探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-21 2日目の終わり

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「な、なんだよー! 勿体ぶりやがってさー! ま、でも、おっちゃんが、ここまでしか教えてくれないのにも、それだけの楽しみがあるって事でしょ?」

 シルルは、横目でニヤリと笑いながらワルドに対して期待の眼差しを向ける。

「おう! 後は教えなくてもどうとでもなるし、今教えちまうのはかなり勿体ない! 先輩が後輩冒険者の醍醐味を潰しちゃならんしな!」

 ワルドは、悪戯を仕掛ける子供の様な笑みを浮かべそう言った。

「そうか……なら、それでいいや。それよりも、今日の食事を含めて色々とお世話になりました。ありがとうございました!」

「うふふ。どういたしまして。坊や達が、もしIランク迷宮を踏破した時に、まだ私達がこの街に居たらその時は、お姉さんと一日中、色々とお世話してあ・げ・る」

 声は小さく、囁く様な甘く蕩ける誘い文句をスヴァラバは俺たちに向けて言った。

 その表情は、最初に揶揄っていた時やその後もちょくちょく言っていた時とは、比べ物にならないほど扇情的だった。

 潤んだ瞳、程よく赤く染まる頬、プックラと柔らかそうな唇を舌でゆっくり舐めるその仕草が、男達の情欲を掻き立てる。

 それを一心に受けた俺達を含めた男3人は、まるで石化した様に体が固まり、スヴァルバから視線を外すことができなかった。

 いや、そうではない。スヴァルバから一瞬でも、視線を外したくないと言うのが本音だった。

「……」

 静寂の間もトロンとしたスヴァルバの瞳を、表情を、仕草を、身体を見て、俺は全身の血が沸騰しそうなほど熱くなり、唾を飲み込んだ。

 露出の少ない服装からでも分かる、タワワに実ったメロンの様な豊満な胸。

 肌に張り付いた様な服から見える身体のラインは、露出が少ないが故に、女性的なエロさで男の心を掻き立てる。

 そして、何よりも他の種族には無い、肌や髪や瞳の色が神秘的に、幻想的にしか見えず、スヴァルバをこの世のものには見えなかった。

 チラッと見れば、ラートだけでは無く、シルル一筋なナートでさえ俺達と同じ状況だったのだ。これがサキュバス族本来の魅力なのだろう。

「イテテテッ! シルルちゃん、痛いにゃ!」

「浮気はダメ!! ナートはアタイのだ!」

「そうだよ~ナート君。浮気男は、全女性の敵だよ~。そこの発情猫と変態チビを見習っちゃいけないよ~」

 さっき揶揄った時と同じ台詞なのに、ここまで違う男達の様子に、面白く無いシルルとメルルはムッとした表情でナートの耳を引っ張る。

「そ、それに……あんな奴じゃ無くても、言ってくれればアタイが、その、してあげるから……我慢、すんなよな?」

「……にゃわわわわわっ?!」

 頬を赤らめて、身体をモジモジさせるシルルを見たナートは、一瞬固まり顔を真っ赤にして照れ始めた。

「うぅ……発情、猫……生きていてごめんにゃ……」

 ラート自身は、冗談抜きに女性に初めて釘付けになる経験とその瞬間を、幼馴染の女性陣に指摘された事がショックがだった様で、非常に落ち込んでいた。

「うふふ、シルル姉ってば、大胆~。後、そこの変態豆助兵衛! クレイちゃんに今日の事を言っておくから、覚悟しておいてね~。

 さっきの約束は破棄するから、そのつもりでね~」

「すみませんでした! あまりにもスヴァルバさんが扇情的で、その、つい、見惚れてしまいました! 誠に申し訳ございませんでした。どうか! 何卒御容赦を!」

 不覚だった。

 本当にそう言うつもりは無かった。

 しかし、スヴァルバに見惚れたのも事実だったので、俺はメルルに向かい誠心誠意謝罪をして許を請う。

「嫌だね~」

 腕を組みフンッとメルルは顔を背けた。眼を瞑って視線すら合わせる気がない彼女は、割とマジで怒っていた。

「アハハハ! お嬢ちゃん、アマゾン族の血を引いているなら、そのくらいで勘弁してやりな! そもそも男なんて、大抵が下半身で生きている馬鹿が多いんだ。

 それに、その小僧共も一端の男なんだ。なら、少しのスケベを許してやるのが女の度量ってもんだ。まあ、最も、お嬢ちゃんがそこのチビ助を好きなら、話は別だがね」

「なっ?! ち、違うしっ!! リオはアタイの好みじゃ無くて、ただの幼馴染だし! 勝手な事を言わないでよ!」

 俺とメルルの様子を見た同じアマゾン族のラルシアは、ニヤリと笑いながらメルルを揶揄う。

 メルル自身は、突然の事で必死になってそれを否定する。その間、恥ずかしさからか、照れ隠しからか顔を真っ赤にしていた。

「ギャハハ! おい、坊主! 告白する前に振られてやがんの!! なぁ、今、どんな気持ちだ? ギャハハ!」

「非常に反応に困る……すごく、すっごく、複雑な気持ち……。これは、三角関係にならなくて良かったと安堵するべきか……それとも、同世代ですら男として、異性として見られていない現状に嘆くべきか……。

 兎に角、心が痛いです……」

「リオ……ドンマイにゃ!!」

 予想外の精神的なダメージを他所に、腹を抱えて爆笑するウォンドと自分には関係無いと言わんばかりの爽やかな笑顔のナート。

 そんな2人を見てイラッと来た俺は、普段では絶対に言わないレベルの下ネタ含んだ揶揄いを実行した。

「……うるさいよ、ナート。君はアレだよね? この後、解散するけど2人は宿屋で、ナニをするんでしょ? しっかり避妊するんだよ? 

 それに、俺は女じゃ無いから分かんないけど、前戯無しの挿入は痛いって聞くよ。前戯は、念入りにしておくとお互い凄え気持ち良いらしいよ」

「にゃわ、にゃわわわっ?!」

「ば、馬鹿じゃねぇの?! 今日はしねぇよ?!」

「クックックッ。今日"は"、だってさ。ナート、良かったね。この様子だと、近い内にナニをしてれるんだってさ。2人っきりになったら、君からしてあげるんだよ」

「ーー」

 バグったコンピュータの様に壊れるナートは、情報過多によりテーブルに倒れて気絶した。

「おいっ?! ナート! しっかりしろー!」

 頭の中でナートとのナニを想像したのか、シルルはさっきまでの俺たちの様に真っ赤になり照れる。そして、気絶したナートを介抱するのを一瞬躊躇っていた。

「うぅ……発情、猫……オイラはダメなニャンコにゃ……駄目ニャンコにゃ……」

「リオは、幼馴染だし……アタイの好みの男は、もっと真摯でカッコ良い男だから、全然真逆だし……」

「なんだろう……揶揄いで勝ったはずなのに……この虚無感は……」

 ラートは落ち込み、メルルは照れながら頭を振ってはブツブツと呟く。俺自身は、勝ち誇って調子を戻すのも億劫になる程の精神ダメージに頭を悩ませていた。

「ガハハッ! 混沌としているな。おら! お前等、早く戻って来い! そろそろ家に帰るんだろ?」

「にゃっ?! そうだったにゃ! みんな、今日はここで解散にゃ。明日は、反省会と今後の予定についての話し合いをするにゃ。迷宮探索は、明日以降に話し合うにゃ」

「ああ、うん、そうだね……それじゃ、明日は俺の家、時間は……昼の鐘が鳴る前に集合で。飯は母ちゃん達が休みなら、作ってもらえる様に頼んでおくよ」

「……分かったよ~。お願いね~」

「ま、母ちゃんも料理作るのが趣味みたいなもんだし、俺も父ちゃんも母ちゃんを手伝うから、そこまで負担はないでしょ」

「にゃ、にゃあ? こ、ここは……僕は……どうしたのかにゃ?」

 カバっと頭を上げ、状況を確認するナートは、如何やらさっきまでのやり取りを覚えていない様だった。

「ほら、ナート、寝ぼけてないで帰るよ。それじゃ、リオ、明日よろしくな」

「うにゃ。みんな、今日はここで解散するにゃ。その前に一同、飛竜の酒盛りさん一同に再度お礼の言葉を送るにゃ! 色々とありがとうございましたにゃ!」

 俺達は、彼等に"ありがとうございました"とその場で一礼して、今日の祝宴を解散した。

「おう! また、会ったらよろしくな」

「ギャハハ! いつか美味い酒を奢れよな」

「アハハハ! そいつは良いな! 楽しみに待っているぜ!」

「それじゃ、またね」

 ギルドの出入口に向かう時も俺達は、彼等に向かって手を振り、帰宅した。

「父ちゃん、母ちゃん、ただいま」

「おお~リオ、おかえり」

「おかえりなさい。今日の食事会は楽しかったかしら?」

 家に帰ると食事を済ませた両親が、2人で晩酌を楽しんでいた。両親は、甘い果汁酒が好きな様でいつも飲んでいるリゴン酒とチーズをツマミに飲んでいた。

「うん。スゲェ楽しかった」

「ワハハッ! それは良かったが、この時間の冒険者ギルドは何かと問題が起きやすい時間帯なんだが、大丈夫だったか?」

「そうね……お酒に酔っぱらった冒険者に絡まれたり、文句つけられたりし無かったかしら?」

「あはは! すごい! 母ちゃん達、もしかして心配で見に来たの? 全部あったよ。でも、親切な酔っ払いだったから楽しく過ごせたよ」

「(それにしても、今日は本当に楽しかったなぁ。久しぶりにハメを外して馬鹿騒ぎした気がする)」

「ワハハッ!! 親切な酔っ払いとはこれ如何にって奴だな!」

(どんな面白ぇ奴等が居たんだろうな!)

「もう! アンタ、笑い事じゃ無いでしょうが。でも、楽しかったのなら良かったわ」

(この子が無事ならなんでも良いか。それにしても、うふふ。楽しかったのなら良かったわ)

「うん! Iランクについて色々と教えてくれたよ。っとそうだった。昨日の換金で1人8930ロブ稼げたよ!」

「おお! ワハハッ! 初めての探索にしてはよく稼げた方じゃねえか」

(おぉ~上出来、上出来。俺の時は、どのくらい稼いだっけなぁ)

「うふふ。おめでとう、リオ。無駄遣いはしちゃダメよ」

(この子に限ってそんな事は無いか。でも、あまりアタシ達を頼ってくれないから、少し寂しいわ)

 楽しそうに酒とツマミを手に取り、俺の話を聞く両親に俺は、とても嬉しくなった。

「分かっているよ。あ、それと母ちゃん達って明日どんな予定?」

「うん? 明日と明後日は休日よ。それがどうしたの?」

「いや、明日さ、昨日の反省と今後の話し合いを家でする予定なんだ。それで、明日、母ちゃん達が良ければ昼飯作って貰えないかな? 勿論、俺も手伝うから……駄目、かな?」

 少しだけ不安だった。前世(むかし)も今も、どこまで両親に頼んで良いのか、甘えても良いのか、迷惑かけて良いのか分からなかったからだ。

「うふふ。リオは、子供なんだから遠慮しなくて良いわ。分かったわ。明日のお昼は何を食べたい?」

「肉っ!! 肉食いたい!」

「うふふ。今日はお肉食べなかったの?」

「いや、そんな事ないよ。今日も肉は食べたけど、ほら、俺達成長期だからたくさん食べて大きくなりたいんだ」

「ワハハッ! そうだ! もっと食べてデッカくなれ!」

「今日は味の濃いしょっぱい系だったから、甘辛とか甘酸っぱい系でお願いします!」

「分かったわ。その代わり、お手伝いよろしね」

「うん、勿論さ!」

「なあ、リオ。まだまだ眠くはないだろ? 昨日と今日の事について話してくれよ。この2日間、どんな事があったんだ?」

「昨日はね~」

 俺は、この時間がずっと続けば良いのにと思いながら、迷宮探索から今までの話を両親にした。両親の穏やかで楽しそうな表情を見て、更に心がポカポカして夜遅くまで話し込んだ。
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