探検の書

ぶちゃ丸/火取閃光

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第3章 Iランク冒険者

3-6 Iランク上層探索②

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「あちゃ~みんな~コレ魔石とか売れる素材とかあるかな~?」

 目の前に転がるバラバラで黒焦げな残骸に俺達は、額に少量の冷や汗をかいて内心焦った。

「いやーメルル、コレは無理じゃね? もう素材にとして売れる蔓みたいな触手? 所か身体の殆どが炭になっているから、やっぱりコイツ相手に魔法は過剰だったんだなぁ」

「でもさ、シルルちゃん、コレは仕方ないよ。迷宮内初の戦闘だったし、今回は勉強出来たって事で、あったら儲けもの程度で考えれば良いんじゃない?」

「2人とも、そうにゃ。次からその辺りも含めて気を付けて戦えば良いだけにゃ」

「それなら、今後の課題その②"戦闘時に余裕があれば僕らの収入を考えて素材や魔石に配慮して戦う"ですにゃ!! 取り敢えず、この魔物の死体を漁るにゃ」

「時間も惜しいし、手早く済ませようか」

 各自、自分が相手した魔物の残骸を観察しながら、魔石と売れそうな素材を収集した。

「みんな、魔石や素材はどうだったかにゃ?」

「どうやらこの魔物の魔石は、胸の辺りにあるみたいだにゃ。もしかしたら、魔物の魔石は僕達の心臓みたいな役割なのかも知れないにゃ!! 僕は魔石2個のみ見つけたにゃ」

「ああーだからなのか……俺は、状態が良くて売れそうな触手が4本だけで、胸の辺りにあった魔石は、砕けていたよ。多分、ソイルボールで砕けたんだと思う」

「アタイは~触手に焦げ跡は無かったけど~どれも短過ぎて売れそうにないよ~でも幸い魔石は1つ見つけた~」

「残り3体はアタイらだけど……素材は無理だな。幸い魔石は無事で3個見つけた」

「うんにゃ。今回の探索は、色々と準備不足だったにゃ。リオ君、悪いけど魔石は兎も角として、そっちの素材は思ったよりも大きくて、荷物になるから今日は捨て置くにゃ。みんなもそれで良いかにゃ?」

 パーティー全体でまとめると、今回の戦闘で全体的に準備不足が否めなかった。

「うん、分かった。ラート君の指示に従うよ」

「ありがとうにゃ。それじゃ、今日の目標を達成する為に動くにゃ。各自、役割を守って素早く動くにゃ」

 ラートの指示に全員が声を発さずに頷くと戦闘前の並び順になり、走って移動した。

 冒険者になる前の修業で、力量が上昇した俺達の身体能力は一般人のソレを優に越していた。

 その速度は、全力で走れば1kmを十数秒で駆け抜ける程度の速度であり、一般人から見れば人の枠から外れている化け物だった。

 しかし、今は探索と警戒を同時に行わなければならなく、速度も半分に抑えて駆け抜けた。走りながらの探索から20分以上が経過するが、未だ森から抜け出せていない。

 それどころか、魔物に遭遇しても自分達に追い付く速度の魔物にすら出会えていない。その為か、初探索で緊張していた俺たちの心の中には、少しだけ余裕が生まれた。

「随分と奥に進んだけど、そもそも、この森って抜け出せる事が出来るのかな? この速度だし、距離にして大体数十キロは、直進して走ったけど、全然景色が変わらないね!」

「そうだにゃ……でも、まだ全然暗くないから今日は行けるところまで走ってみるにゃ!」

「でも~みんな~凄く不安な事を聞いても良い~?」

「メルル? 一体何が不安なんだ?」

「騎士のおじ様が言っていたけど~転移陣の近くに強い魔物が集まるって事なんだけど~アタイらって今いる魔物達よりも強いから、それを区別して辿り着けるかな~って?」

「「「「あっ!?」」」」

 メルルの不安を聞いた全員は、走るのを辞めて立ち止まると、一気に嫌な予感と共に汗が噴き出した。

 現状、探索開始後から俺たちが分かっている情報は、遭遇した魔物は1種類である事。それも自分達よりも圧倒的に格下の強さである植物の魔物だけと言う事だ。

 それによって、自分達のいる場所が、転移陣へ向かう途中の位置なのか、それとも既に越している位置か判断が付かなかった。

 何故なら転移陣の正確な位置は不明で、森の中にあるのか、それとも森を抜けた先にあるのか分からないからだ。更に、それを判断する為の魔物の強さも自身達よりも弱い所為で判断材料にすら不安が残っていた。

「う~ん……みんな、どうするにゃ? ここで一旦、奥に進むのを辞めて、この周囲を探索する方向に切り替えるかにゃ?」

「アタイは~そっちの方が良い様な気がする~」

「うーん……俺は2人には反対かな……。確かに、メルルちゃんの不安は盲点だったけど、それだったらグランツさんの言葉は"西"じゃなくて"南西"とか"南東"とかで教えてくれると思うんだ」

「そうだなーアタイもあのおっちゃんのお節介過ぎる人の良さ……まあ、打算があったにしろ、そんな人が伝える情報を間違えるとは思えないぜ?」

「僕もかにゃ。それにグランツさんだけじゃなくて、リュートさんも隊長をやっているって言っていたから、その辺りもきっちりしていると思うにゃ」

「そうだよなぁ。それにもし、2人の言う通りだったとしても、どの道今日は探索する事が目的だから、それは明日以降にして、今日はこのまま直進しない?」

「みんながそれで良いならいいよ~」

「なら、このまま森を突き抜けられると信じて、直進にゃ」

 そこから俺達は、更に速度を落としながら走った。それは、魔物や奇襲の警戒だけでは無く、転移陣がありそうな目印になる魔物の密集や移動など痕跡探しをする必要があったからだ。

 あれから更に10分近く経過し、数十キロを走った時に遠くの景色に変化が見えた。

「ーー!? 草原にゃ!! もう少しで森を抜けられるにゃ! みんな! 奇襲があるかもしれにゃいから、気を引き締めるにゃ!」

「了解!! 左側と上は敵影なし! メルルちゃんは?」

「右側と上に敵影は無いよ~!! こっちも大丈夫~」

「僕も大丈夫にゃ! シルル! ラートの補助を頼むにゃ!」

「ナート! 任せろ!」

 走った時間が30分前後だった事から距離を計算するとおよそ50km~70kmの森林だったようだ。

 森林から抜けるとそこは、木々が一切ない草原広がっていた。

「それにしても、みんな、森から抜け出せて良かったにゃ!」

「そうだね。そう言えば、昔、アラン爺ちゃんが言っていて事なんだけどね……迷宮内って、もう一つの世界があるみたいにとても広いって言っていたんだ。

 俺は、てっきり爺ちゃんの比喩表現だとばっかり思っていたけど、もしかしたら俺達が考えている以上に規模が広いのかもね」

「それなら、リオ。アタイ達は、まだ転移陣に辿り着いていないって認識で良いのか?」

「シルルちゃん、俺はその認識だよ。俺らってなんだかんだ50km位走ったのに、出会った魔物が1種類って少し違和感あるんだよね。

 でも、"転移陣まで、まだまだ距離が空いているから、一種類しか遭遇していない"って事だったら、なんかシックリ来るんだよ」

「にゃら、日もまだ落ちていないし、時間もそれほど掛かった訳でもにゃいから、もう少し奥に進むかにゃ? それとも森で集団戦の試しをするかにゃ?」

「僕は、もう少し進みたいですにゃ。アランさんの言う通りなら、少しでも奥に進んで転移陣を見つけないと、探索も何も無いですにゃ」

「アタイも~そう思う~。正直言って、集団戦は、転移陣を見つけたからで良いと思う~」

「それじゃ、向かってくる魔物は無視して、転移陣(それ)っぽい所を時間目一杯まで探索してみるにゃ。

 そんで、早く転移陣が見つかったら残った時間を連携の練習に、見つける前に日が落ちそうなら即帰宅って事で良いかにゃ?」

「「「「異議なし」」」」

 本日のスケジュールを確定した俺達は、全力で大地を駆け抜け、転移陣がありそうな場所を探索した。
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