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第3章 Iランク冒険者
3-14 お詫び
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最初の不穏な空気から一変する。
酒場のテーブルに着いて、和気藹々となったオレ達は自己紹介を行う。
「にゃはは! やっぱり、リオ君は見ていて面白いにゃ! おっちゃん等、オイラはIランク『仲良し5人組』の一団を代表するラートにゃ。
さっきは、おっちゃん等を挑発してごめんにゃ。おっちゃん等は、本当は臭くないにゃ」
「僕もごめんなさいにゃ。僕はナートですにゃ。こっちのラートの双子の弟ですにゃ。よろしくお願いしますにゃ」
「アタイはシルル! さっきは、すみませんでした。そんで、こっちのリオと話していたメルルは、アタイの妹だ」
「ご紹介に預かりました~。アタイはメルルです。さっきの挑発はごめんなさい。姉共々謝罪します」
「改めて、フィデリオです。その~さっきのは、売り言葉に買い言葉的なノリと勢いの延長にある事なので、本気にしないで頂ければ助かります……」
喧嘩両成敗と言えば意味が違うが、お互いに自分の非を認め合い、謝罪後に握手して和解した。
しかし、その後もずっとシルルの表情が曇っている。何かを言いたそうに躊躇っている感じだった。
そして、決心が付いたのかナートとメルルを背に、ラルシアとスヴァルバの前に立ち宣言した。
「あと、おばさん達に1つ言っておく事がある! リオとラートは良いけど、メルルはアタイの最愛の妹で、ナートはアタイの男だ!
アンタ等になんかにやんねえよ!」
「あ……う……にゃぁぁぁ……っ!?」
カァーッとお湯が、沸騰するしそうな薬缶(やかん)の様に、ナートは顔全体を赤らめ、発した言葉からは語彙力が失われていた。
そして、頭からは、まるで湯気が出そうな程に照れ隠しした顔は、とても幸せそうだった。
「もう、シルル姉ってば~男前なんだから~」
ナートほどでは無いが、頬をかくメルルの表情は、とても嬉しそうに笑っていた。
「アハハハ!! 小娘、アタシに向かっていい度胸だね! 気に入ったよ! それに、アタシはガキと寝る程、相手には困ってなくてね。
大人になったそこの小僧等が、アタシに寄ってこない限り手出しはしないよ。安心しな」
「うふふ、私も相手には困っていないけど、もし~リオ君がどうしてもって言うんなら、やってあげても良いわ~」
「いや、だから! やらないって言っているでしょうが!? いい加減しつこいわ!!」
何はともあれ、いつもの感じになった俺たち一行は、ワルド達の居たテーブルと隣接した場所を確保して座った。
「ガハハ!! 面白いな、小僧ども! それで、ラートって言ったか? 迷宮は何処まで行ったんだ?」
「んにゃ? 中層入口まで飛べる、青い転移陣(メタスタシスゲート)まで行けたにゃ」
("青い転移陣"って事はマジかよっ!?)
「ーーっ!? おいおい、マジかよっ!? ギャハハ! スゲェなお前等!! 通りで肝が据わっている訳だ。お前等、その見た目からして、未成年の見習い上がりだろ?」
「そうですにゃ。やっぱり、見習い制度を使った未成年冒険者って、少ないのですかにゃ? 僕達以外に見た事がないので、分からないのですにゃ」
実際の所、俺達は、同世代の見習い制度利用者と遭遇したことがない。
見習い時代の2年間は、修業の空いた時間と鍛治や薬師の勉強以外は、かなりの頻度で雑用依頼を受けにギルドへ行っていた。それでも、目撃情報や噂話が無かったので、実はあまり使われていない制度だと思っていた。
「あ? ああーそうだな……俺等が成人して登録した頃でも、数年に1人居るか居ないかの珍しさだな。基本的に、見習い制度を使う奴は、少量だがそれなりに居る。
だが、そのほとんどは、成人までに昇格出来ず、結局成人して冒険者になるんだ。成人さえすれば、Iランクになる為の昇格試験は無いからな」
「へー俺達が受けた昇格試験は、未成年限定であって成人すれば普通に登録出来たのか。あっ、でも、言われてみれば確かに、成人すれば昇格もクソもないか」
冒険者ギルドは、この世界で成人と呼ばれる15歳になると誰でも所属することが出来る。その際に本当に必須となる物は、身分証明書代わりになるステータスとそれを使う為の神の祝福だ。
神の祝福は、一定階級以上の裕福な家庭には、寄付金として費用が発生する。しかし、基本的に平民や孤児、罪人でも無料で受けることが出来る。
その為に何か理由をつけて受けないと言う事は、その人に何かあると言っているのと同義である。それはこの世界では、致命的に信用がないと言う事と同じだ。
つまり、お互いの信頼と信用で成り立つギルドでは、受け入れられ無い人材となる。
「ガハハ! おい、小僧ども。さっきの詫びに、中層や下層、守護魔物(ガーディアンモンスター)の情報を教えてやろうか?」
次々と酒を煽り、上機嫌なワルドは、ニヤニヤと笑い此方を試す様な視線を向けた。
「そんなの要らないよっ! って言えたら、本当は格好良いけどね……アタイ等は、くだらない事で怪我したくない。おじさん、アタイ等にその情報を教えてくれ!」
「ガハハ!! つくづくガキらしくねぇな! だが、上出来だ。確かに、情報を得られる状況で、気持ちや感情でそれを不意にする事ほど、くだらねぇ事はねぇな。俺等からの詫びだ。教えてやるよ」
「お願いするにゃ!」
「Iランクの中層は、獣系魔物しか出ない。お前等が、上層でたどり着いた転移陣は、西と東どっちだ?」
「西です」
「ほぉ、西か……珍しいな」
「えっ? 西って珍しいの~?」
「うん、大抵の人達は東を選ぶかな。距離は若干短い上に、魔物の数が西よりも少ないからね。上層の魔物は倒しても報酬の旨みが少ないし」
「はえー失敗したなぁ。アタイ等ももう少し、情報を詳しく聞くべきだったわ」
(ま、でも、そのお陰で癒し草や胡椒が手に入ったし、それなりに良かったかもな……)
「その反省は後で一緒にしようね。おじさん等、続きを頼むよ」
「おう。この地図を見てくれ」
俺達は、テーブルから身を乗り出し、おじさんが持つ1冊のメモ帳に描かれた地図を食い入るように見た。
「お前等も今後、迷宮探索をしていくなら1人1人必ず地図を作れ。情報って言うのは、いくらあっても良いもんだ。それだけ正確性が増すからな。
それで、中層だが周囲を確認すると三つ子の様に連なった山々がある。太陽の時間や移動をから割り出すと、その方向が北だ。
北へ真っ直ぐ進み、山を越えると森林の中に巨大な湖と北西へ連なる深く広い川があるんだ」
「巨大湖と深い川か……落ちたら大変そうだ」
この場に迷宮探索専用のメモ帳が、無いことが悔やまれる。
一応、ステータスの力量内の『知力』が上がっているお陰か、記憶力が高くなっている。その為、しばらくの間は覚えていられるだろう。
だが、メモ帳があった方が圧倒的に便利である。お金は高く付くが、費用対効果と割り切って購入を検討する必要があるだろう。
「アタシが確認した時には、湖には魔物が居らず魚や海藻類、貝類が豊富で、食料には困らない感じだったわ」
「ああ、そうだな。泳いで渡るのは、勧めらんないから、湖沿いを右回りに迂回する事を勧める。距離があって魔物に襲われやすくなるが、溺れるよりもマシだ。
それに、森には木の実や果実なんかも豊富だから、俺達獣人種なら探し当てる事も可能だな。幸いな事に毒物は、見当たらなかったから、食料は現地調達でも大丈夫だ」
「なるほどですにゃ……」
(これは、やはり野営の経験が必須ですにゃ。むしろ最重要で急務ですにゃ……)
昨日の段取りと経験をもとにナートは、脳内で中層地帯の仮想シュミレーションを行う。
上層の魔物と自身らの実力差は、かなり上のため、油断や慢心が無ければ中層でも通じるだろう。しかし、トルト魔物の自爆や青い転移陣に居た、光を放つ食人花の様な特殊能力が居ると戦況は大きく変わる。
新しい魔物や土地勘のない場所、距離が不明な目的地、上層での戦闘疲労を考慮すると迷宮内で、休憩場所の確保が必要だ。
しかし、現状では、その知識や経験、道具などが不足している。だから、緊急で学ぶ必要があるとナートは考えた。
「それでだな、その巨大な湖を更に北へ真っ直ぐ進んでいくと、森を抜けて草原地帯に入るんだ。
ただ、周囲は隆起した大地や岩山が多数あって、魔物達が隠れていたりするから注意しろよ」
「分かったよ~」
(気配に敏感な獣に隠れる場所とか、面倒臭いな~)
「うふふ。そこからなら、妖精種の血を継いでいる坊やなら、空気中の魔力濃度の変化を感じ取れると思うわ。
その草原地帯から北西へ進むと、下層に繋がる赤い転移陣ががあるわ。あとは簡単。赤い転移陣に入ると、青い転移陣同様の現象が起きて、下層へ移動するわ」
「分かりました。空気中の魔力濃度に変化があれば多分、行けると思います」
「うふふ、きっと行けるわ。私達、魔力に機敏な種族の血を継いでいれば、特に、ね?」
「(青い方に近づいた時の感覚か……アレってやっぱり、俺だけじゃ無かったんだ……ちょっと残念)」
自分だけが感じられる特別な感覚は、周囲とは違うのだと優越感に浸れたんだが、そうではない事に喪失感を覚えた。また、それと同時に自身が、この世界の人であると認識できて安堵した。
「よし、中層の道案内は、このくらいで良いだろ。細かい所は小僧等も冒険者だし、自分で確かめろ。ただ、中層で1つ最大の注意点がある。よく聞けよ」
「「「「「……」」」」」
「上層でも、転移陣付近は、かなり魔物が寄ってくる。でも、中層は常にその2~3倍は、来る事を想定して動いた方が良い。獣だから直ぐにギャーギャー騒いで寄ってくる。
その結果、自身と仲間の体力配分や疲労の管理なんかは、最初の内は上手く出来ない筈だ。だから、お互いがお互いを助け合う姿勢が凄く大事になってくる。分かったか?」
「「「「「はい!」」」」」
「おう、そんじゃ、次は」
「"E10"番の番号板をお持ちの方~! 大変お待たせしました! 換金の鑑定が出来ましたので、受付、ポールの場所までお越し下さい~!!」
下層の説明をしようとするワルドと重なる様に、受付からポールの大声が聞こえた。
「あっ、それって俺等じゃね?」
「あっ、本当にゃ」
(もう、そんなに時間が経っていたかにゃ……)
「おう、さっさと行って済ませて来い。んで、説明が終わったら一緒に飯でも食おうぜ! 俺の奢りだ」
「おじさん達……!! 分かって居たけど滅茶苦茶、良い人達じゃんか! それじゃ、行ってくるね」
俺達は席を立ちポールの居る受付へ向かった。その間、ワルド達は、俺たちの座っていた場所に荷物を置いて、周囲に連れがいると示した。
酒場のテーブルに着いて、和気藹々となったオレ達は自己紹介を行う。
「にゃはは! やっぱり、リオ君は見ていて面白いにゃ! おっちゃん等、オイラはIランク『仲良し5人組』の一団を代表するラートにゃ。
さっきは、おっちゃん等を挑発してごめんにゃ。おっちゃん等は、本当は臭くないにゃ」
「僕もごめんなさいにゃ。僕はナートですにゃ。こっちのラートの双子の弟ですにゃ。よろしくお願いしますにゃ」
「アタイはシルル! さっきは、すみませんでした。そんで、こっちのリオと話していたメルルは、アタイの妹だ」
「ご紹介に預かりました~。アタイはメルルです。さっきの挑発はごめんなさい。姉共々謝罪します」
「改めて、フィデリオです。その~さっきのは、売り言葉に買い言葉的なノリと勢いの延長にある事なので、本気にしないで頂ければ助かります……」
喧嘩両成敗と言えば意味が違うが、お互いに自分の非を認め合い、謝罪後に握手して和解した。
しかし、その後もずっとシルルの表情が曇っている。何かを言いたそうに躊躇っている感じだった。
そして、決心が付いたのかナートとメルルを背に、ラルシアとスヴァルバの前に立ち宣言した。
「あと、おばさん達に1つ言っておく事がある! リオとラートは良いけど、メルルはアタイの最愛の妹で、ナートはアタイの男だ!
アンタ等になんかにやんねえよ!」
「あ……う……にゃぁぁぁ……っ!?」
カァーッとお湯が、沸騰するしそうな薬缶(やかん)の様に、ナートは顔全体を赤らめ、発した言葉からは語彙力が失われていた。
そして、頭からは、まるで湯気が出そうな程に照れ隠しした顔は、とても幸せそうだった。
「もう、シルル姉ってば~男前なんだから~」
ナートほどでは無いが、頬をかくメルルの表情は、とても嬉しそうに笑っていた。
「アハハハ!! 小娘、アタシに向かっていい度胸だね! 気に入ったよ! それに、アタシはガキと寝る程、相手には困ってなくてね。
大人になったそこの小僧等が、アタシに寄ってこない限り手出しはしないよ。安心しな」
「うふふ、私も相手には困っていないけど、もし~リオ君がどうしてもって言うんなら、やってあげても良いわ~」
「いや、だから! やらないって言っているでしょうが!? いい加減しつこいわ!!」
何はともあれ、いつもの感じになった俺たち一行は、ワルド達の居たテーブルと隣接した場所を確保して座った。
「ガハハ!! 面白いな、小僧ども! それで、ラートって言ったか? 迷宮は何処まで行ったんだ?」
「んにゃ? 中層入口まで飛べる、青い転移陣(メタスタシスゲート)まで行けたにゃ」
("青い転移陣"って事はマジかよっ!?)
「ーーっ!? おいおい、マジかよっ!? ギャハハ! スゲェなお前等!! 通りで肝が据わっている訳だ。お前等、その見た目からして、未成年の見習い上がりだろ?」
「そうですにゃ。やっぱり、見習い制度を使った未成年冒険者って、少ないのですかにゃ? 僕達以外に見た事がないので、分からないのですにゃ」
実際の所、俺達は、同世代の見習い制度利用者と遭遇したことがない。
見習い時代の2年間は、修業の空いた時間と鍛治や薬師の勉強以外は、かなりの頻度で雑用依頼を受けにギルドへ行っていた。それでも、目撃情報や噂話が無かったので、実はあまり使われていない制度だと思っていた。
「あ? ああーそうだな……俺等が成人して登録した頃でも、数年に1人居るか居ないかの珍しさだな。基本的に、見習い制度を使う奴は、少量だがそれなりに居る。
だが、そのほとんどは、成人までに昇格出来ず、結局成人して冒険者になるんだ。成人さえすれば、Iランクになる為の昇格試験は無いからな」
「へー俺達が受けた昇格試験は、未成年限定であって成人すれば普通に登録出来たのか。あっ、でも、言われてみれば確かに、成人すれば昇格もクソもないか」
冒険者ギルドは、この世界で成人と呼ばれる15歳になると誰でも所属することが出来る。その際に本当に必須となる物は、身分証明書代わりになるステータスとそれを使う為の神の祝福だ。
神の祝福は、一定階級以上の裕福な家庭には、寄付金として費用が発生する。しかし、基本的に平民や孤児、罪人でも無料で受けることが出来る。
その為に何か理由をつけて受けないと言う事は、その人に何かあると言っているのと同義である。それはこの世界では、致命的に信用がないと言う事と同じだ。
つまり、お互いの信頼と信用で成り立つギルドでは、受け入れられ無い人材となる。
「ガハハ! おい、小僧ども。さっきの詫びに、中層や下層、守護魔物(ガーディアンモンスター)の情報を教えてやろうか?」
次々と酒を煽り、上機嫌なワルドは、ニヤニヤと笑い此方を試す様な視線を向けた。
「そんなの要らないよっ! って言えたら、本当は格好良いけどね……アタイ等は、くだらない事で怪我したくない。おじさん、アタイ等にその情報を教えてくれ!」
「ガハハ!! つくづくガキらしくねぇな! だが、上出来だ。確かに、情報を得られる状況で、気持ちや感情でそれを不意にする事ほど、くだらねぇ事はねぇな。俺等からの詫びだ。教えてやるよ」
「お願いするにゃ!」
「Iランクの中層は、獣系魔物しか出ない。お前等が、上層でたどり着いた転移陣は、西と東どっちだ?」
「西です」
「ほぉ、西か……珍しいな」
「えっ? 西って珍しいの~?」
「うん、大抵の人達は東を選ぶかな。距離は若干短い上に、魔物の数が西よりも少ないからね。上層の魔物は倒しても報酬の旨みが少ないし」
「はえー失敗したなぁ。アタイ等ももう少し、情報を詳しく聞くべきだったわ」
(ま、でも、そのお陰で癒し草や胡椒が手に入ったし、それなりに良かったかもな……)
「その反省は後で一緒にしようね。おじさん等、続きを頼むよ」
「おう。この地図を見てくれ」
俺達は、テーブルから身を乗り出し、おじさんが持つ1冊のメモ帳に描かれた地図を食い入るように見た。
「お前等も今後、迷宮探索をしていくなら1人1人必ず地図を作れ。情報って言うのは、いくらあっても良いもんだ。それだけ正確性が増すからな。
それで、中層だが周囲を確認すると三つ子の様に連なった山々がある。太陽の時間や移動をから割り出すと、その方向が北だ。
北へ真っ直ぐ進み、山を越えると森林の中に巨大な湖と北西へ連なる深く広い川があるんだ」
「巨大湖と深い川か……落ちたら大変そうだ」
この場に迷宮探索専用のメモ帳が、無いことが悔やまれる。
一応、ステータスの力量内の『知力』が上がっているお陰か、記憶力が高くなっている。その為、しばらくの間は覚えていられるだろう。
だが、メモ帳があった方が圧倒的に便利である。お金は高く付くが、費用対効果と割り切って購入を検討する必要があるだろう。
「アタシが確認した時には、湖には魔物が居らず魚や海藻類、貝類が豊富で、食料には困らない感じだったわ」
「ああ、そうだな。泳いで渡るのは、勧めらんないから、湖沿いを右回りに迂回する事を勧める。距離があって魔物に襲われやすくなるが、溺れるよりもマシだ。
それに、森には木の実や果実なんかも豊富だから、俺達獣人種なら探し当てる事も可能だな。幸いな事に毒物は、見当たらなかったから、食料は現地調達でも大丈夫だ」
「なるほどですにゃ……」
(これは、やはり野営の経験が必須ですにゃ。むしろ最重要で急務ですにゃ……)
昨日の段取りと経験をもとにナートは、脳内で中層地帯の仮想シュミレーションを行う。
上層の魔物と自身らの実力差は、かなり上のため、油断や慢心が無ければ中層でも通じるだろう。しかし、トルト魔物の自爆や青い転移陣に居た、光を放つ食人花の様な特殊能力が居ると戦況は大きく変わる。
新しい魔物や土地勘のない場所、距離が不明な目的地、上層での戦闘疲労を考慮すると迷宮内で、休憩場所の確保が必要だ。
しかし、現状では、その知識や経験、道具などが不足している。だから、緊急で学ぶ必要があるとナートは考えた。
「それでだな、その巨大な湖を更に北へ真っ直ぐ進んでいくと、森を抜けて草原地帯に入るんだ。
ただ、周囲は隆起した大地や岩山が多数あって、魔物達が隠れていたりするから注意しろよ」
「分かったよ~」
(気配に敏感な獣に隠れる場所とか、面倒臭いな~)
「うふふ。そこからなら、妖精種の血を継いでいる坊やなら、空気中の魔力濃度の変化を感じ取れると思うわ。
その草原地帯から北西へ進むと、下層に繋がる赤い転移陣ががあるわ。あとは簡単。赤い転移陣に入ると、青い転移陣同様の現象が起きて、下層へ移動するわ」
「分かりました。空気中の魔力濃度に変化があれば多分、行けると思います」
「うふふ、きっと行けるわ。私達、魔力に機敏な種族の血を継いでいれば、特に、ね?」
「(青い方に近づいた時の感覚か……アレってやっぱり、俺だけじゃ無かったんだ……ちょっと残念)」
自分だけが感じられる特別な感覚は、周囲とは違うのだと優越感に浸れたんだが、そうではない事に喪失感を覚えた。また、それと同時に自身が、この世界の人であると認識できて安堵した。
「よし、中層の道案内は、このくらいで良いだろ。細かい所は小僧等も冒険者だし、自分で確かめろ。ただ、中層で1つ最大の注意点がある。よく聞けよ」
「「「「「……」」」」」
「上層でも、転移陣付近は、かなり魔物が寄ってくる。でも、中層は常にその2~3倍は、来る事を想定して動いた方が良い。獣だから直ぐにギャーギャー騒いで寄ってくる。
その結果、自身と仲間の体力配分や疲労の管理なんかは、最初の内は上手く出来ない筈だ。だから、お互いがお互いを助け合う姿勢が凄く大事になってくる。分かったか?」
「「「「「はい!」」」」」
「おう、そんじゃ、次は」
「"E10"番の番号板をお持ちの方~! 大変お待たせしました! 換金の鑑定が出来ましたので、受付、ポールの場所までお越し下さい~!!」
下層の説明をしようとするワルドと重なる様に、受付からポールの大声が聞こえた。
「あっ、それって俺等じゃね?」
「あっ、本当にゃ」
(もう、そんなに時間が経っていたかにゃ……)
「おう、さっさと行って済ませて来い。んで、説明が終わったら一緒に飯でも食おうぜ! 俺の奢りだ」
「おじさん達……!! 分かって居たけど滅茶苦茶、良い人達じゃんか! それじゃ、行ってくるね」
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ならば、最初から「隔絶された生活の場」と「そこを守る武力」を両立させてしまえば良い。
……という主人公(と作者)による「徹底的に他者を顧みない話」。
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