につられて、つい涙腺が崩壊しそうになる。

「信じてくれて、ありがとうございます。レアード様のために、絶対に帰ってきますね……! そして、結婚しましょう」
「ああ、もちろんだっ」

 こうして、私は試練を受けることを決意し、レアード様と結婚の約束をした。それから直ぐに、魔塔主様に試練を受けるという報告をしに行ったところ、よくぞ引き受けてくれたと感心された。

 そして家に帰り、いつもは沈黙の食事の時間に今日の事を告げた。

「お継母様かあさま、アイラ、私生贄の試練を受けることにしました」

 この報告に驚いたのだろう。2人とも目を見開いてこちらを見た。しかし、予想外なことにお義母様は私と目が合うと、にっこりと微笑みかけてきた。

「まあ! 選ばれるだなんてすごいじゃない。あなたならきっとできるわ。おめでとう。頑張ってね」

 お継母様が私に笑いかけてくれた。アイラでも使用人でもなく、他でもない私に笑いかけてくれるのはお父様が亡くなって以来初めてのことだ。褒めてくれたこともそれ以来のはず。

――お継母様が喜んでくれるだなんて……!
 嬉しいわっ……。

 いつも冷たいと思っていたお継母様から久しぶりに向けられた優しさに、嬉しさが込み上げてくる。すると、アイラも口を開いた。

「お姉様は絶対に大丈夫! 胸を張って行ってきてね!」

 大丈夫と私を後押しをするアイラは、心配をかけないようにするためか、にっこりと笑顔を向けてくれた。

 この日から数日経ち、いよいよ試練に行く日がやって来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。

桜咲 京華
恋愛
剣道の全国大会優勝者だった私の転生先は悪役令嬢クロウツィア。 生前に持っていた剣ダコも筋肉も無くなってしまったけど、もう一度強さを取り戻したい。子供の頃夢に見たようなヒーローになりたい。さっそく騎士団に乗り込んでやる! 婚約者であるウィンスター王子のことも私が守ってあげる。だから婚約破棄しても仲良くしてね。 脳筋系女子の騎士物語。 小説家になろうでも同時連載中。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...