探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

文字の大きさ
上 下
130 / 138
第3章 Iランク冒険者

3-40 運搬人(キャリア)

しおりを挟む
 身体をユサユサと、揺らされるのを感じる。それが、仲間達によって揺らされている事だと気が付いた俺は、目を擦りながら覚醒する。

 辺りを見ると既に、日が昇っていて熟睡していたようだ。俺以外の全員が既に起きて、朝食の準備をしている。

「やっほー! リオ、おはよー。体調はどう?」

「シルルちゃん、おはよー。まだ、ちょっと身体が気怠いけど……だいぶ回復したと思うよ」

 昨日に比べて、身体の調子は大分良かった。頭痛と吐き気、両腕の痛みはほとんど感じなかった。勿論、身体の気怠さや痛みは少しあるが、それも少し気になる程度なので回復したと言えるだろう。

「そうなんだ……ま、後は帰るだけだし、のんびりしよっか」

「そうだね。あ、そう言えば、夜間は襲撃あった? 起こされてないから無いと思うけど、念の為に」

「リオ君、夜襲は無かったにゃ。ただ、まだ1回目だから、夜行性の魔物が居ないとは言えないにゃ」

「ただし、僕達が警戒する限りでは、1体も魔物を見なかったにゃ」

「そうなんだ。それは、良かった」

「でも~装備を着たまま寝るのって、身体が痛くなるよね~。アタイの身体はバキバキだよ~」

「確かにな……でも、改善策は現状無いし、慣れるっしか無いよ。脱いだまま寝て、襲撃の時に対応出来ないよりは、マシだからな……」

「確かにね~」

「それよりもご飯を食べて帰るにゃ。朝食か昼食か、分かんないけど、早く帰って野営訓練に備えるにゃ」

 俺達は遅めの朝食を食べて、帰り支度をする。焚き火は、草原に燃え広がらない様に、俺の水魔力で消火した。各自、装備を身に付けたまま休んだ事で、凝り固まった身体をよく解した。

「それじゃ、帰るけど帰り道は、魔物を倒しながら帰るにゃ。流石に、換金するものが無いって言うのは、大赤字にゃ」

「そうよねー。上層の魔物は、安いって言ってもお金にはなる。中層で稼げなかった以上、上層で稼ぐしか無いわ」

「そこで、僕からは、みんなに守って欲しい事があるにゃ。換金額が少しでも高くなる様に、魔物を丁寧に殺して欲しいにゃ」

「了解!」

「出来るだけ、高く売りたいから、アタイも賛成だよ~」

「それじゃ、最後まで気を抜かず、帰るにゃ」

 青い転移陣(メタスタシスゲート)に乗り込んだ俺達は、一瞬の浮遊感と共に上層へ向かった。

 上層から城塞都市までの道のりは、行きとあまり大差は無かった。魔物達の乱戦後に素材の回収。上層でも100体に近い魔物と対峙したが、中層で300~400体対峙した経験があるからか、少ないとさえ思ってしまった。

 素材に関しては、丁寧に殺したつもりだが、ダメになった物も少なくなかった。ダメな素材を持っていても、余計なお荷物になる。厳選した結果、探索専用鞄の6割ほど入れて城塞都市に帰還した。

「癒し草や胡椒が、無かったのは残念だったね~。やっぱり、前回が偶々だったのかも知れないね~」

「そうだにゃ…….前回のオイラ達が特別、運が良かったのかもにゃ。きっとこれが、普通なのにゃ」

「でもな……こんだけ苦労して、鞄の5~6割だっけ? リオ?」

「6割だね。それと俺が、思った以上に足引っ張ってみんなごめんね……」

「仕方ないよ~。次は一緒に頑張ろね~」

 俺は申し訳ない気持ちで、胸が一杯だった。何故なら、換金素材がダメになった多くの理由は、俺にあったからだ。

 昨日、鼠達から逃げる際に使用した、魔法同時発動の両腕の疲労は、自分が思っていた以上に回復していなかった。その結果、普段なら出来る手加減調整が出来ず、何度も魔物を木っ端微塵にしてしまった。

 それが無ければ、換金素材が探索専用鞄の7~8割まで、回収出来ていただろう。だからこそ、俺はみんなに謝罪した。そして、みんなも、俺の事情を理解していたからこそ、無理に責めはしなかった。

「ブッ! ハハハハッ!! なんだよ、なんだよ!! やっぱり、運搬人(キャリア)は、使えねえじゃねぇかよ!」

 迷宮門(ラビリンスゲート)がある場所で、俺達と言うか、俺とメルルの2人は、よく分からない若い冒険者達に絡まれていた。

「そうよ! 自分の仕事もまともに出来ないなんて、生きている価値はないわ! ま、冒険者としても、出来損ないの貴方達に価値なんてある訳ないか!」

「そう言ってやんなよ! こんな、餓鬼みてえに色気もねぇ奴と、弱え癖に装備だけは一丁前の餓鬼を掴まされた、ソイツら3人が可哀想じゃん!」

「そうだよ! オイ! そこの雑魚! その装備、良さそうじゃん! アンタ達には勿体ない代物だ。置いていったら仕方ないから、私が使ってあげるよ!」

 絡んで来た4人の冒険者の年齢は、17歳前後くらいだろうか、俺達とあまり変わらないくらいの男女だった。全員、白髪な所以外に身体的特徴が無い事から、人間種パーソン族という事が分かる。

 更には、行動からして熟練感を醸し出している風に立っていた。しかし、実際にはそんな事はない。大凡の強さの気配から上層に居る転移陣付近の魔物と同程度か、それ以下の威圧感しか感じられない格下だった。

 少なくとも中層の鼠の方がまだ強いと思えた。そんな4人は、明らかに俺とメルルに向けて、侮蔑の視線と嘲笑を向けていた。だからこそ、格下相手に舐められた視線を向けられた俺達は、その不愉快な言動と共に苛立ちを募らせた。

「……駄目だ……なんか俺が思っている以上に、疲れているみたいだ。みんな、早く帰ろうぜ?」

「そうするにゃ……」

「オイラも、寝不足なのかにゃ? 幻覚と幻聴があるにゃ……」

「アタイも賛成だよ~」

「アタイもだよ。早く帰って自分の寝具で休みたい……」

 苛立ちを感じた俺達は、4人の冒険者を相手にしなかった。自分達は疲労困憊だと思い、それによって見えた幻覚と幻聴だと目を逸らした。そして、何も見なかった事にし、無視してからその場を立ち去ろうとする。

「オイッ!? お前ら、待ちやがれ!」

「そうよ!? 特にそこの運搬人(キャリア)! 何私の話を無視してんのよ!」

「装備使ってあげるって、言ったの聞こえなかったかしら? 耳まで腐ったのかしら? そんなのだから、貴方達は冒険者の出来損ないなのよ!」

「なぁ!? アンタらも、そんな運搬人なんかと組まないで俺達と一緒に組もうぜ? アンタらみたいなのが、そんな雑魚共と居るよりも俺達と居た方が、ずっと稼げるぜ!」

「みんな……そんな阿呆達に付き合う必要ない。無視して、早く帰ろうよ。俺はもう、疲れた……」

 耳障りの酷い言動と侮りの視線、舐められた態度、敗戦後の悔しさ、疲労感が合わさった、俺達の堪忍袋は、はち切れんばかりに負の感情が増幅して、苛立ちを募らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 ~ティーガー戦車異世界戦記~【挿絵あり】

ニセ梶原康弘
ファンタジー
――この力を、弱き者を救う為に捧げたい   異世界リアルリバーへ現れたチート勇者達の暴虐によって魔族は迫害され、今まさに滅びようとしていた。そんな彼等を救ったのは、ひとりの少年と重戦車「キングタイガー」だった。 少年を仲間に迎え入れた魔物達は王姫アリスティアに導かれ新天地を求め西へと旅立つが、魔族を追うチート勇者達は執拗に一行をつけ狙う。そして、それらを冷ややかに見つめる謎の魔少女…… 幾度も迫る危機、流される血と涙。明かされる異世界の真実……果たして最後の楽園は見つかるのか?異世界チートの暴虐を蹴散らす怒りの砲声と共に少年は叫ぶ、「戦車前へ!」 これは異世界で悪を捨てた魔族が求めた希望と救済と、そして小さな愛の物語

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

今度は静かに暮らしたい。

黒蜜きな粉
ファンタジー
信頼していた者に裏切られ封じられてしまった魔法使いのラティナ。 ようやく解放されたと思ったら外の世界では三百五十年も経っていた! 世の中はすっかり様変わり。 ラティナの使う魔法は廃れてしまい、現代では誰も扱える者がいなくなっていた。 今度こそ平穏無事に暮らしたいと願うラティナ。 しかし、もはや古代魔法と呼ばれる術を気軽に扱う者が放っておかれるわけがなかった。 城の中で渦巻くさまざまな思惑に、ラティナは巻き込まれていく。 2023/8/30 第16回ファンタジー小説大賞にエントリーいたしました。 よろしければ投票、応援をお願いいたします!

処理中です...