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第3章 Iランク冒険者
3-18 甘え
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「あ、兄貴……」
「お兄さん……」
「お兄ちゃん……」
ギルド入り口からは、彼等よりも一回り上の世代の青年が、歩きながら向かってくる。
その表情は、怒りと情け無さが入り混じった複雑な表情に満ちていて、3人に刃物の様な鋭い眼光を放っていた。
「これは、これは……Hランク一党(クラン)『疾走する火炎』一党長のマルクスさんではありませんか。申し訳ございませんが、現在、お取り込み中です。
ご用件がありましたら、何処か別の受付へお並び下さい」
「いや、ボールさん……今日は、そこの馬鹿どもがギルドで騒いでいると報告を受けたので、来ただけです。そこの馬鹿どもが申し訳ない事をしました」
3人の兄マルクスは、1度深呼吸をして、感情を落ち着かせてからその場で一礼する。
一党名『疾走する火炎』は、王都イシュリナ最大規模を誇る組織だ。そこに所属している人数は100人を超えているとも言われ、それなりの知名度を誇っている。
一党(クラン)とは、複数の一団で結成される一つの組織である。その特徴は、他種業連合の会社みたいな組織だ。本来、各ギルドの依頼を受ける場合は、そのギルドに所属してギルドカードを得る必要がある。
しかし、一党所属のギルド会員であれば、ギルド所属の者と同伴でかつ、依頼も一部限定的だが受ける事が可能になる。
例えば、薬師ギルド所属の人が、傭兵ギルドの依頼を受けたいのであれば、一党内の傭兵と同伴で依頼を受ける事が可能という事だ。そして、依頼の実績次第では、そのギルドに所属する為の試験が、免除される場合もある。
更に一党を結成する最大の利点は、依頼報酬時に掛かる税金が8%安くなる事だ。これは、今まで依頼報酬の際に自動で引かれる分の税金を一党内で、管理する必要があるからだ。
一団と言う個人事業主の時は、依頼1回毎にギルド職員が、税計算しているから報酬の30%が税金で引かれた。しかし、一党と言う会社組織の時は、自分達が税計算する事で、依頼一年分の報酬額の22%一括払いとなる。
どちらを選ぶかは、ギルド会員の俺達の自由だが、各ギルドとしては率先して一党を結成してくれた方が、単価の低い仕事が減るため勧めている。
「あ、兄貴! 何を言っているんだよ! このガキどもが、ギルド職員に媚を売ってズルをしているんだ!」
「そ、そうよ! お兄さん! そうじゃなきゃ、私達がこんな子供以下なわけ無いわ!」
「どうせ私達は、掃き溜め(スラム)出身だから、きっと意地悪されたんだよ! 助けてお兄ちゃん!」
兄マルクスの突然の行動と自身達に対する謂れのない言動に動揺が走る。
ペリオン達は、俺達への糾弾に対して、まるで確信があった様だった。
その表情は、自信に満ち溢れていて、"正義や大義は自分達にある"と言わんばかりにギルド職員と俺達を糾弾している。
「いい加減にしろと言った筈だ! お前ら!! この馬鹿どもが!!」
「ぐっ!?」
「ぎゃっ!?」
「いっ!?」
鬼のような形相で怒鳴るマルクスは、ペリオン達の頭に1発ずつ拳骨を落とす。
側から聞いていても"ゴツンッ"と鈍く大きな音がした。そして、頭の痛みに耐えられ無かった3人は、床に膝をつき苦悶の声を上げた。
「さっきも言ったが、仲間から既に事情は聞いている。それに、ポールさんが、懇切丁寧に説明をした後、お前達が自分の非を認め謝罪するなら、俺は殴る(ここ)までするつもりは無かった。
だけど、お前らは、自分の都合で無関係の人達を巻き込んだよな? お前ら、一体どう言うつもりだ?」
ため息混じりのマルクスは、呆れた表情で3人を見る。
「そ、それは……?!」
「だ、だけど、兄貴!! そいつらが、ズルしているのは間違いないんだ!! 弟の俺の言う事が、信じられないのかよ!?」
「まだ言うか! ペリオン!! お前らがやっている行為は、お前らが1番嫌っている言い掛かりによる侮辱行為だと、何故理解出来ないのか!?」
「そ、それ、は……」
家族からの指摘に冷静を取り戻しつつあるペリオンは、しきりに目を泳がせてたじろいでいる。
「それにヒューリア!」
「は、はいっ!!」
名指しされたヒューリアは、マルクスの眼光に恐れを成し背筋をピンっと伸ばした。
「お前らはさっき、俺達が掃き溜め(スラム)出身だから、意地悪していると言ったよな?」
「そ、そうよ! そうじゃなきゃ、依頼前に教えてくれたって良いじゃ無い!?」
「それは"甘え"って言うんだ。採取系は、そう言う知識を知っている前提で依頼がされているんだ。それに、冒険者ギルドだって依頼前に、講習会の案内をした筈だ。
それは、こんな問題が起きない様にする為だって、さっきポールさんが説明していただろ。お前は人の話を聞いていたのか? お前の頭の横に付いているその耳は飾りか?」
「それは、さっきも聞いたけど……!! でも! もっと強く案内をしていたら、こんな事にはならなかったわ!!」
「だから、それが甘えなんだ。お前らは、もう子供じゃねぇだろ。冒険者になって、お酒が飲めて、風俗に行ける大人だ。
確かに未成年の子供なら、情状酌量の余地はあるかも知れない。だが、それなら最初(はなっ)から冒険者になんて成るんじゃねぇよ。
最初に言ったよな? 冒険者は自己責任だと。自分の失敗や責任を背負えず、他人に押し付けるならやるなと言った筈だ」
「そ、それは……くっ……」
「別に俺達、上の世代は、お前達に冒険者を強要していない。それに、俺達とは別の道を進みたいなら、それに協力すると言った筈だ。俺の記憶違いか?」
「……言いました」
マルクスの言葉に最初は、反論の姿勢を見せるヒューリアだったが、兄の悲しそうな表情に目を逸らし自身の非を認めた。
「そうだよな。それでも、お前らは、俺達と同じ冒険者になると言った。俺達の様な冒険者になると、憧れていると言ってくれた。
正直言って俺達は、その言葉を聞いて嬉しかった。でも、お前らのあの言葉はその場限りの嘘だったのか?」
「……違います」
拳を握りしめるナズールの体は、恥からなのか、それとも自身の情け無さからなのかプルプルっと震わせていた。
「はぁ……お前らをこんなに成るまで甘やかした俺達、上の世代にも原因がある。よって、お前らには一党長として罰を言い渡す。
一団名『炎の天馬』のペリオン、ナズール、ヒューリアの3名は、俺達一党から追放処分とする。弁明は聞かない」
「ま、待ってくれよっ!?」
「それは、いくら何でもやり過ぎよ! お兄さん!」
「わ、私達が嫌いなの!? お兄ちゃん!」
一党除名宣言に表情を強張らせる3人は、まるで親に捨てられた子供のように、マルクスに縋りついた。
「弁明は聞かないと言った筈だ。お前らも成人した大人だ。いい加減、自立しろ。この馬鹿ども。今回の罰金は俺が代わりに支払う。それが、俺達からの最後の支援だ」
「「「……」」」
マルクスに振りほどされた3人は、家族の背中に手を伸ばし、しばらくの間呆然とする。
「では、ポールさん、これが罰金の10,000ロブです。確認してくれ」
「確かに。確認しました」
「それとポールさん、党員の追放手続きをしたい。よろしく頼めるか?」
「彼等のですね。かしこまりました。ギルドカードの提示をお願いします」
「よろしく頼む」
3人を無視して手続きを行うマルクスは、無表情で少し怖さが見られたが、それと同じくらい背中には悲しそうな雰囲気を漂わせた。
「……手続きが完了しました。これで、一団名『炎の天馬』以下3名は、一党『疾走する火炎』から追放しました」
「くっ、糞ったれー!! 兄貴なんて……兄貴なんて……! 大っ嫌いだー!!」
「う、うぇええん!」
「ま、待ってよー! 私を置いていかないでよー!」
一党除名の手続きが終わると3人は、俺達を一瞬睨みつける。
まるで、"自分達が家族に怒られて、挙句に除名処分を受けたのはお前らの所為だ"と言わんばかりの泣きそうな表情だ。
そして、ペリオンは、その気持ちさえも自身をより惨めにさせたのか、ダッシュでギルドの入り口を出る。
その後ろを人目を気にせず、号泣しながら着いていくナズールと2人に置いて行かれて、涙を浮かべるヒューリアが追って出て行った。
「はぁ……ポールさん、そして、そちらの、えーっと……?」
「申し遅れました。サディと申します」
「彼女、この前、ギルドに入職したばかりの新人なんですよ。もし、担当しましたら、その時はよろしくお願いします」
「そうですか。改めて、お2人とも今回は、俺の弟達が大変ご迷惑をお掛けしました。こうなったのも、アイツらを甘やかした俺の責任です。
鬱憤があれば俺が全部受けますので、罵声でも何でも仰ってください」
「マルクスさん、私はもう大丈夫ですよ。頭をお上げください」
「あはは。マルクスさん、僕も結構ですよ。でも、今回の1番の被害者、そちらの子供達です。結局、彼等はこの子達へ謝罪も、誹謗中傷の撤回せず、走り去りました。
更には、今回のギルド職員への恫喝行為の謝罪がありません。その為、冒険者ギルドとしては、彼等の行為を悪質と判断しました。
彼等への罰則は、1年間の迷宮探索禁止と1年間の雑用依頼又は、特別報酬50回以上獲得する事のどちらかで解除とします。よろしいですね?」
再度、深く頭を下げるマルクスにギルド職員の2人は、"気にしていない"と"貴方の所為ではない"と穏やかな表情で彼を慰めた。
そして、大きく息を吸ったポールは、ギルド職員の顔になりペリオン達の罰則をマルクスに伝えた。
「ああ、こちらも文句は無い。君達、俺の身内が申し訳ない事をした。すまなかった」
「いいにゃ。おっちゃんは、悪く無いにゃ」
「そう言ってくれると助かる。もし、俺にできる事があれば言ってくれ。その時は是非協力しよう」
「ありがとうございますにゃ」
「それともう1つ。あの馬鹿どもが走り去る少し前、君達を睨む視線を向けていた。流石にそこまで、馬鹿では無いと思いたいが……万が一の場合は、君達に判断を委ねる。
出来れば、生かしてくれると助かるが……無理そうなら、煮るなり焼くなり好きにして欲しい。どのような結果であれ俺達一党は、君達を恨まないと誓う。それだけだ」
ギルド入口を睨むマルクスの表情は、怒りや悲しみ、心配など様々な感情が入り混じった複雑な表情を浮かべた。
「……俺たちも、例えそう言う状況になっても、出来る限り生かして、騎士様達に連れて行くと誓います」
「……ありがとう。それでは、また……次会う時が、お互いに敵同士でない事をイシュリナ様へ祈るよ」
力なく笑いギルドを去るマルクス背中は、とても小さく見えた。
「お兄さん……」
「お兄ちゃん……」
ギルド入り口からは、彼等よりも一回り上の世代の青年が、歩きながら向かってくる。
その表情は、怒りと情け無さが入り混じった複雑な表情に満ちていて、3人に刃物の様な鋭い眼光を放っていた。
「これは、これは……Hランク一党(クラン)『疾走する火炎』一党長のマルクスさんではありませんか。申し訳ございませんが、現在、お取り込み中です。
ご用件がありましたら、何処か別の受付へお並び下さい」
「いや、ボールさん……今日は、そこの馬鹿どもがギルドで騒いでいると報告を受けたので、来ただけです。そこの馬鹿どもが申し訳ない事をしました」
3人の兄マルクスは、1度深呼吸をして、感情を落ち着かせてからその場で一礼する。
一党名『疾走する火炎』は、王都イシュリナ最大規模を誇る組織だ。そこに所属している人数は100人を超えているとも言われ、それなりの知名度を誇っている。
一党(クラン)とは、複数の一団で結成される一つの組織である。その特徴は、他種業連合の会社みたいな組織だ。本来、各ギルドの依頼を受ける場合は、そのギルドに所属してギルドカードを得る必要がある。
しかし、一党所属のギルド会員であれば、ギルド所属の者と同伴でかつ、依頼も一部限定的だが受ける事が可能になる。
例えば、薬師ギルド所属の人が、傭兵ギルドの依頼を受けたいのであれば、一党内の傭兵と同伴で依頼を受ける事が可能という事だ。そして、依頼の実績次第では、そのギルドに所属する為の試験が、免除される場合もある。
更に一党を結成する最大の利点は、依頼報酬時に掛かる税金が8%安くなる事だ。これは、今まで依頼報酬の際に自動で引かれる分の税金を一党内で、管理する必要があるからだ。
一団と言う個人事業主の時は、依頼1回毎にギルド職員が、税計算しているから報酬の30%が税金で引かれた。しかし、一党と言う会社組織の時は、自分達が税計算する事で、依頼一年分の報酬額の22%一括払いとなる。
どちらを選ぶかは、ギルド会員の俺達の自由だが、各ギルドとしては率先して一党を結成してくれた方が、単価の低い仕事が減るため勧めている。
「あ、兄貴! 何を言っているんだよ! このガキどもが、ギルド職員に媚を売ってズルをしているんだ!」
「そ、そうよ! お兄さん! そうじゃなきゃ、私達がこんな子供以下なわけ無いわ!」
「どうせ私達は、掃き溜め(スラム)出身だから、きっと意地悪されたんだよ! 助けてお兄ちゃん!」
兄マルクスの突然の行動と自身達に対する謂れのない言動に動揺が走る。
ペリオン達は、俺達への糾弾に対して、まるで確信があった様だった。
その表情は、自信に満ち溢れていて、"正義や大義は自分達にある"と言わんばかりにギルド職員と俺達を糾弾している。
「いい加減にしろと言った筈だ! お前ら!! この馬鹿どもが!!」
「ぐっ!?」
「ぎゃっ!?」
「いっ!?」
鬼のような形相で怒鳴るマルクスは、ペリオン達の頭に1発ずつ拳骨を落とす。
側から聞いていても"ゴツンッ"と鈍く大きな音がした。そして、頭の痛みに耐えられ無かった3人は、床に膝をつき苦悶の声を上げた。
「さっきも言ったが、仲間から既に事情は聞いている。それに、ポールさんが、懇切丁寧に説明をした後、お前達が自分の非を認め謝罪するなら、俺は殴る(ここ)までするつもりは無かった。
だけど、お前らは、自分の都合で無関係の人達を巻き込んだよな? お前ら、一体どう言うつもりだ?」
ため息混じりのマルクスは、呆れた表情で3人を見る。
「そ、それは……?!」
「だ、だけど、兄貴!! そいつらが、ズルしているのは間違いないんだ!! 弟の俺の言う事が、信じられないのかよ!?」
「まだ言うか! ペリオン!! お前らがやっている行為は、お前らが1番嫌っている言い掛かりによる侮辱行為だと、何故理解出来ないのか!?」
「そ、それ、は……」
家族からの指摘に冷静を取り戻しつつあるペリオンは、しきりに目を泳がせてたじろいでいる。
「それにヒューリア!」
「は、はいっ!!」
名指しされたヒューリアは、マルクスの眼光に恐れを成し背筋をピンっと伸ばした。
「お前らはさっき、俺達が掃き溜め(スラム)出身だから、意地悪していると言ったよな?」
「そ、そうよ! そうじゃなきゃ、依頼前に教えてくれたって良いじゃ無い!?」
「それは"甘え"って言うんだ。採取系は、そう言う知識を知っている前提で依頼がされているんだ。それに、冒険者ギルドだって依頼前に、講習会の案内をした筈だ。
それは、こんな問題が起きない様にする為だって、さっきポールさんが説明していただろ。お前は人の話を聞いていたのか? お前の頭の横に付いているその耳は飾りか?」
「それは、さっきも聞いたけど……!! でも! もっと強く案内をしていたら、こんな事にはならなかったわ!!」
「だから、それが甘えなんだ。お前らは、もう子供じゃねぇだろ。冒険者になって、お酒が飲めて、風俗に行ける大人だ。
確かに未成年の子供なら、情状酌量の余地はあるかも知れない。だが、それなら最初(はなっ)から冒険者になんて成るんじゃねぇよ。
最初に言ったよな? 冒険者は自己責任だと。自分の失敗や責任を背負えず、他人に押し付けるならやるなと言った筈だ」
「そ、それは……くっ……」
「別に俺達、上の世代は、お前達に冒険者を強要していない。それに、俺達とは別の道を進みたいなら、それに協力すると言った筈だ。俺の記憶違いか?」
「……言いました」
マルクスの言葉に最初は、反論の姿勢を見せるヒューリアだったが、兄の悲しそうな表情に目を逸らし自身の非を認めた。
「そうだよな。それでも、お前らは、俺達と同じ冒険者になると言った。俺達の様な冒険者になると、憧れていると言ってくれた。
正直言って俺達は、その言葉を聞いて嬉しかった。でも、お前らのあの言葉はその場限りの嘘だったのか?」
「……違います」
拳を握りしめるナズールの体は、恥からなのか、それとも自身の情け無さからなのかプルプルっと震わせていた。
「はぁ……お前らをこんなに成るまで甘やかした俺達、上の世代にも原因がある。よって、お前らには一党長として罰を言い渡す。
一団名『炎の天馬』のペリオン、ナズール、ヒューリアの3名は、俺達一党から追放処分とする。弁明は聞かない」
「ま、待ってくれよっ!?」
「それは、いくら何でもやり過ぎよ! お兄さん!」
「わ、私達が嫌いなの!? お兄ちゃん!」
一党除名宣言に表情を強張らせる3人は、まるで親に捨てられた子供のように、マルクスに縋りついた。
「弁明は聞かないと言った筈だ。お前らも成人した大人だ。いい加減、自立しろ。この馬鹿ども。今回の罰金は俺が代わりに支払う。それが、俺達からの最後の支援だ」
「「「……」」」
マルクスに振りほどされた3人は、家族の背中に手を伸ばし、しばらくの間呆然とする。
「では、ポールさん、これが罰金の10,000ロブです。確認してくれ」
「確かに。確認しました」
「それとポールさん、党員の追放手続きをしたい。よろしく頼めるか?」
「彼等のですね。かしこまりました。ギルドカードの提示をお願いします」
「よろしく頼む」
3人を無視して手続きを行うマルクスは、無表情で少し怖さが見られたが、それと同じくらい背中には悲しそうな雰囲気を漂わせた。
「……手続きが完了しました。これで、一団名『炎の天馬』以下3名は、一党『疾走する火炎』から追放しました」
「くっ、糞ったれー!! 兄貴なんて……兄貴なんて……! 大っ嫌いだー!!」
「う、うぇええん!」
「ま、待ってよー! 私を置いていかないでよー!」
一党除名の手続きが終わると3人は、俺達を一瞬睨みつける。
まるで、"自分達が家族に怒られて、挙句に除名処分を受けたのはお前らの所為だ"と言わんばかりの泣きそうな表情だ。
そして、ペリオンは、その気持ちさえも自身をより惨めにさせたのか、ダッシュでギルドの入り口を出る。
その後ろを人目を気にせず、号泣しながら着いていくナズールと2人に置いて行かれて、涙を浮かべるヒューリアが追って出て行った。
「はぁ……ポールさん、そして、そちらの、えーっと……?」
「申し遅れました。サディと申します」
「彼女、この前、ギルドに入職したばかりの新人なんですよ。もし、担当しましたら、その時はよろしくお願いします」
「そうですか。改めて、お2人とも今回は、俺の弟達が大変ご迷惑をお掛けしました。こうなったのも、アイツらを甘やかした俺の責任です。
鬱憤があれば俺が全部受けますので、罵声でも何でも仰ってください」
「マルクスさん、私はもう大丈夫ですよ。頭をお上げください」
「あはは。マルクスさん、僕も結構ですよ。でも、今回の1番の被害者、そちらの子供達です。結局、彼等はこの子達へ謝罪も、誹謗中傷の撤回せず、走り去りました。
更には、今回のギルド職員への恫喝行為の謝罪がありません。その為、冒険者ギルドとしては、彼等の行為を悪質と判断しました。
彼等への罰則は、1年間の迷宮探索禁止と1年間の雑用依頼又は、特別報酬50回以上獲得する事のどちらかで解除とします。よろしいですね?」
再度、深く頭を下げるマルクスにギルド職員の2人は、"気にしていない"と"貴方の所為ではない"と穏やかな表情で彼を慰めた。
そして、大きく息を吸ったポールは、ギルド職員の顔になりペリオン達の罰則をマルクスに伝えた。
「ああ、こちらも文句は無い。君達、俺の身内が申し訳ない事をした。すまなかった」
「いいにゃ。おっちゃんは、悪く無いにゃ」
「そう言ってくれると助かる。もし、俺にできる事があれば言ってくれ。その時は是非協力しよう」
「ありがとうございますにゃ」
「それともう1つ。あの馬鹿どもが走り去る少し前、君達を睨む視線を向けていた。流石にそこまで、馬鹿では無いと思いたいが……万が一の場合は、君達に判断を委ねる。
出来れば、生かしてくれると助かるが……無理そうなら、煮るなり焼くなり好きにして欲しい。どのような結果であれ俺達一党は、君達を恨まないと誓う。それだけだ」
ギルド入口を睨むマルクスの表情は、怒りや悲しみ、心配など様々な感情が入り混じった複雑な表情を浮かべた。
「……俺たちも、例えそう言う状況になっても、出来る限り生かして、騎士様達に連れて行くと誓います」
「……ありがとう。それでは、また……次会う時が、お互いに敵同士でない事をイシュリナ様へ祈るよ」
力なく笑いギルドを去るマルクス背中は、とても小さく見えた。
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『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
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