探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-8 Iランク上層探索④

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「リオ、良い一撃だ!! 良くやった!! よしっ! アタイもこのままやってやるぞー!」

 追いかけていた魔物の大多数を減らす事に成功した俺たちは、周囲の残っている魔物達を確認する。

 残った魔物は、橙色の犬っぽい魔物と巨大トマトみたいな魔物の2種類が少量だけだった。

 如何やら、倒した魔物は森林にいた花に歯が生えている魔物と残った2種類の大多数であって、転移陣の近くに陣取っていた新種はこの場には来なかった様だ。

「ーーッ!? シルルちゃん! 橙色の犬っぽい魔物と巨大トルトみたいな魔物の様子が変! 警戒して!」

 シルルが今まさに蹴散らそうとしている進行方向にいる2種類の魔物は、おかしな行動をし始めた。

 植物の様な見た目をしているとは言え、魔物だから力の差が分かった相手に逃走する事は、それ程に珍しくは無い。

 修業時の最後の方に戦ったグレイウルフは、甘い一撃与えると、その場から即座に逃走していた経験があるからだ。

 最初は橙色の犬っぽい魔物が顎を引き蹲る姿勢を、巨大なトルトみたいな魔物が歯を食いしばる様に固まる姿勢を取ったから、魔物特有の服従の行動だと思った。

"ドシュシュシュシュ!!"

「あん? ーーッ!? アハハハ!! おもしれぇな! 背中のトンガリを飛ばす事が出来るのか!?」

 俺の警告に足を止め警戒するシルルは、橙色の犬っぽい魔物の背中から生えている、巨大な針の様な物が自身目掛けて飛んでくる事に驚きと興奮を隠せなかった。

"ブォオオン! ブォオオン!!"

(ーーッ!? 一体何の音にゃ!? 音の発信源は……? アレかにゃ!? トルト魔物が密集して何をする気にゃ? ってアレ? さっきよりも大きく、色が濃い様な……!?)

「ラート! シルルちゃん! トルト魔物がさっきよりも大きく、真っ赤になったにゃ!! 何があるか分からないにゃ! 一旦離れるにゃ!!」

「(大きく、真っ赤になる……? まさか……!?)
みんな、俺の後ろに隠れろ!! 自爆(・・)するかも!!」

「「「「ーーッ!?」」」」

"ブォオオン! ブォオン! ブォン!"

「我願う……土魔力よ……我が身を覆い、圧縮し放たれよーー」

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 右手に持っていたハンマーを背負い直し、左手の大楯を前に突き出し防御姿勢を取る。

 トルト魔物達は、その身体を1.5倍~2倍程の大きさまで膨張させて、まさに割れる寸前の風船の様だった。

 自爆準備中の魔物を倒せば、恐らくは止まるかもしれない。しかし、その場合の暴発の威力が未知数な以上、こちらから手を出す事は愚策と判断した。

 即時撤退も良いがその場合、暴発の範囲が分からず背中が無防備になるためリスクが高過ぎた。

 そのために俺達は守りを固め、耐える事を選択した。この集団の中で重装備に身を固めている俺を前にして、パーティーで密集し俺自身は下級防御魔法の準備を行なった。

「準備出来たにゃ! オイラとシルルちゃんは左右からの攻撃に警戒! ナート達は後ろと上を警戒してにゃ!」

「ソイルアーマー!!」

 圧縮された土魔力の膜が、重装備の上から覆う様に魔法が発動する。それに伴い、身体全体が少し重く感じるが、それは同時に俺へ安心感を与えた。

"ピィーーーッ!! ドゥババーーン!!"

 甲高い音、血管が浮き出て脈動し続ける赤い魔物(トルト)の肉体。

 瞬間、白い閃光が空間を埋め尽くす。

 血飛沫、肉片、骨片と共に複数の爆炎が敵味方関係なく、その場から散って行った。

"ボボボボーーーッ!! ズガガガガーーッ!!"

「クッ!? うぉおおおあああーーーッ!!」

 ーー予想外の威力!!

 ーーそれに何よりも熱い!?

 ーー爆炎の中ってこんなに熱いのかよ!?

 ーーヤバい、しくった!

 ーー植物だから火は、爆炎は無いと鷹を括ったから得意の土にしたけど、水にしておけばよかった!!

 ーー耐えろ! 耐えるんだ、俺!! 

 ーー根性見せろ! 仲間を守ってこそ真の男だろ!

 思考が加速する……

 加速する……

 加速……

 どれ程の時間が経ったのだろう。

 体感だと永遠に感じたそれは、仲間の呼び声によって終わりを告げられた。

「リオ!! 無事!? 大丈夫!?」

(怪我は……なさそうだね~)

「リオ君!! 生きているかにゃ!?」

(び、びっくりしたにゃ……うう、まだ、耳と頭がガンガン、クラクラして痛いにゃ)

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……つ、疲れた~~!! も~~無理! 少し、休憩を求む!!」

「アハハハ! なんだよ、リオってば、割とピンピンしているじゃん」

(ホッ)

「でも、無事で良かったにゃ!」

(いや~まさか、あんなに爆発するなんて思わなかったにゃ。Iランク迷宮……手強いにゃ)

 地面に大の字で倒れた俺を、心配そうな、安心した様な表情で見つめる仲間達。

 周囲に敵は居ない。

 如何やら、さっきの自爆で残りの魔物も全て吹き飛んだ様だ。

 魔物の肉が焦げる匂い。香ばしさとは掛け離れた焦げ臭い焼死体の死臭。

 全身に風穴を開けられて、血塗れで物言わぬ骸へと変貌を遂げている橙色の犬っぽい魔物。

 眼球は溶け落ち、貫通して出来た風穴は、酷い火傷で塞がれて血が凝固している。元の姿を知らなければ、"焼死体(それ)"がなんであったのか、分からないほど原型を留めていない。

 あったかも知れない、転生者自身の割と小さく無い可能性の光景が、目の前に広がっていた。

 もしも、『碌に修業せず、必死こいて鍛えず、世界を舐めて冒険者になっていたら、あんな風に死んでいたかも知れない』

 そんなもしもの可能性に、自然と背筋がゾッと凍り付く恐怖を感じた。

「ハァッ、ハァッ、そう言うみんなは無事? 俺は結構、熱かったって思ったのとメチャクチャ疲れた位で、特に怪我は無いけど……」

「リオが身体を張って、私たちを守ってくれたおかげで、爆風による熱風くらいで済んだよ~! リオ、ありがと~!」

「本当にそうにゃ! ありがとうにゃ、リオ」

 笑顔で笑いかけるメルルとナートに、さっきまで感じていた恐怖が拭われる。その代わりに得たものは、仲間の命を守れた充実感と安堵だった。

 それを自覚した俺は自然と笑みが溢れた。

「それじゃ、転移陣に屯っていた新しい魔物をぶっ殺しに行くか。アタイは、まだまだ燃焼不足だから行くけど、リオはどうする? ここで休んどく?」

「ハッ! 女が戦いに行くのに、男の俺が休むわけ無いだろ!! 俺も行く! 休憩はもう終わりだ!」

「アハハハ! それでこそ、アタイの幼馴染だ! と言うわけだから、ほら、みんな行くよ!」

「にゃはは! 元気なのは良いけど、それはオイラの仕事にゃ! みんな、準備は良いかにゃ! 気を引き締めて敵をぶっ殺すにゃ!」

「「「「了解!!」」」」

 俺達は転移陣で待ち構える強敵の元へ向かった。
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