探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-26 課題

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「それじゃ、みんなの助言は終わったわ。次は何するのかしら?」

「次は、Iランク迷宮の中層と下層の対策について、アモンおじちゃん達に協力のお願いがあるにゃ」

「ふむ、なるほど。"協力のお願い"か……ま、聞くかどうかは別にして、言ってみれば良いんじゃねえか? お前らが言った様に、『聞くだけなら無料(タダ)』だしよ?」

 父アモンは、ラートのお願いと言う言葉を聞き、ニヤニヤと笑い。まるで、さっきの意趣返しと言わんばかりに、"聞くだけは無料"の部分を強く言った。

「うっ、うにゃ……実は、中層や下層探索をする時に、迷宮内で野営する必要が出てきたにゃ」

 自覚があるラートは、言葉に詰まりながらも、現状を説明する。

「そうだな。俺達なら余裕を持って日帰りで踏破出来るが、お前らは3日あるいは4日は、最低でも必要だろうな。それで?」

「僕達には、野営の経験や知識がないですにゃ。アモンおじさん達や僕達の父さん達に、僕達の野営実習を行って欲しいですにゃ」

「それに、下層だと罠も仕掛けられているって話だし、罠解除の方法や回避法も必要だとアタイらは思うんです」

「後、毒対策の為に、毒耐性の習得も視野に入れているんだ。その方法や監視とかを父ちゃん達に出来ればして欲しいんだ」

「おじさま、おばさま、どうにか出来ないかな~?」

 俺達は、父アモンと母アーシャに頭を下げて懇願した。俺達が懇願した野営、罠回避と解除、毒耐性は、正直言って俺達の努力で、どうこう出来るレベルを超えていたからだ。

「どうにか出来るか、出来ないかで言えば、出来るわ」

「本当っ!?」

「ええ、でも、協力する事はしないわ」

「な、なんでっ?!」

 俺を筆頭に椅子から立ち上がり、テーブルから身を乗り出す。教えることは出来るが、教えないと言う意味が理解出来なかったからだ。

「当たり前だろう。俺達にも予定がある」

「な、なら! 今日みたいに休みの日とか、予定が空いた日でも良いから! 俺達が父ちゃん達の都合に合わせるから! なんとか出来ない?」

「ええ、無理ね」

「そ、そんな~」

 俺達は、椅子に座り頭を抱えた。

「良いか、お前ら。第一、休みの日って言うのは、迷宮で疲れた俺達の心や身体を癒す為に、必要な時間なんだ。さっきの助言は、あくまでも助言だ。大した労力も無いから言ってやったんだ。

 だが、野営訓練や毒耐性、罠解除の協力は、少なからず俺達の時間と労力を奪うんだぞ? 当たり前だろうが」

「ええ、それに、毒耐性や罠解除については、明確にアタシ達との約束を反故しているわ。残念だけど、協力は出来ないわ」

「ど、どうしようかにゃ……」

(助言と違って甘く判断してくれないにゃ……)

「ああ~クソーッ! やっぱり駄目かー!」

(でも、さっきは機転を効かせれば答えてくれたんだ。何か2人を言い包める方法は無いかな……)

「(何か、別に方法はないか……母ちゃん達を動かすだけの"何か"……!! 約束に関しては、助言の時に2人の反応からして、ほとんど効果が無いものと考えて良いだろう。

 じゃなきゃ、助言の時に笑って負けを認めないだろうし、約束違反を理由に答えなくても良い。それに、何処か断った理由が取ってつけた感が、半端ないのも違和感が強い。

 いや、待てよ……違和感……? "協力は出来ない"……? っ?! なら、協力じゃ無ければ良いんじゃね!?)」

「ほら、他になんか無いか? 無いなら、俺達はこれから予定があるんでな。すまんが、外出したいのだが良いか?」

「ちょ、ちょっと待って!」

「リオ、どうしたのかしら? 言っておくけど、何度お願いしても"協力はしない"わよ」

「なら、協力はなくて良い! 俺達、5人から父ちゃん達、『土龍の鉤爪』の冒険者達に『指名依頼』をしたい!」

「「「「ーー?!」」」」

「依頼内容は、俺達の野営訓練、毒耐性、罠解除などの訓練を指導する事! これなら、約束違反にもならないし、父ちゃん達冒険者にも、時間と労力を掛けるだけの価値を与えられるでしょ?」

 お願いによる協力は出来ない。時間と労力を奪うだけのメリットがない。この2つが主に母と父の主張だ。だから、俺は、これら2つを解決するには、子供としてお願いする事ではなく、依頼主として冒険者に依頼することが正しいと考えた。

「そ、それにゃー!」

「リオってば、冴えてる~!」

「確かに、協力では無いですにゃ!」

「アハハハ! それは盲点だったわ!」

 一気に活気付く幼馴染達を見て俺は嬉しくなる。

「ふむ。なら、リオ、それの具体的な依頼料は、どの程度だ?」

「えっ?! えーっと……父ちゃん達Eランク冒険者の指名依頼って、どの程度の価格でしょうか?」

 予想以上に真剣な眼差しの父の表情に、俺は焦りを隠せなかった。

「そうねぇ、内容によるけど1人あたり最低でも2,000~3,000万ロブはするでしょうね」

「にっ?! 2,000万ロブ?! それも1人あたりの最低額で?!」

 両手を頬に当てたラートは、まるで、『ム○クの叫び』言う絵画の様な絶望的な表情を浮かべた。

「そうだなぁ。別に、意地悪で言っている訳じゃ無ぇぞ。むしろ、これくらいの価格じゃねえと、大抵の内容が内容だし割に合わねぇからな」

「な、なんとか……安く出来ないでしょうか?」

「ごめんな。俺達もEランクとしての意地があるから、無理だな」

「……」

 依頼額の減額を試みるが、あっけなく断られて、俺達は必死に頭の中の情報を巡らせて、何か無いか考えた。

「他に何かあるか?」

(さてさて、ここからはどう対処するんだ?)

「……」

 父の質問に何も答えられない。

 意地でも何か答えなきゃならないのに、頭に浮かぶ交渉材料は、全て父達に与えられる価値があるとは思えなかった。

「ま、こんなものか。お前らさっきの依頼だけど、特別価格で受けてやっても良いが、どうする?」

(まあ、やっぱり子供だから、無理か。いや、こりゃ、子供の割によく健闘したほうか)

「「「「「ーー?!」」」」」

 俯いていた顔をバッと上げて、両親の顔を見る。

「ギルドを通さない依頼だから、お金は要らない。そもそも、お前らに払える額なんて高が知れているしな。俺達からの要求は、『何があっても自分の命を諦めない事』を誓う事だ」

「え? それって当然じゃ無いの?」

 1人の人として、最後まで生きる事を諦めないと言うことは、普通の事だ。俺は父が、今更何を言いたいのか理解しかねていた。

「そうだ、当然の事だ。当然の事だけど、俺達冒険者なら誰しもが考える事でもある」

「一体どう言う事ですかにゃ?」

 ナートを筆頭に、他の幼馴染達も、アモンの言う言葉の意味を理解出来ず困惑していた。

「俺達冒険者は、常に命懸けで探索や依頼を行なっている。だが、そんな俺達でも時には怪我をしたり、最悪仲間の死を見る事もある。

 俺も若い時、今の一団を結成する前に、一度仲間を守れずに死なせちまっている。仲間を守る前衛としてあるまじき事だ」

「……」

「当時はかなり精神に来た。自身の無力感に嘆き悲しみ、自分の命なんて顧みず自暴自棄にすらなっていた。つまりは、お前達にもなってはほしく無いが、いつかそう言う時が来るかもしれない。

 だから、心に誓え。例え仲間の死を体験しても『自分の命を諦めない事』をだ。それが出来るなら、一団代表の判断でその依頼を受けよう」

「……分かったにゃ。オイラ達は、最後まで自分の命を諦めないにゃ。例え、他人から生き汚いと言われても、誇りがないと言われても、最後の最後まで無様でも足掻いてみるにゃ。

 オイラ達は、それをおじさん達に心から誓うにゃ。だから、オイラ達に生き残る術を教えてほしいにゃ」

 俺達は椅子から立ち上がり、アモンの言葉の意味を心に刻み込むと、頭を深く下げて依頼した。

「分かった。一応、お前らの親にも事後承諾になるが、伝えてから改めて予定を組む。だから、少し時間が掛かる。それはごめんな」

「僕達が頼んでいるんですにゃ。いつでも、合わせますのでよろしくお願いしますにゃ」

「おう、分かった。なら、ここからは話が変わるが……お前ら交渉が下手くそだ。それも、今後の課題として意識した方が良いぞ? 特にリオ」

「うぅ……わ、分かっているよ……。でも、父ちゃん達相手に何を提供できるっているんだよ……」

 名指しで指摘された俺は、胸を締め付けられた様な気持ちになり、いじけた。

「そんなの何でも良いだろ。報酬なんてお前達が考えている価値と俺達の価値が同じとは限らねえだろ? なら、『1年間、毎日肩揉みする命令権』って言っていたら多分、成立していたぜ?

 それによ、俺は、さっき休日は身体と心を癒すための時間だって言っただろ? つまりは、俺達が求めているのは癒しそのものだって事だ。謎を解く鍵は既に用意してあるんだ。これを読み取れなかった事が、お前達の敗因だ」

「うふふ。そうね、特に、ガルダなら2つ返事どころか、3つ返事で了承するわ。愛する娘達に、肩揉みして貰える権利なんだから、お金以上の価値があるわ。勿論、アタシ達もね」

「ええーっ?!」

 俺は、そんな簡単な事が、お金で言うと2,000~3,000万ロブと同等だと言う両親の発言に、心底驚いた。

(もうっ! 父さんたら、恥ずかしいんだから! そろそろ子離れして欲しいのよ!)

(あはは~。確かに父さんならありそう~。見た目硬派なのに、性格が残念だからもしかしたら、本当にいけたかも~)

「リオ、協力では無く依頼にするって機転は良かった。だが、それなら一度話を流して、俺たちが欲しい事や価格帯を調べたりして、交渉をすべきだったな」

「そ、そんな~」

 前世では、仕事の関係上、交渉をする機会に恵まれず、俺の交渉スキルはド素人と変わらなかった。そんな、自分でも自覚の無かった部分を両親にダメ出しされて、俺はかなり落ち込んだ。

「みんな、交渉は"成功しても、失敗してもどっちでも良いが、成功した方がお互いに得よね?"って状況を作った方が成功するわ。何事も経験よ。頑張りなさい」

「それと交渉じゃ無いけど、ギルドを通さない依頼を受ける時の注意点な。そう言う依頼を受ける時に、例え簡単な事でも報酬を無料にするのは、やめた方が無難だ」

「え~。どうして~?」

「確かに、人に親切する事は、その人の美点であると思うわ。でも、アタシ達は冒険者よ。無料で受けた結果、依頼人によっては"同じ内容なんだからこの前みたいに無料でやってくれよ!"って図々しい事を言う人がいるわ。

 更には"あの人達は無料でやってくれたのに、貴方達はお金を取る卑しい人なんだね"って言われたと、同じ冒険者から文句言われる事もあるわ。

 アタシ達、親と子供みたいな、親しい間柄の依頼なら構わないと思うわ。でも、それ以外でやるとそう言う問題が起きやすいから、しっかりと報酬を貰った方が無難よ」

「なるほどね。確かに、アタイらは、冒険者で慈善事業者じゃ無いから、舐められるって事か……」

「ま、ギルドを通さない依頼は、危ないものが多いからあまりやらない事を勧めるぞ」

「分かったにゃ」

 お金に汚過ぎても良くない。でも、お金に無心過ぎでも冒険者的に良くない。俺達は、それらの匙加減と人の心の難しさを学んだのだった。
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