探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-10 Iランク上層探索⑥

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 "何か"を突き破る感覚。

 それをきっかけに戻ってくる五感。

 広がる景色は、青空、広大な草原、所々が隆起して盛り上がった場所。

 そして何より、上層とは比べ物にならない、芳醇で満ち溢れた魔力の世界だった。

 近づく地面のほんの少し手前で、物理法則を無視して減速する。

 青白い転移陣の上に着地の瞬間、フッと空中で止まり、物理法則に則って着地した。

「……うぉおおお!! 何これ!? 凄え! 凄え!! 超凄え!!」

「アハハハ!! 面白かった!!」

「リオってばはしゃぎ過ぎ~。でも、シルル姉、凄かったね~!」

「確かに凄かったけど、突然浮いて、飛んだと思ったら、落ちるから僕は怖かったにゃ。あ~びっくりしたにゃ……」

「にゃははは!!」

 人生初の転移経験にそれぞれが、笑い、感動、恐怖、驚愕した。

 転移時の感覚は、まるで初めて遊園地の絶叫系アトラクションに乗った時の感覚に似ていた。

 具体的には、ジェットコースターの様な加速力で上昇し、フリーフォールの様な落下だった。

「って言うか、ラート君やナートは大丈夫なの? 中層って芳醇って言うか、満ち溢れているって言うか……兎に角、空気中の魔力が濃いんだけど……体調とかは問題無い?

 俺はなんか知らんけど、体調が良いって言うか、身体が軽くなった気さえするんだけど、みんなはどう?」

「僕は問題無いにゃ」

「にゃははは! オイラも問題ないにゃ! と言うか、むしろ気持ちがスッキリして、気持ち良いにゃ!」

「アタイは特に感じないけど……おかしいのかな?」

「シルル姉も? アタイも特に変わった感じは無いかな~?」

「そうか……種族によって感じ方が違うのかな?」

「そんなんじゃ無いの~。って言うか、リオの言った芳醇って言う魔力の表現て、どう言う事なの~面白過ぎでしょ」

「いや~何と言うか……俺も良く分かんないけど、理性よりも本能でパッと頭に思い付いたのが、芳醇って表現だったんだよ……疲れてんのかな?

 まあ、それより、一度戻って、乱戦の後片付けとかやっちゃって帰ろっか」

「そうにゃ、時間も良い感じだし、門が閉められる前に早く戻ろうにゃ!」

 再度、起こる幻想的な光景と浮遊感の後に"何か"を突き破る感覚の後、俺達は上層の乱戦場所に戻っていった。

「あぁ~それにしても俺達、かなりの数を殺ったね。状態が良くて、売れそうな死体あるかな?」

「う~ん、でも、かなりグチャグチャだよ~。もう、魔石だけ取って死体は、放置で良いんじゃ無い~? 自然に還ったり、共食いしたりするでしょ~」

「そうだなー。あっ! そういえば犬っぽい魔物とトルト魔物って畑を持っていたじゃん! 

 リオ、アンタのお婆ちゃんって薬師よね? 何か売れそうな素材とか分かんない?」

「そう言えば、犬っぽい魔物は、ポーションの材料になる『癒し草』を育ていたよ! 

 迷宮産の癒し草は、普通の物と比べて繁殖力が低く、効果が高いから高値で売れるはずだよ! 

 でも、トルト魔物の方は、近くで見ないと判断できないかな?」

「それじゃ、魔石回収を行なって魔物の畑に行くにゃ!」

「どの道、時間もないしそれが良いにゃ」

 俺達は手分けして魔石を回収した。魔物は5~60体くらいだと思っていたが、実際の死体は46体と少なかった。恐らくは、トルト魔物の自爆で吹き飛んだ奴等が含まれていたのだろう。

 その内、状態が良く無事に売れそうな魔石は、30個とさらに少なかった。そして、回収を終えた俺達は、橙色の犬っぽい魔物の畑へと移動した。

「魔石、結構残っていてよかった~。あ、でも、やっぱり迷宮専用の大きな鞄は必要だね~。

 今日は、普段の鞄でもなんとかなったけど、お金を稼ぐってなると大きい物は必須だね~」

「それじゃ、リオ、癒し草を採取しちまおうか」

「シルルちゃん、ちょっと待って!」

 畑に生えた癒し草を不用心に、引っこ抜こうとしているシルルが居た。俺は、そんなシルルを見て薬草採取のルールが分かっていないと判断し、行動に待ったをかける。

「あん? どうしたんだ? リオ」

「癒し草って言うか、薬師が使う野草全般に言える事なんだけど、採取には薬師ギルドで定めた規則があるんだ。

 これを守らずに採取すると、売る時に薬草の価値を下げられたり、罰金が発生したりするんだ。

 最悪の場合、希少性の高い物だと罰則もあるから、薬草採取には注意が必要なんだ」

「へぇーそんな事があるんだ。"知らなかった"わ」

「そこなんだよ。みんな、覚えておいて欲しいのは、"知らなかった"では、済まされない場合が多いんだ。

 成人前の子供や高齢過ぎる老人の場合だと、本人やその家族に厳重注意や警告で済む事が多いんだ。

 でも、大人やギルドに正式登録している俺達は、問答無用で罰せられるよ。もしも、間違ってやってしまった場合は、バレる前に処分した方が良いよ。

 その状態で売ったら、直ぐに足が付くからオススメはしないよ」

「お、おう……危なかったー。リオ、教えてくれてありがとうね」

 戸惑い、冷や汗をタラリとかくシルルは、汗を拭い笑う。

「流石、現役薬師の孫だね~! 頼りになる~」

「……うにゃ……リオ君、ごめん。やらかしたにゃ……」

 仲間達が感心している中、1人ションボリしているラートの手を見ると、根っこから引き抜いた癒し草が有った。どうやら、俺の説明前に既に抜いてしまったらしい。

「ラート君、そんなに気に病む事はないよ。さっきの例えはあくまでも、希少性の高い場合の話だからね。

 それに、迷宮内と迷宮外では、採取や売却時に発生する罰金や罰則は緩いから、大丈夫だよ。

 また、癒し草は、外と内の両方で割と自生しているから、元から罰則はとても軽いよ。迷宮産の癒し草は、罰則なんて無いし、精々売却時に価値が下がるだけだしね」

「はぁ……ラート、何やってるにゃ……」

「だから、ごめんって言っているにゃ」

 額に手を当てて下を見るナートに、ラートは困った表情で謝った。

「そんじゃ、リオ、アタイ等に正しい採取方法を実演を兼ねて、教えてくんない?」

「勿論だよ! 先ずは、野草全般だけど、調薬の際に根っこを使う機会はほとんどないんだ。

 だから、採取した後にもう一度、自生出来る様に地面に根っこを残して採取するんだ」

「地面に残すって事は、この葉柄? 茎? を切る感じ?」

 癒し草は、地面から直接、葉っぱが生えている様な見た目をしている。その為に、茎と葉柄の区別が付かないシルルは、困惑の表情を浮かべる。

「そう言う事。薬草全般は、葉柄と茎の区別がし難い見た目けど、採取時に共通して切る部分を知っていれば、簡単に見分けが付くんだ。

 みんな、地面と葉っぱの間に、ボコっと丸みを帯びて、膨らんでいる箇所が見える?」

「これにゃ、合っているかにゃ?」

「合っているよ、ラート君。これは、魔瘤(まりゅう)と呼ばれていて、薬草が成長する過程で出来る瘤(こぶ)なんだ。

 魔瘤には、薬草の成長に必要な栄養や魔力が十分に蓄えられているんだ。薬草の採取する目安は、この魔瘤がある事が採取時期なんだ。

 逆にこれが無い薬草は、まだまだ、成長過程の薬草だから基本的に採取を推奨していないんだ」

「って言う事は、もうこの薬草は採取して良いんだね~」

 メルルは、十分に大きく膨らんだ魔瘤がある癒し草を指差す。

「うん、その認識で良いよ。それで、採取時の注意なんだけど、魔瘤部分はとても繊細なんだ。

 だから、乱暴に引っこ抜いたり、千切ったりして少しでも痛むと、その薬草は2度と生えず、枯れる原因になるから、しっかり刃物で切るようにしてね。

 薬学上、魔瘤の上を葉柄、下を茎として扱っていて、切る場所は葉柄の少し上を刃物で切るんだよ。

 お金に余裕があれば、俺みたいに採取用の鋏を持参して、綺麗に切ってあげると再び生えやすいんだ」

「リオ、後で、その鋏を貸して欲しいにゃ。それと、その鋏ってどこで買えるかにゃ?」

 俺が使っている採取専用の鋏をナートは、物珍しそうな目で見る。

「アリア婆ちゃんは、薬師ギルドで売っているって言っていたよ。俺は、薬学を習う際に婆ちゃんから貰ったんだ。

 別に採取用の鋏は、この鋏しか使っちゃダメって規則は無いよ。だから、ミンク婆ちゃんの鍛冶屋で、お弟子さん達が作っている市販品を貰ってこようか?」

「つまり、鋏は、切れ味が良くて薬草を痛め無いように切る事ができれば、何でも良いわけね。今度、アタイが道具の修繕に行くついでに買うわ」

「うん、そうしてくれると、お弟子さん達のやる気や懐事情にも繋がるから、買ってくれると嬉しいな」

 ジレンやユリス、アミラの他に増えた祖母の弟子達を思い出して笑う。

 祖母曰く、俺が預けられた時期は、偶々弟子が独り立ちした後で少なかったそうだ。割と大きな店を4人でフル稼働とか無理があると思っていたが、そういう事情があった。

「リオ~癒し草を採取したけど、この後の処理は~?」

「そうだね……乾いた厚手の布で、採取した薬草を包んであげると良いね。採取後に良く問題が、他の荷物と一緒に入れたり、折れたりして、薬草が傷んだりする事なんだ。

 水が含んだ湿った布とかでも良いけど、あまりお勧めしないな。傷みが早まるから、出来るだけ乾いた厚手の布を推奨しているよ。

 まあ、最も、癒し草は状態が普通くらいでも、傷むまでに5~7日は持つと言われている。迷宮産なら、もう少し長い10日程度って言われているから、早々に傷む事もないよ。

 今日は、俺が厚手の布を持っているから、俺が責任を持って預かるよ」

「それじゃ、リオ、よろしくね~」

「それじゃ、次はトルト魔物の所に行くにゃ!」

 全員から癒し草を預かり、しっかりタオルで包み込んだ。そして、犬っぽい魔物の畑からトルト魔物の畑へ移動した。
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