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第1章 造形士
1-5 依頼完了
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陽(よう)とは、聖十字教会(クルセイダーズ)に所属する非戦闘の霊能力者だ。主に、事務的な仕事や人払いの結界などを行い俺達の補助を専門にして居る。
聖十字教会に所属する霊能力者は、俺達の様な個人事業主(ハンター)として活動する陰(いん)と彼等の陽に分類される。
陽は、戦闘が苦手な人や年齢や怪我などで活動出来なくなったハンター達の受け入れ先の一つだ。彼等の補助があるから俺達は、周りを考えず戦闘だけに集中することが出来るのだ。
「畦倉さん家周辺に、簡易的な守護結界を張り終えたよ」
「お疲れー。俺もこの周辺から霊力を流して居る。釣れると良いんだけど……」
俺達の作戦は至極簡単だ。敵を誘き出してぶっ殺す。それだけだ。
しかし、この作戦には明確な欠点がある。それは、敵はいつ襲ってくるのか、どこに居るのか不明である事だ。
その為の仕掛けとして、まず光流達に刻まれた呪印を解呪。そして、屋根に登り怪異化した俺が、周囲に向けて霊力を放出する事だ。
これによって件の怪異は、自分の獲物との繋がりが失われる事を察知する。そして、自分の獲物が居た場所に怪異が存在する事を察知する。
これによって、自分の獲物が奪われたと錯覚させて怒りを買い、自らこっちに来てもらう仕掛けを施した。呪印とは、怪異にとってマーキングの様なもの。
犬が電柱に放尿して、自分の縄張りだと主張する様に、呪印の施した人間は自分の物だと主張する為の行為だ。これが侵害されたのだ。これで、怒らない怪異はまず居ない。
「畦倉さん達、良い人達だったね」
「おう! だな」
「この人達が、安心して暮らせる様にしなくちゃね」
「おう! っ!? 真、北東から来る。釣れたかも……」
光流の自宅を中心に、円を描くように流した霊力。他の怪異からしたら、力を誇示した阿呆にでも思われて居るのか、はたまた関わりたく無いとでも思われて居るのか動く気配が無かった。
そんな時に、北東の方角からから猛スピードで俺達に近付く反応があったのだ。俺は真と目を合わせた。
「OK。ヒロはそのまま警戒して。ボクも隠れながら、他を警戒するよ」
真は気配を隠し、物陰に隠れた。ジッと待って居ること数分、目的の怪異が姿を現した。
『ギョロロ~~! お~ま~え~が、俺の獲物を横取りした奴だな~!!』
その怪異は、熊の様な大きさで、鮫の様な顔立ちに、蟹の様な大きな鋏。口の中から見えるギザギザと鋭利な歯を幾つも持つ怪異だった。そして、その怪異は、案の定とてもブチギレていた。
「何だ? お前のだったのか? 知らなかったぜ。にしてもお前、知らないのか? 世の中、弱肉強食、早い者勝ちって言葉があるんだぜ?
俺に狙われたのが運の尽きだ。見逃してやるから、さっさと失せろカス野郎。精々、弱いテメェの実力を恨むこったなぁ。ギャハハッ!!」
俺は敵怪異の表情を見て、更に火に油どころかガソリンを注ぐが如く煽りまくる。
『ギョロォォ~ッ! もう許さんっ!! その程度の霊力で、この半魚人様に逆らいやがってっ!! もう許さんっ! お前を噛みちぎってやる~~!!』
何処が半魚人なのかは定かでは無いが、半魚人を名乗る怪異は地団駄を踏み、その勢いでアスファルトに罅が入る。敵は馬鹿だが、生まれて1ヶ月の俺よりは強い霊力を発して居る。
「へっ! 出来るもんなら来てみろ! カス野郎っ!!」
敵の霊力に内心ビビりつつも、それを悟られない様に自分を鼓舞して更に煽り尽くした。
『~~っ!! ぶっ殺すっ! イギャッ!? こ、これは……結界っ!? な、何故っ……!? まさかっ……!?』
敵がハッとして屋根の上にいる俺を見上げた。
「気付くのが遅えよ。カス野郎」
敵の間抜け面を見ながら、視界に映る頼りになる相棒を見てニヤリと笑った。
「秋雨流・格闘術ーー波動拳」
右手に霊力を込めた正拳突きが、敵のボディに突き刺さる。
『グゲカギギャッ!?』
敵怪異は、ガラ空きだったボディブロウに大声で叫ぶが、大して吹き飛んでいない。真も、敵の鱗の感触からして、深く入れることが出来ず、逆に拳から少し血を流した。
「チィッ、意外と硬いな……。ヒロッ!」
「おう! 行くぞっ!!」
「了解っ! 憑纏(ひょうてん)ッ!!」
「ワウォォーーンッ!!」
「血装(けっそう)・狼牙刀」
『グギィッ……! 舐めてんじゃねぇ! 食い殺してやるぞっ……! 人間風情がーー!!』
「怪異名:半魚人。この連撃でお前を滅する。
秋雨流・抜刀術ーー時雨(しぐれ)」
真が縮地で怪異と距離を詰めた瞬間、両腕、両足の順に斬撃を放つ。そして、敵を無力化した後、その首を断ち切った。それが時雨と言う技である。
自身が出せる最高速度の抜刀で、相手の胴体を断ち切る零雨(れいう)とは違い、身体が硬い敵へ関節を狙った連撃が時雨の真骨頂だ。
『ギョ……ロ……』
「この連撃で安らかに眠れ」
怪異は消滅して、俺達の依頼は終了した。
ーーー
ーー
ー
「真さん、ヒロシ君、本当にありがとうございました」
「いえ、これで光流さん達を狙う怪異は居なくなりました」
朝、討伐を終えた俺達は、光流達の好意によって一泊し、別れの時間が来た。グズって泣いてしまう歩と友美を宥めながら説得して、俺達は別れの挨拶を行った。
「ええ、私達は正直、何が何だかは分かりませんでした。ただ、それでも恐ろしい力を持つ何かが居たことは、何となく感じた様な気がします。
夫が何を感じ、何を見たのか、その一部だけでも共有出来た様な気がします。改めて、お二人を疑ってごめんなさい」
「いえ、気にしていません。それよりも、これを」
「これは……?」
光流達は、真から手渡されるお守りの様な物に首を傾げる。見た目は、ただのお守りにしか見えない。しかし、今回の一件を経て、これがただのお守りでは無い事がなんとなく分かった。
「護符を模したお守りです。これを身につけることで、一定の怪異に対して狙われにくくなる効果を持ちます」
「っ!? この様な高価な物をい、いいんでしょうか……!?」
「はい。それに、これは聖十字教会でも売って居る物で、それほど高価ではありません。ただし、油断と過信は禁物です。
これは、あくまでも一定の怪異から狙われにくくなるだけで、力のある怪異からすれば無意味になります」
真が渡した物は、"隠者のお守り,,と呼ばれる霊具だ。霊具とは、怪異の核となる"核導(かくどう),,を元に作られる道具で、主に多くの霊能力者を手助けする道具とされて居る。
この隠者のお守りも、その霊具の類だ。しかし、これは少し勝手が違く、霊災が世の中に知られてから作られた霊具で、主に依頼人を守るアフターケアの様な目的で開発された代物だ。
効果は至極簡単だ。一定の怪異が所持者に狙われにくくなる。そしてその原理は、お守りから怪異が嫌いとする匂いを発する核導が少し入っている代物だ。
価格は税込5,000円。大量生産したものの、お守り如きには高価すぎる故に売れ残ってしまった物を政府共同のキャンペーンで、無料配布しながら依頼人達の依頼後の死亡被害撲滅を図って居る。
「っ!? そ、それでは……どうすれば、良いのですかっ……!?」
「一番は、霊災が起きている場所に近付かない事。そして、起きそうな場所、一般に幽霊スポットと呼ばれる場所は極力避けて下さい。
そして、何か今回の様なことがあればまた、教会に相談して下さい。一人で解決しようとすればする程、対応が遅れてしまい助かる命も助けられません。まぁ、光流さん達は大丈夫だと思いますが、ね?」
「勿論です。この子達にも、今回の件を踏まえてその様に教育していきます。本当にありがとうございました」
「では、お互いにもう会わない事を祈りましょう。そして、出会った時は、またよろしくお願いします」
「ワンワン……バイバイ」
「おう! お前らも達者でな。人生、色々あるけど困ったら一人で抱えず、誰かに相談して助けて貰えよ? なんとかなるかも知んないから、な?」
「うん? うーん……分かった?」
「まあ、アレだ。元気でなって事だ。それじゃ、じゃあな」
俺達は、光流達に見送られながら帰宅した。
聖十字教会に所属する霊能力者は、俺達の様な個人事業主(ハンター)として活動する陰(いん)と彼等の陽に分類される。
陽は、戦闘が苦手な人や年齢や怪我などで活動出来なくなったハンター達の受け入れ先の一つだ。彼等の補助があるから俺達は、周りを考えず戦闘だけに集中することが出来るのだ。
「畦倉さん家周辺に、簡易的な守護結界を張り終えたよ」
「お疲れー。俺もこの周辺から霊力を流して居る。釣れると良いんだけど……」
俺達の作戦は至極簡単だ。敵を誘き出してぶっ殺す。それだけだ。
しかし、この作戦には明確な欠点がある。それは、敵はいつ襲ってくるのか、どこに居るのか不明である事だ。
その為の仕掛けとして、まず光流達に刻まれた呪印を解呪。そして、屋根に登り怪異化した俺が、周囲に向けて霊力を放出する事だ。
これによって件の怪異は、自分の獲物との繋がりが失われる事を察知する。そして、自分の獲物が居た場所に怪異が存在する事を察知する。
これによって、自分の獲物が奪われたと錯覚させて怒りを買い、自らこっちに来てもらう仕掛けを施した。呪印とは、怪異にとってマーキングの様なもの。
犬が電柱に放尿して、自分の縄張りだと主張する様に、呪印の施した人間は自分の物だと主張する為の行為だ。これが侵害されたのだ。これで、怒らない怪異はまず居ない。
「畦倉さん達、良い人達だったね」
「おう! だな」
「この人達が、安心して暮らせる様にしなくちゃね」
「おう! っ!? 真、北東から来る。釣れたかも……」
光流の自宅を中心に、円を描くように流した霊力。他の怪異からしたら、力を誇示した阿呆にでも思われて居るのか、はたまた関わりたく無いとでも思われて居るのか動く気配が無かった。
そんな時に、北東の方角からから猛スピードで俺達に近付く反応があったのだ。俺は真と目を合わせた。
「OK。ヒロはそのまま警戒して。ボクも隠れながら、他を警戒するよ」
真は気配を隠し、物陰に隠れた。ジッと待って居ること数分、目的の怪異が姿を現した。
『ギョロロ~~! お~ま~え~が、俺の獲物を横取りした奴だな~!!』
その怪異は、熊の様な大きさで、鮫の様な顔立ちに、蟹の様な大きな鋏。口の中から見えるギザギザと鋭利な歯を幾つも持つ怪異だった。そして、その怪異は、案の定とてもブチギレていた。
「何だ? お前のだったのか? 知らなかったぜ。にしてもお前、知らないのか? 世の中、弱肉強食、早い者勝ちって言葉があるんだぜ?
俺に狙われたのが運の尽きだ。見逃してやるから、さっさと失せろカス野郎。精々、弱いテメェの実力を恨むこったなぁ。ギャハハッ!!」
俺は敵怪異の表情を見て、更に火に油どころかガソリンを注ぐが如く煽りまくる。
『ギョロォォ~ッ! もう許さんっ!! その程度の霊力で、この半魚人様に逆らいやがってっ!! もう許さんっ! お前を噛みちぎってやる~~!!』
何処が半魚人なのかは定かでは無いが、半魚人を名乗る怪異は地団駄を踏み、その勢いでアスファルトに罅が入る。敵は馬鹿だが、生まれて1ヶ月の俺よりは強い霊力を発して居る。
「へっ! 出来るもんなら来てみろ! カス野郎っ!!」
敵の霊力に内心ビビりつつも、それを悟られない様に自分を鼓舞して更に煽り尽くした。
『~~っ!! ぶっ殺すっ! イギャッ!? こ、これは……結界っ!? な、何故っ……!? まさかっ……!?』
敵がハッとして屋根の上にいる俺を見上げた。
「気付くのが遅えよ。カス野郎」
敵の間抜け面を見ながら、視界に映る頼りになる相棒を見てニヤリと笑った。
「秋雨流・格闘術ーー波動拳」
右手に霊力を込めた正拳突きが、敵のボディに突き刺さる。
『グゲカギギャッ!?』
敵怪異は、ガラ空きだったボディブロウに大声で叫ぶが、大して吹き飛んでいない。真も、敵の鱗の感触からして、深く入れることが出来ず、逆に拳から少し血を流した。
「チィッ、意外と硬いな……。ヒロッ!」
「おう! 行くぞっ!!」
「了解っ! 憑纏(ひょうてん)ッ!!」
「ワウォォーーンッ!!」
「血装(けっそう)・狼牙刀」
『グギィッ……! 舐めてんじゃねぇ! 食い殺してやるぞっ……! 人間風情がーー!!』
「怪異名:半魚人。この連撃でお前を滅する。
秋雨流・抜刀術ーー時雨(しぐれ)」
真が縮地で怪異と距離を詰めた瞬間、両腕、両足の順に斬撃を放つ。そして、敵を無力化した後、その首を断ち切った。それが時雨と言う技である。
自身が出せる最高速度の抜刀で、相手の胴体を断ち切る零雨(れいう)とは違い、身体が硬い敵へ関節を狙った連撃が時雨の真骨頂だ。
『ギョ……ロ……』
「この連撃で安らかに眠れ」
怪異は消滅して、俺達の依頼は終了した。
ーーー
ーー
ー
「真さん、ヒロシ君、本当にありがとうございました」
「いえ、これで光流さん達を狙う怪異は居なくなりました」
朝、討伐を終えた俺達は、光流達の好意によって一泊し、別れの時間が来た。グズって泣いてしまう歩と友美を宥めながら説得して、俺達は別れの挨拶を行った。
「ええ、私達は正直、何が何だかは分かりませんでした。ただ、それでも恐ろしい力を持つ何かが居たことは、何となく感じた様な気がします。
夫が何を感じ、何を見たのか、その一部だけでも共有出来た様な気がします。改めて、お二人を疑ってごめんなさい」
「いえ、気にしていません。それよりも、これを」
「これは……?」
光流達は、真から手渡されるお守りの様な物に首を傾げる。見た目は、ただのお守りにしか見えない。しかし、今回の一件を経て、これがただのお守りでは無い事がなんとなく分かった。
「護符を模したお守りです。これを身につけることで、一定の怪異に対して狙われにくくなる効果を持ちます」
「っ!? この様な高価な物をい、いいんでしょうか……!?」
「はい。それに、これは聖十字教会でも売って居る物で、それほど高価ではありません。ただし、油断と過信は禁物です。
これは、あくまでも一定の怪異から狙われにくくなるだけで、力のある怪異からすれば無意味になります」
真が渡した物は、"隠者のお守り,,と呼ばれる霊具だ。霊具とは、怪異の核となる"核導(かくどう),,を元に作られる道具で、主に多くの霊能力者を手助けする道具とされて居る。
この隠者のお守りも、その霊具の類だ。しかし、これは少し勝手が違く、霊災が世の中に知られてから作られた霊具で、主に依頼人を守るアフターケアの様な目的で開発された代物だ。
効果は至極簡単だ。一定の怪異が所持者に狙われにくくなる。そしてその原理は、お守りから怪異が嫌いとする匂いを発する核導が少し入っている代物だ。
価格は税込5,000円。大量生産したものの、お守り如きには高価すぎる故に売れ残ってしまった物を政府共同のキャンペーンで、無料配布しながら依頼人達の依頼後の死亡被害撲滅を図って居る。
「っ!? そ、それでは……どうすれば、良いのですかっ……!?」
「一番は、霊災が起きている場所に近付かない事。そして、起きそうな場所、一般に幽霊スポットと呼ばれる場所は極力避けて下さい。
そして、何か今回の様なことがあればまた、教会に相談して下さい。一人で解決しようとすればする程、対応が遅れてしまい助かる命も助けられません。まぁ、光流さん達は大丈夫だと思いますが、ね?」
「勿論です。この子達にも、今回の件を踏まえてその様に教育していきます。本当にありがとうございました」
「では、お互いにもう会わない事を祈りましょう。そして、出会った時は、またよろしくお願いします」
「ワンワン……バイバイ」
「おう! お前らも達者でな。人生、色々あるけど困ったら一人で抱えず、誰かに相談して助けて貰えよ? なんとかなるかも知んないから、な?」
「うん? うーん……分かった?」
「まあ、アレだ。元気でなって事だ。それじゃ、じゃあな」
俺達は、光流達に見送られながら帰宅した。
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