探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-12 クソ餓鬼

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 翌日、冒険者ギルド前の広場に俺とラート、ナートの3人は居た。服装は簡素な見た目の半袖、ハーフパンツにサンダルを履いた年相応の格好。

 今日の午前中は、昨日出来なかった兜や鎧、大楯やハンマーなどに付いた魔物の返り血を洗浄し、拭き取る作業をしていた。

 本来なら、鍛冶屋の孫として付着した返り血や汚れ、歪みの確認などの手入れは、その日に行うべきだと思っている。

 しかし、昨日は心身共に疲労が最高潮となり、夕食後、いつもやっている日課も忘れて眠りについた。その為に、出来なかった手入れと日課を時間が来るまで行っていた。

 現在の時間は、夕食前の鐘が鳴って少しした、午後4時頃を過ぎた辺り。幼馴染の女性陣を、今か今かと待ち侘びていた。

「ヤッホーみんな。昨日振り! なんか、遅れたみたいでごめんね」

「ううん、シルルちゃん、そんな事ないにゃ」

「そうにゃ。オイラ達が楽しみを我慢出来ず、少し早めに来ただかにゃ」

「そうですにゃ。気にしないで欲しいですにゃ」

「そうだぞー! 2人とも。っと言っても、俺もナート達の後に来たばっかだから、対して変わんないよ」

 女性陣の登場に色めき立つ男達。その理由は、彼女等の格好が原因だろう。

「ほらね~シルル姉、みんな気にしていないって」

「それよりも、シルルちゃん、その、今日の服装、とても似合っているにゃ」

「あ、あぁ。母さんが折角だから着て行けって……その方がナートも喜んでくれるからって……その、どう?」

 シルルの普段着は、動きやすさとアマゾン族特有の薄着を重視した格好で、スカートを履いている姿は見た事がなかった。

 オレンジ色のミモレ丈のワンピースに身を包み、つま先の開いたサボサンダルを履いて、お洒落な格好をしている。

 普段は、ポニーテールにしている髪も今日は下ろしている。そして、頭にはリボンの付いたソフトハット被って、まるで別人の様だった。

(うぉおお! うわぁああ!! にゃぁああ!)

「も、勿論にゃ!! いつも綺麗だけど、今日はとても可憐だにゃ! 僕は凄く嬉しいにゃ!」

(は、恥ずかしいなぁ……で、でも、喜んでくれているから、偶にはいっか)

「そ、そうかな。アハハ、なら良かったよ」

 ナートは、首がもげるんじゃ無いかと思う程に何度も、何度も上下に振る。

 息が荒く、頬が緩んでいるその姿は、普段落ち着いた性格とは打って変わり、年相応の男の子だった。

 そんな、真っ直ぐな思いを告げられたシルルは、赤面し照れ笑いした。

(むぅ~シルル姉だけ、ズルい! アタイも褒めろ~)

「みんな~アタイも忘れないでね~。アタイも今日はお洒落して来たんだよ~。何か無いの~?」

 その場でクルッと1回転し、感想を求めるメルルも普段とは違う格好をしていた。

 メルルの格好は、赤い膝上丈ワンピースに身を包み、アッパーから踵までの足首で編み込んだレースアップサンダルを履いてある。

 普段ツインテールにしている髪も下ろして、頭には麦わら帽子の一種であるカンカン帽を被っている。

「にゃははは! メルルちゃんも、いつにも増して可愛いにゃ」

「うん、2人とも、とても似合っているよ!!」

「ふふふ、みんな、ありがとう~。それにしても、リオって何か良いことでもあった? 

 なんか、いつもよりも気分が高めだけど、そんなに今日の宴を楽しみにしていたの?」

「あ、分かる? 2人の可愛い姿を見れて嬉しかったのもあるけどさ……昨日、クレイに姉呼びを辞めるって宣言出来たんだよ!!

 これで、ようやく俺も、クレイに1人の男として見て貰えるんだと思うと嬉しくてね!」

 実は、俺がクレイに好意を持っている事は、既に幼馴染達へ報告していた。

 散々、ナート君の話で盛り上がったのに、自分は隠しておくと言うのが、卑怯だと思ったからだ。また、無いと思いたいが、女性関連の話を聞かないラートへの牽制の意味も含まれている。

 そして、その報告の際に『弟分で友達ポジションのままでは、恋愛に発展する可能性が著しく低い。その前に他の男と恋愛に発展する方が早い』と言う最もな意見を聞いた。

 その為に先日、ようやく実行に移せたのだった。

「おお!! 遂にリオ君の初恋が始まるのにゃ! 第一歩、おめでとうにゃ!」

「アハハ! ま、相手の意識が弟分のままじゃ一生かかっても、実るのは無理があるよね。

 でも、リオ、相手は、タペストリーの看板娘で年頃なんだ。チンタラやっていると誰かに取られるぞ?」

「ちょっと、シルルちゃん……怖い事言わないでよ……でも、昨日時点で、クレイに男が居ない事は聞いたからまだ、望みはある!」

「そうにゃ、リオ。諦めちゃったらそこで終わりにゃ。それなら、最後まで希望を捨てず足掻いた方が、同じ男としてカッコ良いにゃ。僕達も応援しているにゃ」

「流石、シルル姉を彼女に持つナートは、余裕があって大人だよね~。それよりも、そろそろ行かない?」

「それじゃ、魔石と採取物の換金に行くにゃ」

 冒険者ギルドの受付に向かう。この時間帯は、夕食も近い為か受付の列はそれほど無い。その代わり、待合所を兼ねている酒場は、それなりに賑わっている。

「次の方どうぞ~って、冒険者ギルドの期待の新人君達じゃないか。今日はお洒落な格好で、どうしたんですか?」

「あ、こんちはにゃ。今日は依頼じゃ無くて、魔石と迷宮で採取した植物を換金に来ましたにゃ。受付さん、それってここで合っていますかにゃ?」

 眼鏡をかけた褐色肌で、金髪の真面目そうな受付男性に質問する。

「僕の名前はポール。これからよろしくね。それで、質問の答えだけど合っているよ。それじゃ、この箱に魔石と採取物を入れて下さい」

 男性受付のポールは、木製の大きな箱と一枚の紙を取り出す。そして、俺たちに換金物を箱へ入れるように指示すると、紙に何かを記入してから血印を押した。

「はいにゃ」

「ありがとうございます。それでは、こちらを確認して一団の代表さんは確認の印欄に名前を書いてください」

「分かりましたにゃ。えぇっと……」


          相互誓約書

◯[仲良し5人組]は以下の条件を誓います。

①冒険者ギルドに虚偽報告をしないと誓います。

②換金物は、時価によって値段が変動する事をあらかじめ承認しています。それによって冒険者ギルドに文句をつけない事を誓います。

③誓約内容①と②を意図的に破った場合、冒険者ギルドの規則に則った処罰を、承認する事を誓います。

◯冒険者ギルドは以下の条件を誓います。

①所属する冒険者に対して、不利益になる行動や言動をしない事を誓います。

②誓約内容①を意図的に破った場合、その職員を冒険者ギルドから追放処分し、活動拠点のある国家法律上に基づき、処罰を誓います。

◯冒険者ギルド 職員[ポール]  血印

◯冒険者一団 代表[ラート]  血印


 誓約書を全員で読んだ後、[  ]欄にラートが筆を走らせ、血印を行う。それによって、過去に獣魔ギルドで見た薔薇の模様が出た後、紙が淡く光った。

「終わりましたにゃ」

「ありがとうございます。それで、採取物は、今日採取したのですか?」

「いいえ、昨日、迷宮で採取しました」

「分かりました。それでは、状態や時価などの確認を行いますので、お預かり致します。

 こちらの番号板でお呼び致しますので、少々お待ち下さい」

 ポールから、鉄製の番号札"E10"を受け取り、他の人の邪魔にならないところへ移動した。

「ねぇ、ねぇ、みんな、一体どれくらいの金額になるか楽しみだよね~」

「そうだなぁ……昔、父ちゃん達から冒険者の殆どが、IランクやHランクって聞いたことがあるんだ。それで、多分だけど魔石の価格は、期待出来ないと思うんだよね。

 これだけ2つのランク層に大人数居るなら、きっと魔石の値崩れが起きていると思うんだ。だからこそ、採取物は期待出来る。それなりの金額よ、来てくれて……!!」

 迷宮産の胡椒の実と癒し草が、どれだけの時価なのか不明だが、魔石に期待できない以上、高い額であって欲しいと心の中で願った。

 そんな時だった。俺たちの背後から複数の大声が聞こえたのは……。

「おいおいおい! お前ら、こんな所に子供がいるぞー!」

 声に反応して振り返ると、酒場のテーブルにパーソン族、初めて見る獣人種の男性2人とアマゾン族、よく分からない種族の女性2人が座っていた。

「ギャハハ!! おい、坊主ども! 無視してんじゃねえよ! お前らだよ!」

「あっ! 僕達の事でしたかにゃ。何か用ですかにゃ?」

 どうやら子供と言うのは、俺達の事を指していたらしい。しかし、昨日、迷宮を探索した俺たちは、自分達が子供だと言う自覚が無かった。

 その為に気がつくまで一瞬遅れてしまった。

「アハハ! "何か用ですか?"だって! むしろ何の用でお前らが居るんだよ! ここは、ガキの来る場所じゃないよ! 早くお家に帰んな!」

「ガハハ!! そうだ、そうだー! お前らみたいなガキ共は、早く家に帰って、母ちゃんの乳でもしゃぶって寝てろ!」

「うふふ、そう言ってやんないの! うふふ、坊や達、こんな所に居ると怖ーい、怖ーいお姉さん達に連れて行かれて、家に帰れなくなるわ」

「ガオー、ガオー! ギャハハ!」

 酒場で酒を飲んでいる厳つい男女は、俺達の何が面白いのかゲラゲラと笑っている。さっきまでの最高に楽しい空気が一気に壊れる。

 俺達の下がるテンションに反比例して上がっていく酔っ払いのテンション。次第に苛つきを感じる。

 俺達を馬鹿にして、言葉で煽っている酔っ払いに俺達も目を合わせて反撃した。

「おじさん、おじさん」

「ギャハハ! あ?」

「俺は、母ちゃんの乳よりもそこに居る、怖ーい、怖ーいお姉さん達2人のお乳の方が、すごく興味があるんだ!

 だからさ、今晩、俺に貸してくれよ! 怖ーいお姉さんもそんなに誘っているんだから良いだろ! 今日は俺と一緒に朝帰りしようぜ! 

 その、たわわに実った果実を俺がしゃぶり尽くしてやるぜ!」

「(煽られた、馬鹿にされたなら、こっちも煽って馬鹿に仕返すだけだ)」

 俺はニヤリと笑いながら、胸の前で両手を揉む仕草で言い放った

「ぶっ! クックックッ、アハハ!!」

 俺の予想外の言葉にシルルは、笑いを堪えきれない。大爆笑している。それも、酔っ払いの方を指差しながら、腹抱えて笑った。

「ふふふ、そこの槍を持ったおじさ~ん。おじさん達も、もう歳なんだから、槍よりも杖を持つ練習をしていた方が良いんじゃないの~。

 アタイは、そう良いと思うんだけど~おじさん達はどう思う~?」

 ニッコリと笑い、純粋に心配している風にメルルは、槍を側に置いて座っているパーソン族の男へ提案する。

「おっちゃん等、ちょっと臭うにゃ。お酒飲んでいるかにゃ? もしかして、便所に行けず、尿意を我慢しているから、苛ついているのかにゃ?

 しゃーないから、オイラが案内してあげるにゃ。便所にまともに行けないおっちゃん等は、そこで用を足すにゃ」

 ラートは、嫌そうな表情で鼻を押さえて手を伸ばす。

「何だったら僕達が、おじさん達のお手手繋いであげるにゃ。足腰も弱った上に酔っていては、まともに歩くなんて無理にゃ」

 ナートは、やれやれ仕方ないと言う表情で、ラートと同じように手を伸ばした。

 やったらやり返す。TPOを弁えない俺達は、唯のクソ餓鬼だった。
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