探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-31 Iランク中層探索③

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"ドッドッドドドドッ!!"

 土煙と共に地面が激しく揺れる音がする。

「リオ、メルルちゃん、準備は良いかにゃ?」

「モチのロンだよ」

「いつでも良いよ~」

 俺達は、武器を構えて目の前の光景を見て集中力を高めた。目の前には、右からシルルとラートが、後ろの魔物が付いてきているかの様子を見ながら、こちらに誘導している。

「ナート! 今にゃ!」

「みんな! 殺(や)れ!」

「2人とも! 作戦通りにするにゃ! はぁああーーっ!」

「おらぁああーーっ!!」

「やあぁああーーっ!!」

 ラートとシルルの合図と共に俺たち3人は、誘導した2人と入れ替わる様に、魔物の大群がいる前へ進み、武器を振り下ろした。

"ブンッ!! ブンッ!! ズドンッ!!"

 俺は大金槌、ナートとメルルはそれぞれの腰に下げた片手剣を持ち、目の前にいる食人花(インティバスプラント)達を撃破する。

 そして、1ヶ月振りの大乱戦が開幕の狼煙を上げた。

「まだまだ、沢山来るにゃ! メルルちゃんは、僕からラートが入れるだけの距離をとるにゃ!」

「分かったよ~!」

「リオ!」

「ああ! 分かってる!」

 視線は前を向いて魔物と戦いながら、俺とメルルは右へ移動してラートが、戦闘に参加できる空間を確保した。

 そして、ナートから戦闘開始前に受けていた"メルルの護衛並びに補助"と言う指示を守る為に、俺は一時的にメルルの前に出て大金槌を払った。そうする事で、魔物達の憎悪(ヘイト)を俺に集中させる事が出来るからだ。

「ラート!」

「いつでも行けるにゃ!」

「アハハハッ! 腕がなるねー!!」

 魔物達を誘導した2人が、武器を構えながら作戦の位置に着き戦闘を開始する。作戦とは言え、魔物達に反撃せずに逃げた2人は、内心に苛立ちがあったのか、物凄く好戦的な良い笑みを浮かべる。

「みんな! 常にお互いの位置を把握して、声かけをするにゃ! 良いかにゃ?!」

「「「「了解!!」」」」

 片手剣で橙針犬(オレンジャッカル)を斬り殺すナートは、心配そうな声とは裏腹に鋭い眼差しで敵から目を離さず、指示を出した。

 激しい戦闘が続く。

 5人中3人が、遠距離から大規模に魔法を放ち殲滅した前回とはまるで違う。

 1人1人が、1対多数の乱戦状態。

 目の前の敵は、俺達の足元にも及ばない程度の実力だ。しかし、舐めてはいけない。

 例え1対1で敵わない弱者でも"数の暴力"と言う言葉が前世で生まれる程に、"多数"と言うのは、驚異そのものなんだ。

「(だからこそ! 試し甲斐があるってもんだ! 俺が考えた俺流の近接戦闘術。剣拳一体(けんげんいったい)の技が、現時点でどれだけ通じるのか試すには打ってつけの状況だろ!)」

 目の前の爆発蕃茄(ボムトルト)を大金槌で叩き潰し、文字通りの"つぶれたトマト"に終えた俺は、10m先で爆発のチャージをしているボムトルトに向けて、大金槌を投擲(・・)した。

"ブンッ! ブンッ! ブンッ! ブンッ!"

 投擲によって空中に放り出された大金槌は、真っ直ぐボムトルトに直撃し、臓物と血飛沫を周囲に撒き散らしながら貫通する。それでも、止まらない大金槌は、背後にいたインティバスプラント数体を巻き添えにして、大きな音と共に地面に転がった。

 さて、現在俺は、主力武器(ハンマー)を自ら手放している状態だ。その状態でも魔物達は、どんどん俺達に向かって襲ってくる。では何故、そんな阿呆な真似をしたのか?

 答えは単純明快だ。今から試す近接戦闘をするのに大金槌は、とても邪魔だからだ。
 
「いくぞ! 魔物ども!! これが、俺流の近接戦闘術!! 狼牙爪(ろうがそう)・露岩(ろがん)の陣! 遠慮せずに特とご覧あれ!」

 俺は左手に大楯を前に突き出し、右手に骨(グレイウルフ)の短剣を逆手に持ち、短剣と右腕に土属性魔力を纏い構えた。これが、2年前のグレイウルフ戦から着想を得て、少しずつ形にしていった俺のもう1つの戦闘形態だ。

 [狼牙爪・露岩の陣]とは、一体なんなのかと言えば、俺達の中で現状、俺だけが習得している魔纏撃(まてんげき)に特化させた超攻撃型の戦闘形態だ。

 魔纏撃は、身体や魔力を通しやすい武器に、自身の属性魔力を込めて攻撃力を高めた諸刃の一撃だ。込める魔力の扱いを間違えれば、簡単に武器は壊れ、自身の肉体に大きく傷付ける事になる。

 そうじゃなくても、肉体は常に自身の魔力で自傷負荷が掛かる危険(リスキー)な技だ。実際に初のグレイウルフ戦では、最後の切り札として全力で使い、右腕の骨が負荷に耐えられず砕けた程だ。

「(今でも、少し集中を途切れさせたら、属性魔力の操作を間違えてしまう……。だからこその[技名:露岩の陣]だ。技名を付けることで、魔法と魔纏撃の無意識の混同を切り離すことが出来る。それで、実際に制御を間違える事が、少なくなったしな……)」

 俺は、心の中で少し愚痴りながら少し照れる。

 必要に駆られたからとは言え、自己流の戦闘術、独自の技名は、誰しもが一度は憧れたロマンだ。自分なりに意識が切り替えられるように、想像しやすいように名付けた名前だけど、それなりに年食った精神年齢には、恥ずかしい事には変わら無かったからだ。
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