探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-22 お昼ご飯

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"ドンッ! ドンッ! ドンッ!"

 お昼頃、玄関から扉をノックする音がする。急いで、向かい扉を開けると幼馴染達が居た。

「おっすー。リオ、今日はよろしくね。あ、これ母さん達からおば様達にって」

「リオ君、オイラも母さん達から、預かっているんだにゃ」

 4人の服装は、昨日のお洒落とは別にそのまま外で遊べる様なラフな格好をしている。手には、バスケットに入った焼き菓子や果物が入っていて、とても良い匂いがする。

「やあ、みんな、いらっしゃい。それと、お土産ありがとうね。ささ、どうぞ中へ入ってきて」

「お邪魔しま~す」

「お邪魔しますにゃ」

 洗面所へ連れて行き、石鹸を用いて手を洗う。そして、食事部屋へ案内するとテーブルの上に肉や野菜、焼いたパンなどが並べられている。

 今回の食事は、普段使っているテーブルだけではスペースが足らない為、同じものを2つ用意してくっ付けている。台所では、料理を作っている母と父がいる。

「あら、みんな、いらっしゃい! 今、残りのお昼ご飯を用意するから座って待っていて頂戴」

「おう、お前らよく来たな! 腹減ってるだろ。リオ、料理を運んだり、飲み物の用意は任せるぞ」

「了解!」

「リオ~アタイらも何か手伝う~?」

「うん? ああ、いいよ、いいよ。みんな、客人なんだからゆっくりしていて。飲み物は、リゴンとオランの果汁水が在るんだけど、どっちにする?」

 リゴンとは俺の一族お馴染みのリンゴに似た果物で在る。対して、オランはオレンジに似た味の果物で、皮と果肉が赤いのが特徴だ。

 酸味こそリゴンよりも強く、苦手とする人もそこそこいるが、果肉は柔らかく、甘さも十分在る。そして、果肉の見栄えが宝石みたいなのに1個9ロブとリゴンに次ぐ安さから、一定以上の人気がある果物だ。

「アタイはオランでお願い。メルルは?」

「アタイもオランで良いよ~」

「オイラはリゴンにするにゃ」

「僕はオランでお願いにゃ」

「了解。用意するからちょっと待っていて」

 俺は、台所にある"冷空間保存庫"と言う冷蔵庫の魔道具から、事前に作っておいたリゴン水とオラン水を取り出して提供した。

 『冷空間保存庫』と言う冷蔵庫型の魔道具は、一般家庭に1台あるかと言われれば無い魔道具だ。まず、そもそもの大きさから、通常サイズは、業務用で使われている冷蔵庫だと思ってくれれば良い。

 冷空間保存庫を所持しているのは、食品関係を扱うお店や経済的に裕福な冒険者、商人、王侯貴族などだ。それに、一般的に売っている物は、魔道具の脇に『魔石入れ』と言う物が付属されている。

 この『魔石入れ』は、魔石を入れる事で、魔石から魔力を抽出して魔道具を動かしている。要するに魔石を電池代わりにする為の装置だ。

 この装置もそれなりの大きさ、それなりの値段で別売りされている為、一般家庭で敬遠されている原因でもある。魔石も1番安くて10個入り100ロブと高く、持続時間も10日程度と少ない。

 一方俺の家にある物は、父方のミンク祖母と母方のキース祖父の合作による特注品である。その為、市販に流通されてあるサイズよりも少し小さい。具体的には、大型冷蔵庫くらいだ。魔石入れは無く、横の魔力吸収板に直接魔力を込める事で、魔道具が使える様になっている。

 ちなみに2人は、趣味の日曜大工感覚で作成している。使われている素材は一部Dランク迷宮産で、お互いに高まった技術を駆使している。その為に一般で販売出来ないレベルになっている。

 この冷蔵庫に限らず祖父母の合作魔道具は、幼馴染達の家にもあるが、子供達はその凄さを全く理解出来ていない。理解しているのは、一般的な魔道具を知っている大人達だけだ。

「さあ、残りのご飯も出来たわ。冷めないうちにお食べなさい」

「ワハハッ! たくさん食うと良い。っとそう言えば、お土産ありがとうな。俺達からも言っておくが、アイツらに感謝を伝えてくんねえか?」

「おじ様、分かったよ。父さん達に言っておくね」

「了解にゃ。父さん達に喜んでもらえたと言っておくにゃ」

「ありがとうね。さあ、お食事の後に反省会とかをするんでしょ? ちゃっちゃと食べちゃいなさい」

「おばさま、ありがとう~」

「うわぁ、良い匂いで美味しそうですにゃ。リオのオススメは、何かにゃ?」

「オススメか~。俺個人的にはどれも好きだけど……まずはやっぱり、山菜盛りかな」

 ナートの質問に俺は一瞬悩む。母の作る料理は、どれも美味しくて迷う。しかし、食事の最初ということもあり大きな器に乗った山菜盛りを勧めた。

「これかにゃ?」

「うん、ラート君、それで合っているよ。山菜盛りで使われている物は、アリア婆ちゃんがHランク迷宮で採って来る物が使われているから、普通の野菜よりもシャキシャキで味が濃いんだ。

 それに、野菜に掛けてあるタレは、婆ちゃんが配合したタレを基に、母ちゃんが改良し続けた味だから俺は好きだな」

「ヘェ~そうなんだ~。あ、ほんとだ~」

「うふふ、ありがとう。喜んでもらえたら嬉しいわ。それに、この山菜盛りは、リオがやってくれているから、いつも助かっているわ」

「えぇー?! リオ君、料理出来るのかにゃ!?」

「いやいや、そんな料理ってほどでも無いよ。俺にはまだ、野菜を切って盛り付ける事や簡単な汁物くらいしか出来ないからね。そんな期待されても困るよ」

 ラートが驚きの表情を浮かべて、テーブルから身を乗り出す。俺を見る目には過度な期待が見られたので、実力の程度についてしっかりと伝える。

「ヘェ~でも、意外だね~」

「えっ? そうかな? 父ちゃんも母ちゃんほどって訳じゃ無いけど、俺よりも作れるし、別に普通じゃ無い?」

「そんな事はないと思うよ。アタイらみたいに、幼い時から花嫁修行をしていなかったら、リオくらいの歳じゃ料理どころか、手伝いすらやらない奴も多いって父さんから聞くよ」

「あ! うん、確かに。そう言えば、そんな事を言っていたよね~」

「その通りにゃ。僕も母さんのお手伝いをするけど、基本的に食事は外で食べているにゃ。だから、僕よりも歳下で料理が出来る事は凄いにゃ」

「そうだぞーリオ。俺も母ちゃんが料理好きじゃ無かったら、多分料理しなかっただろうしな。

 それに、冒険者を続けている奴らは、なんだかんだ金を稼いでいて、毎日外食しても対して困らねぇから男女問わず料理出来ない奴の方が多いんじゃねえか? 料理出来るやつなんて、あんま見ねぇしな」

「あ、ありがとう。ま、俺のことは置いておいて、次なんだけど……野菜を食べたら次はお肉だな。個人的に1番好きなのは、やっぱりチャージホースの唐揚げ甘酢餡掛けだな。

 みんなも覚えているかも知んないけど、昨日の祝宴ではお酒に合うように、味が濃くて塩っぱい味付けの肉料理だったと思うんだ。

 でも、この唐揚げは甘酸っぱい餡掛けが掛かっているからバクバク食べられるよ。是非食べてみて」

 俺はみんなの褒め言葉に照れる。身体がむず痒くなり、みんなの顔を見る事ができなかったから、1番好きな料理を勧めてその場を誤魔化した。

「おお~! 本当だにゃ! 美味しいにゃ!」

「本当だにゃ。甘酸っぱいって聞いたから、少し想像が付かなかったけど、ちょうど良い塩梅で、好きな味だにゃ」

「だろー? 俺もこの味が好きなんだ」

「おば様! アタイにこの味付けを教えて下さい!」

「あ、アタイも~」

「うふふ、良いわ。それはね」

 全員、料理が進む。母とシルル、メルル達女性陣は、料理のレシピについて盛り上がる。そんな女性陣を眺めながら、俺達男性陣は、黙々と空腹感を満たした。
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